- 投稿日:2025/10/18
- 更新日:2025/11/01
SNSを開くと、仕事で成果を上げ、家庭でもうまくいっているように見える人たちの投稿が流れてきます。
そのような投稿を見ると、
「すごいな」「自分も頑張らなきゃ」と思いながら、心のどこかで少し焦りや落ち込みを感じたことはありませんか。
友人の昇進や結婚、子育ての話を聞いた時にも、
「自分はまだ何もできていない」と心がざわつく感覚を経験したことはないでしょうか。
でも、大丈夫。その感覚は、決してあなただけのものではありません。人は本能的に“自分と他人を比べてしまう生き物”なのです。
私自身も、かつては人と比べて落ち込むことが何度もありました。そのなかで自分なりに試行錯誤を繰り返して見つけた方法や考え方によって人との比較で苦しむことはかなり減ったように思います。そこで今回は、私自身の体験と心理士としての視点をもとに、「人と自分を比べない考え方」について解説していきたいと思います。
この記事を読むと、なぜそもそも人は他人と比較をしてしまうのか、そして、そのような比較のループから抜けだすための具体的方法がわかります。
そもそも人はどうして人と自分を比べるのか
「人と比べるのはやめたいのに、つい気になってしまう」
――そんな気持ちは、実はとても自然なことです。
人が他者と自分を比べてしまう背景には、いくつかの心理的・社会的な要因があります。
① 教育の影響
私たちは小さなころから「テストの順位」、「成績」、「偏差値」などで評価される環境で育ってきました。
つまり、“横並びで比べること”が日常の一部になっているのです。
知らず知らずのうちに、「他人より上であることが良いこと」「比べられることが当然」と刷り込まれ、
大人になってからもその価値観を引きずりやすくなります。
② 文化的な影響
日本では「みんなと同じ」が安心につながる文化的背景があります。
“和を乱さない”、“空気を読む”という価値観は社会を円滑に保つ一方で、
「人と違うこと」を暗に否定する空気を生み出し、「人と違うことを怖れさせる」感覚を生みやすくします。
その結果、無意識のうちに「他人と同じくらいでいなければ」と比較するクセがついてしまうのです。
③ 行動予測による安心感
人と同じように行動することで、「あの人もやっているのだから自分も間違っていない」という安心感を得られます。
たとえば、周囲が資格を取っていれば「自分も取らなきゃ」と感じるのは、
“他人と同じ行動をとることで将来の見通しが立つ”という心理的安全の仕組みが働いているからです。
比較は一種の心の“安全確認”でもあります。
④ 遺伝的な要因(進化心理学の視点)
人類は長い歴史を通じて、集団の中で生き延びるように進化してきました。
そのため、他者との関係性や立ち位置を常に意識することが、生存のために重要でした。
「群れの中で浮かないように」「他者に受け入れられるように」――
そうした我々の祖先から続く本能的な比較の仕組みが、今も私たちの心に残っていると考えられます。
このように見てみると、「人と比べる」ことは決して’’弱さ’’でも’’おかしい’’ことでもなく、
**人間の発達や文化のなかで自然に身につけてきた“心の仕組み”**であることがわかります。
つまり、私たちは“比べるようにできている”のです。
次の項目では、そんな比較がもたらすメリットとデメリットを具体的に見ていきましょう。
人と自分を比べることのメリット
人と比べることには、ネガティブな印象を持たれがちですが、
実は“上手に使えば”私たちの成長を後押ししてくれる面もあります。
①集団の中で適応しやすくなる
他人と自分を比べることで、「今、自分がどんな立場にいるのか」「どのくらい努力すればいいのか」が見えやすくなります。
これは社会生活を送るうえでとても大切な力です。たとえば、周囲の人の行動を参考にすることで、職場や学校などの“暗黙のルール”を理解しやすくなります。
② モチベーションを高められる
他人の成功を見て「自分も頑張ろう」と思えるのも比較の力です。
少しの焦りや刺激は、行動を促すエネルギーにもなります。
「憧れ」や「悔しさ」といった感情は、うまく扱えば前進の原動力になります。
③自分の位置を客観的に把握できる
比較は、自分の実力や現状を“社会的な地図”の中で確認する手段でもあります。
