- 投稿日:2025/11/17
- 更新日:2025/11/19
【第32話】FIREについて研究してみた
〜お金の自由を得た後、人は何に向き合うのか?〜
🔶 FIRE後に待っている“もう一つの現実
リベシティのみなさん、こんにちは!社会人大学院生のOGAです。
大学院で「FIRE(Financial Independence Retire Early)」をテーマに修士論文を書いた経験を、みなさんにも共有したいと思います。
・「FIREって早期退職のこと?」
・「どうせお金の話でしょ?」
そんなイメージを持たれがちですが、論文を書き上げる中で気づいたことは──
FIREは “生き方そのもの” を問い直すテーマ だということでした。
1. 「FIRE=目的」ではない
ここ数年、「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」という言葉が広く知られるようになりました。 多くのメディアや書籍では、FIREを達成するための具体的な方法――つまり「どうやって資産を増やすか」とか「資産をどう取り崩すか」といった経済的手段に焦点が当てられています。
しかし、FIRE達成者がどのような生活を送り、どのような心の変化を経験するのかなど、FIRE後の心理的・社会的側面が十分に扱われてきたとは言い難いです。
既存の文献でも同様に、「FIRE後の心理的・社会的側面は、個人の体験談レベルで語られるにとどまり、体系的な研究はほとんどない」と指摘されているのが現状です。
2. 「FIRE=幸せ」という思い込み
一方で、SNSやメディアでは「働かない=幸せ」「FIRE=成功」といったシンプルなイメージが広がりがちです。
たしかに、経済的な自由は人生の選択肢を広げます。しかし、自由になった後の“心のあり方” を十分考慮しなければ、思いがけない孤独や迷いに直面することもあります。
FIRE経験者の中には、このような声も聞かれます。
・毎日が休日になったのに、なぜか虚しさを感じる
・働かなくてもいいのに、社会から切り離された気がする
・FIREを達成した自分に、何をしたいのか分からなくなった
経済的成功だけでは測れない“もう一つの課題”が、FIREの先にあるのです。
3. FIRE後に起こる心理的変化
ある研究によると、退職後の孤立や役割喪失が心理的ウェルビーイング(心身と社会的な充実)にマイナスに影響を及ぼすことが指摘されています。
これは、FIRE後の生活でも同じような心理的揺らぎが見られます。
具体的には――
・「社会的役割を失う」ことによるアイデンティティの喪失
・「他者との比較」や「働いていないこと」への罪悪感
・目標を達成した後に訪れる虚無感や再適応の難しさ
「自由なはずなのに、心が自由でいられない。」
そのギャップこそ、FIREを研究する上での重要なテーマなのです。
4. FIRE研究に欠けている視点
現状のFIRE関連研究や実用書の多くは、「お金をどう増やすか」などのFIRE達成以前の話に集中しているように思われます。
しかし、FIRE後の生活満足度を左右するのは、経済的な条件だけではありません。
たとえば――
・働くことへの意味付けや価値観の変化
・心身の健康や生活リズムの維持
・家族、友人、地域との社会的つながり
・自分にとって“意味のある活動や挑戦”の発見
こうした要素を総合的に考えることで、初めて「幸せなFIRE生活の実現」が見えるのではないでしょうか。
残念ながら、実際、こうした多面的な視点からFIRE後を分析した学術研究は、日本ではまだ非常に少ないのが現状なのです。
5. 「FIRE=自由を選ぶための手段」
FIREが「仕事を辞めること」自体を目的にしてしまっては、本質を見誤ってしまいます。本来FIREは、自分の生き方を自由に選択するための手段です。
お金の自由、時間の自由、働く自由――
それらを“どう使うか”こそ、FIREの本当の価値であり、同時に難しさでもあります。
本当に重要なのは、経済的自由を得た後、心・健康・つながり・自己実現をどう整えていくか。こうした要素を総合的に考えると、FIREは「ゴール」ではなく、新しい人生の「スタート」であることが見えてきます。
🔶 まとめ
FIREは、自由を得た後に向き合う心の変化や、新しい役割探しこそが、本当のスタートです。
FIRE後の生活を豊かに過ごすには――
お金 × 時間 × 仕事 × 健康 × 社会との繋がり × やりがい…など様々な要因が複雑に組み合わされ、何に価値を見出すかが鍵になります。
経済的自由は人生を変える強力なツールになりえますが、その使い方を考えるのは自分自身。実は、FIREを達成した瞬間ではなく、FIRE達成後の「生き方を選び直すプロセス」こそが、最も大切なテーマと言えるのかもしれません。
次回も、研究で得た知見をわかりやすく紹介していきます!
・Avendaño-Miranda, L.L.(2024)『The Five Dimensions of Financial Independence, Retire Early』 ・坂倉杏介(2021)「関係性のウェルビーイングから考える退職後の居場所」『日本労働研究雑誌』第732号 ・日経ビジネス(2022)「“働かない幸せ”という幻想」 ・Forbes JAPAN(2025)「FIREブームの裏にある現実」