- 投稿日:2025/12/07
- 更新日:2025/12/07
こんにちは!コンパスです。
前回の記事では「親が元気なうちの対話」についてお話ししましたが、今回は「いざ、親の介護が必要になった時」の超・実践編です。
ある日突然、病院から呼び出される。
「退院が決まりましたので、ケアマネジャーを決めてください」と言われる。あるいは、実家に帰ったら親の様子が明らかに以前と違う…。 頭の中が真っ白になりますよね。
「何をどうすればいいの?」「仕事はどうする?」「お金は?」
そんな混乱の中、地域包括支援センターや役所に駆け込み、紹介されたケアマネジャーとの「初回面談」がセッティングされます。
ここで、声を大にして言わせてください。 この「初回面談」こそが、その後のあなたの人生(介護生活)が「楽になるか」「地獄を見るか」の運命の分かれ道です。
脅すわけではありませんが、多くのご家族は、準備なしに「丸腰」でこの面談に挑んでしまいます。 そして、プロであるケアマネジャーに聞かれるがまま答え、よく分からないままプランが決まり、数ヶ月後に「こんなはずじゃなかった…」「もう限界だ…」と疲弊してしまうのです。
そうならないために必要なのは、知識ではありません。 たった1枚の「カンペ(相談メモ)」です。
ケアマネジャーが来る前に、家族会議で話し合い、「これだけは絶対に伝える」と紙に書いておくべき項目があります。 これがあるだけで、私たちケアマネは「おっ!このご家族は『チーム』として動けるぞ。よし、最高のプランを作ろう!」と気合が入り、提案の質が劇的に変わります。
今回は、現役ケアマネが喉から手が出るほど欲しい、最強の「家族のカンペ(相談メモ)」の作り方を伝授します。
第1章:ケアマネジャーは「御用聞き」ではありません
まず、カンペを作る前に、大前提としての「誤解」を解かせてください。 初回面談で、ご家族からいきなりこんな風に言われることがよくあります。
💬「お風呂は週3回入れてください」
💬「足が弱っているのでリハビリに行かせてください」
💬「掃除が大変そうなので、ヘルパーさんに来てもらいたいです」
一見、具体的な要望に見えますよね? でも実はこれ、ケアマネジャーにとって一番困る(プランが立てにくい)パターンなんです。
なぜなら、ケアマネジャーは「飲食店のウェイター(注文を受ける係)」ではないからです。 私たちは、いきなり「答え(サービス内容)」を知りたいのではありません。 「なぜ、それが必要なのか(課題・ニーズ)」を深く知りたいのです。
「要望」ではなく「理由」を教えてほしい
例えば、「お風呂に入れてほしい」という要望一つとっても、その背景には様々な理由があります。
Aさんの場合: 「またぐのが怖くて入れない」 →【解決策】手すりを一本レンタルすれば、毎日一人でゆっくり入れるかも?
Bさんの場合: 「脱衣所が寒くて、服を脱ぐのが億劫」 →【解決策】暖房器具の設置や、訪問入浴の検討が必要かも?
Cさんの場合: 「認知症で、お風呂の手順が分からない」 →【解決策】声かけをしてくれるデイサービスの利用がベストかも?
このように、「なぜ(Why)」によって、提案する解決策(How)は全く変わります。 いきなり「デイサービス!」と手段を指定してしまうと、もっと安くて効果的な「手すり」という選択肢を見逃してしまうかもしれません。
ですから、相談メモを作る際は、「〇〇してほしい(要望)」よりも、「今、家で何に困っているか(事実)」をたくさん書き出すことが、良いプランを引き出すコツなのです。
第2章:絶対に作ってほしい「3つのリスト」
では、具体的にどんなメモを作ればいいのでしょうか。 面談の前に、以下の3つの項目について家族で話し合い、紙にまとめてください。これをケアマネジャーに渡すだけで、打ち合わせは劇的にスムーズになります。
1. 本人の「困っていること」と「強み」(事実)
まずは、親御さんの現状を冷静にリストアップします。
ここでのポイントは、「医学的なこと」よりも「生活のこと」です。
【困っていること(できないこと)】
💬「最近、料理の味付けが濃すぎる気がする(味覚の変化?)」
💬「夜中にトイレに起きるが、廊下で転びそうになっている」
💬「薬を飲み忘れて、テーブルの下に隠しているのを見つけた」
💬「同じ話を5分おきに繰り返す」
【まだできること(強み・残存機能)】
💬「着替えは時間はかかるが一人でできる」
💬「電話の応対はしっかりしていて、社交辞令も言える」
💬「昔馴染みの近所の友人とは、将棋を楽しんでいる」
この「強み」を書くのが重要です!
