- 投稿日:2025/11/01
- 更新日:2025/11/02
副業や個人事業を始めた人から、よくこんな質問を受けます。
「家事按分(あんぶん)する経費って、生活用の口座と事業用の口座のどちらから支払うのが正しいんですか?」
ℹ️結論から言うと、私は生活用の口座から支払っています。
そして、事業の帳簿には経費として計上する金額だけを手入力しています。
少し回りくどいようですが、これは「家計と事業(副業)を両立して管理するため」に、合理的なやり方と思います。
この記事では私の考え方と、実際の仕訳方法の例を具体的に紹介します。
※私は法人を8年、個人事業主を3年やっていますが、税理士資格はありません。もし内容に誤りや不足があればご指摘ください🙏
📝「家事按分」とは?
まずは前提の確認から。
家事按分とは、生活費と事業経費が混ざっている支出を、事業に使った分だけ経費計上することです。
たとえば通信費(スマホ・ネット)や光熱費、家賃など。
プライベートでも仕事でも使う支出を、使った割合(比率)でそれぞれに割り振ります。
たとえば、
🔷通信費が月1万円で、そのうち6割を仕事に使っている(=残り4割は生活に使っている) → 経費にできるのは6,000円。
🔷スマホの本体代金が10万円で、そのうち2割を仕事に使っている(=残り8割はプライベートで使っている) → 経費にできるのは2万円。
これらは生活にも使っていますが、事業でも使っています。
事業に使っているなら、その費用を経費にすると、利益を圧縮できます。
税金は利益額に対して掛かるので、利益を圧縮すると税金を減らせます。
つまり節税になるということです。良い響きですね☺️
🙋♂️家事按分、どの口座から支払う?
事業をしている人は、生活用の銀行口座とは別に、事業用の口座を持っているはずです。
そして生活用の支出は生活用口座から、事業用の支出は事業用口座から支払っているでしょう。
(事業用口座を持っていない人・分けていない人は、ぜひ分けてください…!)
ここで問題になるのは、「家事按分する支出をどちらの口座から支払うか」です。
按分する、つまり生活費と事業経費の両方の側面があり、
生活用口座と事業用口座の両方から支払う必要があります。
しかし、事業と生活で割り勘するわけにもいきません。
そうすると、一旦は生活費と事業のどちらかで全額を立て替える必要があるわけですが、
🔷生活に使うお金なので、生活用口座から支払う。
🔷経費にするので、事業用口座から支払う。
どちらも正解に見えますね。
実際、どちらかが正解で、もう一方が間違いということはなく、
どちらでも対応できますし、どちらにもメリット・デメリットがあります。
「じゃあ、どうすれば良いの…⁉️」となりますよね。
それが今回のお題です。
💰️私が生活用口座から支払う理由
私の場合ですが、家事按分する支出は、生活用口座から支払うようにしています。
理由はシンプルです。
通信費や電気代は、事業をしていなくても発生します。
アパートの賃料だって、事業をやめても支払いは続きます。
もしこれを事業用口座から払ってしまうと、家計全体の支出が正しく見えなくなるのです。
(もちろん、事業用口座で支払って、家計簿に全額手入力でつけることもできます)
私は家計簿アプリ(マネーフォワードME等)で生活費をすべて管理しているので、
1. まず生活用口座で「正しい支出額(全額)」を把握し、
2. その中から事業の割合分だけを会計ソフトに手動で経費計上するようにしています。
そうすれば、仮に事業が上手くいかなくて撤退する場合でも、
🔷支払いはこれまで通り生活用口座からするだけで良いですし、
🔷家計簿もこれまで通りつけるだけで良いので、
事業を始める前後・やめる前後で何も変えずに続けられます。
また、仮に事業経費への手入力を忘れてしまったとしても、その分の節税ができなかったというだけで、帳簿上は何も問題ありません。
これが逆に、事業用の口座から支払って、按分するのを忘れていたら、
プライベートな支払いを経費に計上する、つまり経費を水増ししたことになるので、ちょっと問題です。
そういう意味で、家事按分する支出については、生活用の口座から支払う方がやりやすいのではないかと思います。
📒帳簿への記帳方法(仕訳例)
それでは家事按分する経費を帳簿につけるときの例を、具体的に紹介します。
例えば通信費10,000円のうち6,000円を経費にする場合、
