• 投稿日:2025/09/01
  • 更新日:2025/10/26
ヘルニアは鍼灸で良くなる?できること・できないこと

ヘルニアは鍼灸で良くなる?できること・できないこと

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みつの@学び続ける鍼灸師/大学助手

みつの@学び続ける鍼灸師/大学助手

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要約
腰椎椎間板ヘルニアは腰痛や足のしびれを引き起こし、生活に大きな影響を与えます。 本記事では、ヘルニアに対して鍼灸で期待できる効果やその仕組み、鍼灸でできること・できないことを分かりやすく解説します。

1. はじめに ― ヘルニアってどんな病気?

「ヘルニア」という言葉は、医学的には「体の一部が本来あるべき位置から飛び出した状態」を意味します。例えば鼠径(そけい)ヘルニアや脳ヘルニアなど、体のさまざまな部位で起こりうる病態ですが、一般的に「ヘルニア」と言うとき、多くの人が思い浮かべるのは腰椎椎間板ヘルニアでしょう。

腰椎椎間板ヘルニアは、背骨の間にある「椎間板」が後方へ飛び出し、神経や周囲の組織を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす病気です。

主な症状は以下のようなものです。

・腰痛
・坐骨神経痛のような下肢への放散痛
・足のしびれや感覚異常
・症状が強い場合には、筋力の低下や歩行障害

これらの症状は日常生活に大きな支障をもたらし、場合によっては仕事や学業の継続も困難にしてしまいます。患者数は非常に多く、日本における腰痛患者の中でも大きな割合を占めています。

本記事では、この「腰椎椎間板ヘルニア」に対して、鍼灸治療でできること・できないことを整理し、ガイドラインでの位置づけやエビデンスを踏まえながら、わかりやすく解説していきます。

2. 西洋医学での治療法(ガイドラインから)

腰椎椎間板ヘルニアに対する治療は、まず保存療法(手術以外の方法)から始めるのが基本です。日本整形外科学会の診療ガイドラインでは、ヘルニアは出現してから多くの場合、3か月程度で自然に軽快することがあると言われています。

ヘルニアの治療方針は時期によって変化します。

🔴急性期:炎症と痛みが強いため緩和を促す時期
🔵亜急性期:痛みをコントロールしつつ自然回復を促す時期

保存療法では以下のようなものが推奨されています。

🔴薬物療法・神経ブロック注射

主にNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの鎮痛薬が使われます。
痛みを和らげることで日常生活を支え、自然な回復を待つことが目的です。
ただし長期使用では胃腸障害や腎機能への影響といった副作用のリスクがあります。

🔵理学療法(運動療法)

専門家の指導のもとで行うストレッチや筋力トレーニングが中心です。
腰や体幹の筋肉を強化し、椎間板への負担を減らす効果があります。
再発予防にも有効とされています。

🔵生活指導・安静(コルセット)

日常生活の中で腰への負担を減らす姿勢や動作の工夫やコルセットによる補助を行います。
急性期には短期間の安静が有効ですが、長期の安静はむしろ筋力低下を招くため推奨されません。



では、鍼灸はどのタイミングでのヘルニアに対してアプローチが可能なのでしょうか?
実は🔴急性期、🔵亜急性期のどちらの時期にもアプローチが可能です。

3. 鍼灸でできること

腰椎椎間板ヘルニアの症状は「椎間板が飛び出して神経を圧迫すること」によって生じます。しかし、圧迫そのものを鍼灸で取り除くことはできません。では、鍼灸でどのようなサポートができるのでしょうか。

鍼灸は、以下のような面でヘルニア患者の生活を支える役割を果たすことが期待されています。

🔴痛みの軽減
🔴薬物療法の補助
🔴神経症状の緩和

🔵筋緊張の緩和
🔵可動域の改善
🔵ヘルニアの消滅促進

「神経の圧迫そのものを取り除く」のではなく、痛み・しびれ・筋緊張といった二次的な症状を和らげ、患者の生活を支えることに力を発揮します。

4. 鍼灸が効くと考えられる仕組み

では、なぜ鍼灸がヘルニアに伴う症状に効果を示すと考えられているのでしょうか。いくつかの科学的な機序が研究により明らかにされています。

⭕️ 鎮痛作用(痛みの信号を抑える働き)

鍼の刺激によって脳や脊髄では「内因性オピオイド(エンドルフィンなど)」と呼ばれる鎮痛作用を持つ物質が分泌され、さらにセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きが調整されることで、痛みの信号が抑えられます。

また、「ゲートコントロール理論」と呼ばれる仕組みにより、鍼刺激が脊髄レベルで痛みの信号をブロックし、脳に伝わる痛みの強さを和らげることが考えられています。

その結果、痛みの軽減が期待でき、これにより服用する鎮痛薬の量を減らせたり、効果を助長させる可能性も生まれます。

⭕️ 神経症状の軽減

ヘルニアでは飛び出した椎間板による直接的な圧迫だけでなく、周囲の炎症や血流障害も症状の一因となります。鍼灸によって局所の循環が改善されると、神経根周囲の環境が整い、しびれや違和感が和らぐ可能性があります。

