- 投稿日:2025/01/06
- 更新日:2025/09/30

序章
2024年4月に、
土地を売るために家を解体。
約50年住み続けた実家は、
跡形もなく消え失せた。
祖母が育てた庭の緑も全て伐採され、
そこに広がるのはただ茶色い更地。
かつての温もりも、
記憶の景色も、
たった2週間の重機の作業で、
すっかり様変わりしてしまった。
これで売り物としては問題ないだろう。
そう思っていたのも束の間、
その考えは直ぐに翻る。
しばらくして、
叔父が土地を見に行くと、
茶色の更地に、
緑の絨毯が広がっていた。
祖母が愛した庭の緑が力強く蘇り、
殺風景な茶色の更地は、
雑草によって賑やかに彩っている。
まるで、
彼女の思いが未だ息づいているかのように、
その草木はどこか懐かしさを纏いながら、
緑の大地は訪れる者を優しく迎えていた。
1匹残らず駆逐してやる!!
不動産屋さんの善意で、
1度は無料で草刈りをしてもらったものの、
しばらくして草木は再び芽吹き始めた。
土地自体は無事に売れたのだが、
雑草茫々の状態で買い手に渡すのは、
さすがにばつが悪いようで。
不動産屋さんは、
「売買契約の説明」と称してやって来たが、
真の目的は、
「草刈りのお願い」である。
買っていただいたお客様に
誠意を見せるのは当然であり、
雑草ごときで気分を害されるのは避けたい。
僕は渋々草刈りを了承し、
叔父に連絡を取って現場に向かった。
土地の広さは81.81坪(270㎡)。
更地になった分、
雑草は全域に勢力を拡大し、
領内に踏み入れば足元に絡んでくる。
中には、
小さな木のようなものまで生えており、
もはや「草刈り」というより、
「伐採」に近い。
こちらの戦力は、
51歳の僕と71歳の叔父。
装備品もいろいろと必要だろう。
この土地に群がる草木全てを、
我ら老兵2人だけで一掃できるのか……
絶望的な眼差しで更地を見つめる僕に、
叔父がぽつりと言った。
「シルバー人材センターに、
お願いしてみたら?」
ジジイがジジイにお願いすんの?
喉元まで出かけた言葉を何とか飲み込んだ。
早い、
噂には聞いていた
『シルバー人材センター』
まずは情報収集。
地元のシルバー人材センターのサイトに、
アクセスしてみる。
現在の居住地は『岡山県 倉敷市』
「倉敷市 シルバー人材センター」
と、検索すると、
1番上に、
「公益社団法人
倉敷市シルバー人材センター」
が表示されるので、迷わずクリック。
トップページの赤い四角で囲った、
かわいらしい
「お仕事依頼」のバナーをクリック
シンプルな画面に切り替わるので、
「除草・草刈り」の項目をクリック。
「仕事詳細」の画面に来ました。
「作業金額目安表」をクリックすれば、
料金の概要が確認できます。
「仕事のお申込み >」をクリックすれば、
入力フォームが現れ、
必要情報を送信すれば依頼完了です。
これが基本的な流れと思いますが、
僕の場合、
気になる文言(赤線の箇所)が目に留まる。
「お申込み後、約1ヶ月後に作業実施」
不動産屋さんからお願いされた期限は、
1ヶ月以内。
今から依頼しても間に合わないのでは?