「今の自分がどのあたりにいるのか」「どんな方向に進みたいのか」を見つめ直すきっかけになります。
人と自分を比べることのデメリット
一方で、比較を無意識に用いることが習慣になると、心に負担をかけてしまうこともあります。
①「みんなと違うこと」が怖くなる
他人を基準にしていると、集団の中で少しでも違う選択をしたときに「自分はおかしいのでは」、「浮いてしまうのでは」と感じやすくなります。
その結果、本来の価値観や個性を抑えてしまうことがあります。
② モチベーションが下がる
上には上がいる――そう感じると、努力しても報われないような気がしてしまう。
比較が過剰になると、焦りや自己否定の感情が強まり、行動のエネルギーを奪われてしまいます。
③ “他人軸”で生きるようになる
いつの間にか、「自分がどうしたいか」よりも「人からどう見られるか」が行動の基準になってしまう。
そうなると、他人の評価が上がれば安心し、下がれば落ち込むという“感情の振り回されループ”に入りやすくなります。しかし、人の評価が得られるかどうかは、その相手次第。人目を気にする状態が当たり前になってしまいます。
こうして見てみると、比較というのは単純に良い悪いで分けられるものではなく、“使い方次第”でプラスにもマイナスにも働く特徴があることが分かります。
そして、本記事ではこれらのメリット・デメリットを踏まえつつも、基本的には「比較はあまり用いないほうがいい」という立場を取ります。
次の項目ではその具体的な理由を見ていきましょう。
なぜ人と自分を比べないほうがいいのか
人と自分を比べることには人生を生きるうえで、ある程度のメリットもあります。
しかし、日常的にその思考にとらわれすぎると、心の健康や生き方に大きな影響を及ぼすことがあります。
①メンタルヘルスに悪影響を与える
他人と自分を比べる習慣が続くと、「自分は劣っている」「まだ足りない」といった自身のマイナス面に視点がいきやすくなります。
その状態が長引くと、自己肯定感が下がり、不安や焦りが強まり、うつ状態に近い心理状態になることもあります。
つまり、比較は心のエネルギーを静かに削る行為でもあるのです。
②「普通でいること」が目的化し、自由を失う
比較を続けていると、いつの間にか「みんなと同じでいること」が最大の目的になってしまいます。
その結果、周りの目を気にして“自分らしい選択”がしづらくなり、’’本当にやりたい’’ことに沿った自由な生き方を抑え込んでしまうことがあります。
「周りに合わせているはずなのに、どこか息苦しい」――
その背景には、この“普通でいようとする力”が働いている場合が少なくありません。
③自分の生き方を抑え込んでしまう
人と比べることで、自分の価値観やペースを後回しにしてしまうことがあります。
他人の基準に合わせようとするあまり、「自分はどう感じているか」「自分は何を大切にしたいのか」が見えなくなってしまうのです。人生の主導権が’’自分’’ではなく、’’世間’’や’’常識’’に握られてしまい、その状態では、’’自分の人生の舵取り”が難しくなります。
人と比べないというのは、「一切、他人と比較しない」というように他者と自分を切り離すことではなく、むしろ、「他人と自分の境界を意識し、侵さないようにしながら、自分の価値観や選択に意味や価値を見出し、大切にすること」と言い換えてもいいかもしれません。
他者を意識しながらも、常に「自分はどうありたいか」という視点を大切にできるようになると、人生の主導権が自然と自分に戻ってきます。そして、周りに振り回されることのない、自分のペースや価値観に沿った生き方ができるようになってきます。
人と比較しないための実践方法
ここまで見てきたように、比較は多くの場面で自然に起こるものです。
しかし、少し意識を変えるだけで「比べすぎるクセ」を緩めていくことができます。
ここでは、今日からできる3つの実践法を紹介します。
①比較する対象を「他人」ではなく「過去の自分」にする
他人との比較は、自分を消耗させがちです。
けれど、昨日の自分・一週間前の自分と比べるのは、成長を感じるための健全な比較です。
