- 投稿日:2026/02/05
第五章:クリスマスイブの退院、そして遅れてきた現実
病院の自動ドアが開いた瞬間、私の頬を刺したのは、驚くほど冷たく澄んだ冬の風だった。
退院の日は、12月24日。 世間がクリスマスイブに浮き足立つ、一年で最も華やかな日だった。 8月の真夏の夜、アスファルトの熱気とサイレンの音の中で救急搬送されてから、およそ4ヶ月。 季節は夏から秋を通り越し、完全に冬になっていた。 街路樹は葉を落とし、街は煌びやかなイルミネーションで彩られている。 浦島太郎という言葉があるが、まさにその心境だった。私だけが、あの夏の夜から時間が止まったまま、いきなり未来へと放り出されたようだった。
家に帰って最初に直面したのは、「家」という空間の不自由さだった。 バリアフリーだった病院とは違い、築年数の経った我が家は段差だらけだ。 玄関の上がり框(かまち)ひとつ越えるのに、脂汗をかいて杖をつく。2階の自分の部屋に行くための階段は、まるでアルプス登山のような険しい壁に見えた。 手すりにしがみつき、一段一段、這うように登る。 風呂に入るのも一苦労だ。浴槽をまたぐ筋力がないため、まるで老人のようにへっぴり腰で時間をかけて浸かるしかない。
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