- 投稿日:2024/07/22
- 更新日:2025/09/30

序章
「死なば諸共」
とも言うべきだろうか。
自らの犠牲を顧みず、
対象者を攻撃してくる人種がいる。
これが戦場なら美談ではあるが、
天下泰平の現代においては、
甚だ迷惑な存在である。
しかし、
質の善悪大小はあれ、
この方法は実際の戦術・戦略として、
あらゆる業界で使われているのも事実。
もしかしたら、
気付かぬ間に我々はこの術中にはまり、
もしくは、
相手をはめているかもしれない。
記録より金メダルを掴んだ鈴木大地
1988年ソウル五輪。
競泳男子100メートル背泳ぎ決勝。
鈴木大地はある選手に標的を絞っていた。
デビッド・バーコフ
アメリカ代表でソウル五輪の予選では、
隣で泳ぐ鈴木大地を寄せ付けず、
自己の世界記録を更新し、
圧倒的な王者の貫禄を見せつけた。
決勝前のインタビューでは、
アナウンサーが鈴木に問う。
「何か作戦はありますか?」
「ありますよ」
「どんな?」
「内緒」
このままじゃ勝てない。
鈴木大地は大博打を仕掛ける。
決勝は予選同様、バーコフが隣。
「Take your marks」
スタートの合図と共に、
両名は勢いよく水中に潜り込んだ。
「潜っています。未だ潜っている!
鈴木リード! 鈴木リード!
潜っている!!」
水底で潜り続ける両名に対し、
実況アナウンサーは高揚していく。
「潜っている!
25メーター!
25メーターを超えた!
超えた! 超えた!!」
普段の潜水は25メートル。
だが鈴木は決勝で30メートルに延長した。
それは同時に、
レースに必須なスタミナを大きく削る行為。
それでも彼は犠牲を払ってでも、
倒すべき相手がいた。
隣で同様に潜り続ける王者バーコフである。
水中ではリードしていたバーコフだが、
予選よりも近い距離で潜り続け、
全く引き離せない鈴木に、
王者は内心かなり焦っていた。
鈴木の奇襲となった長い潜水に釣られ、
バーコフもスタミナを削り潜り続ける。
結果、
バーコフは後半スタミナが尽き果て、
鈴木大地が絵に書いたような逆転勝利。
決勝の記録は自己ベストを超えられず、
決していいタイムではなかったが、
低迷する日本水泳界に、
16年ぶりの金メダルを持ち帰り、
王者を倒した鈴木大地は、
日本の英雄となった。
ソ連を自滅させた? お蔵入りの爆撃機
米ソ冷戦時代。
両国とも兵器開発に勤しむ中、
米国ではある爆撃機の開発に
ストップが掛かった。
理由は2つ
1.莫大な費用(1機100億円)
2.時代遅れの仕様
当時は既にミサイル攻撃が主流。
スイッチ1つで核が飛び交う時代に、
爆撃機に核を積み込んで、
現地まで持ち込んで空爆するのは、
あまりに非効率。
しかし、
軍略家がこれに反論し、
この爆撃機の製造は継続された。
理由は1つ
ソ連の広大な国土
米ソの戦略は、
互いにミサイルを打ち合う構想だったため、
そのミサイルが届く地域だけに集中し、
四六時中警戒を行っていた。
だが、
爆撃機への対応となると話が変わってくる。
爆撃機はあらゆる方向から襲来するため、
ソ連の警戒網は、
その広大な国境に這わせるように
広げていくしかない。
当然、国境線には、
レーダーなどのインフラも多く必要になり、
それに関わる人員やプレッシャーも、
対爆撃機用のコストとなる。
米国は、
使いもしない1機100億円の爆撃機を
細々と作るのを代償に、
ソ連は空論の爆撃機戦略に対抗するため、
広大な国土が仇となり、
米国以上の防衛費を投じることになった。
Competitive Strategy 競合戦略
『競合戦略』という言葉は、
ビジネス用語でも使われますが、
今回ご紹介するのは、
軍事用語としての言葉です。
重視すべきはアクションとリアクション
自分が先ず動くことで、
相手のリアクションを引き出す。
つまり競合戦略を、
軍事的(攻撃的)に使うのであれば、
相手のリアクションを意識して、
無駄なリソースを使わせることで、
対象が自滅するように仕掛ける。
「戦わずして勝つ」でお馴染みの
中国の春秋時代の兵法家『孫子』
『孫子の兵法』は、
ビジネスマンにも熟読され、
経営戦略にも用いられたりもしますが、
孫子の思想を極端に言えば、
「自分の摩擦を解消するのではなく、
相手にも摩擦を押し付ける」
自分も大変だけど、
相手の負担をそれ以上に増大させれば勝ち。
我慢比べを挑んでくるかまってちゃん。
最も敵にしたくない相手である。
対競合戦略汎用型決戦思想
多少の犠牲は考慮せず、
向かってくる相手に対し、
我々は一体どのように対応すればいいのか。
答えは簡単。
前項で説明した、
アクションとリアクション。
アタッカーのアクションに対し、
こちらがリアクションするから、
被害を被る。
ならリアクションしなければいい。
スルースキルこそが至高。
ネットの悪辣な書き込みなどを見つけると、
「何やコイツ!」
と、思わずコメントで反論しようものなら、
既に相手の術中。
よりリアクションを引き出そうと、
アタッカーは更に攻撃してくる。
そのたびに対応すれば、
多くの時間と神経を浪費する羽目に。
なかなか小汚い戦法ですが、
生活破綻者だけでなく、
立派な戦略家でも計略の一環として、
冷静に仕掛けてくるので、
少なくとも、
ネットでの許せない見聞を目にしても、
正義感からヒートアップするのではなく、
死んだ魚の目で流し読みしましょう。
ありがとうございました。