- 投稿日:2024/12/17
- 更新日:2025/10/09
こんにちは。
名古屋市守山区のリハビリ整体院を運営している理学療法士のきむです。
今回は、大学院で学んだ内容をもとにリハビリ従事者向けに書きましたが、痛みを抱える方に関わるすべての職種の方にも役立つ内容です。
痛みの原因を正確に評価し、適切な対処法を導くには体系的な評価プロセスが重要です。本記事では、フローチャートに沿って痛みの評価から治療方針の決定までをわかりやすく解説します。

1. 処方箋(診断名)と初期評価
まず、患者の診断名を出発点として初期評価を行っていきます。
主観的評価(カウンセリング/問診/医療面接)
・症状の部位
・症状の種類
・症状の性質(症状がどのようなものなのか)
・痛みの深さ
・症状の関係
・症状増悪因子(どのような動作もしくは姿勢で症状が出現するのか)
・症状軽減因子(症状が軽減するような動作、姿勢、補助具を聴取)
・症状の日内変動(朝、昼、夜の状況)
・禁忌および注意事項を把握するための質問
・現病歴
客観的評価(身体機能チェック)
・姿勢検査
・自動運動検査
・他動運動検査
・他動的副運動検査
・抵抗運動検査
・触診検査
姿勢検査:体のバランスを確認する
カウンセリングで仮説を立てた後、次に行うのが「姿勢検査」です。私たちが日常的に行っている立ち方や座り方が、痛みの原因になっていることがあります。肩こりや腰痛、膝の痛みを抱えている方の中には、体全体のバランスが崩れていることが原因の場合が少なくありません。肩、骨盤、背骨の位置をチェックし、体にかかる負担を見つけ出します。
自動運動検査:どの動作で痛みが出るのかを確認する
次に「自動運動検査」を行います。患者さん自身に肩や腰を動かしてもらい、どの動作で痛みが出るのか、どのような動きに制限があるのかを確認します。これにより、痛みの原因となる筋肉や関節の動きが明確になります。
例えば、腕を上げると肩が痛い、腰を捻ると痛むといった場合、その動作中にどこに負担がかかっているのかを確認し、具体的な治療法を検討します。
他動運動検査:理学療法士が関節や筋肉を動かして確認する
「他動運動検査」では、私が直接患者さんの関節や筋肉を動かして、動きに制限があるか、異常がないかを確認します。自分では気づかないような小さな違和感や硬さも、この検査を通じて明らかにすることができます。
こうした触診を通じて、痛みの原因となる筋肉や関節の問題を特定し、具体的なアプローチを導き出します。
他動的副運動検査:関節の微細な動き(関節の遊び)をチェックする
さらに、「他動的副運動検査」では、関節の通常の動きに加え、微細な動きを確認します。関節が正常に機能しているか、滑らかに動いているかをチェックし、異常があればその箇所を特定します。関節のわずかなズレや可動域の制限も、痛みの原因となることがあるので、ここでも細かく確認します。
抵抗運動検査:筋肉の緊張や強さを評価する
「抵抗運動検査」では、患者さんの筋肉に抵抗をかけて動かしてもらい、筋力や筋肉の緊張状態を評価します。痛みの原因が筋力の低下や緊張に関係している場合、ここでの評価が大変重要です。
この検査を通じて、筋肉の使い方や力の入り具合、過剰な緊張がどのように痛みに影響しているのかを見極めます。
触診検査:痛みの原因に直接アプローチする
最後に「触診検査」を行います。筋肉や筋膜、神経に直接触れて、痛みの原因となっている硬さや緊張を確認します。痛みがどこから発生しているのかが分からないと感じている方も、触診によって痛みの原因を探り出すことができる場合があります。
2. Red Flag(危険信号)の確認
Red Flagは、緊急対応が必要な病態の可能性を示します。
以下のサインがある場合は注意が必要です:
• 腫瘍や感染の兆候(発熱、急激な体重減少)
• 骨折や外傷の既往
• 重度の神経症状(排尿障害、運動障害、感覚鈍麻)
Red Flagが確認された場合は、すみやかに専門医への紹介や追加検査を行います。
3. 痛みのメカニズムの分類
Red Flagが認められなかった場合、次に痛みのメカニズムを分類します。
