- 投稿日:2025/10/10

はじめに:僕が「不安」をテーマにブログを書こうと思った理由
突然ですが、皆さんは人前で話したり、何か新しいことに挑戦したりするのは得意な方ですか?
実は僕、昔からこれが本当に苦手でした。学生時代を振り返ってみても、クラスの中心にいるような明るいタイプではなく、どちらかというと物静かな、いわゆる「根暗」な生徒だったと思います。何かを発表する場面では、いつも「うまく話せなかったらどうしよう」「変に思われたらどうしよう」と、頭の中が不安でいっぱいになってしまう。周りの友人たちが堂々と自分の意見を話しているのを見ると、「自分にはあの人たちのような特別な人生経験もないし、面白い話なんてできっこない」と、どんどん自信をなくしていく……。そんな学生時代でした。
社会人になっても、この「不安になりやすい性格」はなかなか変わりませんでした。大切なプレゼンの前夜は眠れず、何度も資料を見返してしまう。周りからは「考えすぎだよ」「なんとかなるって」と励まされるのですが、そう言われれば言われるほど、「いや、何とかならなかったらどうするんだ」と、さらに不安が募る悪循環。
そんな自分が、どうすればこの不安と上手に付き合っていけるのか。どうすれば、人並みに、いや、自分なりに納得のいくパフォーマンスができるようになるのか。これは僕にとって、長年の大きな課題でした。
でもある時、自分のこの「不安になりやすい性格」は、決して弱点ではなく、むしろ一つの「戦略」として活かせるのではないか、と気づくきっかけがありました。今日は、僕が試行錯誤の中で見つけ出した、「不安」を飼いならし、むしろ力に変えるための考え方と具体的な方法について、皆さんと共有してみたいと思います。もし、あなたが僕と同じように、何かを始める前に考えすぎてしまったり、失敗を過度に恐れてしまったりするタイプなら、この記事が少しでも心の重荷を軽くするヒントになれば嬉しいです。
あなたはどっちのタイプ?成功への二つの道すじ
僕が自分の性格を理解する上で、非常に大きな助けとなったのが、ウェルズリー大学の心理学者、ジュリー・ノレム博士が提唱した理論です。博士は、成功している人々が取る戦略は、大きく分けて二つのタイプに分類できると言っています。
一つは「戦略的オプティミスト(楽観主義者)」。
彼らは、物事を楽観的に捉え、「次はきっとうまくいく」と根拠のない自信を持って挑戦できる人たちです。失敗を恐れずに何度もトライし、その過程で成功を掴み取っていく、いわゆる本番に強いタイプ。彼らがイメージトレーニングをする時は、「マスタリーイマジナリー」といって、自分が最高のパフォーマンスをしている姿を思い浮かべると、うまくいく傾向があるそうです。
そして、もう一つが「防衛的ペシミスト(悲観主義者)」。
これは、まさに僕のようなタイプです。これまで何度か成功体験があったとしても、「次も成功するとは限らない」「今までがたまたまうまくいっただけかもしれない」と、常に最悪の事態を考えてしまう人たちです。このタイプの人は、強い不安を感じるからこそ、それを打ち消すために、他の人よりも圧倒的に多くの時間を事前準備に費やす傾向があります。そして、その入念な準備こそが、結果的に成功率を高める要因になるのです。
彼らにとって効果的なのは、「コーピングイマジナリー」という方法。本番の前に、自分が最高のパフォーマンスをする姿ではなく、「もし、こんなミスをしたらどうしよう」「こんなトラブルが起きたら、どうやって挽回しようか」と、あらゆる失敗の可能性をシミュレーションし、その対処法まで考えておくのです。
1996年に行われたある実験が、この違いを分かりやすく示しています。参加者を二つのグループに分け、ダーツを投げてもらうという実験です。
Aグループ(コーピングイマジナリー): ダーツを投げて起こりうるミスを想像し、その挽回策まで考える。
Bグループ(マスタリーイマジナリー): 完璧にダーツを投げている姿だけを想像する。
どちらが良い・悪いという話ではありません。重要なのは、自分がどちらのタイプに近く、どちらの方法が自分に合っているかを知ることです。僕はずっと、周りの人のように「大丈夫、なんとかなる!」と楽観的になれない自分を責めていました。でも、この理論を知って、「そうか、僕は不安だからこそ準備をするし、その準備こそが僕の強みなんだ」と、初めて自分の性格を肯定的に捉えることができたのです。
