• 投稿日:2023/12/12
  • 更新日:2025/09/29
【エンジニア必見!?】特許に対する誤解+発明の基本とコツを解説

【エンジニア必見!?】特許に対する誤解+発明の基本とコツを解説

SBG@機械設計

SBG@機械設計

この記事は約12分で読めます
要約
モノづくり系で特許(発明)の考え方でお困りの方こちらをご覧下さい。私の業務経験を基に図解で解説しています。また、よくある特許に対する誤解も紹介していますので興味がございましたらどうぞ😁 (※考え方の解説で特許書類の作成には触れていません)

はじめに

皆さん、こんにちは😄

本記事では特許に対する一部誤解と私の経験に基づいた特許(発明)の考え方について解説していきます。

特許というと多くの方が特許として考え出したモノやサービスを企業に提供してロイヤリティ(報酬)を受け取るもの、と考えていると思います。

これ、間違いではないですが正しくもないです。

今回紹介する考え方に基づけば上記の誤解解消と何が特許(発明)になるかが分かります。なので定期的に特許(発明)を出さなければいけいないモノづくり系の方はご覧になって損はないです。

因みに私は業務上いくつか特許を国内外で登録しましたので、考え方についてはそれなりの説得力はあります😁後、世に出ていない全く新しいものを生み出す特許(発明)は門外漢なので本記事では触れていないです。その点は予めご了承願います。

特許とは/発明とは

特許に対する誤解

まずは冒頭で触れていた通り特許に対する誤解を解いておきます。

特許庁による特許の定義から一部を抜粋すると「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」という事になります。

一般的に特許というと何か新しい製品を生み出すこと(発明)を含んで使われていますが、実際は発明されたものと産業発展を保護する制度のことを指します。

この特許(特許法)という制度がないと困るケースが2つ発生します。

 ①発明者の権利が守られない(発明のメリットがなくなる)
 ②独占市場が発生し、技術革新が遅れる恐れがある

①のケースは特許法による発明者(発明権)保護の観点です。これがないと発明者が産業に貢献する新しいモノやサービスを生み出しても自身より競争力のある他社、他人に真似されてしまいます。そうなると発明したものが生み出す利益を発明者に正当に還元されなくなります。結果、発明者が発明に対する意欲がなくなり産業発展が起こりにくくなります。

②は①とは逆のケースで産業発展に重きを置いた観点です。競争力のある会社や個人が産業界に有用なものを発明した場合、基本的にはその発明を長期に渡って独占します。これはその発明に関与する分野に独占市場が発生したことになり、その発明に基づいた新たな発明が生まれにくくなります。結果、新たなイノベーション(技術の世代交代)の芽が摘まれ健全な産業発展が起こりにくくなります。この遅延を避けるために特許法では一定期間が過ぎた後は誰しもがその発明を利用できるようになることを定めています。

以上が特許に関する大枠の説明です。特許≠発明について大体の理解はして頂けたと思います。本記事ではこれより特許と発明は別物として使い分けますのでその点を忘れずに注意下さい。

次に気になるのが、発明についてですね。どうすれば発明ができるようになるのか😕?その考え方に向かう前に特許と同じく発明の定義について触れておきましょう。

発明の定義

特許庁による定義から引用すると「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」とされています。この文言は発明の全体像を指しているのでここから4つの要素に分割されます。

 1.自然法則に基づいているか
 2.技術的思想が織り込まれているか
 3.創作されたものか
 4.高度なものか

発明するにあたって3.創作と4.高度はあまり重要ではありません。3.創作は単なる発見や盗作ではないよね?という話ですし、2.技術的思想が織り込まれていれば基本高度なものになります。

重要なのは1.自然法則と2.技術的思想、特に2.の比重が高いです。

1.は自然法則を利用しているかの話なので、例えば万有引力、オームの法則、ボイル・シャルルの法則など物理や化学で習うような自然法則がその発明に寄与しているかです。利用しているかがポイントですから自然法則そのものは発明にはなりませんし、自然外の法則(経済、人文科学など)は対象外です。

さて、重要である2.技術的思想については別の言葉に置き換えると「自然法則に則った技術的理論に基づいているか」です。

例えば発明Xが生み出されたとします。

なぜその発明が発明として認められるかというと、仮に自然法則AとB、更にCを掛け合わせて今の世の中にはない機能Y(=発明X)を生み出したという論理/論法が成立しているかどうか焦点になります。

発明された経験がある方ならわかると思いますが上記の論理、論法の成立性が発明そのものと言っても過言ではありません。というのも発明をするにあたっては理論上で実際にできるかどうかが重要であり、実現までのステップは問わないからです。

なのでその発明を実現するには莫大なコストや時間がかかるとしても理論上成立しているなら発明として認められます。発明を考えるときは理論的に成立しているかどうかをよく確認して下さい。