⭕️ 筋緊張の緩和

腰背部や殿部の筋肉が過緊張すると、神経圧迫をさらに強めたり、痛みを悪化させることがあります。鍼灸は筋の硬さを和らげる作用があり、椎間板への負担軽減につながります。

こうして筋肉のこわばりがほぐれ、痛みの信号が弱まると、腰の曲げ伸ばしや歩行といった動作がスムーズになり、可動域が改善して日常生活が楽になります。

⭕️ ヘルニアの消滅促進

ヘルニアは時間の経過とともに体の自然な働きで縮小・吸収されることがあり、鍼灸によって血流や免疫機能が活性化することで、この「自然吸収」の働きを後押しできるのではないかと考えられています。


これらの仕組みによって、鍼灸は「椎間板そのものを治す治療」ではなく、その影響で生じる痛みやしびれなどの症状を緩和し、生活の質を高める治療として役立つと考えられています。

5. 鍼灸でできないこと(限界)

鍼灸はヘルニアの症状を和らげる有効な手段のひとつですが、鍼灸だけですべての症状に対応できるわけではないという点も理解しておくことが大切です。

❌ 重度の神経障害には対応できない

足の筋力低下や歩行障害、膀胱直腸障害(排尿・排便がうまくできなくなる症状)が出ている場合には、早急に手術が必要です。鍼灸では対処できません。

❌ 即効性には限界がある

一度の施術で劇的に改善するケースは少なく、継続した治療が必要になります。

❌ 効果に個人差がある

年齢や症状の程度、生活習慣などによって効果の出方が異なります。

このように、鍼灸のみで完治を目指すというより、「症状を緩和し、生活の質を高めるための補助的な治療」が目的です。正しく限界を理解することや、他の治療と併用することが、安心して治療を受ける第一歩になります。

6. どのくらい通えばいいの?(治療の目安)

鍼灸治療は一度きりで完結するものではなく、継続的に行うことで効果が積み重なると考えられています。

🔸 通院の頻度

初期は週1〜2回程度から始めるのが一般的です。症状が安定してきたら徐々に間隔を広げていきます。

🔸 治療の期間

個人差はありますが、数週間〜数か月かけて症状の改善を目指すケースが多いです。急性期では比較的早く効果を実感できることもありますが、亜急性期や慢性期では時間をかけて取り組む必要があります。

🔸 継続の意義

症状が軽快した後も、定期的に治療を続けることで再発予防や体調管理につながります。

🔸 過度な期待を避ける

「数回で完治する」とは言えません。あくまで症状の軽減と生活の質の向上を目標にするのが現実的です。


鍼灸は、即効性よりも「積み重ね」によって効果を感じるケースが多いため、長期的な視点で取り組む姿勢が重要になります。


7. 鍼灸を受けるときの注意点

鍼灸は比較的安全な治療法ですが、受ける際にはいくつか注意しておきたい点があります。

🔸 医師の診断を受けてから始める

腰椎椎間板ヘルニアは症状が似ていても、別の病気(脊柱管狭窄症や腫瘍など)の可能性もあります。まずは整形外科でしっかり診断を受けたうえで、鍼灸を併用するのが望ましいです。

詳細は別の記事にて解説していますので良ければご一読ください。
▶️ 鍼灸に行く前にまずは病院で検査を!またその理由

🔸 鍼灸だけに頼りすぎない

保存療法の一つとして鍼灸を取り入れることは有効ですが、医師の治療やリハビリと組み合わせることがより効果的です。

🔸 自己判断で治療を中止しない

症状が良くなったからといって急に治療をやめると再発につながる場合があります。施術者と相談しながら通院のペースを決めていきましょう。


8. まとめ ― ヘルニアと鍼灸のこれから

腰椎椎間板ヘルニアは、多くの人が経験する腰痛の原因のひとつです。保存療法が第一選択とされる中で、鍼灸は「痛みやしびれを和らげ、生活の質を高めるための補助的な治療」として活用できます。

鍼灸は、痛み・しびれ・筋緊張の緩和に役立ち、薬の副作用軽減や生活の改善につながる可能性があります。

一方で、重度の神経障害を改善することや鍼灸のみでの完治は難しいという限界もあります。

​しかし、副作用が少なく、安全性の高い治療であるため、補完療法として取り入れる価値は十分にあります。

今後さらなる研究が進めば、鍼灸の有効性がより明確になり、治療の選択肢としての地位が高まることが期待されます。

鍼灸が、ヘルニアに苦しむ方の「痛みと共に生きる」から「少しでも楽に生きる」への一歩となり、健康と安心につながることを心から願っています。そして、その一歩が前向きな日々へとつながることを信じています。

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