- 投稿日:2026/01/23
- 更新日:2026/01/23
第一章:スローモーションの夜
高校3年生の夏休み、8月。 夜の帳が下りた夏の宵。
湿った風には、昼間の太陽に焼かれたアスファルトの匂いと、
草いきれが混じっていた。
私は友人と2台、バイクに跨り夜の一般道を走っていた。
エンジンの振動が太ももから全身へと伝わり、
ヘルメットの隙間から生温かい風が入り込む。
視界の端で、街灯の光が流星のように後ろへ飛び去っていく。
若さとは、時に無謀さと同義だ。 アクセルを回す手首の動きひとつで、
景色が置き去りになる感覚。
その万能感に酔いしれ、スピードメーターの針は跳ね上がっていた。
ヘルメットの中は、エンジンの轟音で満たされているはずなのに、
不思議と静かだった。
ただ、目の前の闇を切り裂くことだけに集中していた。

前方に、緩やかな左カーブが見えた。
いつもなら何気なく曲がれるはずのその角度が、その速度域では、
黒い壁のように立ちはだかる
「絶望的な鋭角」
に見えた。 車体を倒し込む。タイヤが悲鳴を上げる。
「あ、曲がりきれない」
そう脳が認識した刹那、世界は唐突にその物理法則を変えた。
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