- 投稿日:2025/11/19
【第33話】FIREについて研究してみた
~経済的自由のその先にあるものとは?~
🔶 FIREの“その先”を探る
リベシティのみなさん、こんにちは!社会人大学院生のOGAです。
大学院で「FIRE(Financial Independence Retire Early)」をテーマに修士論文を書いた経験を、みなさんにも共有したいと思います。
・「FIREって早期退職のこと?」
・「どうせお金の話でしょ?」
そんなイメージを持たれがちですが、論文を書き上げる中で気づいたことは──
FIREは “生き方そのもの” を問い直すテーマ だということでした。
1. 本研究の目的
この研究の目的は、FIREを達成した人たちが、どのように生活満足度の高い生活を築いているのか、またFIRE生活を送る中で価値観をどう変化させているのかを明らかにすることです。
とはいえ、多くのFIRE関連記事や本は──
・資産をいくら貯めたらリタイアできますか?
・どうやって投資すればFIREできますか?
といった方法論に焦点を当てがちです。それはその通りでして…
FIREとは、あくまでも経済的自由と早期退職ですから、退職後のことは何も語る必要がないのです…
なので、FIREを達成したその先――
つまり、「FIRE後の生き方」「心の変化」「社会との関わり方」については、まだ十分に研究されていないのです。
特に日本では、FIRE達成者の実際の体験や心理的変化を、深く分析した学術研究はほとんど存在しません。
2. 「FIRE後の人生」をどう再構築しているのか
この研究で扱った主な問いは次のとおりです。
・FIRE達成者は、どのような価値観の変化を経験しているのか?
・FIRE後の生活満足を左右する心理的・社会的な要因は何か?
・FIRE達成後、人はどのように自己を再定義していくのか?
これらを明らかにするために、FIREを達成した方々にインタビュー(自由に語ってもらう形式)を実施し、その語りをもとに一人ひとりの経験の奥にあるパターンを抽出していきました。
3. 分析方法:語りから深層的なパターンを取り出す質的分析
分析では、個人の体験や自由な語りを細かく読み取り、繰り返し表れる深層心理・意味付け・パターン(概念)を抽出し、それらを整理して理論的に構造化する質的研究手法です。ちゃんと理論に基づいて分析しないと、論文として認められないのです…
分析方法の特徴は次のとおりです。
・個々の体験から“共通する流れ”を見つける
・その一方で個人差や独自性も尊重して整理する
・データそのものを起点に全体像を組み立てていく
これにより、FIRE後の心理的適応や価値観の再編成を、単なる事例紹介ではなく体系的な理解としてまとめることができるのです。
4. FIREを「キャリアの選択肢」として再定義する
さらに、得られた知見を「キャリア論」や「人的資源管理論(HRM)」の観点から整理していきます。というか、諸事情により経営学の分野に寄せて行く必要があるのです…
この研究では、FIREは単なる“退職”ではなく、「企業や組織に依存しない、新しいキャリアの選択肢」として捉え直すことができるのではないか。
具体的には──
・仕事を辞めても“働く意味”を見出す人
・組織の外で新たな挑戦や社会参加を始める人
・生活の質や心の充実を軸にキャリアを再設計する人
こうした姿が浮かび上がってきました。
FIREが「従来のキャリアの終了」ではなく、「新たなキャリアの開始」として捉える視点が重要ではないでしょうか。
5. FIRE研究の意義
この研究が目指すのは、FIREを単なる「経済的自立と早期退職」とするのではなく、「自分の人生をどう生きるのか」という問いに向き合う機会として示すことにあります。
ただ、経済的自由を得るのではなく──
・どんな時間を過ごしたいのか
・どんな人と関わりたいのか
・どんな意味をもって働くのか
といった「自由の在り方」が、FIRE後の充実した生活を形づくると考えられます。
実は、このテーマはFIRE志向の人に限らず、すべての働く人が直面するキャリア・生き方の問題と言えるのではないでしょうか。
🔶 まとめ
今回の研究を通じて、私が感じたことのひとつとして、FIREは「完成されたライフスタイル」ではなく、状況に応じて「進化し続けるライププラン」そのものということです。
インタビューでお話をうかがったFIRE達成者の方々は──
・状況にあわせて働き方や暮らし方を調整し続けている
・大事にするもの(家族・健康・余暇など)の比重を状況によって変える
・一度決めた「FIRE像」も、経験を踏まえて更新し続けている
といった、常にアップデートを続ける姿が印象的でした。
これらの語りから、自分自身の価値観や優先順位と向き合い続けるプロセスこそが、FIRE後の人生の質を形づくる重要な要素であることを学びました。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次回も、研究で得た知見をわかりやすく紹介していきます!
・木下康仁(2003)『グラウンデッド・セオリー・アプローチへの実践』弘文堂 ・木下康仁(2007)『ライブ講義 M-GTA 実践的質的研究法』弘文堂