- 投稿日:2025/10/21
- 更新日:2025/11/08
先日、学長からペットの殺処分ゼロプロジェクトに関するお知らせを目にしました。
参考:学長マガジン
「リベ大アニマルレスキュー(仮称)」として、
①レスキュー(直接保護等)
②里親マッチング(サイト・譲渡会)
③応援・支援の輪作り(コミュニティ形成?)
④教育・予防の仕組み(情報発信)
(予備)⑤リベの活動を通じて、動物にも目を無軽余裕を持てる人を増やす
をたたき台として、動物愛護活動を始めるとのことでした。
私も獣医大学の学生時代から動物の殺処分問題に関わってきた人間ですので、リベシティと学長がこういった分野にも目を向けてくれる機会がえられたことをとても嬉しく思っています。
一方で、動物関連業界の一員として、ひとりの獣医師として、動物シェルターの運営や動物保護活動、あるいはその発信は決して愛情だけでなせるとは限らないと考えています。
学長のおっしゃるように、
動物保護活動には余裕(お金)と仕組みが必要なのです。
そこで今回は、動物愛護団体のよくある失敗事例から、リベ大アニマルレスキューについて期待することについて所感をまとめたいと思います。
1. 多頭飼育崩壊
動物愛護団体あるいは個人で保護活動をしている人は動物に対して深い愛情をもっています。
だからこそ、「多少の無理をしても命を守れるなら...」と、じぶんたちのキャパシティを超えた動物を受け入れてしまい、結果的に劣悪な飼育環境で飼育してしまうことがあります。これを多頭飼育崩壊といいます。
事例1 NPO法人アニマルメリーランド(兵庫県姫路市)
数百匹の犬猫を不衛生な状態で長期放置し、一部死亡していた動物もいた兵庫県姫路市の2016年の事例です。
当初約30人で約140匹を世話していたようですが、高齢化などでスタッフが減り、負担が増えたスタッフがさらに辞めていく悪循環に陥ってしまいました。多いときは数人で300匹の犬猫を世話していたようです。
行政指導が入る5年も前から調査されていましたが、このような結果になるまで行政には止めることはできませんでした。
2. ネグレクト(飼育放棄)
犬猫を殺傷するわけではなく、不衛生な環境で飼育したり十分な飼育スペースや食事を与えないことで動物を苦しめることをネグレクト(飼育放棄)といいます。
事例2 NPO法人ワンライフ(茨城県古河市)
こちらは茨城県のNPO法人が犬や猫を劣悪な環境で飼育して虐待していたとして、代表者を動物愛護法違反で書類送検した2019年の事例です。
糞尿の処理などを十分におこなわず、市民から「不衛生な状況で動物を保護している」などと情報提供をうけて昨年10月にセンターが立ち入り調査をしましたが、同12月に改善勧告を出したが改善が見られず、今年2月に改善命令を出していたとのことです。
事例3 動物保護ボランティア(京都府八幡市)
自宅で猫を餓死させ、劣悪な環境で犬や猫29匹を飼育していたとして、動物保護ボランティアを動物愛護法違反(殺傷、虐待)容疑で逮捕しました。
20年ほど前から犬猫を引き取る活動をしていたようですが、近所から無き後や悪臭などの苦情が相次ぎ、家宅捜索した結果最終的に52匹の死骸と約16トンの排泄物などを撤去したそうです。
どうしてこんな事が起こるのか?
まず大前提としておきたいのは、こういった悲しい事件を引き起こしてしまった団体やその代表者は、決して動物を嫌ってもいないし、命を粗末にするつもりは当の本人にはなかったであろう、ということです。
元は犬猫を愛する気持ちから動物を保護していたはずが、自身のキャパシティを超える頭数を受け入れてしまうのです。このように自身のキャパシティを超えて過剰に動物を受け入れてしまう人々のことをアニマル・ホーダーといいます。
アニマルホーダーには多頭飼育をしていることや劣悪な飼育環境となっていること以外に、以下のような特徴があることが報告されています。
- 自分の置かれている状況を認識できていない
- 単身者、または配偶者と死別・離婚した人である
- 動物だけでなく、新聞、本、衣類、容器、食品ゴミなどの物を溜め込む傾向がある
- 動物を「救う」という動機が一般的で、動物を子供や家族の代わりと考えることが多い
- 中高年の女性に多いと報告されているが、男性や若い世代にも見られる
などです。
ソース:Health implications of animal hoarding: Hoarding of animals research consortium (HARC)
こうした事件をふまえ、環境省は動物取扱業を営む個人・団体に対して、具体的な飼育スペースや管理者数に応じた頭数の限界について定めた飼養管理基準が作成しました。
犬又は猫の飼養施設においては、飼養又は保管に従事する職員が飼養又は保管をする頭数の上限は、1人当たり 犬については20頭(うち繁殖犬は15頭)、1人当たり猫については30頭(うち繁殖猫は25頭)とする
動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針, 20ページ
「常勤の職員が勤務すべき時間数」は、労働基準法に定める法定労働時間(1日8時間以内、1週40時間以内)の制約 内で事業者が決めるものであるが、員数を算出する場合に用いる「常勤の職員が勤務すべき時間数」は、法定労働時間 の上限である週40時間とすること。
動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針, 20ページ
今では、動物シェルターをふくむ動物取扱業にかかわるためには、この飼養管理基準に適合する必要があり、これによって行政が取り締まりやすくなりました。
↑で紹介した1人あたりの頭数上限はあくまで、週40時間動物のためだけにコミットできる人に対して設けられる基準であって、一般的な社会人はもっと少なくないとやっていけないであろうことはご理解ください。
補足:行政(愛護センター)の一般的な対応
行政が愛護法違反事例を見つけた際、団体に改善を促すまでには以下のように決められた手順があります。
1. 通報・発見
2. 現地調査
3. 指導・助言
4. 勧告・命令
5. 緊急措置(動物の保護・収容)
6. 刑事告発・罰則
愛護センターや保健所はいきなり刑事告発するわけではありません。
告発までに「助言→指導→勧告」のように法的根拠のある段階を踏むのです。
この段階的なアプローチによって素直に改善されることも多い一方で、改善されずに被害が拡大してしまうケースもあります。
動物保護活動を成功させるために
動物保護活動に長年携わる人や団体が、犬猫の命を奪う側に回ってしまう例を紹介しました。
こうした悲しい事例を生まないために、私が一人の動物好きとして、獣医師として各自が備えておくべき心構えがあります。
「道徳なき経済は罪悪だが、経済なき道徳は寝言である」
二宮金次郎が言ったとも、言ってないともされる言葉ですが、私はこの言葉を胸に日々動物と向き合っています。
愛情だけで動物たちを救えるほど甘い世界ではありません。
時間的・経済的に手の届かない範囲の動物には手を出さないことも時には必要ですし、それだって確かな愛情のかたちです。
多頭飼育崩壊やネグレクトは、決して悪質なブリーダーやペットショップだけで起きている問題ではないこと、そして不幸にも動物保護団体でも生じうることを、動物保護に関わろうとするならば肝に命じておく必要があるでしょう。
今後、学長やリベ大アニマルレスキューを通じて多くの人が動物保護活動について考えてくれれば、より一層助かる命が増えていくのではないかと思います。
一方で学長の理念に賛同するリベシティの一員として、この活動によって悲しい事件が生まれないことも強く願い、今後とも応援させていただきます。