- 投稿日:2025/12/13
【第37話】FIREについて研究してみた
~なんで働かなきゃいけないの?~
🔶 なぜ人はFIREを選ぶのか?
リベシティのみなさん、こんにちは!社会人大学院生のOGAです。
大学院で「FIRE(Financial Independence Retire Early)」をテーマに修士論文を書いた経験を、みなさんにも共有したいと思います。
FIREを決断する人の多くは、 単に「働きたくないから会社を辞める」訳ではありません。その背景には、「今の環境で成長できない・やりがいを感じられない」というワークエンゲイジメント(仕事への熱意・没頭感)の低下があります。
●ワークエンゲイジメントとは?
単なる「仕事が楽しい」「仕事に満足している」といった表面的な感情ではなく、
・主体的に仕事に向き合う姿勢
・将来へのキャリアに対する展望
といった、「積極的な働くエネルギー」を指します。
しかし日本では、このエネルギーをうまく維持できない人が増えており、これがFIRE志向の高まりと深く結びついています。
1. 管理職の「マネジメント不足」が社員の情熱を奪う
岩澤氏(2015)の研究では、日本企業でワークエンゲイジメントが下がる原因として、管理職のマネジメント不足が大きいと指摘されています。
・部下のモチベーションを理解できない
・適切な業務務配分やフィードバックがない
・成長支援の仕組みが機能していない
こうした環境では、やる気のある人ほど「この会社ではもう成長できない」と感じ、離職・転職・独立・FIREといった“組織外志向”に向かいやすくなることが分かりました。
つまりFIREは、必ずしも逃げではなく「組織外で自己実現をするための選択」と捉えることができます。
2. 「働く目的」は時代とともに変わってきた
田靡氏(2017)の50年にわたる研究によると、日本人の働く価値観は社会情勢に強く影響されてきたと指摘されています。
このような時代の流れの中で、「会社に依存しても安定は得られない」という価値観が生まれ、FIREのような生き方が現実的な選択肢として浮上しました。
特に若年層では、「安定を得るにはむしろ自立するしかない」という考え方が強まり、FIREの価値観と親和性が高い環境が形成されました。
3. 年代ごとに異なる「仕事への向き合い方」
小畑氏・森下氏(2014)は、年代別に「働く目的」と「ワークエンゲイジメント」の関係を分析しました。
この調査結果を見てみると、人は年齢や立場によって「働く目的」が変わることが良く分かります。
企業はこれらを理解せず、画一的な人材マネジメントを続けてしまうと、すべての年代でエンゲイジメントが下がります。その結果「自分の人生を自分でデザインしたい」と考える人が増え、FIREや副業・独立への関心が強くなるのは自然な流れと言えるでしょう。
🔶 まとめ
今回紹介した論文からは、FIREとは「組織の外で自己実現を探すもう一つのキャリア選択」とも言えます。
ワークエンゲイジメントの高い人ほど、「仕事に熱意を感じ」「成長を実感し」「自らキャリアを描ける」存在です。しかし、それらの環境が得られないときに「このまま人生を預け続けてよいのか?」という強い違和感が生まれ、FIRE=自己実現の再構築という選択が浮かび上がります。
そう考えるとFIREは逃避ではなく、自分らしい働き方と生き方を取り戻すための能動的な戦略として理解できるのです。
もし組織が「FIREを考える=辞めたい人」ではなく、「自立意識が高く、主体的にキャリアを描ける人」と捉え直せるのであれば、
・柔軟な働き方
・社内副業・越境学習
・キャリア自律支援
これらの視点を持つことで、働く人にとっても、組織にとっても、
これからの新しいキャリアとマネジメントのあり方が見えてくるのではないでしょうか。
・島津明人(2012)『ワーク・エンゲイジメント —ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある職場をつくる—』 ・岩澤誠一郎(2015)『日本社会における仕事の価値のワーク・エンゲイジメントとマネジメント・スキル』 ・田靡裕祐(2017)『日本社会における仕事の価値の長期的な推移』 ・小畑周介、森下高治(2014)『年代別にみる働く目的と職業性ストレス及びワーク・エンゲイジメントの研究』