「できないこと」ばかり伝えると、全てをヘルパーさんがやってしまう「過剰介護」になり、親御さんの身体機能を奪ってしまいます。
「できることは自分でやってもらう」のが自立支援です。「ここは手を出さないでほしい」というラインも明確にしましょう。
2. 本人の「どう暮らしたいか」(想い・価値観)
前回の記事でお話しした「対話」がここで活きます。 ケアプランの魂となる部分です。
💬「『どんなにボロくても、絶対にこの家で死にたい』と言っている」
💬「一人の時間が好きなので、賑やかな場所(デイサービス等)に行くとストレスが溜まるタイプだ」
💬「お風呂だけは一番風呂に入りたいという強いこだわりがある」
💬「リハビリをして、また畑仕事をしたいと願っている」
わがままでも何でも構いません。 「安全」よりも「自由」を優先したい人もいます。この「想い」がプランの軸になります。これがないと、ただ「安全に生かすだけ」の味気ないプランになってしまいます。
3. 家族の「手伝える範囲」と「絶対に無理なライン」(限界)
ここが今回の記事で一番伝えたい、最重要ポイントです。
多くのご家族が、親への情や、「冷たい子供だと思われたくない」という世間体から、ケアマネジャーの前でつい無理をしてしまいます。
💬「私が仕事を調整すれば、なんとか通院に付き添えます」
💬「週末は様子を見に行けます」
💬「同居も考えてみます」
断言します。その「無理」は、絶対に続きません。
介護は短距離走ではなく、終わりの見えないマラソンです。
最初はアドレナリンが出て頑張れても、半年後には心身ともに限界がきます。 そして、「なんで私だけこんな目に」「もう親の顔も見たくない」と追い詰められ、最悪の場合、虐待や介護放棄(ネグレクト)に繋がることさえあるのです。それは親御さんにとっても一番不幸な結末です。
だからこそ、最初の時点で「できないことリスト(限界ライン)」を、冷徹なまでに明確に提示してください。
【限界ラインの書き方例】
🍀仕事の関係: 「平日の日中はフルタイム勤務です。緊急時以外、電話にも出られません」
🍀距離・時間の問題: 「片道2時間かかるので、訪問は『月1回』が限界です。毎週末は無理です」
🍀精神・体力の問題: 「私自身に腰痛があるので、移乗介助(ベッドから車椅子への手伝い)は一切できません」 「夜間のトイレ介助は、こちらの睡眠不足になり仕事に支障が出るので対応できません」
🍀経済的な問題(超重要): 「親の年金の範囲内(月〇万円以内)で全て収めたいです。持ち出しはできません」
「できない」と言うのは、冷たいことではありません。 「ここまでは家族が責任を持ってやるけれど、ここから先はプロの力を借りたい」という、健全な線引き(境界線)です。
これを最初に伝えてくれれば、ケアマネは悩みません。
「なるほど、平日の昼間は見守りがないんですね。じゃあ、月〜金はヘルパーとデイサービスを組み合わせて、隙間を埋めましょう」 「夜が無理なら、ショートステイを定期的に使いましょう」 と、具体的にパズルを埋めるようにプランを組むことができます。
大項目(リスト)カテゴリー具体的な記述例(記事より)記入のポイント・アドバイス1. 本人の現状(事実)困っていること
(できないこと)・料理の味付けが濃すぎる気がする(味覚の変化?)
