- 投稿日:2025/11/01
- 更新日:2025/11/01
皆さんはクマが怖いですか?
最近、クマの出没ニュースが本当に多くて不安になりますよね・・・
昔と比べて町中へ出没という恐ろしい状況が続いています。
「クマと出会ったらどうしよう!」という心配な声もよく聞くため、
狩猟歴14年、農水省の農作物野生鳥獣被害対策アドバイザーが
クマに対する人身被害対策について、業界内の基本的な考え方と、私なりの知識・経験を交えてお伝えしたいと思います。
まず、日本でクマとは北海道の「ヒグマ」と本島の「ツキノワグマ」に分かれます。
ツキノワグマは胸に「月の輪」があることが特徴ですね。(無かったり薄かったりする個体も稀にあるそうです。)
私が住んでいるのは本島のため、ここから先はツキノワグマ(以下、「クマ」と省略します)をベースとしたお話になることをご了承ください。
大事なことは以下の3点です。
生態と行動を知る
「敵を知り己を知れば100戦危うからず」
何が好きでいつ活発になるのか等、行動原理を知ることが大事です。

出没に備える
そもそも出会わないのがお互いにとって幸せです。
そのためには出会わない環境づくりが重要になります(環境整備)。

出没時の対応
万が一出会ってしまったら?
これをやれば絶対助かるという方法はありませんが、絶対やってはいけない行動はあります。

一つ一つ見ていきましょう。
【詳細】生態と行動を知る
クマは下の図のような1年の行動サイクルになります。
出典:環境省(2016年)パンフレット「クマと共存するために」https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5/docs5-kuma.pdf
この図で言いたいことは5〜7月は分散期と繁殖期、10〜12月は飽食期で活動が活発化(行動範囲が広がる)するということです。
分散期とは親離れした子供のクマ(体長1m程度)が、自分の新たな新天地を求めて歩き回り、よくわからないまま人里に来てしまうことがあります。ニュースでよく聞くのはこの部類が多いように感じます。
繁殖期とはオスグマがメスグマを求めて、気性を荒くして行動している時期で、メスを探している間に人里に出てしまったケースなどが挙げられます。
飽食期とは冬眠に向けてとにかく食べまくる時期で、1年間で摂取するエネルギーのうち、約60%がこの時期とも言われています。そのため、食べるのに夢中で、人が近づいてきたことに気づかず、山林で出会い頭に出会う可能性があります。
実際は8月9月も餌が乏しい時期なので、人里に誘引物(カキやクリ、生ゴミ等)があると、出没することもあるので要注意です。
そういったクマの生態を踏まえ、自然の中に入る場合は気をつけましょう。
その他の特徴について以下に記載しておきます。
・雑食でなんでも食べます。特にハチミツは大好物で、我々ハンターはそれを逆手に罠を仕掛けます。
・聴覚・嗅覚は優れていますが、視力はイマイチのようです。
・薄明薄暮によく行動します。ただし、人の活動が多かったり、農作物を食べ荒らすときは夜間型もあります。
・牙と爪は強力な武器で、クマはまず爪を使って頭部への攻撃してきます。
・走る速さは平均時速40km、最高は時速50〜60kmとも言われます。絶対に逃げれません。
・木登りは得意で、手足の関節が木を掴める構造になっています。木に登って逃げるのはおすすめできません。
・冬になると「冬眠」します。これはクマ固有のスキルです。
・出産は2〜3年間隔で増加率は低いですが、昨今はそれでも増えすぎているとの見解のようです。
【詳細】出没に備える
そもそも出会わないようにする、これが大事です。
そのための備えとしては以下のやり方があります。
・熊鈴、ラジオ、クマスプレー等を持ち歩く(個人対策)
最低でも熊鈴、山林に入る場合はクマスプレーは必須だと思ってください。海外ではトレッキング時にクマスプレーは標準装備です。
熊鈴を付けていたとしても、先程の飽食期(10〜12月)は食べることに集中していて気づかないことがあり、鉢合わせになる可能性があります。
たまに熊鈴がクマを呼び寄せているという話がありますが、仮にそうだとしてもそのようなクマはほんの一部であり、大半のクマは人を恐れています。(熊鈴を気にしなくなったクマは地域によってはいるかもしれませんが)
1%以下のクマのために99%のクマへの対策を放棄するのはナンセンスです。保険料控除のために保険に入るのと同じくらいナンセンスです。
なお、クマスプレーを購入する場合は、米国環境保護庁 (EPA) に登録されている熊よけスプレーを購入することを強くお勧めします。これは米国連邦政府グリズリーベア委員会が推奨しているためです。スプレーには「EPA」というロゴがどこかに記載されているはずです。(記載されてない商品もありましたが・・・)
私が知る限り、EPAに登録されている商品は以下のとおりです。他にあるかもしれませんが、調べてないのでご存じの方はご教示お願いします。
①カウンターアソールト(税込 約19,360円)

