- 投稿日:2024/08/13
- 更新日:2025/09/30
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序章
猛暑による影響は、
環境問題に結びつけがちだが、
現在では人々の生活における影響、
中でも生産性に目を向けるようになった。
認知能力の低下や睡眠不足。
冷房の設備がないことでの休日や、
イベントの中止など。
猛暑による損失は年間1,000億ドル。
その損失は2030年までには倍増する。
アトランティック・カウンシルからの警告。
2023年のアメリカでは、
夏の暑さについてバイデン大統領自らが、
その警告を引用し議論した。
更にアメリカ労働統計局からの報告。
1992~2017年の間に熱のストレスによって、
アメリカでは800人以上の労働者が死亡。
7万人以上が負傷。
もはや夏の暑さは風物詩ではなく、
いまや人類にとって命を蝕む敵となった。
暑さによって終わる伝統
日本の夏といえば、
兵庫県の阪神甲子園球場を舞台にした、
『全国高等学校野球選手権大会』
通称、
『甲子園』
その歴史は、
1915年の全国中等学校優勝野球大会
から始まり、
100年以上続く由緒正しき高校野球の大会。
ところが、この伝統ある大会にも、
夏の猛暑が襲い掛かり、
変更を余儀なくされていく。
2024年からは、
試合を午前と夕方に分ける2部制の導入。
だがこれでも、
現在の猛暑を避けるのは難しいとされ、
試合会場は、
屋根付きのドーム球場や、
北海道での開催なども提案されている。
こうなるともはや、
『甲子園』のアイデンティティが
根底から崩れ去っていく。
無論、熱心な甲子園ファンは納得しない。
そもそもその思想には、
「鍛え抜かれた球児たち」
という熱い盲信がある。
普段から過酷な練習を積んできた彼らが、
夏の暑さに負けるわけがない。
100年の歴史に裏付けられた伝統は、
この酷暑ですら、
努力と根性でどうにかなるのだろうか。
熱中症は後遺症と死を招く
熱中症によくある注意勧告に、
「ご高齢の方や小さなお子さんは、
お気をつけください」
と、いうのを見かけるが、
この考え方が既に危険である。
体力ある若い世代であれば、
熱中症は避けられると思い込んでいる。
2007年5月24日、
当時16歳の栗岡梨沙さんは、
硬式テニス部の練習中に熱中症で倒れた。
彼女はキャプテンを務めており、
顧問は出張のため、
練習開始30分後に現場を離れている。
安全管理などを指導する人間は不在。
栗岡梨沙さんは救急車に収容されたが、
この時点で心停止状態。
搬送先の病院で治療を受け、
奇跡的に一命を取り留めたものの、
低酸素脳症により重い障害が残る。
目は見えず言葉も話せず、
手足も動かせなくなり、
寝たきりの状態になった。
━気分が悪くなれば休めばいい
そんなことは誰にでも分かっている。
次第に増していく身体の熱が、
徐々に意識を朦朧とさせ、
冷静な判断を鈍らせる。
━後もう少し我慢すれば
この言葉が命取りになる。
限界のラインは自分では見えない。
ブレーカーが落ちるように、
強制的に電源が落とされ人は意識を失う。
熱中症は、
年代によって症状が変わるわけでない。
その日の気候や体調、その現場での状況で、
軽症で救われることもあるが、
重い後遺症を残したり、
最悪、命を落とす結果に至る。
10代の運動部の主将が、
晩春の5月に熱中症で倒れ、
重い障害が残り、
現在も24時間介護が必要な状態が続く。
年代も能力も季節すら、
安心できる要素はなく。
決して熱中症を軽んじてはいけない。
なぜノートPCはうるさいのか
夏場になると、
アプリを起動しただけで、
けたたましくノートPCが唸りだす。
原因は、
PC内のファンが排熱しようと、
高速回転しているためである。
PCに詳しい人ならご存知であろうが、
PCの頭脳であるCPUには、
そのCPUを冷やすために、
『CPUクーラー』というパーツがある。
※ノートPCの場合は『CPUファン』
仮に、
このCPUクーラー無しでPCを起動すると、
1分も経たずに、
CPUの温度は100度に達する。
