- 投稿日:2024/10/24
- 更新日:2025/10/02

はじめに
最近学長LIVEで賃貸の値上げ・値下げ交渉についての質問が多く感じたので、なぜ家賃の値上げを拒否できるのか、家賃の値下げ交渉が可能なのか、この2点について、宅建士の私が法に基づいた根拠を解説していきます。
家賃の値上げ通知が来た方、値下げ交渉をしてみたい方の一助になれば幸いです。
なぜ家賃の値上げ拒否/値下げ交渉ができるのか?
まず、なぜ家賃の値上げを拒否または値下げ交渉ができるのか、それは日本では借り主が「借地借家法」でガチガチに守られているからです(リンクで法令検索に跳べます)。
借地借家法とは、借り主が住んでいる家を追い出された場合、住む家が無い→「生活できない」となってしまうため、「主に借り主を守るために」定められた法律です。
ですので、基本的に借り主に有利なルールが定められています。
では、本題です。
借地借家法では、第32条に「借賃増減請求権」が定められています。
第32条をざっくり要約すると、
①土地・建物の税金が増加した場合や、価値が上昇した場合、近隣の家賃相場と比較して不相当に家賃が低い場合などは、家主は家賃の値上げを請求することができる。
②①と逆のパターン(家賃が近隣相場と比較して高いなど)の場合は、借り主は家賃の値下げを請求することができる。
③建物の借賃の増減について、当事者間で協議が調わないときは裁判で決める。その際は裁判の判決が出るまでお互い相当の価格(大抵据え置き)で家賃の取引を行い、判決で増額が認められた場合は借り主は不足分の家賃を追加で支払い、減額が認められた場合は家主は超過分の家賃を返却する。
となっています。
①、②から分かるとおり、家賃の値上げ/値下げはあくまで「請求(お願い)」なんですよね。
なので大家は家賃は勝手に上げることはできませんし、借り主は値下げ交渉を拒否されたとしても受け入れるしかありません。
お互い同意できなければ、相手の請求を拒否できるわけです。
家賃値上げの拒否に対する心配事 Q&A
Q.値上げに同意しなかった場合、追い出されないか?
→家賃値上げの拒否を理由に、家主は借り主を追い出すことはできません。借地借家法第31条で、「登記がなくても建物の引き渡し後は借り主に登記並の物権を有する」と記載されており、立ち退きを求められても借り主はそれに対抗する(拒否する)ことができます。また、第32条でも「協議が調わないときは裁判で決める。判決が出るまでは相当の価格で家賃の取引を行う」と、住み続ける前提で法に記載されています。
Q.家主からの印象は悪くならないか?
→なるかもしれません。でもその家主さんと、もともと仲が良かったのですか?関わることがほとんど無いなら別にいいのでは?と私は思います。
Q.拒否したら家主か側から圧力がかからないか?
→可能性は0ではないです。しかし圧力をかけることは脅迫罪につながる可能性があるため、相手にとってもリスクがありますし、正攻法で家賃の値上げを認めさせようにも裁判で認められなければいけません。時間と金銭的コストを考慮するとメリットが小さいので、ほとんどの家主は家賃据え置きを認めると思います。もし圧力がかかったら、弁護士へ相談してください。
Q.賃貸借契約書に家賃値上げの特約があった場合は?
→本来であれば、家賃の値上げを請求するときは請求側が金額を提示し、相手方はその金額に対して「同意する/しない」の判断をするわけです。借地借家法では家賃値上げの特約について記載はありませんが、特約が有効になると家主はいくらでも家賃を上げることができるので(借り主が非常に不利になる)、基本的には無効と考えてもいいと思います(弁護士ではないので断定はできませんが)。
また、契約書で「家賃値上げの拒否があった場合は家主は立ち退きを行使することができる(契約の解除をすることができる)」などの特約があっても、第37条で「物権を侵害する特約で、借り主が不利なものは無効」と明記されているので、少なくとも家賃値上げの拒否による立ち退き請求は起こり得ないと考えていいでしょう。
値上げ拒否の意思表示はどうしたらいい?
極力同意書への直筆による記名は避けましょう。場合によっては署名したと思われる可能性があります。(※同意する・同意しない など選択制の場合は大丈夫です)
では選択制でないなら意思表示はどうしたらいいか?
メールまたは白紙に表題で「●月●日付けで頂いた家賃値上げのご連絡の件」などの件名を明記し、「同意しません」「拒否します」などと書いたうえ、メールは家賃値上げの連絡先(主に管理会社)に送付、白紙は書留で連絡先(主に管理会社)へ郵送しましょう。書留で郵送するのは相手方にその書類が届いているのか確認するためです。
値下げ交渉の意思表示はどうしたらいい?
基本的には値上げ拒否同様、メールや書面などを使用し、文面や送付の記録が残るようにしましょう。
値下げ交渉の理由は、
①今後もしばらく住み続けたい(相手方のメリットを提示)
②同じ物件の他の部屋と比べて家賃が高い
③他の物件と比べ家賃が高い
などがいいでしょう。
ただ、こちらは「請求(お願い)」なので、相手方が拒否することはもちろんあります。
拒否されたとしても、「ご検討いただきありがとうございました。」など、相手に気を遣った文言で終わらせ、角を立てるような発言は避けましょう。
おわりに
借地借家法があるので、法律上では借り主の皆さんが不利になることはほとんど無いです。
家主側がどんな方でどんな対応をされたとしても、日本は法治国家なので法律が優先されます。
もちろん、「大家さんにはお世話になってるから」「支払う余裕があるから」と払える(払いたい)のであればそれでも全然構いません(きっと喜ばれると思います)。
少なくとも、固定費を下げたい方は自信を持って家賃の値上げ拒否/値下げ交渉をしていただければと思います。