②フロンティアーズマン(税込 約13,200円)

高すぎる!って人は実際の効果の程はわかりませんが、以下の仕様は満たしたほうがいいでしょう。EPAの登録仕様のようです。
噴射距離:6〜9m以上
効果成分:2%(カプサイシン等のとうがらし抽出成分)
最低内容量:225g
・人とクマが共存できる地域づくり(集落対策)
野生動物が集落や町中に出没する原因は様々ですが、動物の行動原理の一つとして「食べる」があります。
もし集落や町中にもう収穫しない果樹類としてカキやクリの木があると、野生動物にとっては美味しい美味しい貴重な食べ物になります。クマがあの場所には美味しい食べ物があると認識すると、執着心がかなり高いので、この集落や町中には食べ物はないぞ!!と認識させるのも大事です。
その他、放棄された畑や草木の多い河川は、野生動物にとって人に見つかりにくく移動するための最高の移動経路になるため、こういったところを草刈りなどで管理していくことが重要です。(草刈りは重労働なので費用対効果を考える必要がありますが)
・クマ出没時の連絡体制構築と訓練の実施(町対策)
町中などで実際に出没してしまった場合は、警察や行政、地元猟友会とともに住民の安全確保が重要になります。出てからどうする?ではなく、もし出たらどうする?という形でクマだけでなく、鳥獣被害が出た場合の連絡体制などを整備した「被害防止計画」を各市町村が備えていますが、これは主に農作物被害を想定した計画で、クマによる人身被害を想定した計画とはなっておらず、多くの市町村でクマの出没時の訓練は足りていないのが実感です。
・クマの生息数調査、森林環境の整備(国、県対策)
ここらはもっと大きなお話になってきますが、例えばそもそもとして自分の住んでいる地域は、単位面積当たりのクマの生息数密度が適切か?だとか、クマが生息するに適した環境か?など、調査する必要があります。
クマの生息数密度が高すぎる場合は、集落や町への出没や農作物被害が多くなりますし、生息するに適した餌の量(ブナの木やどんぐりの木等)が少ないとそれもまた同じことが起こり得ます。
まぁこれは結構高度な話になるので、そういうのがあるんだな〜くらいで頭の片隅に置いていただけると幸いです。
【詳細】出没時の対応
出会いたくなくても出会ってしまうことはあります🐻
そんな場合、どうすべきか??
私は動物を相手する場合、大事だと思っている考え方があります。
それは個性と習性です。
ここで皆さんにクイズですが、クマに出会って以下の行動を起こした場合、どうなると思いますか?
大声で喚いた