精密機器がひしめき合うPC内で、
100度のCPUは自身も傷つけながら
同時に凶器となって、
周辺のパーツにもダメージを与えだす。
CPUは働けば働くほど、
つまりPCで作業をすればするほど、
CPUの温度は上がり続けていく。
CPUクーラーの役目は、
絶え間なく上がり続けるCPUの温度を、
力尽くで冷やすことである。
ただ、このCPUクーラーは万能ではない。
年月によって経年劣化を起こし、
冷却性能が落ちていく。
一般的にCPUの適正温度は40~70度。
常時80度を超えると危険信号。
100度にならなければ大丈夫と思っても、
機種によっては、
熱による故障を防ぐため、
自動的にCPUの性能を落とす機能がある。
スペック通りに働かせるのではなく、
頭を冷やすためのサボタージュ機能。
一見、賢い判断にも思えるが、
CPUは目の前の仕事を無視して、
ダラダラと休み始めるのだから、
作業効率は大幅に低下。
PCの前で作業しているユーザーの方は、
その分イライラが募っていく。
こういった最悪の事態を防ぐため、
PC内のファンは排熱に必死になる。
因みに、
最新のMacBookはファンレスがベースで、
真夏に酷使してもとても静かである。
排熱処理を受け持っているのは、
たった1つのヒートシンクのみ。
「オシャレは我慢」
と、いう言葉を耳にするが、
MacBookは、
あのスタイリッシュさを維持するために、
いろいろと我慢しているため、
ユーザー側でそれを補う必要があるだろう。
熱はPCにとって最大の敵であり、
排熱能力が乏しいPCは、
スペック通りの性能が発揮できず、
その生涯は罵倒されつつ短命に終わる。
「設定温度28度」の神話
汗だくで帰って来れば、
空調の効いた涼しい部屋。
それでも身体から吹き出る汗と熱は、
鎮まる気配がない。
エアコンの温度を見れば28度。
さらに温度を下げていく。
だが途端に周囲からは、
戒めの言葉が飛び交い出す。
日本人は特にルールが大好きである。
普段は政治家を罵りながらも、
なぜか国からのお達しには従順に従う。
2005年に環境省からの
「クールビズ」という
なんとも涼やかな号令の中に、
「夏のエアコンは28度」の縛りが
国民に言い渡された。
無論、これは法律ではなく、
単なるお願い。
にも関わらず、
冷房の温度を28度から下げようものなら、
周囲からは非国民の烙印を押される。
そこまでして守りたい「28度」
なぜ「28度」なのかと聞いたところで、
彼らは一様に答えるだろう。
「国がそう言ってるから」
パソコンも無い時代に作られた28度設定
「建築物における
衛生的環境の確保に関する法律」
(通称・ビル管理法)及び
「労働安全衛生法の事務所衛生基準規則」
上記の法律で定められた室温の範囲が
「18~28度」
この法律が適用された要因は下記の、
1966年の厚生科学研究
「ビルディングの
環境衛生基準に関する研究」
さらに、
この研究の根拠に引用されたものが、
戦前から60年前後の研究にあり、
そこに、
許容限度の上限として
「28度」の数字がようやく現れる。
この時代の仕事場には、
爆熱を発するパソコンは皆無。
28度の数字は、
紙とペンの時代に作られたもの。
加えて、
この「28度」の温度は、
「健康的かつ
衛生的な状態を保つための上限」
であって、
推奨値ではない。
研究結果は28度以下にすべきとあるのに、
なぜか日本国民一同は、
この上限ギリギリの28度に合わせてくる。
28度以下はルール違反とし、
日本の夏は、
命をかけた縛りプレイの季節となった。
全ての基準とする28度信仰
上記の研究時期にもあったように、
「28度」の温度が登場した時代には、
我々が普段使っている
高性能なエアコンは存在していない。
28度は空調の設定温度ではなく、
室温が28度である。
エアコンは、
センサーの場所から温度を測定するため、
設定温度=室温になるわけではなく、
同じ室内でも体感温度にはムラが出る。
また、暑さを計る目安は温度だけではない。
2021年から日本全国で運用されている
『熱中症警戒アラート』
この発令に適用されるファクターは、
