- 投稿日:2025/07/15
- 更新日:2025/09/30

もしあなたのスマホに警察から電話がかかってきて、いきなり「ある事件の捜査対象になっています」と言われたら、どうしますか?
「そんなの詐欺に決まってるじゃん!」と笑うかもしれません。
私も、ほんの数日前まではそう思っていました。
でも、実際にその電話がかかってきた時、私は「詐欺かも知れない」と思いました。
しかし、本物である可能性も否定できず、「詐欺だ」と確信が持てぬまま、2時間以上も彼らの話を聞き続けてしまったんです。
「自分は大丈夫」って思うかもしれません。
しかし、特殊詐欺の手口は年々巧妙になっています。
私の経験が、少しでも皆さんの役に立ち、同じような被害に遭う人が減るきっかけになれば嬉しいです。
始まりは一本の電話から
2025年7月某日の午前11時半過ぎ。
役所に用事を済ませた帰り道でした。
スマホに見慣れない電話番号(+xx-xxxx-0110)からの着信が。
「役所の忘れ物かな?」
そんな軽い気持ちで電話に出てしまったのが、全ての始まりでした。
警視庁の刑事(ニセ)、お尋ね
電話口から聞こえてきたのは、少し聞き取りにくい、年配の男性の声。
「警視庁の者です。山口県警からの要請で、あなたにお尋ねしたいことがあります。」
驚いたのは、相手が私の名前と住所を正確に知っていたことです。
この時点で、「何か本当のことなのかも」という気持ちが芽生えてしまいました。
男はこう続けます。
「山口で逮捕した詐欺グループの主犯格『ヤマモトヒロシ』の部屋から、大量の銀行キャッシュカードが見つかりました。その中にあなた名義のキャッシュカードがあります。その口座は詐欺に使われ、7,000万円以上のお金が動いています。あなたは事件の関係者として捜査対象になっています。」
「この口座に関わっている被害者は合計19名で、数百万円の被害に遭った人もいるという、決して小さくない事件。発見されたキャッシュカードの口座名義人は全員、事件関係者として捜査する必要があります。」
頭が真っ白になりかけながらも、「そんなはずはない」と否定する私に、男は畳み掛けます。
「あなたは否定されている。主犯格の男はあなたから口座を購入したと自白している。どちらが正しいのか現時点では判断できないため、警察はどちらの可能性も捜査しなければなりません。」
「あなたは捜査対象となっています。そのため、電話が切れてしまうと、仲間に連絡を取って証拠隠滅を図ったとみなされる恐れがあります。」
「主犯格との繋がりや、口座を売買した可能性について、捜査本部が設置されている山口県警で事情聴取が必要です。」
「山口まではすぐに行けません」と伝えると、男は「では、事情があるということで申請して、承認されればリモートでの事情聴取も可能」と提案してきました。
今思えば、相手が把握している私の住所から、すぐには来れないような場所を指定して、リモート対応に誘導する手口でした。
そして、「山口県警の担当警察官に電話を転送するので、事件名称:山本グループ詐欺事件、事件番号:令和6刑(わ)361、の事件について、『遠方のため行くのが難しかった、出来るだけ捜査協力したいのでリモートで対応』の旨を伝えるように」と言われ、電話が転送されました。
この時、私は「よく知らなかったけど、警察も令和になればリモートにも対応してきたのかしら?」とも考えてしまっていました。
山口県警の警官(ニセ)、登場
電話口に出たのは「山口県警のタツミユウヤ」と名乗る男。
彼は、リモートでの事情聴取のために、と前科の有無などを確認してきました。
そして、「ビデオ通話での事情聴取が許可されました。本来であれば現地で身分証明書を確認するがリモートなのでビデオでの確認になります。何かビデオ通話可能なアプリはありますか?」と言ってきます。
最初「FaceTime ならあります」と言ったものの
「他には?」と受け付けられませんでした。
「LINE なら使えます」と言って LINE 通話を行うことに。
おそらく、最初から「録画が難しい」「送信取り消し」が可能なLINEで通話させるつもりだったのでしょう。
それをこちらから言わせることで、信用させる手口の一環だったと思われます。
ビデオ通話に切り替わると、画面には警察手帳を見せる男の姿が。
背景も、それらしい部屋が映っています。
タツミユウヤは、改めて事件の概要を説明した後、こう言いました。
「主犯格はあなたの顔と名前が一致すると言っている。あなたは知らないと言っている。どちらかが嘘をついている。このままでは、あなたも被疑者です。捜査に協力し、あなたの金融資産の情報を開示して、事件と無関係だと証明してください。」
「非協力的であれば、身柄を拘束することになる」という言葉に、私は追い詰められていきました。
これは詐欺かもしれない、でも、もし本物だったら…?