正解は
距離が近い場合 ⇨ ✘
距離が遠い場合 ⇨ △
です。◯っていう正解はありません笑 上の絵の場合は襲われるでしょうね。
おおよそですが、20m以内の場合、大声はNGで、絶対に刺激してはいけません。逃げるクマもいるかもしれませんが、驚いて襲ってくる(自衛のため)クマもいるかもしれません。これはクマの個性に左右されるので、大声で喚くのは非常にリスキーです。
人間は年齢によって行動が変わってきますよね。中学生の頃は怖い物知らずだったのが、次第に社会を知って慎重さを覚えます。クマもそうです。中学生みたいなクマに大声で喚くと、カッとなって襲ってくるかもしれませんし、老人みたいなクマだと逃げていくかもしれません。そこに賭けるのは非常にリスキーです。(重要なことなので2回目)
基本的に大事な考え方は「人はクマが怖いが、クマも人間が怖い」のです。
参考までに距離ごとの対応の仕方は以下のとおりです。これをやれば必ず助かるとは言いませんが、助かる可能性は非常に高くなるでしょう。
・20m以内
※mont-bell公式HPを一部改変
目が合ってしまったら「目をそらさない」。この理由は、相手(人間)が自分(クマ)より弱いと思う瞬間の一つになるためです。そういった思う瞬間は主に以下の3つが挙げられます。クマに近くても遠くてもこういった行動はやめておきましょう。
・横を向く(目をそらす)
・うなだれる(頭を落とす)
・逃げ出す(背中を見せる)
※S.ヘレロ(2000)より
・50m以内
※mont-bell公式HPを一部改変
この距離で重要なことは以下のとおりです。
・クマの進行方向にあたながいないなら静かに離れる
・クマの進行方向にあたながいるなら人間の存在を知らせることが大事(声を出すなら話しかけるくらいの音)
おすすめの対処法は、まずは動かない。木等に隠れ、その後静かに立ち去ることです。意外と動物って動かないと気づかないものです(風上に立つと臭いで気づかれます)。これを利用して私は狩猟していたりします。
※距離10mでも気付かない鹿
隠れ方ですが、イメージ写真は以下のとおりです。木や電柱の後ろに隠れて、片目で様子見をすると良いでしょう。障害物の後ろに隠れることで、万が一襲われたときは盾にすることもできます。
※町中でこういう人を見かけたら通報しましょう。
では次のクイズにいってみましょう。
走って逃げた

なんとなくわかりますよね?絶対あかんやつです。
こんなことしたら間違いなく襲われるでしょう。
なぜなら、後ろ姿で逃げる動物には興奮して追いかける習性があるためです。捕食動物は全般的にこの習性を持っていると言っていいでしょう。犬や猫もこういった習性があります。
では、最後にもしも襲われてしまった場合への対処法です。
もし襲われたら?
まず念頭に置いてほしいのは、「人はクマには勝てない!!」です。
学長ならワンパンでしょうが、普通の人は無理なので、どうすべきか?
もし丸腰の場合は、重篤度を下げる対処をすることです。
頭に?が浮かんでいると思いますので解説していきます。
まともに襲われた場合、何もしなかったら爪で頭部を攻撃され、頸動脈や頚椎を損傷する可能性があり、最悪死亡してしまいます。
そうならないように、人間の急所を守る必要があります。最低限守る急所は以下のとおりです。
・頸動脈
・頚椎
・内蔵等
こうすることで、本来なら死亡するところを、重篤に下げ、さらに重症、軽症と段階的に重篤度を下げていく対処を行うのが基本となります。
※重篤度を下げるイメージ図
ようは襲われてしまったら始めから無傷の対処は難しいということです。
人間の急所を守るためには、首を手で覆ってうつ伏せになって耐えることが大事になります。
守り方のイメージは以下のとおりです。
・丸くなる防御姿勢
・伸びた状態での防御姿勢
※臨床整形外科 2025 Vol.60 No.7より引用
「臨床整形外科 2025 Vol.60 No.7」ではクマによる人身被害のデータを分析されており、なかなか興味深い情報がありました。一部抜粋します。
・秋田県では令和5年度は10月が最多の受傷件数
・受傷被害の時間帯は早朝(6〜9時頃)と夕方(15〜17時頃)が多い
また、クマスプレーを持っていた場合、狙うべき部分はクマの鼻です。
生態のところでも書きましたが、クマは嗅覚が優れています。これは文明の利器からしたら狙い目になります。カプサイシン等のとうがらし抽出成分が激痛を与えてクマは逃げていきます。
※mont-bell公式HPより
実際の写真はこんな感じです。
米国連邦政府グリズリーベア委員会では、クマスプレーの使用実績についてこう述べています。
「175人が関与した72件の事件で、負傷者はわずか3人、重傷者0人」
負傷はあるかもしれないけど、重傷はないという素晴らしい結果ですね。
以上、出没時の対応のまとめです。
・基本的に興奮させるような行動は取らない
⇨ 大声で威嚇しない、背中を見せて逃げない
・まずは動かない、落ち着いて観察、静かに離れる
・文明の利器を準備しておく(クマスプレー)
・襲われたら首を手で覆ってうつ伏せになって耐える
以上、長々と記載しましたが、少しでも皆さんの不安の解消と、いざというときの自衛方法になれば幸いです。
最後まで御覧いただき、ありがとうございました。