- 投稿日:2025/10/07
- 更新日:2025/10/08
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第1 亡くなった親に借金があった?!
大切な家族を見送った後、相続の準備をしていたら…
「実は多額の借金があった!」と分かることがあります。
思いがけず知ることになった“家族の秘密”。
悲しみの中で突然背負うことになるかもしれない借金。
押し寄せる将来への不安…。
でも、大丈夫!
法律には「相続放棄」という制度があります。この制度を利用することにより、父親がギャンブルで作った借金であっても、母親がアイドルへの推し活につかった借金であっても、全部引き継がなくてよくなるんです😌
本記事では、こうした相続放棄の内容、やり方、注意点まで、知っておきたいポイントを分かりやすく解説します。
第2 相続放棄とは?
『相続放棄』とは、簡単に言えば…
「最初から相続人ではなかったことにする」手続きです。
これを行うことで、亡くなった人(=被相続人)の全ての財産を一切引き継がない(相続しない)ことになります。そのため、たとえ被相続人に借金があっても、相続人は支払義務を負いません。
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【とあるデュエリストたちの日常①】
債権者
「お前の親に金を貸していたのだ!さあ、相続人よ……その借金、耳を揃えて返してもらおうか!」
相続人
「俺のターン!ドロー!……ふっ、このカードを待っていた!
裁判所に【相続放棄】を申請!
これにより俺は相続人の地位を失い、親の借金を一切背負わないッ!」
債権者
「な、なんだと!そんな……そんなカードがあったなんて……!
わ、わたしの請求が消えていくぅぅぅ!」
相続人
「相続放棄の効果は絶大だ。
プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄する!
これでお前の攻撃は無効ッ!俺のターンは終了だ!」
債権者
「ぐぬぬ……わ、わたしの債権回収の可能性がゼロに……!」
第3 相続放棄の手続きの流れ
ここからは、実際に相続放棄を行う手続きの流れを見ていきましょう。
大まかなステップは次の3つです。
①申立ての準備
②申立て
③申立後の確認
それぞれの段階で何をすればいいのか、順番に解説していきます。
なお、詳しい書式や提出先などは、裁判所の公式サイト「こちら」でも確認できます😌
①申立ての準備をしよう!
まずは、相続放棄の申立てを行うための準備から始めましょう。
準備に必要なのは、次の3つです。
1️⃣ 申立てをする裁判所の確認
2️⃣ 申立書(申述書)の作成
3️⃣ 添付資料の準備
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1️⃣ 申立てをする裁判所を確認しよう!
最初に、どこの裁判所に申立てをするかを確認しましょう。間違った裁判所に出してしまうと、手続きが遅れてしまうので注意が必要です。
申立てをする裁判所は、
「被相続人(亡くなった人)の最後の住所地」を管轄する家庭裁判所です。
簡単に言えば、亡くなった人が住んでいた地域を担当している家庭裁判所になります。
どの家庭裁判所が管轄しているかは、「こちら」から調べることができます。
ちなみに、裁判所には「地方裁判所」や「簡易裁判所」などいくつか種類がありますが、相続放棄の手続は「家庭裁判所」で行います。間違えないようにしましょう。
また、家庭裁判所への申立ては郵送でもOKです。遠方に住んでいる場合は、無理に出向かず郵送で提出しても大丈夫です。
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2️⃣ 申立書(申述書)を作成しよう!
申立てには申立書(申述書)が必要です!
「こちら(成人の場合)」又は「こちら(未成年の場合)」で書式がダウンロードできますし、裁判所の窓口に行けば紙の書式をもらうこともできますので、お近くの裁判所を利用してもOKです。
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申立書の書き方は次のとおりです。
【1枚目】
1枚目には、申立てをする人(申述人)と、亡くなった人(被相続人)の情報を記載します。住所・氏名・連絡先などを、記載例に沿ってそのまま書けば大丈夫です。
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【2枚目】
ここは少し注意が必要です。
申述理由の中にある「相続の開始を知った日」の記載が、とても重要になります。
この日付が、相続放棄の申立日から3か月以内であることを必ず確認してください。なぜなら、「相続の開始を知った日」から3か月を経過してしまうと相続放棄が認められないからです。
多くの場合、「相続の開始を知った日」は被相続人が亡くなった日にあたります。そのため、1の「被相続人死亡の当日」に丸をつけ、その日付を記載し、3か月以内に申立てをすれば問題ありません。
ただし、被相続人が亡くなってから3か月を過ぎている場合は注意が必要です。この点の詳細は後ほど説明しますので、まずは2枚目の書き方を確認しましょう。
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【相続放棄の理由】
「相続放棄の理由」の欄については、難しく考える必要はありません。多くの方は「借金が多い」ことを理由に相続放棄をされるので、5の「債務超過のため」に丸をつけておけば十分です。
「相続財産の概略」
「相続放財産の概略」の欄についても同様です。分かる範囲で記載し、分からない部分は「不明」と書いておきましょう。
以上で申立書(申述書)の作成は終了です。
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3️⃣ 添付資料の準備の準備をしよう!