大きく2つのカテゴリーがあります:
1. 中枢性疼痛メカニズム
中枢神経系で痛みの情報処理が異常になる状態です。
• 慢性痛、線維筋痛症、神経障害性疼痛などが該当
• 特徴:痛みの広がり、痛覚過敏、原因不明の痛み
2. 特定の病理(末梢性疼痛メカニズム)
特定の疾患や器質的な問題が原因の痛みです。
• 例:椎間板ヘルニア、変形性関節症、靭帯損傷
この段階で、特定の病理がない場合は機能障害を疑います。
4. サブグループ分類(Subgrouping Classification)
特定の病理が見当たらない場合、痛みの原因をさらに細分化します。
サブグループ分類では、以下の3つに分けられます:
1. 心理社会的要因
• ストレス、うつ、不安などが影響
• 対処法:心理カウンセリング、認知行動療法
2. 関節運動障害
• 関節の動きが制限され、痛みを引き起こす
• 対処法:可動域改善のための理学療法・運動療法
3. 運動制御障害
• 筋肉や神経の協調性が低下し、痛みを生じる
• 対処法:運動制御改善のリハビリテーション
5. 神経系の関与の検討
神経系の問題が痛みに関与している可能性を検討することがとても重要です。
これは、痛みの原因を探る際の大きなポイントとなります。
神経系の問題
1. 神経因性疼痛
• 特徴:神経が損傷または異常に機能していることによって痛みが引き起こされる。
• 症状:焼けるような痛み、電気が走るような痛み、しびれ感、異常感覚(ピリピリ、チクチクなど)。
• 例:坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害。
2. 神経障害性疼痛
• 特徴:神経伝達経路の障害により、痛みの感覚が異常に生じる。
• 症状:感覚鈍麻、運動障害、痛みの過敏化。
• 例:腰部椎間板ヘルニアによる神経根圧迫、脊髄損傷後の痛み。
神経系の評価
神経症状の有無を確認するために、以下の検査・評価が用いられます:
1. 感覚評価
• 方法:触覚、温度感覚、痛覚のテスト(綿花、針などを使用)。
• 目的:知覚鈍麻や異常感覚がないか確認する。
2. 運動評価
• 方法:筋力テスト(MMT:徒手筋力テスト)や協調性の評価。
• 目的:運動麻痺、筋力低下の有無を調べる。
3. 神経伝達テスト
• 例:SLR(Straight Leg Raise:下肢伸展挙上テスト)
• 内容:神経根の絞扼(圧迫)が疑われる場合に実施。
• 結果:陽性の場合、神経根に問題があることが示唆される。
4. 反射テスト
• 方法:腱反射(膝蓋腱反射、アキレス腱反射など)
• 目的:中枢神経・末梢神経の異常を評価する。
これらの評価を通じて、神経系の関与が確認された場合は、適切な治療が必要になります。特に神経系の問題は、早期対応が重要なケースも多いため、慎重に評価を行いましょう。
6.病理に応じた治療内容
特定の病理が見つかった場合、その病理に応じた治療内容を決定します。
例えば、腰部椎間板ヘルニアが明らかな場合、適切な治療として以下が挙げられます:
(例)McKenzie体操(マッケンジー法):
腰椎の適切な動きを取り戻し、痛みの軽減と再発防止を目指すエクササイズ。
• 目的:椎間板の圧力を減少させ、神経根の圧迫を緩和する。
• 内容:伸展運動を中心とした腰部エクササイズ。患者の症状に合わせて段階的に指導する。
このように、病理が明らかな場合は、エビデンスに基づいた適切なアプローチを選択し、症状の改善を図ることが重要です。
まとめ
痛みの原因を明らかにするプロセスは、ステップごとに段階的に進めることで、より的確な診断と治療につながります。
• 診断名と初期評価
• Red Flagの確認
• 痛みのメカニズム分類
• サブグループ分類
• 治療方針の決定
施術者はこの体系的なアプローチを実践し、患者に最適な治療方法を導き出すことが求められます。
このフローチャートを使い、現在も、痛みで悩んでいる方の痛みの原因を探っています。もし、ご質問などがありましたら、お気軽にご連絡ください。