マネーフォワード クラウド確定申告などの会計ソフトには、次のように手入力します。
借方:通信費 6,000円
貸方:事業主借 6,000円
仕訳帳としては、下図のようになります。
ポイントは「貸方に事業主借を使う」ことです。
これは、「生活費の中から事業で使った分を立て替えた」という意味になります。
上図の例で言えば、
通信費の支払いが発生したが、
(実際には現金で払わず、)事業主が個人(私)に借りを作った
というイメージです。
事業主=個人(私)なので少しややこしいですが、事業主という架空の会社を作って区別した、とイメージすると分かりやすいでしょうか。
(本当は”事業用のお金を事業主から借りた”のようですが、覚えやすい方で良いと思います)
ともあれ、これで事業用の記帳は終わりです。簡単でしたね。
(出典)個人事業主の教科書, 事業主貸・事業主借とは?【仕訳例付き】
🗒️家計簿へのつけ方
ちなみに家計簿には、通信費として、支払った全額(=10,000円)をつけます。
🙋「家計簿の10,000円+事業の6,000円で、合計16,000円になっちゃうんじゃないの?実態と合ってなくない?」
と思われるかもしれませんが、それで問題ありません。
なぜなら事業の帳簿と家計簿では、作る目的が違うからです。
🔷事業の帳簿は、税金等を正しく計算するために作成します。(財務会計)
🔷家計簿は、予算やライフプランを考えるために作成します。(管理会計)
例えば上記の例で、
通信費を事業に6,000円つけたから、
家計簿には4,000円だけつければ問題ないよね❗️
としてしまったら、どうでしょうか。
例えばライフプランシミュレーションをするときに、月の通信費は4,000円ですか?
事業をやめたりFIREした後に、通信費は月4,000円になりますか?
多分、そうはならないケースが多いと思います。
むしろ10,000円で見積もる方が、正確な計算になるでしょう。
そういうわけで、家事按分する支出について、
事業には按分した金額を、家計簿には総額を、それぞれ私は記帳しています。
💱事業用口座→生活用口座にお金を振り込むか?
さて、記帳はなんとかなりました。
次に問題となるのは、「生活用口座から支払った(立て替えた)経費を、事業用口座から生活用口座に振り込むか?」という話です。
ここは人によります。
帳簿上だけで処理する人もいますし、実際に事業用口座から生活用口座へお金を移す人もいます。
私は後者──つまり実際に振り込む派です。
理由は、
1. そうしないと、事業用口座の残高が実際より多くなる
2. そうした方が、口座間の動きが明確になり、後から見直しやすい
からです。
1について、事業主借の経費は、事業のお金から本来 支払うべきお金を、個人(私)が立て替え払いしたとみなせます。
つまりツケ・負債・借金です。
借金ですが、事業主=私なので、返したところで私の口座内でお金が移動するだけです。
使えるお金が増えるわけでもありませんし、特に効果はありません。
「じゃあ返さなくても良いんじゃない?」
という考え方もありますが、
もし按分していなければ(普通に事業をしていたら)当然そのお金は事業主が支払う必要があり、支出としてお金が出ていきます。
按分の場合、そこが「事業主借」という形になり、一部を個人(私)が負担するので、
実際にはお金が出ていかず、事業用の口座にその分のお金が貯まります。
ですが、その残高は見せかけです。
その内の一部は、本当は支払わなければならなかったお金なので、
実際に”利益”, ”預金”として残るはずのお金はもっと少なくなります。
この場合、帳簿上は貸借対照表に”事業主借”という負債が貯まっているので、
普通預金などの資産から、事業主借などの負債を差し引けば、正しい純資産(利益)は分かります。
ですが、人間は見た目に惑わされるもの。
口座の残高に表示された金額が、全て自由に使える利益と思ってしまう例は少なくありません。
それに、もし事業が育って法人化したら、個人が立て替えて支払った経費は精算するものですから、(精算しないこともできますが)
個人事業主のうちから精算の習慣をつけておくことは悪くないでしょう。
そうした勘違いによる判断ミスを減らすため、按分した経費について、
私は事業用口座から生活用口座にお金を振り込んでいます。
📒事業用口座→生活用口座の仕訳例
