- 投稿日:2025/03/30
- 更新日:2025/10/05
『奥歯のインプラントは難しいと言われて、治療をあきらめるしかないのでしょうか…』
『上の奥歯のインプラント治療を考えていますが、骨が足りないと言われて困っています』
『下の奥歯にインプラントを入れたいのですが、神経が近いからできないと言われました』
このような奥歯のインプラント治療に関するご相談を数多くいただいております。
確かに奥歯のインプラント治療は、上顎洞との距離が近いことや下歯槽神経への配慮が必要なこと、さらには強い咬合圧がかかることなど、さまざまな難しさがあります。そのため、一般的な歯科医院では治療を断られてしまうケースも少なくありません。しかし、精密な診断と適切な治療計画があれば、安全で確実なインプラント治療を行うことが可能です。
奥歯のインプラントができない・難しいとされるケース
奥歯のインプラントができない・難しいと言われる理由は様々ですが、最も多い要因は以下の3点です。
咬合力が強い方など、噛み合わせの調整が難しい場合
顎の骨が薄い・骨量が少ない場合
開口量が小さく手術スペースが確保できない場合
以下でそれぞれ、詳しくご説明いたします。
①咬合力が強い方など、噛み合わせの調整が難しい場合
奥歯は食べ物を噛み砕いて嚥下をサポートする役割があります。咀嚼時に特に強い力がかかる部位です。
奥歯の噛み合わせが悪いということは、食べ物を噛むたびに大きな力が崩れたバランスで歯に生じてしまいます。この状態が続くと、歯や歯ぐきに大きな負担がかかり、インプラントの耐久性も低下する恐れがあります。
また、インプラントによって噛み合わせが悪化した場合、これまで問題のなかった周囲の歯にも負担をかけることがあります。
②顎の骨が薄い・骨量が少ない場合
インプラントは顎の骨に埋入するため十分な骨量が必要になります。
しかし、歯を失った場所というのは、骨量が少なくなっていることがあり、それを理由にインプラント治療を断られてしまうというケースは珍しくありません。
安定したインプラント治療を行うためには、インプラントを支える骨と歯ぐきがある程度必要になってきます。
③開口量が小さく手術スペースが確保できない場合
口腔内は基本的に狭く、手術器具が入りにくいため、歯科医師が治療するための十分なスペースが確保しにくいという問題があります。これはインプラント治療に限らず、奥歯関連の治療において共通する問題です。
奥歯の治療では、患者さまに大きく口を開けてもらう必要がありますが、顎や筋肉に負担がかかり、大きく口を開け続けるのが難しい方や体質などの理由で開口量が小さい方もいます。
これも奥歯のインプラント治療を難しくする理由の一つです。
これは歯科医師によっても意見が分かれる場合があります。ここでは私自身の意見を述べさせていただきますと、第二大臼歯までインプラントが必要になるケースはすくないのではないかと思います。
それはかみ合わせが関係していて、第二大臼歯まで入れていますとかみ合わせが強く当たるなどの
「干渉」とよばれることが多く出てしまい、簡単にいうとかみ合わせとして邪魔になるケースがほとんどです。
なので私はあまり第二大臼歯にインプラントをすることは少ないですが、患者様のかみ合わせやかみ心地を考慮して、第二大臼歯にインプラント治療を行なうことはありますので、よくご相談ください。
上顎の奥歯のインプラントが難しい理由と対処法
奥歯のインプラント治療が難しくなる理由には、上顎と下顎でもそれぞれ異なる原因が存在しています。
上顎のインプラントが難しくなる理由としては、上顎洞との位置関係が密接に関わります。
上顎洞との位置関係
上顎洞(じょうがくどう)とは、頬骨の裏側にある副鼻腔(ふくびくう)の一種で、鼻腔に隣接した骨内に作られる空洞です。
奥歯の上にはこの上顎洞という空洞があるため、前歯よりも奥歯の骨量が少なく、インプラント体を埋入する際に上顎洞を突き抜けてしまう恐れがあります。
骨造成の必要性
インプラントが骨を貫通して上顎洞に落ちてしまいそうなケースや、インプラントの周りを支える骨が薄い場合には、骨を増やすための治療が必要になります。
具体的には、
サイナスリフト、ソケットリフトGBR法
といった治療を行います。
サイナスリフト・ソケットリフト
サイナスリフトやソケットリフトは、上顎の奥歯の骨を増やす目的で行います。
インプラント体を埋入するのに十分な量の顎の骨を確保するための方法ですが、特にこの方法は上顎の奥歯の骨がなく、上顎洞との距離が近い場合に行われる方法です。この方法はやや難易度の高い治療となります。
顎の骨の量が少なく、インプラントが上顎洞を突き抜けてしまうようなケースで特に有効であり、安全な治療を行うためにも、骨が不足している場合には欠かせません。