・夜中にトイレに起きるが、転びそうになっている
・薬を飲み忘れて、隠している
・同じ話を5分おきに繰り返す「医学的なこと」より「生活の困りごと」を書く。
事実をありのままに伝える。まだできること
(強み・残存機能)・着替えは時間はかかるが一人でできる
・電話応対はしっかりでき、社交辞令も言える
・昔馴染みの友人とは将棋を楽しめる**重要!**ここを伝えないと過剰介護になる。
「手を出さないでほしいライン」を明確にする。2. 本人の想い(価値観)どう暮らしたいか
(希望・こだわり)・どんなにボロくても、絶対にこの家で死にたい
・一人の時間が好き。賑やかな場所はストレス
・お風呂は一番風呂に入りたい(強いこだわり)
・リハビリをして、また畑仕事をしたい「安全」より「自由」を優先したい場合もある。
わがままでもOK。ケアプランの軸になる。3. 家族の限界(線引き)仕事の都合・平日の日中はフルタイム勤務
・緊急時以外、電話にも出られない無理をすると続きません。
「できない」と言うのは冷たいことではない。距離・時間・片道2時間かかるため、訪問は「月1回」が限界
・毎週末通うのは無理精神・体力・自分に腰痛があり、移乗介助は一切できない
・睡眠不足で仕事に支障が出るため、夜間対応は不可経済面(超重要)・親の年金の範囲内(月〇万円以内)で収めたい
・持ち出し(赤字)はできないここを明確にすれば、プロは予算内でパズルを組める。

第3章:ケアマネジャーとの面談は「作戦会議」
このメモ(カンペ)を持って、ケアマネジャーとの面談に臨んでください。 そして、こう切り出しましょう。
こう言われたら、私たちはプロとしての血が騒ぎます。 「条件はクリアですね。それなら、このサービスとあの制度を組み合わせて…」と、最適なプランを導き出すことができます。
逆に、これらを隠して「なんとかします」と言われると、後で破綻した時に、プランをゼロから作り直さなければならず、結果的に対応が遅れてしまうのです。
ケアマネジャーは「査定員」ではない
ケアマネジャーは、あなたの家族愛を採点する試験官ではありません。 親御さんの生活を守るためのチームメイトであり、作戦参謀です。 情報を隠したり、見栄を張ったりする必要は一切ありません。
💬「実はお金があまりなくて…」
💬 「兄弟仲が悪くて、協力が得られなくて…」
💬「正直、親のことがあまり好きじゃなくて、会いたくないんです…」
そんな「本音」こそ、一番最初に教えてください。 私たちは守秘義務のプロです。誰にも言いません。 「会いたくないなら、極力会わずに済むような体制(配食サービスや見守りセンサーなど)を組みましょう」と、感情論抜きで解決策を提案します。
まとめ:自分を守ることが、親を守ること
冒頭でも言いましたが、介護は終わりが見えない戦いです。
「私が我慢すればいい」という自己犠牲の精神で走り出したら、必ず途中で倒れます。
もし、キーパーソンであるあなたが倒れたら、誰が親御さんを守るのでしょうか? 共倒れを防ぐためにも、最初に「ここまでしか走れません」と宣言することは、最大の親孝行なのです。
「冷たい娘だと思われないかな…」なんて心配は無用です。 私たちケアマネジャーは、自分の生活や仕事を大切にしながら、賢く介護サービスを使おうとするご家族を、全力で応援します。
さあ、メモ帳を開いて、まずは書き出してみましょう。 あなたの頭の中にある「不安」や「モヤモヤ」を文字にするだけで、客観的になれて、少し心が軽くなるはずです。 そのメモが、あなたと親御さんの未来を守る「お守り」になります。
【次回予告】 「こちらの要望や事情を伝えたのに、ケアマネが話を聞いてくれない!」 「なんだか提案されたプランがしっくりこない…」 そんなモヤモヤを抱えていませんか?
実は、残念ながらケアマネジャーにも相性(あたり・はずれ)があります。 次回は、【困惑中の方へ】今の介護で本当に幸せ?「なんとなくモヤモヤ」を解消するケアプラン見直し術&ケアマネ変更の決断について、業界のタブーなしの本音でお話しします。
「ケアマネガチャ」に失敗した時の対処法、教えます! お楽しみに!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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これからも、ケアマネジャーや介護士さん、がんばるシングルマザーを全力で応援📣していきます。