次に、申立てに必要な添付資料を確認しましょう。いくつか種類がありますが、中心となるのは戸籍関係の書類です。
【戸籍関係の書類】
戸籍関係の書類は、大きく分けて次の2種類が必要です。
✅申述人(申立てをする人)の戸籍関係書類
✅被相続人(亡くなった人)の戸籍関係書類
ただし、必要な範囲はケースによって少し異なります。そのため、詳しくは詳細を裁判所のHP(こちら)で確認しながら準備してください。
【戸籍が分かりにくい場合は?】
……とはいえ、戸籍って正直わかりづらいですよね。
特に古い戸籍は読みにくく、慣れていないと見ただけで心が折られそうになります💦
そんなときは、市役所や裁判所の窓口で相談してみましょう。地域にもよりますが、職員の方が丁寧に教えてくれることが多いです😌
【その他の必要書類】
なお、戸籍関係のほかにも、
・収入印紙(800円分)
・郵便切手
などが必要になりますので、ご自身で手続をされる場合は、事前に裁判所へ電話して確認しておくと安心です。
【自分でやるのが大変な場合】
もし「準備が大変!」「やっぱり何か問題がないか心配!」という方は、専門家に依頼するのも選択肢のひとつです。費用は申立人1人あたり概ね3万円~15万円程度かかりますが、書類集めの手間やミスを考えると依頼するのも十分ありでしょう。
②申立てをしよう!
資料の準備が整ったら、管轄の家庭裁判所に申立書を提出しましょう!
提出後、内容に不備がなければ、手続はそのまま進行します。もし修正や追加資料の提出が必要な場合は、裁判所の指示にしたがって対応してください。
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【照会書に回答しよう!】
特に問題のない申立てであれば、概ね2週間前後で裁判所から「相続放棄照会書」および「相続放棄回答書」が郵送されてきます。
ただし、裁判所の判断によっては、これらの書類が送られてこない場合もあります。その場合でも、手続自体は進行しているので心配はいりません。
照会書や回答書の内容は裁判所によって多少異なりますが、基本的には質問に沿って答えれば問題ありません。落ち着いて、一つずつ確認しながら記入していきましょう。
ただし、次の3点には注意してください。
✅「あなたの意思によるものですか?」という質問
これは当然「はい」と回答してください。「いいえ」と答えてしまうと、手続が進まない可能性があります。この質問は「本当に自分の意思で相続放棄をするのか」を確認するためのものです。
✅「相続の開始を知った日」に関する質問
ここは、申立書に記載した日付と同じ内容を記載してください。日付が異なると手続がスムーズに進まないことがあります。念のため、申立書の写しを手元に残しておくと安心です。
✅「被相続人の財産を処分・消費したか」に関する質問
この質問に「はい」と答えてしまうと、相続放棄が認められない可能性があります。そのため、該当する事情がない限り、「いいえ」と記載することになります。
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【審問に対応しよう!】
多くの場合、照会書への回答だけで手続は完了します。
しかし、照会書の回答では確認が不十分な場合は、裁判所から審問(呼び出し)を受けることがあります。
よくあるのは、
✅被相続人が亡くなってからかなり時間が経過している場合
✅被相続人の財産を処分または使用してしまっている場合
といったケースです。
こうした場合、裁判所は「相続放棄を認めてよいかどうか」を慎重に確認するため、面談(審問)を行うことがあります。
呼び出しを受けた場合は、指定された日時に裁判所へ行き、裁判官と面談することになります。難しい質問をされることはないと思いますが、回答の仕方で結果が変わることもあります。そのため、事前にしっかり準備しておくことをおすすめします😊
③受理通知書で確認しよう!