どちらの可能性も完全に否定することが出来ない状態だったので、本当の警察だった場合に冤罪で捕まってしまうリスクを考えると、、、
私は銀行や証券会社の資産情報を話してしまったのです…。
ここまで2時間ほど。
信用させるために、敢えて時間をかけて本当の警察であるかのような動きを見せます。
検察官(ニセ)、クロージング
今度はその情報を元に被疑者なのか被害者なのかの判断をするのは、捜査本部の責任者である担当検察官の女性に判断を仰ぐ必要があると言われ、そのまま彼女につなげられました。
電話は「担当検察官」だという高圧的な態度の女性に代わりました。
「裁判所から捜査令状も出ています。」
(※ 私の名前が記載された令状画像を LINE 送付、その後すぐに取り消し)」
「あなたに電話がつながって良かったと考えている。繋がらなかったら明日の朝にあなたの家に令状を持って捜査員が行くことになっていた。」
「その身の潔白を晴らすために、あなたを一度勾留して銀行に直接警察が働きかけて調査することが出来る。これは、最大20日間の勾留となる。しかし、19人の被害者が出ているので再逮捕という形でそれが最大19回繰り返される可能性もある。あなたが協力して情報提供されるのであれば勾留なしで捜査を進めることも出来る。」
積極的に協力しないと大変なことになるぞと、
どんどんこちらを追い詰めて、正しい判断をさせないようにしてきます。
そして、ついに核心に触れる言葉が。
「お札一枚一枚にシリアルナンバーが入っているのは知っているか?それと同じように、暗号資産や銀行間取引でも送金のたびにシリアルナンバーが入る。そのシリアルナンバーを確認することで身の潔白を証明することが出来る。」
「お金の流れを追うためのシリアルナンバーを確認するのに、一度送金をしてもらう必要がある。もちろん、容疑が晴れれば返金されます。」
「送金」…?
やっとお金の話が出ました。
ここまで2時間半。
私はすぐに「送金が必要という話が分からない。では、やっぱり予定を調整してこれからそちらに行くので場所を教えてください」と伝えました。
すると相手は急に慌て始めました。
「あなたは最初は来れないと言っていたのにやっぱり来れるとはどういうことか?」などと言ってきました。
いや、来てほしかったはずなのでは?と心の中でツッコミを入れました。
14時13分、私はすぐに通話を切り、ネットで調べた山口県警に電話し、こう言われました。
「それは100%詐欺です。すぐに110番通報してください!」
警察へ相談、そして対策
110通報し、最寄りの警察から折り返しがありました。
自宅に来てくれるとのことでしたが、見知らぬ電話からの不信感が拭えなかったので、こちらから警察署に出向くと言って警察署に行きました。
警察署で事件の内容を説明し、記録してもらい、一度自宅に来てもらって自宅のセキュリティ状況を確認してもらいました。
警察からは、1ヶ月〜3ヶ月は付近の見回りを強化することを聞き、
その見回り強化中であることを示すステッカーなどを受領しました。
また、金融資産を知られているので、可能性は高くないが「アポ電強盗」の恐れもある。
可能であれば1ヶ月くらいは実家などの別の場所に身を寄せておくのも良いとアドバイスをもらいました。
何かあればすぐ連絡してくださいとのことでした。
この時の警察官の方々はとても親身になってくださり、また頼もしく思えました。いつも市民の安全を守るために尽力してくださって、改めてありがとうございます。
失ったもの、得られた教訓
金銭的な被害はゼロ。でも、失ったものは少なくありません。
【失ったもの】
「時間と労力」
詐欺師との通話時間や警察署での事情説明、その後のセキュリティ対策に多くの時間と労力を費やしました。
「安心」
金融資産の情報を知られてしまったことによってアポ電強盗のような、次なる犯罪の標的になるのではないかという不安から、しばらく別の場所に身を寄せることに。
既に知られてしまっている電話番号も変え、念の為に各種パスワードも全て変更しました。
1日の引き出し可能金額や送金上限金額も変更(引き下げ)しました。
でも、この経験から得られた教訓は、今後の人生にとって大きな財産になったと思っています。
【得られた教訓】