温度の他に、湿度や輻射熱など、
様々な要因が組み込まれている。
これらの要素によって、
より一層人体が感じる熱を的確に表した、
『暑さ指数(WBGT)』が導き出され、
熱中症警戒アラートが発表される。
よって、
単に温度が28度だからといって、
安全なわけではない。
現に、
栗岡梨沙さんが熱中症で倒れたのは5月で、
当日の気温は最高で27度。
「28度」という温度は、
あくまで1つの要素に過ぎず、
この温度だけで安全のラインを引くのは、
あまりにも無謀である。
稼ぎたければ28度設定は捨てろ
「額に汗して働く」
日本人が好きそうな言葉であるが、
科学的に見れば非効率極まりない。
序章でも述べたが、
暑さによる仕事での生産性の低下は、
個人の能力や気分に委ねるものではなく、
既に国家レベルで議論する段階に入った。
暑さを抱えたまま仕事をすれば、
その対応とストレスに、
脳のリソースが使われていくため、
集中力や作業効率は極端に下がる。
パソコンのCPUも、
スペック通りの性能を発揮させるには、
電力を使って絶えず冷やし続けるしかない。
少しでも冷却を怠れば、
途端にCPUはへそを曲げ、
仕事をサボり始める。
それでも無理やり、
CPUに負荷をかけ続ければ、
最終的にフリーズするか、
急に電源が落ちて強制的に業務終了。
人も機械も、
仕事をはかどらせるためには、
快適な環境を提供すべきである。
その考えから世界のオフィスの室温は、
日本に比べ相当低い。
・アメリカ:23度
・オーストラリア:23.3度
・シンガポール:22.9度
これはある種の偏見でもあるが、
暑い地域ではGDPが上がらない。
東南アジアでは、
赤道に近づくほど労働意欲が緩い。
本来なら脳で使われるはずの
知的作業のエネルギーは、
あまりの暑さのために、
その対策とストレスに割り振られる。
それがエアコンの普及により、
今まで制御できなかった脳のリソースは、
効率的に知的作業へと流れて行く。
暑さを克服しだした途上国は、
ようやく先進国とも張り合えるほどの
生産性を発揮し始める。
1970年代、
かつての植民地であったシンガポールに、
1人当りのGDPを抜かれたイギリスは、
そのショックを隠せなかった。
シンガポール建国の父である、
リー・クアンユーは語る。
「エアコンがなければ、
シンガポールの発展はありえなかった」
おわりに
世界のオフィスに目を向けると、
高温多湿の地域にも関わらず、
日本だけ飛び抜けて室温が高いわけです。
この理由を上げると切りがないですが、
ただ日本特有のものと言えば、
東日本大震災の経験が
未だに色濃く残っていることでしょうか。
原発事故に伴う電力供給低下による、
輪番停電(計画停電)の実施。
「電気が足りない」という事態に、
日本国民は慌てふためいた。
2022年3月には大規模停電を防ぐために、
政府から初めて、
『電力需給ひっ迫警報』発令。
完全に日本国民の頭には、
「節電」の文字が刻まれました。
とはいえ、
このようなインフラに関しては、
政府と電力会社に
奮闘してもらうしかありません。
国民の方で、
命と生産性を削りながら節電に勤しむのは、
完全に日本の国力を削っている状態です。
もちろん、ミクロの視点からすれば、
単に「電気代がもったいない」
という理由で、
節電に必死だったりしますが、
暑さのせいで仕事効率が低下すれば、
稼ぎは減るし、いらぬ残業が増えるしで、
節約の意味がありません。
何より命を削る行為はご法度です。
PCのCPUは、
設定された温度の基準を超えれば、
自動的に保護機能が働きますが、
人の場合は危険領域に達しても、
根性で乗り切ろうとします。
よくマンガやアニメの熱いシーンで、
「限界を超えろ!」
なんてセリフが叫ばれますが、
実際の世界で、
限界を越えようとすれば、
その前に意識が飛んで卒倒するでしょう。
周囲に人がいれば助かりますが、
誰もいない状況で意識を失えば、
それは確実に死を意味します。
特に夏の暑さに対しては、
過信と我慢は捨て去って、
キンキンに冷やした快適な部屋で、
仕事に没頭しましょう。
ありがとうございました。