- 投稿日:2025/10/06

最近では香り高い吟醸酒や、華やかなフルーティー系の日本酒も増えています。
けれども、秋の夜長にゆっくりと味わうなら、やはり「純米酒」。
米と水、そして麹だけで造られた純米酒には、派手さこそないものの、飲む人の心にじんわりと染み入る深みがあります。
香りで驚かせるのではなく、旨味で語りかける。そんな“素の日本酒”こそ、秋の味覚を包み込む最高の伴侶です。
今回は、そんな純米の世界を代表する3本――天穏・不老泉・秋鹿――をご紹介します。
どれも、米本来の旨味と造り手の哲学が詰まった、“飲むほどに深まる日本酒”です。
1. 天穏(てんおん) 純米(島根)
「酒は祈りの道具である」——この言葉を信条に、天穏は“清らかで誠実な酒”を造り続けています。
その味わいは派手さとは無縁。雑味を感じさせず、静かに心に染み込んでいくような透明感。飲み込んだ後、口の中に柔らかく広がる余韻は、まるで秋の夕暮れのように穏やかです。
米の旨味が丁寧に溶け込んでおり、冷やすとすっきり、常温やぬる燗にするとまろやかさがぐっと増します。
一口ごとに体の内側にしみわたるような感覚があり、決して派手ではないのに“もう少し飲みたい”と思わせる不思議な魅力を持っています。
おすすめペアリング
里芋の煮っころがし:ほっこりした甘みと酒の柔らかさが寄り添う。
鰆の西京焼き:味噌のコクをやさしく包み込み、後味をすっきり整える。
→ 常温~ぬる燗が最適。湯気のように広がる米の香りに、心がほどけます。
2. 不老泉(ふろうせん) 山廃純米(滋賀)
伝統的な「木槽天秤搾り」と「山廃仕込み」を今も守り続ける蔵。
現代的なスッキリ路線とは真逆をいく、堂々たる“古き良き日本酒”。
口に含んだ瞬間、酸の力と旨味の厚みが同時に押し寄せ、思わず「これぞ山廃!」と唸ってしまうほどの存在感です。
温度によって表情がガラリと変わり、常温では旨味の塊、熱燗にすると酸が立ち上がり、香ばしい余韻が何層にも重なります。
時間と共に変化していく味わいは、まるで熟成チーズや赤ワインを思わせる複雑さ。まさに“噛みしめて飲む酒”です。
おすすめペアリング
牛すじの煮込み:とろけるコクに、酸味が程よくリズムを刻む。
サバの味噌煮:味噌の甘辛と酒の酸のバランスが秀逸。
味噌田楽や煮大根など、家庭の惣菜にも抜群の相性。
→ 熱燗でこそ真価を発揮。湯気の中に立ち上がる香りは、秋の夜のごちそうです。
3. 秋鹿(あきしか) 純米(大阪)
自家栽培米で酒を仕込む、全国でも数少ない蔵のひとつ。
「農業と酒造りは一体である」という信念のもと、米作りから一貫して手掛けています。
そのため、秋鹿の酒には“生命力”のようなエネルギーが宿っているのが特徴です。
味わいは力強く、旨味と酸味のバランスが絶妙。飲みごたえがありながら、決して重くならない。
少し熟成させると角が取れ、酸が旨味に溶け込んでいく。長く飲み続けるほどに「酒が育つ」のを感じられる一本です。
おすすめペアリング
焼きサンマの肝和え:酸味が脂を切り、香ばしさを引き立てる。
牛しぐれ煮:甘辛い味付けを受け止め、深い旨味を重ねる。
秋野菜の天ぷら:カラッと揚げた衣を、酸がすっきり洗い流す。
→ 常温またはやや熱めの燗で。口の中で“旨味の余韻”が続きます。
まとめ
純米酒の魅力は、派手な香りではなく“米そのものの物語”を感じられること。
天穏は静謐さと透明感。まるで水墨画のように余白が美しい。
不老泉は骨太で酸の効いた熟成型。ぬくもりのある重厚感。
秋鹿は大地の香りと生命の力強さを感じる、農の酒。
どれも共通しているのは、**「造り手の思想が味に出ている」**ということ。
派手な香りやキャッチーな甘さはないけれど、食卓で静かに光る存在感があります。
純米酒は、“合わせる料理を選ばない酒”ではなく、
“料理の一部として完成する酒”。
今夜はぜひ、ゆっくりと温度を変えながら、米の旨味と季節の恵みを一緒に感じてみてください🍶