すべての手続が終わると、概ね2週間前後で「相続放棄申述受理通知書」が家庭裁判所から送られてきます。
【通知書サンプル】
この通知書は、相続放棄の手続が正式に受理されたことを示すものです。債権者に提出する場合は、この通知書の写しを渡すだけで足りることが多いのですが、提出先が多い場合は「相続放棄申述受理証明書」を1~2枚ほど取得しておくと便利です。
【証明書サンプル】
申請方法については、各裁判所から受理通知書と一緒に案内があると思いますので、そちらで確認してください。
以上で、相続放棄の基本的な手続は完了です😊
ここまで来たらひとまず安心ですが、関連する制度―『限定承認』『相続の承認又は放棄の期間伸長』―についても見ておきましょう。
第4 その他の手続
1 限定承認とは?
相続放棄と似た制度に「限定承認」があります。
これも相続に関する手続ですが、内容は少し異なります。
限定承認とは――
「取得する資産(プラスの財産)の限度で負債を相続する」制度です。
つまり、持っている財産の範囲内でのみ借金を返すという仕組みですね。
例えば、不動産や預金といった資産がある一方で借金もある場合、「不動産や預金で支払える限度の借金まで相続する!」という内容です。
具体例で見てみましょう。
(相続財産)
・土地:1,000万円
・預金:500万円
・借金:不明(最低でも1,000万円以上)
この場合、資産の合計は1,500万円ですが借金の総額は不明です。
もし借金が1,000万円なら、500万円のプラスになります。
一方で、借金が2,000万円なら、500万円のマイナスになります。
こうした「借金の総額がわからない」ケースで限定承認を使えば、相続する負債も資産1,500万円の範囲までに限定されるため、それ以上の借金を背負うことはありません。
このように「財産の範囲で安全に相続したい」という場合に限定承認を利用すると、安心して手続を進められます😊
ただし、手続がやや複雑で、実際に利用されることはそれほど多くありません。
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【とあるデュエリストたちの日常②】
債権者
「フハハハ!お前は【相続放棄】を発動しなかったな?!
ならば効果発動!【親の借金・全額請求】!
父親の借金を余すことなく耳を揃えて支払ってもらうぞォ!」
相続人
「ククッ……甘いな。俺はリバースカードを発動!【限定承認】!」
債権者
「な、なにぃ?!リバースカードだと?!」
相続人
「【限定承認】の効果発動!
相続によって得られるプラスの財産の範囲内でのみ、
マイナスの財産を弁済する!
つまり……財産総額を超える借金は、一切相続しないっ!」
債権者
「バ、バカな……!それじゃあ、借金を全額取り立てられないじゃないかぁぁぁ!」
相続人
「そうだ。相続放棄は”すべてを拒絶する切り札”
だが【限定承認】は、プラスの財産だけは生かし、マイナスを相殺する戦略カード……!」
債権者
「ぐぬぬ……またしても俺の債権回収の可能性が……!」
2 相続の承認又は放棄の期間伸長とは?
先ほど説明したとおり、相続放棄は「相続の開始を知った日」から3か月以内に申立てを行う必要があります。
しかし、次のような場合のように3か月以内に判断することが難しいことがあります。
✅相続財産が複雑で、財産調査に時間がかかる場合
✅相続関係が複雑で、相続人の調査に時間がかかる場合
こうしたやむを得ない事情で判断が間に合わない場合には、家庭裁判所に申立てをして期間を延長することができます。
この手続を「相続の承認または放棄の期間伸長」といいます(民法915条但書)。
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内容の詳細は『裁判所の公式サイト「こちら」』で確認できます。
手続自体はそれほど難しくありませんが、この手続が必要になるようなケースは、相続関係がやや複雑なことが多いため、一度は弁護士に相談されることをおすすめします。
なお、期間の延長に明確な上限はありませんが、実務上は概ね(1か月から)3か月程度が多いと思われます。
また、この期間の延長が適用されるのは申立てを行った相続人本人のみです。他の相続人には自動的に適用されないため、誤解しないよう注意してください。
第5 相続放棄の費用はいくら?
