- 投稿日:2025/11/03
「よし、今日から新しい勉強を始めるぞ!」「この本、今月中には絶対に読もう」。そう意気込んでみたものの、気づけばカレンダーは次の月へ。そんな経験、ありませんか?
新しいスキルを身につけようと始めたオンライン講座、健康のために契約したフィットネスジム。「月々のお金を払っているんだから、活用しなきゃ損だ」と頭ではわかっているのに、なんだかんだと理由をつけて後回しにしてしまう。
こうした「先延ばし」は、決してあなたの意志が弱いからではありません。実は、人間の脳の仕組みに深く関わっているのです。
今回は、そんな厄介な先延ばし癖を、逆に目標達成への強力なエンジンに変えてしまう「締め切りの魔法」について、ある大学で行われた興味深い実験を交えながらお話ししたいと思います。
あなたはどのタイプ?成績が一番良かったクラスはどこ?
とある大学で、こんな面白い実験が行われました。
12週間の学期中に、学生たちに3つのレポートを提出してもらうのですが、クラスによって「締め切り」の条件を変えたのです。
Aクラス:学生自身で3つのレポートの提出日を決められるクラス。ただし、一度決めた締め切りは変更できず、遅れると1日ごとに成績が1%下がります。早く出しても追加点はもらえません。
Bクラス:3つのレポートすべて、学期最終日の12週目までに提出すればOKという、最も自由なクラス。
Cクラス:教授が「4週目、8週目、12週目」と、3つのレポートの提出日を厳しく指定したクラス。
さて、この中で一番成績が高かったのは、どのクラスだと思いますか?
自分のペースで柔軟に進められるAクラスでしょうか?それとも、制約が一切なく、最も質の高いレポートを書けそうなBクラスでしょうか?あるいは、厳しく管理されたCクラスでしょうか?
…答えは、Cクラスでした。そして、Aクラス、Bクラスの順で成績が良かったのです。
この結果からわかるのは、衝撃的ですが、「人は、締め切りがないとつい先延ばしにしてしまう」ということ。そして、「外部からの厳しい締め切りは、非常に効果が高い」ということです。
本当に大切なのは「締め切りの作り方」だった
ここで話は終わりません。この実験で本当に面白いのは、Aクラスの成績の内訳です。
実は、Aクラスの中でも成績に大きな差が生まれました。締め切りを「4週目、7週目、10週目」のように、学期中にバランスよく分散させた学生たちの成績は、なんとCクラスの学生たちとほとんど変わりませんでした。
一方で、Aクラスの平均点を下げてしまったのは、「合理的」に考えて、締め切りを「10週目、11週目、12週目」のように、学期末に集中させた一部の学生たちでした。彼らは結局、最終週に慌てて3つのレポートを仕上げることになり、質が下がってしまったのです。その成績は、締め切りがなかったBクラスの学生たちと似たような結果になりました。
この実験が教えてくれる、最も重要な教訓。それは、
「締め切りを誰かに設定されるか、自分で設定するかに関わらず、『適切に設定された締め切り』こそが、私たちの先延ばしを防ぐ最強のツールになる」ということです。
日常に活かす「締め切りの魔法」3つのステップ
では、この実験結果を私たちの日常や仕事にどう活かせばいいのでしょうか。ここからは、具体的な3つのステップに分けてご紹介します。
「時間があるときにやろう」と考えていることは、ほとんどの場合、永遠にやらないことです。資格の勉強、読書、部屋の片付け…。大きな目標を立てただけで満足していませんか?
大切なのは、Aクラスの優秀な学生たちのように、最終的なゴールから逆算して、タスクを細かく分解し、それぞれに「自分だけの締め切り」を設定することです。
例えば、「3ヶ月後に資格試験を受ける」という目標なら、こう分解してみましょう。
「今月末までに、テキストの第3章まで終わらせる」
「毎週土曜日の午前10時には、過去問を1つ解く」
「次の日曜日までに、苦手な分野のまとめノートを作る」
ポイントは、大きな目標を「次にやるべきこと」が見えるレベルまで小さくすることです。
これにより、漠然とした不安が具体的な行動に変わり、一歩を踏み出しやすくなります。
実験のAクラスでは「遅れたら成績が下がる」という明確なペナルティがありました。何かを失うかもしれないという感情は、「やらなきゃ」という強い動機になります。
もちろん、日常生活で自分に厳しいペナルティを課すのは大変です。そこで、ゲーム感覚で楽しめる「軽いペナルティ」を取り入れてみましょう。
宣言効果: 友人や家族に「今週中にこの本を読み終えるよ!もしできなかったら、ランチ奢るね」と宣言してみる。
SNS活用: X(旧Twitter)やInstagramで「今日から毎日30分ウォーキングします!」と公言してみる。
誰かに見られているという意識は、良い意味でのプレッシャーとなり、行動を後押ししてくれます。
それでも「目標が大きすぎて、やる気が出ない…」と感じることもあるかもしれません。そんな時に参考にしたいのが、世界最強とも言われるアメリカ海軍特殊部隊「ネイビーシールズ」の訓練です。
彼らが行う「ヘルウィーク」という訓練は、5日間ほとんど不眠不休という想像を絶する過酷さです。しかし、それを乗り越える人たちの秘訣は、驚くことに「根性」だけではありません。
彼らは「5日間耐え抜く」とは考えません。ただひたすらに、「次の食事まで頑張ろう」「夜明けまであと10分だ」といった、すぐ目の前にある「分解されたゴール」に集中するのです。
小さな目標を一つひとつクリアしていく。その達成感が成功体験となり、脳内でやる気を引き出すドーパミンが分泌され、次への活力となるのです。
「部屋全体を片付ける」のが目標なら、まずは「机の上だけ片付ける」。「本を1冊読む」のが目標なら、「まず1ページだけ読む」。
この「ベイビーステップ」が、巨大に見える山を登りきるための、最も確実で賢い方法なのです。
まとめ:最初の一歩を踏み出すための、小さな約束
私たちは、何かを始めるとき、つい完璧を求めたり、壮大な目標を掲げたりしがちです。
しかし、本当に大切なのは、行動を起こし、それを続けるための「仕組み」を作ること。
今回ご紹介した「締め切りの魔法」は、そんな仕組み作りのための、誰でも簡単に試せるテクニックです。
大きな目標を、具体的な「小さなタスク」に分解する。
それぞれのタスクに「自分だけの締め切り」を設定する。
楽しみながら続けられる「軽いペナルティ」や「ご褒美」を用意する。
受け身で待っているだけでは、何も変わりません。でも、ほんの少しの工夫で、私たちは「いつかやろう」を「今やろう」に変えることができます。
さあ、まずは何か一つ、あなたが先延ばしにしていることを思い浮かべてみてください。そして、そのための「最初の小さな一歩」と「その締め切り」を、今すぐ手帳やスマホに書き込んでみませんか?
その小さな約束が、あなたの未来を大きく変えるきっかけになるかもしれません。