発明の考え方

では本記事の本題です。個人的な見解に基づき順を追って発明の考え方について説明します。

発明の種類

まず種類について、発明になるものは大きく2種類あります。

 ①世の中に出ていない全く新しいもの
 ②完成品に+α(別製品や技術的理論など)を加えたもの

①の該当品は分かりやすいです。身近なものでいえばスマホやパソコン、家電製品系がこれに該当します。しかし、これらの製品は様々な構成部品と技術理論に基づいていますので現代において個人レベルでこのような発明品に至るのは不可能です。

なので思いつきやすいのは②の完成品に+αを加えたものです。

私の登録している発明もこれに該当していますので本記事のはじめにも触れた通り、この②を思いつく方法を説明します。その説明の前にこの②の発明を考え出すために必要な要素を発明にならないNG例も踏まえて紹介しておきます。

新規性と進歩性

早速ですが発明に必要な要素は新規性と進歩性です。特許庁による定義では以下の通り。

 〇新規性:世の中に公然と紹介されていない新しいもの
 〇進歩性:容易には思いつかない有利な効果があるもの

新規性、進歩性の詳細はリンク先の資料をご確認ください。これから先はそれぞれを主観的に解説します。

新規性について、定義の内容を鵜呑みにすれば今まで見たこともないようなものしか新規性とならないのでは😲?と思いますがそんなことはありません。既に世の中に出ているある製品XとYを合体させたものでも新規性となります。

ただ、その合体には注意点が2つあります。

1つは先に特許、論文、学会など公の場、もしくはそれに相当するメディアで紹介されていない事、もう1つは進歩性がないものです。公然と世に紹介されていなくとも進歩性が伴っていなければそれは新規性があるとは言えません。ゆえに新規性には進歩性が不可欠です。

では進歩性とは何か?これが発明の根幹です。

その説明のために先に進歩性のない製品Xと製品Yを掛け合わせた典型的なNG例を紹介します。それはテレビとビデオデッキ(DVD/BDプレイヤーも可)を掛け合わせたテレビデオです。

恐らく2000年以前の生まれの方😁しかわからないと思いますが昔ブラウン管タイプのテレビに映像を記憶させたVHS(ビデオ, Video Home System)を読み取るビデオデッキを合体させた製品がありました(下図参照)

televideo1.jpg画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: televideo1-1024x359.jpgこれは発明品にはなりません。理由はそれぞれの製品が保有している機能を1つの製品にしただけだからです。テレビは映像を映すもの、ビデオデッキはVHSが持つ映像を読み込むものです。

1つの製品にすることで例えば映像の画質が良くなる、新たな機能が生まれるなどの明確なメリットが生まれればそれは発明になります。しかし、それぞれの機能が相互影響を発生させないなら進歩性は生まれていないことになります。

特許庁がNG例として挙げている船外機とプロペラ、机とキャスターもこれに該当します。船外機とプロペラについてはそれぞれを取り付けることで船の移動速度は上がりますがその分のエネルギーが必要になるのでメリット/デメリットの関係が変わっていません(むしろ重くなる分必要エネルギーが多くなる可能性がある)。また、速度に対する機能も変わっていません。

机とキャスターも同様に、机にキャスターの移動機能を追加しただけなのでまさにテレビデオと同じNG例です。(単純な機能追加で机が持つ機能が何も良くなっていない)

如何でしょう、発明を考える上で必要な新規性、進捗性についてイメージできたでしょうか。正直なところまだ抽象的なイメージしか思い浮かんでいないのではないでしょうか。

私もその通りと思います😂

これらの説明は一部独自解釈を入れましたが、私が業務で発明を作り始めたときに同僚や上司から説明された内容でもあります。これではどこに焦点を当てれば発明を生み出せるか明確になっていないです。

ではどうすればいいのか?
実は今の新規性、進歩性の中で考え方に対するヒントは出ています。独自的な考え方ですがそちらについて解説します。

課題を解決する機能と性能

結論として、新しい発明を生み出すにはその完成品が抱える課題を解決する新しいアプローチ方法(解決手順、道筋)を考え出すことです。

特にその課題に関連する機能と性能に着目して下さい。

世に出された製品というのは発売開始から数年もすれば何某かの課題が出てきます。その課題は大体2種類で、使用開始初期に異音や異常判定が出やすかったりする機能的な課題か、異常がなくとも性能にばらつきがあったりする性能的な課題かのいずれかです。

機能と性能についてはご存じでしょうか?恐らく人によって説明内容が変わると思いますので本記事での機能と性能は下記のように定義します👍

 ・機能:あることができる(Possible)/できない(Impossible)
 ・性能:あることが上手い(Good)/下手(No good)