ここでは、相続放棄にかかる費用について説明します。
費用は大きく分けて次の2つです。
① 申立てに関する費用
② 弁護士など専門家への依頼費用
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① 申立てに関する費用
主に、裁判所や役所に支払う実費です。
具体的には、戸籍謄本の取得費・印紙代・郵便切手代などがあり、概ね数千円(高くても1万円程度)で済みます。
―――――――――――――――
② 弁護士費用
弁護士に依頼する場合、申立てを行う相続人1人あたり概ね3万円〜15万円(税別)が目安です。
ただし、事案の難易度にもよりますが、一般的な事務所であれば、簡易な事案で5万円程度、複雑な事案でも10万円程度で対応してもらえるでしょう。
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まとめ
ご自身で申立てを行う場合は、①の実費だけなので全体でも1万円前後の費用で手続を完了できます。
一方、
✅「書類の準備が大変そう」
✅「戸籍を集めるのが面倒」
✅「手続に不安がある」
と感じる場合は、専門家に依頼した方がスムーズです。
時間と手間を大きく節約できます。
「どうやって専門家を探せばいいかわからない…」という方は、こちらの記事も参考にしてください。
第6 相続放棄の注意点及び間違いやすいポイント
🐭「これで相続放棄も完璧だね!」
🐯「まだ油断は禁物!大切な注意点がいくつかあるから、一緒に確認していこう。」
🐭「どんな点に気を付ければいいの?」
🐯「以下のポイントを押さえておけば安心だよ。」
この章で扱う主なポイント!
⚠️すべての財産を相続できない(プラスもマイナスも放棄)
⚠️申立ては原則3か月以内(借金を知ってから3か月以内の場合も)
⚠️相続財産の処分は危険(放棄が認められない?)
⚠️家庭裁判所への申立てが必須(話し合いだけでは不可)
etc.
それでは、順番に見ていきましょう。
①全ての財産を相続できない
相続放棄をすると、すべての財産を相続できなくなります(受け継いだり、使用したりできません)。
ここでのポイントは、
「プラスの財産もマイナスの財産も、両方とも放棄する」という点です。
たとえば、不動産や預金などの資産がある一方で、借金もある場合、相続放棄をすればそれらをすべて放棄することになります。
したがって、
「不動産や預金は相続して、借金だけ相続しない!」
ということはできないので注意してください。
―――――――――――――――
【とあるデュエリストたちの日常③】
債権者
「フフフ……フィールド上には【不動産】と【預金】のプラスモンスター。
そして【借金】というマイナスモンスターが存在している!
お前が【相続放棄】を発動するなら、その全てを墓地に送らねばならん!」
相続人
「なにっ?!【不動産】と【預金】を残して【借金】だけを墓地に送ることはできないのか!?」
債権者
「できん!【相続放棄】はフィールド上のすべての相続財産をリセットする効果!
プラスもマイナスも関係なく、一切合切を放棄するのだぁ!」
相続人
「ぐっ……!つまり、【不動産】や【預金】を守りたければ、別のカード――【限定承認】をドローするしかないということか……!」
②原則3ヶ月以内だが・・・
前述のとおり、相続放棄は「相続の開始を知った日」から3か月以内に行わなければなりません。
一般的には、被相続人が亡くなったことを知った時点で「相続の開始を知った」とされるため、この3か月の起算点は被相続人の死亡を知った日になるのが通常です。
たとえば――
被相続人が亡くなった当時は借金の存在を知らず、1年後になって債権者から突然請求が届き、初めて借金を知った。
というケースではどうでしょうか。
この場合、亡くなったことを知ってから3か月を過ぎているため、原則として相続放棄はできません。
しかし、もし多額の借金が後から見つかったら……不安ですよね。
実は、こうしたケースでも相続放棄が認められる場合があります。
というのも、「被相続人に相続財産が全くないと信じた」場合などでは、「借金を知った日」=「相続の開始を知った日」と扱われることがあるのです。
したがって、債権者からの請求などで借金を初めて知った日から3か月以内であれば、相続放棄が認められる余地があるので、諦めずに相続放棄を検討しましょう😊
ただし、この判断は事案ごとの事情によって異なるため、被相続人の死亡を知ってから3か月以上経過している場合は、早めに弁護士など専門家へ相談することをおすすめします。
③相続財産の処分は危険
相続放棄は、「相続人として最初からいなかったことにする」制度です。
