- 投稿日:2024/07/20
- 更新日:2025/09/29

はじめに
今回は、簿記の世界で欠かせない「売掛金」と「買掛金」の起源について探ってみたいと思います。
これらの概念は、私たちの経済活動に深く根付いていますが、いつ頃からあるのでしょうか?
Ⅰ.物々交換から信用取引へ
売掛金・買掛金の起源を理解するには、まず商取引の歴史を振り返る必要があります。
⭐ 1.物々交換の時代
最初の取引形態は物々交換でした。
しかし、取引を成立させるためには「欲求の二重一致」が満たされる必要があるため、当時の取引には制限がありました。
ちなみに、「欲求の二重一致」とは、交換を行う両者が互いに相手の持っているものを欲しがる状況を指します。
つまり、互いに欲しいものを持っている相手を見つけることが難しかったのです。
⭐ 2.貨幣の誕生
メソポタミア文明では、紀元前3000年頃から取引内容を記録するための「トークン」が使用されていました。
「トークン」とは、粘土製の小片であり、主に経済的な取引や財産の記録に使用されていました。
メソポタミアでは抽象的な価値表現や取引記録のシステムを発展させることで、後の貨幣制度の基盤を形成したと考えられています。
⭐ 3.信用取引の登場
紀元前3000年頃のメソポタミアでは、すでに信用取引の形跡が見られます。
粘土板に記録された借用書には、借り手と貸し手の名前、借用した物品や金額、返済期限、利息などの詳細が記載されていました。
これにより、取引の透明性と信頼性が確保され、社会の安定と発展に寄与しました。
⭐ 4.売掛金・買掛金の概念の確立
売掛金・買掛金の概念が本格的に確立されたのは、中世ヨーロッパの商人たちの間でした。
イタリアの商人たちが開発した複式簿記により、売上債権・仕入債務の管理が容易になり、掛け取引の概念が確立していきました。
Ⅱ.日本における売掛金・買掛金の歴史的発展
⭐ 1.江戸時代の掛け取引
江戸時代、商人たちの間で「掛け取引」が一般的になりました。
これは商品の受け渡しと代金の支払いにタイムラグを設ける取引方法で、現代の売掛金・買掛金の原型といえます。
当時の商人たちは「大福帳」と呼ばれる帳簿を用いて取引を記録していました。
大福帳には取引先ごとの売買記録が詳細に記されており、これが今日の売掛金元帳や買掛金元帳の先駆けとなりました。
⭐ 1´「年の瀬」の意味
ちなみに、「年の瀬」という言葉は上記の江戸時代における商習慣と関連があります。
当時の掛け取引の清算は年末に行われていました。
したがって、「一年で最も越えることが難しい時期」と「川の流れが速く、渡ることが難しいところを指す言葉である『瀬』」が結びついたと考えられています。
⭐ 2.明治時代以降の近代化
明治時代に入ると、西洋の複式簿記が導入され、会計実務が大きく変化しました。
1873年(明治6年)に発布された「改正国立銀行条例」では、銀行に対して貸借対照表の作成が義務付けられました。
この頃から、売掛金や買掛金といった概念がより明確に認識されるようになり、企業の財政状態を示す重要な指標として扱われるようになりました。
おわりに
売掛金・買掛金の概念は、人類の商取引の歴史とともに進化してきました。
物々交換から始まり、貨幣の誕生、そして信用取引の発展を経て、現代の複雑な経済システムを支える重要な要素となっています。
売掛金・買掛金の起源を知ることで、簿記をより深く理解できるのではないでしょうか?
簿記学習中の皆様も、貸借対照表の中に、長い歴史の痕跡を見出してみていただけますと幸いでございます。
参考文献
1.山本大輔."お金の起源、物々交換ではなかった? 新説を生んだ「動かせないお金」".朝日新聞社.2019-11-07(参照2024-07-20)
2.ときわんジャーナル."お金の起源を教えます!過去から現在までのお金の歴史".ときわ総合サービス株式会社.2019-04-22(参照2024-07-20)
3.わらしべ瓦版."お金っていつからあるの?どんなもの?".アセットマネジメントOne株式会社.2018-12-27(参照2024-07-20)
4.Rootport."江戸時代の帳簿は一家伝来の技術だった!?".株式会社マネーフォワード.2017-05-26(参照2024-07-20)
5.日本放送協会(2018年12月14日放映).「なんで年末のことを年の瀬っていうの?」『チコちゃんに叱られる!』[テレビ]