「少しは前より落ち着いて話せた」「前より早く切り替えられた」など、自分の変化を見つける視点を育ててみましょう。仮に変化がないように感じられた時も小さな変化を探ってみましょう。例えば、「簿記の問題を1問だけやった」などです。たった1問でも過去の自分と比べて’’変化があった’’ことには変わりありません。
他人ではなく自分を基準にすることで、視点が自分に移り、他者への嫉妬や焦りが少しずつ和らいでいきます。
② 「違い」こそ価値だと捉える
人と自分を比べて落ち込むとき、私たちは「他人や過去の社会の慣習と同じであること」を正解だと思いこんでしまうことがあります。
しかし、社会は「違い」があるからこそ成り立ち、発展してきました。
実際に、社会的イノベーションを生み出した多くの人たちも、最初は“変わり者”として見なされていました。
ガリレオも、スティーブ・ジョブズも、大谷翔平もそうです。
既存の枠を超えようとする人は、周囲と同じ発想や行動をしないため、理解されにくく、時には否定されることもあります。
それでも、その“違い”が磨かれ、社会に浸透していくことで、やがて「新しい当たり前」へと変わっていくのです。
つまり、他人との違いは欠点ではなく、あなたにしかない個性や価値なのです。
「自分は他の誰かにはできない角度から貢献できるのではないか」と考えてみると、
これまで欠点に見えていた“違い”が、あなたの大きな強みに変わっていくかもしれません。
③ 「社会の基準」はあくまで目安にすぎない
年齢、学年、役職など、社会には多くの「基準」が存在します。
でもそれらは、社会をスムーズに運営するために“便宜上”つくられたルールにすぎません。
「30歳までに結婚」「40歳までに昇進」といった区切りは、誰かが生きやすいように設定した目安であり、あなたにとっての絶対基準ではありません。
そもそも、「人はみな違うのが自然」です。身長や足の速さがみんな異なるように、考え方や価値観、生き方が違っていて当然です。だからこそ、社会の基準をいったんそっと横に置き、自分にとってベストなペースを尊重することが、他者との比較から自由になる第一歩になります。
この3つの考え方を意識するだけでも、「比べる」思考の自動反応は少しずつ緩みます。
他人を気にする時間を、自分の成長を感じる時間に変えていけたら、
それはすでに“人と比べない生き方”の始まりです。
他者と比較する考え方を改善する取り組みを本格的に行いたい方へ
他者との比較は自然に行われるものであり、自分自身で考え方の練習をすることでも改善していくことも可能です。
一方で、「一人でやるのが難しい」と思う方は精神科医や心理師のカウンセリングを利用するのも1つの方法です。他者との比較の背景には、その人なりの理由が隠れていることがあります。そういった背景・理由を理解しながら取り組むことで、改善の効果は高まりやすくなります。
現在、自身の考え方を改善していくための支援を受けられる場としては、
① 精神科・心療内科などの医療機関、② カウンセリングオフィス、③ オンラインカウンセリングなどがあります。
なかでもオンラインカウンセリングは、自宅から気軽に利用できる点が大きなメリットです。カウンセラーに十分な知識と経験があれば、対面と同等の効果を期待することができます。
筆者のN.jもスキルマーケットでオンラインカウンセリングを提供していますので、カウンセラーを探す際の参考にしてみてください。
【臨床経験14年 公立病院心理師の深掘りカウンセリング】
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ライフスタイルによって通いやすさや続けやすさは人それぞれです。ぜひ、ご自身に合った方法を選んでみてください。
⚫️おわりに
思えば、自分自身もこれまで多くの人と自分を比較してきました。そして、他の人と同じであれた時は少し安心したものの、すぐにまた別の誰かと自分の違いを見つけては、不安になっていたように思います。
けれど、今では「人は違っていいし、違うからこそいい」と感じます。みんなと同じということは個性が失われているということ。「個性のない人生なんてなんだか味気ない」と今の私には感じられます。
異なることは恥ずかしいことではありません。むしろ、誇れることです。そんな違う個性を持つ一人ひとりが、それぞれ素敵で、かけがえのない存在なのだと思います。
ここまで記事を読んでいただきありがとうございました。