そのため、相続財産を勝手に処分すると、相続放棄が出来なくなったり、認められなくなったりする場合があります(民法921条)。
―――――――――――――――
⚠️ 注意すべき行為の例
✅ 預金口座の引き出しや使用
ついうっかりやってしまいがちなのが、被相続人名義の預金口座からお金を引き出して使ってしまう行為です。
相続放棄をするということは、被相続人の預金は「他人のお金」になるということです。そのため、たとえ少額でも勝手に使うのはNGです。
特に、私的な利用だけでなく、
「被相続人が使っていた電気代を、その口座から引き出して支払った」
といったケースでも、相続放棄が認められない可能性があります。
実務上は軽微な支払いは問題視されないことも多いですが、「余計なことはしない」のが一番安全です。
―――――――――――――――
✅ 実家の片づけ・遺品整理
被相続人が住んでいた家を片づける際も注意が必要です。
価値のない物や明らかなゴミを処分する程度であれば問題ありませんが、高価なブランド品や貴金属など、価値のある財産を売ったり、人に譲ったりすると、相続放棄が出来なくなる可能性があります。
これもまた「被相続人の財産を勝手に処分した」と見なされる行為だからです。
―――――――――――――――
もっとも、当然例外もあって、次のように行為は許されております。
✅️相続財産から相当な範囲の葬儀費用を支払うこと
✅️相続人が自分のお金で被相続人の債務を支払うこと
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🪶 まとめ
結局、どの行為が許されて、どの行為がアウトなのか――
一般の方には判断が難しいことが多いです。
ですから、相続放棄をするときは、
「とりあえず何も触らない」
これが最も安全な対応です。
④家庭裁判所への申立てが必須!
相続放棄を有効にするには、家庭裁判所への申立てが必要です。
ここは非常に多くの人が誤解しやすい部分です。
たとえば、次のようなケース――
⚠️ 「兄弟で話し合って、私は相続しないって決めたから放棄したことになるよね?」
⚠️ 「私は財産を何も受け取っていないから、自動的に放棄したことになるはず!」
……こうした考え方は、すべて誤りです。
相続放棄は、本人が家庭裁判所に正式に申立てをして、裁判所が受理してはじめて成立します。話し合いで決めたことや相続財産を受け取らなかったことは、相続放棄したことになりません。
したがって、相続放棄をする場合は、必ず家庭裁判所に申立てを行いましょう。これを忘れてしまうと、意図せず相続人になってしまいます。
⑤放棄しても残る義務!
「相続放棄をしたから、もう全部終わり!あとは何もやらなくていいんだよね?」
……実は、そうではありません。
相続放棄をしても、相続財産を「現に占有している」場合(つまり、自分が使っていたり、管理している状態のとき)は、その財産を適切に管理・保存する義務(保存義務)を負うことがあります。
―――――――――――――――
たとえば、相続放棄をするときに被相続人の家に住んでいた相続人は、その不動産を適切に保存する義務があります。
「放棄したから関係ない」と放置してしまうと、建物が劣化して倒壊したり、近隣に被害を与えるなどして、新たなトラブルの原因になってしまうこともあります。
つまり、相続放棄をしても「借金などを引き継がない」効果があるだけで、すべての責任がゼロになるわけではないという点に注意が必要です。
―――――――――――――――
こうした場合には、家庭裁判所に「相続財産清算人(そうぞくざいさんせいさんにん)」を選任してもらう手続が必要になります。
相続財産清算人が正式に財産を引き継ぐまでの間は、相続人がその財産を一時的に保存・管理する義務を負うことになります。
もっとも、実際にこのような義務が問題となるのは、「相続放棄時に被相続人の家に住んでいた」などのケースが多いので、そうでない場合は過度に心配する必要はありません。
⑥一度放棄すると取り消せない
相続放棄は、一度行うと原則として撤回や取り消しはできません。
そのため、申立てを行う際は慎重な判断が必要です。
よくあるケースとして、
「借金が多いと思って相続放棄をしたものの、実は被相続人が団体信用生命保険(団信)に加入しており、住宅ローンが完済されてプラスの財産だけが残った」というものがあります。
特に、生前あまり連絡を取っていなかったり、被相続人の財産状況を詳しく知らなかった場合には、こうした事態が起こりやすいです。
一応、相続放棄の取消しや事後的な単純承認が認められたりすることもありますが、基本的にいったん放棄したら取り消せないと考えておくのが安全です。
第7 関連事項
①相続放棄後の周囲への影響
✅️相続分が他の相続人に移る