なぜ日本人は不安を感じやすいのか?遺伝子が教えてくれること
「でも、なぜ自分はこんなに不安を感じやすいんだろう?」
そう思ったことはありませんか?実は、それには遺伝的な背景も関係しているかもしれない、という話があります。
私たちの感情を安定させる働きを持つ「セロトニン」という神経伝達物質があります。このセロトニンの量を調整しているのが、「セロトニントランスポーター」と呼ばれるタンパク質なのですが、このタンパク質の働きが弱いと、不安を感じやすくなる傾向があると言われています。
ある研究によると、このセロトニントランスポーターの働きが弱い遺伝子を持つ人の割合は、アメリカでは約67.7%であるのに対し、日本ではなんと約98.3%にも上るというデータがあります。調査された国の中で、これほど高い数字を示したのは日本だけだったそうです。
もちろん、これが全てではありません。しかし、私たちが遺伝的に不安を感じやすい民族である可能性を知ることは、少しだけ心を楽にしてくれます。「不安なのは、自分の心が弱いからだ」と自分を責めるのではなく、「これは、ある意味で自然な反応なんだ」と受け入れることができるからです。
「不安」を「準備」に変える具体的なステップ
では、私たち防衛的ペシミストは、その不安とどう向き合えばいいのでしょうか。答えはシンプルです。「段取りを立てる」こと。不安をエネルギーにして、具体的な行動、つまり事前準備に変えるのです。
不安に飲み込まれてしまう人の特徴は、「発表で失敗したらどうしよう」と、ただ漠然と考えてしまうことです。これでは不安だけが雪だるま式に大きくなり、本番で頭が真っ白になってしまいます。
大切なのは、不安を分解し、目の前の問題を明確にすることです。
情報収集: まずは、自分が挑む課題について、徹底的に情報を集めます。
練習: 次に、何度も練習やリハーサルを繰り返します。
失敗のシミュレーション: そして、「もし失敗したら、どうリカバリーするか」を具体的に考えておきます。
例えば、僕がプレゼンをする場合、「失敗したらどうしよう」ではなく、以下のように考えます。
「もし、PCがプロジェクターに繋がらなかったら?」→ 対策:事前に接続テストをする。USBにも資料のバックアップを入れておく。
「もし、途中で話す内容が飛んでしまったら?」→ 対策:キーワードだけを書き出した手持ちのカードを用意しておく。
「もし、厳しい質問をされたら?」→ 対策:想定される質問と、その回答をいくつか用意しておく。
このように、不安を一つひとつ具体的な「課題」に変換し、その「対策」を準備しておく。この「段取り」こそが、私たち防衛的ペシミストにとって最強の武器になるのです。不安は、私たちに行動を促してくれる、優秀なアラームシステムとも言えるのかもしれません。
逆境に強い人が持つ「10の力」
さらに、不安や逆境に強い人たちの特徴について調べてみると、非常に興味深い研究が見つかりました。2012年にイェール大学のスティーブン・サウスウィック博士が、過去20年間の研究をまとめて発表した「逆境に強い人の10の特徴」です。これらは、私たちが日々の生活で意識できるヒントに満ち溢れています。
これは、ただの楽観主義とは少し違います。現実から目を逸らさず、厳しい状況を直視しつつも、その中にあるポジティブな側面に光を当てることができる人です。「なんとかなる」と現実逃避するのではなく、「この状況で、自分にできることは何か?」と前向きに行動を起こすための視点です。
この考え方は、20世紀のアメリカの神学者ラインホルド・ニーバーの有名な祈りの言葉にも通じます。
「神よ、変えられないものを受け入れる心の平穏を、
変えられるものを変える勇気を、
そしてその両者を見分ける知恵を、私に与えたまえ。」
自分ではどうにもならないことは受け入れ、変えられることに全力を注ぐ。この切り替えができることが、心の平穏を保つ秘訣です。
逆境に強い人は、「なんだかモヤっとする」といった曖昧な状態で不安を放置しません。自分が何に恐怖を感じているのか、なぜ恐怖を感じているのか、その恐怖によって自分の体はどんな反応をしているのかを、客観的に観察します。そして、「この恐怖から何を学べるだろうか?」と、常に改善策を考えます。
