- 投稿日:2025/08/03
- 更新日:2025/09/29

こんにちは。不動産業界歴20年以上、東北で現役の不動産屋として日々活動しているパパッパです。
この物語は、「田舎の実家を売ろうかな」と思ったときに、誰もが直面する“リアルな戸惑い”を描いています。
ネットにはたくさんの情報がありますが、それをどう活かすかは別の話。
一見「正しそう」なやり方でも、前提が違えばうまくいかないこともあります。
そんな現場での“あるある”や気づきを、ドラマ仕立てでお届けしています。
難しい言葉はできるだけ使わず、不動産に詳しくない方にも読みやすい内容を心がけています。
理沙や杉山と一緒に、少し先の未来をのぞく気持ちで読み進めてみてください。
なお、前回の【プロローグ】では、理沙が職場の同僚・杉山から「学長が話してた一括査定サイトを使えばいい」と助言を受け、実家の売却に向けて動き出すきっかけとなる場面を描きました。
▶︎ まだの方はこちらから|現役不動産屋が教える【あなたに適した媒介契約の選び方】──同じ悩みを抱えた2人の空き家売却物語
それでは、続きをどうぞ。
第1章「動いてみた結果」
「見つからないって、どういうこと?」
理沙は、スマートフォンの画面をじっと見つめていた。
ネットで見つけた一括査定サイトに、空き家になった実家の情報を入力し終えた直後のことだった。
表示されたメッセージには、こうあった。
「対応可能な不動産会社が見つかりませんでした」
都市部の物件なら、すぐに複数社が名乗りを上げるのかもしれない。けれど、理沙の実家があるのは、県内でも人口が減り続けている地域だった。
以前、杉山が「一括査定で複数社に競わせればいい」と言っていたのを思い出す。けれど、実家のある地域では、それが通用しないらしい。
(やっぱり、田舎は違うんだ…)
手応えのない空振り感に肩を落としつつも、「動かなきゃ」と決めた気持ちを無駄にしたくなかった。理沙は、地元の不動産会社を自分の足で探してみることにした。
――――――――――――――――
最初に連絡したのは、隣県にも支店を展開している大手の不動産会社だった。
リベシティでおすすめされている一括査定サイト「イエウール」では、対応可能な不動産会社が見つからなかった。しかし、理沙はあきらめきれず、他の査定サイトもいくつか試してみた。
この不動産会社は、そうして見つけた1社だった。
電話口の受付女性の対応はとても丁寧で、好印象。「一度現地を拝見させてください」とのことで、翌週の訪問を約束した。
やってきたのは、スーツ姿の若い男性社員。いかにも「研修明け」といった感じの緊張感をまとっていたが、メモを取りながら丁寧に応対してくれた。
「建物は古いですが、敷地は広いですね。ただ、買い手は限られるかもしれません」
現地を見たあと、「査定額は後日、メールでお送りします」と言って帰っていった。数日後、メールで届いた査定額は、正直言って低かった。500万円前後という数字に、理沙は少し肩を落とした。
――――――――――――――――
次に依頼したのは、地元密着型の中堅不動産会社。昔からのつながりを大事にしているような雰囲気で、電話口の対応もざっくばらんだった。
現地に現れたのは、スポーツ刈りで日に焼けた男性社員。作業ジャンパーの胸には会社名と「営業課長」の刺繍が入っていた。
「いや〜このあたりは昔と比べて人減ったけど、それでもこっちの道沿いは案外需要あるんですよ」
理沙が気づかなかった地域の変化や売れ筋をテンポよく説明しながら、軽快に敷地をチェック。
靴を脱ぐ間も惜しむように話しながら家の中を回り、「いやあ、場所も悪くないし、これならウチとしてもぜひ預かりたいですね!」と自信満々に語った。
「ざっくりになりますが、このエリアだと700万円くらいで出せると思いますよ」
(えっ……? 前の会社より200万も高い)
その額に惹かれたのも事実だったが、話が少し早すぎて、理沙にはついていけない感もあった。
――――――――――――――――
そして最後に訪れたのは、こぢんまりとした地元の不動産会社だった。
手作り感のある木製の看板と、玄関先に並べられた季節の花。扉を開けると、観葉植物が並ぶ明るい店内に、小さなカウンターと資料棚が整然と並んでいた。
理沙が訪ねると、応対してくれた女性が奥へ声をかけた。ほどなくして、穏やかな表情の男性が現れる。
「お電話ありがとうございます。お座りください」
そう声をかけた男性は、「みやした不動産 宮下誠」と書かれた名刺を穏やかな笑顔で差し出した。どうやら夫婦でこの店を切り盛りしているようだった。
椅子に腰掛けると、理沙は実家の場所や空き家になってからの経緯を説明した。宮下は何度も頷きながらメモを取り、途中で話を遮ることなく最後まで耳を傾けてくれた。時折、「そういうことなら……」とつぶやきながら、少しだけ黙って考える。その丁寧さと落ち着いたやりとりが、理沙には心地よかった。
「では、日を改めてご一緒に現地を確認させていただければと思います」
そう言って日程を決め、理沙は店をあとにした。
──数日後。
約束の日、宮下と理沙は一緒に実家を訪れた。家の外観や庭の手入れ状況、近隣の様子を一通り確認したあと、家の中も見て回る。宮下はメジャーを取り出して測ったり、持参した資料と照らし合わせたりしながら、丁寧に現状を確認していった。
「手入れ、かなりきちんとされてますね。空き家とは思えないくらい綺麗です」
理沙は少し誇らしげに笑った。両親が長年住んでいた家。最後まで大切にしていた思いが、今もここに残っている気がした。
──さらに数日後。
再び店舗を訪れた理沙を、宮下が迎えた。
「お待たせしました。こちらが査定書と参考資料になります」
封筒の中には、過去の成約事例や周辺の相場情報、建物の状況や土地の条件などをもとにまとめられた査定書が入っていた。慎重に査定されたことが分かる内容で、査定額の根拠や、この価格帯で売り出した場合に想定される販売戦略なども具体的に記されていた。
「査定額としては、このくらいが妥当ではないかと考えました。600万円前後ですね。もちろんご事情に応じて、売り出し価格は相談させてください」
理沙は書類を手に取り、しばらく黙ってページをめくった。
(600万円か……やっぱり、前のところよりは安いんだ……。それにしても、同じ家でも見る人によって全然ちがうってことか)
一呼吸おいて、理沙は口を開いた。
「……あの、媒介契約って、専任とか一般とか、3種類あるって聞いたことがあるんですが……」
宮下は少し驚いたような顔をして、すぐに笑みを浮かべた。
「よくご存じですね。ご自身で調べられたんですか?」
「いえ……なんとなく言葉だけ知ってるというか……正直、内容まではよくわかってないんです」
「そうでしたか。媒介契約については勘違いされていることも多いので、よろしければ詳しくご説明させていただいても?」
「はい、ぜひ……!」
──次章に続く。
📘 次回予告
不動産を売却する際に結ぶ「媒介契約」。
ネットで調べたり、学長の動画で耳にしたことがある方もいるかもしれませんが、「名前だけは知っているけれど、実はよく分かっていない…」という人も多いはずです。
次回・第2章では、理沙が地元の不動産屋・宮下とのやりとりの中で、「媒介契約って、どう選べばいいの?」という疑問に向き合います。
不動産会社と契約する前に知っておきたい、基本だけど大事なポイント。
▶︎ 続きはこちら|現役不動産屋が教える【媒介契約のよくある誤解とは?】──同じ悩みを抱えた2人の物語
ぜひお楽しみに!