相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったことになるため、放棄した分の相続分は同じ順位の他の相続人に移ります。
例えば、子ども3人のうち1人が放棄した場合、残りの2人で相続財産を分け合う形になります。仮に借金が1200万円あったとしたら、もともと1人当たり400万円の負担でしたが、放棄により残る2人が600万円ずつ負担する形になります。
そのため、家族関係が良好な場合は、放棄をする際に他の相続人にも一言伝えておくとトラブルを防げます。
―――――――――――――――
✅️ 次の順位の相続人に移る
同順位の相続人全員が放棄をすると、次の順位の人(例えば祖父母、兄弟姉妹など)に相続権が移ります。
たとえば、相続人である子ども3人全員が相続放棄をした場合、被相続人の親(祖父母)や兄弟姉妹が相続人となります。
そのため、親族関係が良好な場合は、放棄をした後に次の順位の相続人へも一言伝えておくのが望ましいです。
②相続放棄などの有無を調べたい場合
「ある人が相続放棄をしているのか知りたい」――
そんなときは、家庭裁判所に照会(問い合わせ)を行うことで確認できます。この手続は「相続放棄・限定承認の申述の有無の照会」と呼ばれています。
もちろん、これは個人のプライベート情報に関わるものです。そのため、誰でも自由に照会できるわけではありません。
照会できるのは――
✅他の相続人
✅被相続人(亡くなった方)にお金を貸していた人(債権者)
といった、相続の関係者に限られます。
一般の方にはあまり利用する機会の少ない手続ですが、必要な場合は、裁判所の公式サイト「こちら」に詳しい案内がありますので、そちらを参考にしてください。
③特に重要な内容
ここまで長く相続放棄について説明してきましたが、最後に特に重要なポイントをお伝えします😊
それは――
「裁判所は、比較的柔軟に相続放棄を受け付けてくれる」
ということです。
そのため、
「この事情で相続放棄が認められるか少し微妙だな……」
という場合でも、まずは申立てをしてみることをおすすめします。
―――――――――――――――
【なぜ裁判所は柔軟なのか?】
裁判所がこのような対応を取る理由の一つとして、たとえ裁判所が相続放棄を受理したとしても、後に別の裁判で相続放棄の有効性を争うことができるからです。
つまり、相続放棄の申立てが受理されたあとでも、
✅実際には「相続の開始を知った時期」がもっと早かった
✅相続財産を処分してしまっていた
といった事情があれば、債権者などから訴えられた際に、放棄の効力を否定される可能性があるのです。
―――――――――――――――
【裁判所の実務的なスタンス】
このような背景から、裁判所としては
「明らかに無効な申立てでない限り、とりあえず受け付けておく」
という実務的なスタンスを取ることが多いのです。
しかし、すでに相続放棄をした相続人をわざわざ訴えてくる債権者は、現実にはほとんどいません。
そのため、実務上は多少グレーなケースであっても、問題なく手続が終わることが多いのです。
―――――――――――――――
【結論】
多少疑問点が残るような事案でも、ひとまず相続放棄の申立てをしてみる価値は十分にあります。迷ったときは、まず動いてみることが大切です😊
第8 まとめ
以上をまとめると、次のとおりです。
―――――――――――――――
✅相続放棄の大まかな流れは次の3ステップ!
🔸 申立ての準備(申立書や添付書類の準備)
🔸 申立て(照会書・回答書への対応)
🔸 申立後の確認(申述受理証明書の申請)
簡単な事案であれば、ご自身でも十分に対応できます。
本記事を参考に、落ち着いて手続きを進めてみてください。
―――――――――――――――
✅ 相続放棄にかかる費用は主に2つ!
🔸 申立てに関する費用(数千円程度)
🔸 弁護士費用(1人あたり概ね3〜15万円)
書類集めが大変そう、手続に不安があるという場合は、専門家に依頼するのも一つの方法です。時間と手間を省けて安心して進められます。
(※スキルマーケット準備中)
―――――――――――――――
✅ 相続放棄の注意点
🔸 すべての財産を相続できない(プラスもマイナスも放棄)
🔸 申立ては原則3か月以内(借金を知ってから3か月以内の場合も)
🔸 相続財産の処分は危険(放棄が認められない可能性)
🔸 家庭裁判所への申立てが必須(話し合いだけでは不可)
このほかにも細かな注意点はありますが、迷ったらまず3か月以内に申立てをすることを意識しておけば大きな失敗は防げます。
―――――――――――――――
以上で相続放棄の説明はおしまいです!
随時内容を追記修正していきますので、何か質問等あればコメントで教えてください。
またね!