GBR(Guided Bone Regeneration:骨再生誘導法)とは、インプラントを埋入するために十分な骨の厚み、幅がない場合に用いられる治療法です。
GBRの最大の特徴は、骨を移植するなど物理的に増やすのではなく、新しい骨が生まれるよう導く点です。
サイナスリフト、ソケットリフト同様に難易度の高い治療ですが、インプラント治療に必要な場合は骨を増やすGBR法を行なうことがあります。
下顎の奥歯のインプラントが難しい理由と対処法
下歯槽神経への配慮が必要
下顎の奥歯にインプラントを埋入する場合、下顎内にある下歯槽神経への注意が必要です。
インプラントが下歯槽神経に近すぎると、しびれや痛み、感覚の喪失などの神経障害を引き起こす恐れがあります。
手術の前にCTスキャンなどで神経の位置を正確に把握しますが、神経の位置が高く、インプラントとの安全な距離を確保するのが難しい方もいます。
その場合インプラントを行なう部位の骨を増やす処置やインプラントの角度を調整する技術と判断が求められるため、インプラント治療を行う場所として難しいとされています。
奥歯のインプラント治療の成功に重要な要件
奥歯のインプラント治療を成功させるためには、以下が欠かせません。
上顎洞や下歯槽神経との距離、
位置関係咬合力のコントロール、
噛み合わせの調整清掃性の確保
①上顎洞や下歯槽神経との距離、位置関係
奥歯のインプラント治療を成功させるためには、上顎洞の骨量が十分か下歯槽神経との距離が近すぎないか正確に把握して治療を行うことが重要です。
そのために術前にCTなどの必要な資料をとり、インプラントのシミュレーションをおこない、安全にインプラント治療ができるかを行なう必要があります。
②咬合力のコントロール、噛み合わせの調整
奥歯は力がかかるところになるために、十分な強度が必要になってくる場所です。
そのため、ただ歯がないところにインプラントをするというのではなく、お口のなか全体を考えてインプラントの配置や本数を決めていくことが必要であったり、インプラントを行なう反対の歯(例えば下にインプラントをするのであれば上の歯)を適切な形に整えるといったことが必要になります。
要するに1本のインプラントをするというのではなく、全体のバランスが大切になります。
③清掃性の確保
奥歯はただでさえ磨きにくい場所になりますが、奥歯にインプラントが入るとより注意して日頃のブラッシングを行なう必要があります。
そこで、患者さんが歯ブラシをやろうと思ってもうまく磨けない形態になってしまっては、インプラントの長期的な予後に不安が出てしまいます。
そうならないために、ここでも事前のシミュレーションが大事になってきます。なぜならインプラントを埋入する時点である程度上部構造(被せ物)の形が決まってしまうからです。
奥歯のインプラントを可能にするための取り組み
術前の精密検査と徹底的な診査診断
サージカルガイドを使用した正確で安全な埋入
骨量を確保するための治療
①術前の精密検査と徹底的な診査診断
インプラント治療を成功させるためには術前の検査、診査診断が欠かせません。
なぜならインプラントは一旦いれてしまうとなかなかその後修正することが難しいからです。
そうならないために、術前にお口の状態の写真やスキャン、そしてCTデータをとり、そのデータをシミュレーションソフトを用いて術前に骨の中の状態や血管などを確認して、何度もシミュレーションをしてインプラントの位置を決定しています。
この時点で、ほぼインプラントの成功が決まると思っているほど重要視しています。
②サージカルガイドを使用した正確で安全な埋入
術前にシミュレーションを行い、それを正確にお口の中で再現するために、サージカルガイドを用いて実際のオペをおこなっています。
サージカルガイドとはその名の通り、決めた位置に埋入するためのガイド役となるマウスピースのようなものです。
これを用いてオペを行うことでより正確で安全なインプラント治療を行うことができます。
③骨量を確保するための治療
シミュレーションをしてインプラントをする際にどうしても骨が足りない場合は、骨の量を増やす処置も行っていきます。
これはやや難易度が高い治療になりますが、インプラントを長期にわたって維持するために必要な場合もあります。
GBR法やサイナスリフト・ソケットリフトをして十分な量の骨を作っていくことになります。
まとめ:奥歯のインプラント治療
奥歯はしっかり噛むために大変重要な場所になります。奥歯のインプラント治療においては上顎、下顎ともに気をつけなければいけないこともありますが、徹底的な診査診断シミュレーションを行ない、サージカルガイドを用いて正確にインプラントを埋入していきます。