- 投稿日:2025/05/13
- 更新日:2025/09/30

序章
1Passwordは、
「情報を守るデジタル金庫」として、
その利便性と安全性が
高く評価されています。
自動生成される強力なパスワード、
二要素認証、
暗号化保管──
確かに、
あらゆる角度から「堅牢」に見えます。
しかし、この「金庫」も、
鍵を奪われてしまえば開いてしまう。
そして今まさに、
その「鍵」を狙うのが、
インフォスティーラー
(情報窃取型マルウェア)です。
パスワード管理ツールが破られる理由
1Password自体の暗号化は、
業界トップレベルなのは間違いありません。
ですが、その強固な防壁の外側、
つまり「ユーザーのPCやブラウザ」
それらを狙う攻撃に対しては、
実は驚くほど脆弱です。
近年、
「インフォスティーラー」
と呼ばれるマルウェアが急増しています。
これはユーザーのPCに感染し、
1Passwordに保存されている
ログイン情報やクレジットカード、
さらには、
マスターパスワードそのものまで
盗み出すことを目的としたツールです。
実際に起きた「盗まれた」事例
2024年2月、米国カリフォルニア州。
ディズニー社のエンジニアである、
マシュー・ヴァン・アンデル氏(42歳)は、
GitHub上で公開されていた
AI画像生成ツールをダウンロードした。
だがそれは、
正規のソフトウェアではなく、
「NullBulge」
と、名乗るハッカーグループによって
巧妙に仕込まれたマルウェア。
マルウェアは、
ヴァン・アンデル氏の
端末にインストールされ、
キーロガーとして機能。
✅️キーロガー:
キーボードの入力を記録する機能
彼が利用していたパスワード管理ツール
「1Password」から、
複数の認証情報やセッションデータを
不正に抽出した。
被害内容
📂個人情報
・ヴァン・アンデル氏の社会保障番号
・クレジットカード情報
・自宅のRingカメラのログイン情報など
📂企業情報
・Disneyの顧客情報
・従業員のパスポート番号
・テーマパークやストリーミングサービス
の収益データなど
これらにより、
攻撃者はディズニー社の
内部Slackチャンネルにアクセスし、
約1.1TBの機密データをダウンロード。
同年7月、
攻撃者はDiscordを通じて
ヴァン・アンデル氏に接触。
「彼の個人情報と
ディズニー社の内部データを公開する」
と、脅迫。
やがて、ハッカーは
ダークウェブ上の著名なフォーラム
「BreachForums」にて、
「DISNEY INTERNAL SLACK」
と題するスレッドを立ち上げ、
盗み出したデータの一部を公開した。
ディズニー社は、
ヴァン・アンデル氏の
業務用コンピューターから
不適切なコンテンツが発見されたと主張。
彼は解雇され、
同時に、
約200,000ドルのボーナスと
家族の医療保険をも失う。
これは、1Passwordという
「金庫」が破られたのではなく、
「金庫の開け方」を
盗まれた典型的なケースです。
使いやすさの裏にあるセキュリティの穴
1Passwordのような
パスワード管理ツールは、
その利便性と効率の高さから
多くのユーザーに支持されています。
・ワンクリックでの自動ログイン
・クラウド同期による
複数デバイス間のシームレスな利用
・ブラウザ拡張による高速アクセス
これらの機能は、
日々の作業を格段に円滑にしてくれます。
しかし一方で、
その便利さが攻撃者にとっても、
"入りやすい環境"であることを
忘れてはなりません。
【具体的なリスク例】
☢️ブラウザ拡張機能は、
マルウェアによる情報吸い上げの標的
☢️クラウド同期は、
セッションハイジャックの危険性
☢️ローカル保存されたVault情報も、
マルウェアからは隠せない
便利だからといって油断せず、
「利便性の裏にあるリスク」に
目を向けることが重要です。
結局、セキュリティは使う人次第
1Passwordが「鉄壁」かどうかは、
使う人の意識と
利用環境に大きく左右されます。
いくら強固な仕組みでも、
使い方次第で穴は生まれるため、
以下のような対策を講じることが、
真の安全性につながります。
【実際の対策として必要なこと】
🔐ソフトやツールは、
必ず公式か信頼できる配信元から
🔐ブラウザ拡張機能は、
必要なとき以外は無効にしておく
🔐信頼できるセキュリティソフトによる
リアルタイム保護を常に有効
🔐公共Wi-Fiを使う場合は、
1Passwordの"トラベルモード"を活用
🔐マスターパスワードは定期的に見直し、
推測されにくいものに設定
🔐2段階認証は常に有効化し、
できれば別デバイスで管理
セキュリティレベルを高めれば高めるほど、
操作の手間や使い勝手は
多少なりとも犠牲になります。
それでも、安全を守るためには
"利便性を手放す勇気"も必要です。
このバランスをどうとるか。
それは、その人自身のITリテラシーと
リスク感覚にかかっています。
おわりに
金庫は「破れない」が、
「開けられる」というパラドックス。
1Passwordは、
確かにセキュリティツールとしては、
大変優れています。
しかし、
インフォスティーラーのような
環境そのものを侵す攻撃に対しては、
それ単体では無力です。
「入れる情報は守られる」という安心感が、
逆に最大のリスクになる可能性もあります。
あなたの1Passwordは、
「金庫の中身を守っている」
かもしれませんが、
その鍵が盗まれていないか──
今一度、
確認してみてはいかがでしょうか。
ありがとうございました。