家事按分した経費を事業用口座から生活用口座に振り込んだときの仕訳については、2種類の記帳方法があります。
1. 事業主借 を使う
2. 事業主貸 を使う
この2種類です。
ちなみに「事業主貸」というのは、事業主借の逆で、
事業主が個人(私)にお金を貸したときに使う勘定科目です。
なぜこれを使うのかは、後ほど紹介します。
1️⃣ 事業主借を使う場合
まずは「1. 事業主借を使う」場合、仕訳は次のようになります。
先ほど上では貸方(右)にあった事業主借が、今度は借方(左)に来ています。
通信費を仕分けたときの仕訳と一緒に考えると、次のようになります。
事業主借が貸方と貸方に来ているため、2つを合体させると打ち消し合うようなイメージですね。
この方法は、見た目に分かりやすいのがメリットだと思います。
※こちらの記事の「プライベートの現金や預金から支払った場合」でも詳しく紹介されています。
2️⃣ 事業主貸を使う場合
「2. 事業主貸を使う」場合、仕訳は次のようになります。
1では事業主借となっていたところが、事業主貸になっています。
通信費を仕分けたときの仕訳と一緒に考えると、次のようになります。
※この仕訳については、こちらのサイトで詳しく紹介されています。
この仕訳は、少し違和感を感じられるかもしれません。
先程の1の例では事業主借が左右に来て打ち消し合いましたが、これでは打ち消せないですね。
ですが、ご安心ください。
事業主借と事業主貸は、期中(月々)は累積されるのみですが、期末でその残高をリセットします。
つまり、月々の仕訳ではそれぞれ蓄積されていきますが、年末の決算(確定申告)のタイミングで、
・その年の全ての事業主借を合計
・その年の全ての事業主貸を合計
し、それぞれ元入金に足し引きします。
(出典)モロトメジョー税理士事務所, 事業主貸と事業主借に『返す』はない・決算でも何もしない
イメージとしては、毎月の”貸し/借り”をそれぞれ積み上げていき、年末に相殺する、という感じです。
要は、決算時にうまいこと計算されるということです。(暴論)
なので、ここでは「そういうやり方もあるんだ」という理解で大丈夫です。
☑️ 私は事業主貸を使っています
さて、家事按分した経費を事業用口座から生活用口座に振り込む場合の仕訳について、2つの方法を紹介しました。
結局 私がどうしているかと言いますと、「2. 事業主貸を使う」を採用しています。
その理由は、支払いと精算が年をまたぐ場合に対応しやすいためです。
先ほど「事業主貸を使う場合」で説明しましたが、
事業主借・事業主貸は決算時(年末)に精算して、元入金に組み入れます。
つまり、事業主借を翌年に持ち越すことはできません。
ですが、実態として、「支払いは年内に、精算は年を越してから」というケースは少なくありません。
その時に仕訳がどうなるかといいますと、「1. 事業主借を使う場合」では
↑のようにしたいところですが、
↓になります。
なぜなら、借方の事業主借は「借りを返す」という意味ですが、
2024年に起票した借りは、決算時に精算されて元入金に組み入れられており、
2025年には返すべき(対応する)借りが存在しないためです。
そしてこの書き方は、前記「2. 事業主貸を使う」場合と同じですよね。
そうであれば、最初から事業主貸を使う方法で日頃からつけておけば、
年始にあれこれ考える(使い分ける)必要が無くて良いのではないか、というのが理由です。
他にも「経費計上した金額と(大幅に)異なる金額を振り込むときに使える」という利点もあるようですが、私はあまり使っていません。
基本的にはひと月分の家事按分した経費(事業主借)を集計し、
翌月にその総額を事業用口座から生活用口座に移しています。
まとめ
この記事で紹介した方法は、私自身が試行錯誤の末に落ち着いた整理手順です。
特に副業や開業初期の方にとっては、「生活費」と「事業経費」の線引きが最初の壁になります。
家計簿と帳簿、そして口座の関係をきちんと設計しておくことで、
後々の確定申告がずっと楽になります。
私もまだまだ学んでいる途上ですが、一緒に頑張っていきましょう!💪
※なお税法上の扱いはケースによって異なるため、
金額が大きい場合や不安があるときは、必ず税理士に確認してください。
要点
・家事按分の支出は、私は生活用口座から払っている。
・帳簿では「事業主借」を使い、経費分だけを記帳する。
・実際の資金移動をする場合、「事業主貸」で処理。