「近年の特殊詐欺は非常に手が込んでいる」
複数人で役割を交代しながら演じ、警察手帳や部屋なども用意し、完全に違和感のない流暢な日本語で話してきます。
他にも、「被害者はこんなに大勢いる。率直にどんな感想か?」というような質問をするなど、要所要所で細かく心理的な揺さぶりをかけてきます。
「個人情報は漏れている前提で」
名前や住所を知っていても、本物とは限りません。
「電話番号だけでは信用できない」
詐欺電話の電話番号の下4桁が、本物の警察署の電話番号の下4桁と同じく「0110」となっていることがあります。
今回もそうでした。
また、本物の警察番号が表示されるように着信する事例も発生しています。
「確信が持てるまで時間がかかる」
今回、特殊詐欺自体は知っていたし、ずっと「詐欺かも知れない」と考え続けていました。
それでも逆に「本当の可能性もゼロではない、冤罪なのかも知れない」と考えると「絶対詐欺だ」という確信が持てるまでには時間がかかってしまいます。
その間に犯人グループは不安を煽り、本物かも知れないという信頼を更に積み上げようとしてきます。
自分と大切な人を守るために、今すぐできること
今回の経験を踏まえて、どうすれば詐欺被害を防げるのかをまとめました。
1. 知らない電話には出ない!これが一番大事!
出てしまうと、私のように「切る」という判断のハードルが上がります。
・iPhoneなら「不明な発信者を消音」をオンにしましょう。
知らない番号からの着信は、通知されずに留守番電話に回されます。
(設定 > 電話 > 不明な発信者を消音)
・国内外問わずに知らない番号(非通知含む)の着信には出ずに、まずネットで検索。「電話帳ナビ」も有効です。
固定電話であれば 番号表示・非通知拒否サービス や 外国からの電話を利用休止 も併せて設定すると良いです。
私は今後、知らない番号から着信があったらすぐには出ずに、必ず自分で調べ直した番号でこちらから問い合わせるようにしようと思います。
2. 電話番号を信じない!
私にかかってきた番号の下4桁は「0110」。本物の警察署と同じです。
また、警察庁の注意喚起動画でも言われていますが、最近は実在の警察署の番号を偽って表示させる手口も発生しています。電話番号が表示されていても、信用してはいけません。
3. 「電話で捜査」はあり得ない!
警察官が、いきなり電話で「あなたは捜査対象だ」と伝えたり、LINEなどのメッセージアプリで連絡を取ったり、警察手帳の画像を送ってきたりすることは絶対にありません。
警察の方にもそう教わりました。
4. 手口を知っておく
警察庁の「特殊詐欺対策ページ」を見て、どんな手口があるのかを知っておくだけでも、いざという時の冷静さに繋がります。
私のケースも、まさにここに載っている手口でした。
以下のような事例を始め、色んな事例が分かりやすく紹介されています。
・実在の電話番号が使われた事例
・ビデオ通話を利用した事例
・性的な被害を伴う事例
最後に
「まさか自分が」と、誰もが思います。
私もそうでした。
IT系の仕事をしていて、詐欺の手口には詳しい方だという自負もありました。それでも、一瞬、信じかけてしまったのです。
もし、この電話が私ではなく、両親や兄妹、友人にかかっていたら…?
そう思うと、ゾッとします。
そういう意味では、私がこの経験をして、こうして発信することには意味があったのかもしれません。
お金を「稼ぐ力」「増やす力」も大切ですが、それと同じくらい、一生懸命に貯めた資産を「守る力」も大切です。
警察庁によると、私が経験したような警察官などをかたる手口の被害は、令和5年だけで認知件数が3,816件、被害額はなんと約316.1億円にものぼるそうです。1件あたり800万円以上。
学長が紹介されたように「結局なくしてしまうのなら、いくらお金を儲けたって意味がない」。まさにこれです。
この記事を読んで、「自分は大丈夫」という気持ちが、少しでも「自分も気をつけよう」に変わってくれたら、本当に嬉しいです。
まずは、警察庁の特殊詐欺対策ページを一度、覗いてみてください。
私が詐欺師と話した2時間半より、ずっと短い時間で、あなたとあなたの大切な人の未来を守る知識が手に入りますので。。。🙏