- 投稿日:2025/06/15
- 更新日:2025/10/09
病気のこと、どこまで発信してOK?
医師・理学療法士・看護師の「発信OK/NGガイドライン」について、まとめました。
はじめに|夫婦で交わした、ある会話から
ある日の夜。
夕食後に、看護師の妻とこんな会話になりました。
👩(妻)「理学療法士(PT)って、病名について発信しちゃダメなの?」
👨(私)「うーん…。医師はOKだけど、PTや看護師はグレーなこと多いよね」
👩(妻)「じゃあ看護師が“糖尿病の人にはこうした方がいい”って言うのはNG?」
👨(私)「…たぶん、それも言い方次第だなあ」
こんなふうに、発信している立場でも“どこまでOKか迷う”のが医療職の世界です。
国家資格があるとはいえ、それぞれの専門領域を超える発信は、誤解やリスクのもと。
今日は、理学療法士の私と、看護師の妻との対話から気づいた
「職種別・発信していいこと/いけないこと」についてまとめてみました。
実際、SNSやブログで発信していると…
どこまでが自分の専門の範囲?病名を出すのはアウト?セーフ?生活指導ってどの職種までOK?
そんなグレーゾーンにぶつかることがよくあります。
今回は、そんなモヤモヤを解消するために、
医師・理学療法士・看護師の3つの職種別に、発信OK/NGのガイドラインを整理しました。
背景|なぜこのテーマを取り上げたのか
リベシティには、さまざまな医療系の方がいて、
とても有益な情報を日々発信してくださっています。
一方で、ときどき「それ、ちょっと危ないかも…」と
ヒヤヒヤするような投稿に出会うこともあります。
実は私自身も、過去に「病名を使った発信」で失敗したことがありました。
当時の僕は、「変形性膝関節症の人にはこのストレッチが有効です!」というような表現を、堂々と病院の勉強会で使っていました。
でも今なら分かります。
それって、診断を含んでしまう危うい発言だったんですよね。
だからこそ今回、あらためて整理してみました。
職種別|発信のOK/NGガイドライン
・病名の使用
- 医師:◎ OK(診断可能)
- 理学療法士:△ 状態に置き換えるのが安全
- 看護師:△ 言い換えがベター
・診断や治療の解説
- 医師:◎ OK(医行為)
- 理学療法士:❌ NG(診断不可)
- 看護師:❌ NG(指示外医行為)
・薬の説明
- 医師:◎ OK(要注意)
- 理学療法士:❌ NG
- 看護師:❌ NG
・機能・動作の改善指導
- 医師:◎ OK
- 理学療法士:◎ OK(専門分野)
- 看護師:△ 見守り・補助としてならOK
・生活習慣アドバイス
- 医師:◎ OK
- 理学療法士:◎ OK(機能改善の文脈で)
- 看護師:◎ OK(生活支援の範囲で)
・NG表現の例
- 医師:誇大広告/ビフォーアフター
- 理学療法士:「〇〇病かも」「これで治る」など診断を想起させる言葉
- 看護師:薬の効果断言・病名断定など
よくある“グレー表現”と安全な言い換え例
例1)「変形性膝関節症の方におすすめのストレッチ」
→「階段の上り下りで膝がつらい方へ」
例2)「糖尿病の方におすすめの食事習慣」
→「血糖値が気になる方への食事の工夫」
例3)「坐骨神経痛の人はこの体操が効く」
→「お尻から足にかけてしびれやだるさがある方へ」
※補足:「坐骨神経痛」は病名ではなく症状名ですが、受け手が“病気”と誤解しやすいため断定表現は避けるのがベターです。
発信のコツは「病名を言わずに、状態に寄り添うこと」
たとえば、
×「腰椎椎間板ヘルニアにはこの体操が効く!」
○「前かがみになると腰が痛くなる方におすすめの体の使い方」
このように、「誰に向けて話しているのか?」を、
病名ではなく“動作”や“状態”で表現することで、誤解を防ぎつつ信頼を得られます。
おわりに
資格があっても、“伝える言葉の選び方”を間違えれば、信頼を損ねるリスクがあります。
逆に、しっかりと線引きを理解して発信すれば、「この人に相談したい」と思ってもらえる場面が増えていきます。
理学療法士の私と、看護師の妻。
それぞれの立場から話し合ったからこそ見えてきた“発信の線引き”。
これから発信したい方、すでに情報を発信している方にとって、
少しでもお役に立てばうれしいです。
よくある質問|「病名についてまとめる記事」はアリ?ナシ?
発信に関するこの記事を書いたあと、実際にこんなご質問をいただきました。
「変形性関節症を改善するストレッチ」はアウトだと思いますが、
「変形性膝関節症についてまとめる」ような情報発信はどう思われますか?
症状や原因、運動療法などを紹介したいと考えています。
とても良い質問です。
私自身も同じような悩みに何度も何度もぶつかってきました。
結論:中立的な立場に徹すれば「一定の発信は可能」
「病名に関する情報発信」は、医師以外でもグレーながら許容されるケースがあります。
特に、以下のような条件を守れば、読者にとっても有益なコンテンツになりえます。
発信の際に注意したい3つのポイント
① 医師による診断が前提であることを明記
読者に「自分はこの病気かも」と誤認させないために、“すでに医師から診断を受けた方へ”という前提で書きましょう。
例:「変形性膝関節症と診断された方の中には、こうした症状を感じることも」
「医師による診断を受けた上で、こうした運動が行われるケースがあります」
② “治る・改善する”と断定しない
診断や治療を行えない立場の人が、「これで良くなる」と断定するのはNGです。
“〜に役立つこともある”
“〜の参考にされる方もいます”など、やわらかい表現を選びましょう。
③ 信頼できる情報源を明記する
主観的なアドバイスではなく、信頼できるガイドラインや文献を引用しましょう。
例:「厚労省のサイトによると〜」
「日本整形外科学会のガイドラインでは〜とされています」
まとめ:病名に頼るより、“状態”に寄り添おう
たとえ病名を出すとしても、「誰に向けて」「どんな状態の人に向けて」話しているのかが明確であれば、
読者は安心して読めますし、発信者としての信頼も高まります。
逆に、病名を使うことで“自分が診断しているように見える表現”になると、一気にリスクが高まります。
最後に|発信のゴールは「信頼」
理学療法士や看護師、整体師、トレーナーなど
どんな立場であっても、「その人にとって意味のある情報」を届けたいという想いは共通です。
病名に寄りかかるのではなく、その人の状態や不安に寄り添う発信こそが、“相談したくなる存在”への第一歩だと思っています。