機能と性能の一例でエアコンを考えてみて下さい。エアコンが持つ機能には冷房、暖房、除湿、送風などがあります。これらに対してできる/できないの話は成立しますが上手い/下手の話は成立しないですよね。

更に性能の話に移すと、冷房が効いていれば性能が良い、効いていなければ性能が悪いという話になります。機能と性能の関係をまとめれば機能は性能の土台であり、性能は機能あってこそ存在することができます。

以上の話に基づき結論を再度引用すると、新しい発明とは完成品が抱える機能的or性能的課題を解決する新規性と進歩性を備えた新しい課題解決方法です。

では課題を解決する機能と性能について1つの製品で具体例を示します。(※飽くまで例)

 具体例製品:モーター
 性能:電圧100v[ボルト]で100W[ワット]の出力
 課題:出力のばらつきの改善、経年による性能劣化の改善

motor.jpgモーターは電力を与えると中心にある軸が回転して機械的エネルギーを発生させます。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: motor-1024x357.jpgこの機械的エネルギーのばらつきが大きいこと(安定して100Wの出力にならない)と、使用期間が長くなると出力がどんどん悪くなること(出力が100→95→90Wと下がっていく)を課題にしています。

機械的な観点でこれらの課題を見ると軸の回転時に軸がふらついていると思われるので、その原因としては軸が曲がっている、軸を支える部分がいびつになっていることなどが考えられます。(勿論これら以外の要因もあり)

それを改善する為に軸を支えている軸受(ベアリング)に着目します。世にある軸受は大体ラジアル玉軸受と呼ばれるもので、回転体を軸受の内輪に圧入、外輪を筐体に圧入して回転体を支持します。

通常この軸受は筐体側に固定されていますが、課題解決のためにこの軸受が軸の動きに合わせてその位置を微調整できるようになる機能を追加するのは如何でしょうか。

微調整方法としては軸の動きを読み取るセンサーを設け、そのフィードバックを軸受が受け取り位置調整をするというものです。このケースで発明になるのがフィードバックの受け取り→軸受の位置調整方法です。

上記に基づくと発明になりそうな候補例としては以下の通りです。これらを技術的(論理的)に実現可能であることを新たに証明すれば発明となります。

 ・内輪部にセンサー/外輪部に位置調整機能のある軸受
 ・外部センサーで軸を読み取り軸受全体を動かす、など

motor(2).jpg画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: motor2-1024x788.jpg因みに実際はこれほど複雑な構造にせずとも玉軸受から自動調心玉軸受に変えることで軸のふらつきは改善可能と思われます。発明には容易に思いつかないことも重要なのでその点も念頭に置いて下さい。

いずれにせよ重要なのはたとえ同じ課題の解決であってもアプローチ方法が新しいならばそれが発明になることです。なので既に登録されている発明を特許庁で検索するするのも発明を生み出す方法としては有効です。

そして注意点が一つ。

あくまで新しいアプローチ方法を生み出すことが目的なので先に形状変更や材質変更、構成部品追加などを考えないで下さい。先にそれらの変更を考えると結果的にアプローチ方法が何も変わっていないことがあります。新しいアプローチ方法=発明です。その結果として形状変更や構成部品追加は問題ありません。

まとめ

以上で発明を生み出す考え方の説明は終わりです。それぞれのポイントをまとめると下記の通りです。

 ・発明とは課題解決の新しいアプローチ方法である
 ・アプローチ方法は課題に関連する機能と性能に着目する
 ・発明には技術的思想が重要で、新規性と進歩性が必要
 ・発明=特許ではない(特許は発明とその発案者を保護する制度)

本記事の発明の考え方は私の経験則に基づいたものです。他にも色々な考え方があると思うので参考としてお役に立てれば幸いです。

発明を思いつくにはある程度の業務経験が必要です。

その経験をすっ飛ばして早く発明を思いつきたいのであれば登録されている特許の検索や身近な人で特許登録されている方に相談してみて下さい。色々な発明に触れることも新しい発明を生み出すきっかけになります。

ご覧頂きありがとうございました🙇‍♂️

ブックマークに追加した記事は、ブックマーク一覧ページで確認することができます。
あとから読み返したい時に便利です。

SBG@機械設計

投稿者情報

SBG@機械設計

トラ会員

この記事に、いいねを送ろう! 参考になった記事に、
気軽にいいねを送れるようになりました!
この記事のレビュー(1
  • 会員ID:c9qjnHXH
    会員ID:c9qjnHXH
    2025/07/17

    私も特許を出すことがあるので、すごく頷きながら読ませていただきました。 特許内の実現可能と現実世界での実装可能という点においてはズレがあるので、少し特許特有の技術的な示し方が必要ですよね。 発明の考え方、参考にさせていただきます。

    SBG@機械設計

    投稿者