意外かもしれませんが、人間は自分が逆境に立たされている時ほど、他人に優しくすることで精神的な安定を得られると言います。災害が起きた地域で、被災者同士が助け合うことで繋がりを感じ、心を保つケースがそれに当たります。自分が不安でパニックになりそうな時ほど、「今、自分は誰を助けられるだろうか?」と考えてみること。それは視野を広げ、自分が一人ではないことに気づかせてくれます。
「自分のため」だけでなく、「この目標を達成することで、誰が喜んでくれるだろうか」「誰の人生をより良くできるだろうか」と考えること。自分よりも大きな存在や集団(家族、会社、社会など)を意識することで、困難に立ち向かうための、より大きな力が湧いてきます。
悩みを抱えている時ほど、人は一人で閉じこもりがちです。しかし、逆境に強い人は、そんな時ほど誰かに相談したり、悩みを打ち明けたりします。うまくいかない時も自分を支えてくれる存在がいるという感覚は、何よりの力になります。
「自分もあの人のようになりたい」と思える、尊敬できる人物を持つことも非常に有効です。それは歴史上の偉人でも、身近な先輩でも、物語の登場人物でも構いません。困難に直面した時、「あの人ならどうするだろう?」と考えることが、自分の行動の指針になります。
ある言葉が、僕の心に深く刻まれています。彼は才能に恵まれなかった自分をこう語ります。
「才能がない能力も適性もない。ならばこのデメリットをいかにして埋めればいいのか。常に成長を続けることだ。自分は周りの人が何も考えずにできるようなことでもあらゆる手段を使って計画を立てて乗り越えなければならなかった。挫折の味は慣れ親しんだものだった。ただひたすらに数え切れないほどの敗北を積み重ねてきた自分にとってこれはただ一つ階段を登っているにすぎない。『大丈夫、なんとかなるさ』なんとかなる?否、自分がなんとかするのだ」
この言葉は、準備を怠らないことの価値を教えてくれます。
逆境に強い人の多くは、定期的な運動習慣を持っています。特に、短時間の激しい有酸素運動は、メンタルヘルスに絶大な効果があることが分かっています。
生涯にわたって学び続けている人は、「この不安な状況からも、何か学べるはずだ」という発想が自然にできます。また、学習は「頑張れば自分は変われる」という自己肯定感を育む上でも非常に重要です。
自分がストレスを感じた時に取る行動を、あらかじめリストアップしておくことです。「音楽を聴く」「散歩する」「友人と話す」「美味しいものを食べる」など、多ければ多いほど良いとされています。ストレスで視野が狭くなっても、リストを見れば「これを試してみよう」と行動に移せます。「自分にはこれだけの対処法がある」という安心感にも繋がります。
自分の行動一つひとつに対して、「これは何のためにやっているのか」と意味を考える習慣です。例えば、単に「仕事をする」のではなく、「この仕事を通して、自分は成長したい」「お客様を幸せにしたい」と考える。そうすることで、日々の行動がより価値のあるものに感じられます。
まとめ:さあ、あなたも「不安」を力に変えてみませんか?
ここまで、僕が学んできた「不安」との付き合い方についてお話ししてきました。
かつて僕は、自分の不安になりやすい性格を、ただの弱点だと思っていました。しかし今は、少し違います。不安は、私たちに危険を知らせ、入念な準備を促してくれる、大切なパートナーのような存在だと感じています。戦略的オプティミストのように、勢いよく飛び出すことはできないかもしれません。でも、防衛的ペシミストには、石橋を叩いて、叩いて、安全を確認してから渡る、という確実な強さがあります。
もしあなたが、この記事を読んで少しでも共感してくれたなら、ぜひ今日から小さな一歩を踏み出してみてください。
まずは、自分がどちらかと言えば「楽観主義者」か「悲観主義者」か、少しだけ考えてみる。
次に控えている少し不安な予定(小さな会議でも、友人との約束でも構いません)について、「どんなトラブルが起きる可能性があるか」「その時どうするか」を一つだけメモしてみる。
自分のストレス発散法を、思いつくだけスマホのメモ帳に書き出してみる(コーピングレパートリー作り)。
きっと、不安の正体が見えてくるだけで、心は少し軽くなるはずです。僕もまだまだ試行錯誤の毎日ですが、この記事が、あなたが自分自身の性格と上手に向き合い、毎日をより豊かに生きるための、ささやかなきっかけになれたら、これほど嬉しいことはありません。