- 投稿日:2025/09/12

私たちが日々楽しんでいる日本酒は、ただの飲み物ではありません。稲作文化の伝来から始まり、神事や祭礼に使われ、時代ごとの生活や文化の中で育まれてきたものです。そこには、人と自然との関わり、技術の発展、そして日本独自の美意識が詰まっています。グラスに注がれた一杯の背後には、数千年にわたる歴史の物語が潜んでいるのです。
古代の酒 ― 神に捧げる口噛み酒
日本酒の起源は弥生時代。米作りが大陸から伝わったことが酒造りの出発点でした。当時はまだ精米や麹を使う技術がなく、人が米を口に含んで噛み、唾液に含まれる酵素でデンプンを糖に変え、自然の酵母で発酵させる「口噛み酒」が主流でした。
この酒は日常的に飲まれるものではなく、神に捧げる神聖な存在。収穫祭や祭祀で用いられ、豊穣を祈る手段として重要な役割を担っていました。まさに「祈りとともにあった酒」が日本酒のルーツといえるでしょう。
奈良時代 ― 官営酒造と国家管理
奈良時代には、酒造りは国家が管理する重要な産業となります。朝廷は「造酒司(さけのつかさ)」を設け、宮中の儀式や貴族の宴に供するための酒を造りました。ここで米を蒸して麹を使う手法が確立され、現在の日本酒の基本形に近づきます。

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