- 投稿日:2025/07/27
- 更新日:2025/09/29

こんにちは。不動産業界歴20年以上、東北で現役の不動産屋として日々活動しているパパッパです。
今回の物語は、「実家を売ろうかな」と思ったときに、誰もが直面する“リアルな戸惑い”を描いています。
ネットにはたくさんの情報がありますが、それをどう使いこなすかは別の話。
一見「正しそう」に思えるやり方でも、前提や条件が違えば、うまくいかないこともあります。
そんな現場での“あるある”や“気づき”を、ちょっとドラマ仕立てで綴ってみました。
難しい言葉はできるだけ使わず、不動産のことを知らない人にも読んでもらえるように書いています。
どうぞ、理沙や杉山と一緒に、ちょっと先の未来をのぞく気持ちで読み進めてみてください。
プロローグ
「ねえ理沙ちゃん、実家って今どうしてるの?」
昼休みの休憩室。 コンビニサンドを片手にした杉山が、いつもの調子で話しかけてきた。
「……ああ、実家ですか? 両親が施設に入ったので、空き家のままです。そろそろ動かなきゃなって思ってて」
理沙は紙コップの温かいお茶に視線を落としながら、控えめに答える。
「やっぱりな。オレも一緒! うちも去年から空き家でさ。てか今週、一括査定やる予定なんだよね」
サンドをもぐもぐしながら、杉山の口は止まらない。
「両学長が言ってただろ? 一括査定で複数社に見積もり取って、一般媒介で競わせるのが一番って。それに、一番高い査定額に合わせて出せば勝ち——完璧なやり方だよ」
理沙は、少しだけ眉をひそめた。
たしかに学長はそんな話をしていた。
けれど、それは——。
不動産価格の査定は難しく、プロでも間違えることがあるため、複数社に見積もりを取り、相場を知ることが非常に大切
第13回 家やマンション、不動産を高く売る方法【お金の勉強 不動産投資編】両学長 リベラルアーツ大学
という話だった。
「一番高い査定に合わせて出せば勝ち」という単純な話ではない——理沙は、そう受け取っていた。
以前は理沙も、「一括査定で最も高い金額を出した会社に合わせて売り出し、他社を競わせればうまくいくのでは」と、思ったことがあった。 けれど、それではうまくいかないケースもある—そう丁寧に説明していたノウハウ図書館の記事を読んだことを思い出していた。
「……本当に、そんなに簡単にうまくいくんでしょうか?」
何気ない風を装って言ったつもりだったが、杉山はニヤリと笑った。
「理沙ちゃん、慎重すぎ! 売却なんて、動いたもん勝ちなんだって。高く出してくれたところを基準にして、他を競わせればいい。学長が言ってんだから間違いない!」
理沙は曖昧に笑って、もう一口お茶をすする。
反論するほどの確信はない。 でも、どこかに引っかかりが残る。
「学長が言ってたから間違いない」——その言葉には、前提や背景を省いたまま、都合のいい部分だけを切り取って結論に飛びついているような危なさがあった。
「……とにかく、うちは来週あたり動き始めるから。そしたらまた結果教えてやるよ。見とけよ〜」
「はい、楽しみにしてます」
そう返しながらも、理沙の胸の中には、静かに波打つ感情が残っていた。 それは、売れるかどうかの不安じゃない。 話が噛み合わないときに生まれる、あの妙な違和感だった。
📘 次回予告
不動産の売却は、「これさえやれば完璧!」という万能な正解があるわけではありません。
物件の状態はもちろん、地域性、不動産会社の得意・不得意、さらには売却のタイミングなど――
さまざまな要素が絡み合っているため、人から聞いたノウハウが“そのまま”通用するとは限りません。
特に、私がご相談いただくような地方の不動産では、その傾向がより顕著です。
都市部とは異なり、取り扱う業者の数が限られていたり、エリアによって相場や需要が大きく異なったりするため、画一的な成功パターンがなかなか当てはまりにくいのが実情です。
でも、こうした話を理屈だけで語ると、どうしても伝わりにくい。
そこで今回は、「物語」というカタチでお届けすることにしました。
今後も、理沙と杉山の売却ストーリーを通して、
現場でよくある“落とし穴”や“気づき”を、順次公開していきます。
「なんとなく知ってるつもりだったけど、実はそういうことだったんだ」
――そんな発見のある連載にできたらと思っています。
次回、第1章では、
理沙が一括査定サイトを使ってみた“リアルな結果”と、
地元の不動産会社をまわって感じた“担当者による違い”が描かれます。
▶︎ 続きはこちら|現役不動産屋が教える【一括査定に頼れない田舎の空き家の売り方】──同じ悩みを抱えた2人の物語
どうぞお楽しみに!