お年寄りだから腰が重いのか。
ここに来て高齢者雇用のデメリットか。
このまま依頼するのは不安なので、
取りあえず電話で確認。
オペレーターの方が、
手慣れた様子で応対してくれる。
👨🏽「今草刈りを依頼すると、
作業開始は1ヶ月後になりますか?」
👩🏻🦱「いいえ。そんなにかかりませんよ。
2週間ぐらいですかね」
時間が一気に半分に縮まる。
👨🏽「でしたら依頼の前に、
お見積りをお願いできますか?」
👩🏻🦱「承知いたしました。
ではご依頼内容をお願いします」
作業内容や住所、
連絡先などを口頭で伝えると、
👩🏻「では後ほど、
担当者の方からご連絡いたします」
オペレーターの返答に、
僕は安堵してスマホを置いた。
安い、
本来なら、
入力フォームから依頼するのだろうが、
電話で1本でササッと依頼終了。
もっとも、まだ見積もり段階なので、
しばらく様子見。
なんて油断していたら、
さっそく担当者から電話が。
早いな──
電話の相手は、
今回の草刈りを担うであろうお爺さん。
先程のオペレーターと比べると、
声のトーンや話し方に洗練さはないが、
素朴で実直な対応は好感が持てる。
こちらの希望や現場の状況を伝えると、
👴🏼「明日にでも現地を確認して、
その日のうちに見積もりを出します」
早いな──
高齢の方ゆえに、
多少の我慢は必要かと思われたが、
そんな気遣いは一切不要で、
サクサクと物事が進んでいく。
そして翌日、
再びお爺さんからの電話。
👴🏼「見積もりですが、
料金は12,460円(税込み)です」
やっす──
一瞬、耳を疑うが、
作業内容を聞くと更にその度合いが増す。
作業員は2人態勢。
土地は斜面にあるため、
草刈り時に隣家への飛散を防ぐために
ネットを設置。
刈り取った草木は軽トラックで回収し、
そのまま処分場へ直行。
作業時間は2時間の予定。
その他、諸経費含めて12,460円(税込み)。
やっす──
しかも、
作業開始は3日後には可能とのこと。
「お申込み後、約1ヶ月後に作業実施」
あの文言は一体何だったのか。
逆に、
あまりにもスピーディーに事が運ぶので、
こちらの方がもたついてしまう。
「検討させていただきます」
一応即答は避けたが、
その3日後には再びスマホを取り、
お爺さんに告げていた。
「草刈りお願いします」
うまい
お爺さんたちは準備万端だったが、
また雑草が伸びてくるのも面倒なので、
お客様への受け渡し日から逆算し、
作業は3週間後にお願いした。
もっとも、
頭の片隅には一抹の不安は居座っている。
「安かろう、まずかろう」
では、面目が立たない。
だからといって草刈り当日に、
監視として現場に向かうのは奇妙である。
「そんなに暇ならお前がやれよ」
と、総ツッコミである。
自分で判断して依頼した以上、
現場は老兵たちに委ねるべきだろう。
老練な2人組に丸投げした結果、
作業の進行は驚くほどスムーズだった。
前日に確認の電話、
当日は草刈り終了の電話が16時に鳴る。
お爺さんの事務的な作業報告と、
料金の支払方法を説明されると、
「お世話になりました」
と、僕はスマホを置いた。
これでつつがなく全工程は完了。
しかし、
不安要素は未だに払拭できていない。
──あの密林のような雑草群が、
たった2人の老人だけで、
本当に全て刈り尽くされたのか?
取りあえず、
不動産屋さんに草刈りの終了を連絡し、
現場での確認をお願いした。
数日後、
売買契約のため訪れた不動産屋さんが、
満面の笑みでこう告げる。
「キレイにしていただき
ありがとうございます」
草木一本も生えていない更地の状態を、
大絶賛していた。
絶望的な状況を共に見た叔父も、
後日現地を訪れたが、
お爺さんたちの完全な仕事ぶりに
いたく感嘆していた。
僕は草刈り後の現場を実際には見ていない。
人づてに伝わる老兵たちの職人技に、
ただただ敬服するばかり。
まるで、
グリム童話の『小人の靴屋』である。
彼らは誰にも気づかれぬ間に現れ、
華麗に仕事を終わらせ、
風のように去っていった。
おわりに
ミステリ用語に
「アームチェア・ディテクティブ」
と、いう言葉があります。
和訳すると、
「安楽椅子探偵」
現場には行かず、
室内にいたまま、
限られた情報だけで
事件を推理する探偵。
今回僕は、
「81.81坪(270㎡)の草刈り」
と、いう結構な肉体労働を任されながら、
現場の状況を確認したのは最初だけで、
それ以降は、
部屋から1歩も出ずに、
この問題を解決できました。
草刈りの請求書は1ヶ月後に郵送され、
スマホ決算アプリにも対応しているので、
僕は支払いに『LINE Pay』を使用。
スマホ1台で、
依頼から支払いまでスムーズに完結。
この効率の良さには驚きと感心を覚えます。
「シルバー人材センター」だと、
お年寄りに合わせた旧態依然の、
紙やペンのアナログ思考かと思いきや、
その辺の業者よりIT化が進んでおり、
スマートな仕組みを持っています。
明朗会計で非営利事業であり、
ボッタクリの心配もありません。
ただし、今回の体験は、
『岡山県 倉敷市』のケース。
「シルバー人材センター」は地域によって、
対応や状況が異なるので、
その点はご容赦ください。
ありがとうございました。