- 投稿日:2025/11/19
- 更新日:2025/11/19
◆ 短編小説「チャイの灯り」

休日の朝、あかりは目覚ましより早くそっと目を開けた。
平日の朝には決して訪れない静けさが、部屋の空気の隅にたまっている。
光がカーテンに吸い込まれるように柔らかくて、
その光の粒を見ているだけで胸の緊張がほどけていくのがわかった。
昨日までの自分は、まるで硬い殻の中に閉じ込められていたようだった。

満員電車で何度も肩をぶつけられ、
「ごめんなさい」も「大丈夫?」もない世界の中で、
自分の存在が薄い影になったような感覚。
会社でも、メール一通書くたび胸がざわついた。
何度も何度も見返して、
失礼がないように、誤字がないように、
何かを取りこぼさないように、自分をすり減らしながら過ごした一週間。
その疲れが、体の奥にうっすら残っていた。
しかし休日の朝は、世界がちゃんと自分に優しくなる。
あかりはゆっくりと布団から抜け出し、
小さなキッチンへと歩いた。

テーブルの上には、三つのスパイスの瓶。
シナモン、カルダモン、ブラックペッパー。
続きは、リベシティにログインしてからお読みください