- 投稿日:2025/10/13

年金小話シリーズ
〜現場で出会った、秘密にしておきたい13の話〜
シリーズのはじまりに
年金の現場では、書類や数字の奥に「人の人生」があります。
どんなに制度が整っていても、家族の形が複雑になれば、
その“線引き”が難しくなることもあります。
この「年金小話シリーズ」では、
私がこれまでの現場で出会ったケースをもとに、
“制度のルール”と“人の想い”の間にある「リアル」をお伝えしていきます。
登場人物はすべて仮名で、
一つひとつの話には、現場で実際に起こりうる出来事が詰まっています。
どうぞ、静かに耳を傾けていただければと思います。
第1話 前妻の子 vs 妻とその子 遺族年金は誰が受け取れるのか?
「元夫が亡くなったあと、私の子も年金をもらえるんでしょうか?」
はじめに
遺族年金は、
「亡くなった人が誰を支えていたか」
により受取れる人が決まります。
しかし、もし“支えられていた家族”が複数あったら――?
今回のケースは、現場でも多いご相談です。
「前妻の子」と「現妻とその子」が同時に遺族になる場合、
誰がどのように年金を受け取るのか?
実際の相談イメージをもとに解説します。
前妻からの相談
窓口に、一人の女性が現れた。
前妻は少し安心した表情を見せた。
亡くなった人が、前妻の子に養育費・学費・生活費などを支払っていたのであれば、「生計維持関係がある」と認められる可能性があります。
亡くなった人と遺族年金を受取る人が一緒に住んでいなくても、定期的な援助があれば対象になります。
制度の仕組み ― 支給ルール
しかし、ここで悲しいお知らせがあるんです。
前妻の子は遺族基礎年金と遺族厚生年金を受け取る権利はあるんですが、前妻の子の口座へ年金は振込みされないんです。
どういうことかというと、
支給の原則:子のある配偶者がいる場合は、配偶者に全額支給される
今回のケースの場合、遺族基礎年金・遺族厚生年金は、現妻に全額振り込まれます。
現妻:遺族基礎年金(本体831,700円➕子加算239,300円×2人)
遺族厚生年金(全額)
が振り込まれる。
おわりに
年金という制度は、もともととても複雑です。
そして、人の関係が複雑であればあるほど、
その複雑さはさらに増していきます。
残念ながら、今の仕組みは“家庭の実態”に合わせて柔軟に支給されるものではありません。
それでも現実の中で、どうにか折り合いをつけながら生きていくしかない――。
それが、年金の現場で見てきた正直な姿です。
今回のように、「せめて子どもの分だけでも」という気持ち。
とてもよく分かります。
離婚も、子育ても、そして別れのあとに訪れる手続きも。
そのすべてが、心身をすり減らすほど大変なことです。
亡くなった後までも“遺族年金”をめぐって悩み、
書類と向き合う姿を、私はこれまで何度も見てきました。
制度は、必ずしも人の心を慰めてくれるものではありません。
けれど、今回の小話を通して、
年金制度が時に家族の実態とは異なる結果を生み出すことがある――
そんな現実を少し感じていただけたのではないでしょうか。
これは制度が悪いのではなく、
私たちがその複雑な仕組みを十分に理解しきれていないことから生まれる“すれ違い”かもしれません。
しかし、知っていれば備えることができます。
そして、備えることこそが、大切な家族を守る“力”になります。
まずは、ご自身の家族構成や暮らしを振り返ってみてください。
もしもの時、どのような年金が、誰に、どんな形で支給されるのか――。
気になる方は、ぜひ専門家である年金事務所や社会保険労務士に相談してみてください。
「知らなかった」で損をすることほど、もったいないことはありません。
この小話が、あなたの家族の“もしも”を考えるきっかけとなり、
未来を守る最初の一歩につながれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は――

です。