- 投稿日:2025/12/14
1. はじめに:放課後等デイサービス(放課デイ)の役割
私は相談支援専門員として働いています。
相談支援専門員は、「障害福祉サービスを利用する際、障害福祉サービスを利用する際の窓口となり、公平中立な立場で様々な調整役を担います。
障害福祉サービスにはいろんな種類があるのですが、小学生〜高校生のお子さんが利用できるサービスの筆頭が「放課後等デイサービス」です。
ただ、障害福祉サービス、つまり厚生労働省管轄のサービスになるので、学校の先生や保育園等の先生はあまり詳しくないことが多いです。結果、「どんなところだろう?」「利用した方がいいのかな』と悩む方も多いと思います。
そこで、現役で相談支援に従事する私から、放課後等デイサービスの利用について、メリットと少し気をつけていただきたい点の両方をご説明します。
ここで一点注意です。
冒頭に伝えた通り、相談支援専門員は、公平中立な立場を大切にすると同時に、対人援助職として、自己決定を大切にしています。(専門職としての原則の一つです)
言い換えれば自分の考えを前面に押し出すことは、業務の中ではしないということになります。(もちろん適宜情報提供はしますよ)
この記事では、そんな業務中では伝えにくい「私の見解」が加わっています。専門職としてではなく、経験をもとに伝える一次情報です。記事に対して「そうかな?」と思う方がいたら、違う情報を探してみるなどしてみてください。考えた過程は、必ずやお子さんやご自身の将来を支える経験になると思います。
長い前段でしたが、本題に入ります。
2. 放デイ利用のメリット
はじめにお伝えしたとおり、放課後等デイサービス(以下「放デイ」)は、育ちにくさのあるお子さんたちの成長を支え、ご家族の生活を安定させるための重要な役割を担っています。
利用のメリットで私が感じるものは主に4つあります。
1. 子どもにとっての「安心できる居場所」ができる
学校が終わってから家庭に帰るまでの間、安心しして過ごせる場所があることは、子ども本人にとっても保護者にとっても大きな支えになります。特に、発達や行動面で手厚い支援が必要なお子様は学校でとても頑張っており、時には息切れすることもあります。ペースを落として安心できる環境で過ごすことは、翌日以降も頑張る力が湧いてくるために必要なことです。
2. 個別支援計画に基づくきめ細やかな発達支援
放デイは、ただ預かるわけではなく、個別支援計画というものを立てて支援を行います。半年ごとに目標を確認し、どれだけ達成したか、また達成できていない場合にはどんな要因や背景があるのかを、支援者と共に相談して決めていきます。 子育てをしていると、毎日の成長は小さいため実感しにくいかもしれませんが、個別支援計画があることや、親以外(外部の人)の目で見ることで、本人の成長を意識し、実感することができます。
3.比較的安価
利用料の1割を負担します。利用時間によっても異なりますが、1回放デイを利用すると大体700円くらいの支払いが多いです。
また世帯所得によって、1月の利用料の上限が決まっています。多くの世帯が1月4600円上限の負担です。また生活保護世帯等は、自己負担0円の時もあります。放課後児童クラブ(いわゆる学童)の利用料が1万円を超えるところも多いなか、丁寧な関わりをしてもらえる上に安価というのは大きな魅力です。
4. 保護者の「自分の時間」が確保できる(事業所によっては行き帰りの送迎もある)
どんなに子どもに愛情を持っていても、自分の関わりがうまくフィードバックされないと、心はすり減っていくものです。子どもが放デイで安心安全に過ごしている間に、保護者の方には仕事や趣味など、自分を大切にできる時間を持つことができます。この自分の時間を確保できることは、長い子育てをしていく上でとても重要です。
3.放デイの利用に際して留意すべきポイント
一方で放デイの利用に際して留意すべきポイントもあります。今回は私の経験から感じる重要な4つを挙げます。
1.利用しすぎによる疲労
放デイは安心・安全な場所ですが、やはり家とは違います。ダラダラする、ゴロゴロする、とリラックスして過ごせる時間が、適度にあるというのはとても大切です。大人もどんなに充実している仕事や趣味があっても、体を休める時間がないと、パフォーマンスが下がりますよね。放デイの利用時間と利用日数が多すぎて、家ではご飯食べて寝るだけ…これが続くと長期的に見ればお子さんの心身が悲鳴を上げることにつながると思います。
(ご家族の緊急入院など、一時的に利用時間が長くなるのは悪くないと思います。子育ては長期戦ですから)
【対策】 こどもが「疲れているな」と感じる瞬間が増え、また、ご家族にもある程度の余裕があるのであれば、利用回数や利用時間を短くすることを選択肢に入れると良いと思います。
※放デイは「利用してくれる人がいる」ことで、報酬を得ます。経営的な点だけを考えれば「利用してもらい続けた方が良い」となってしまう仕組みです。報酬を得るために、本人のためにならない利用を勧めることは「障害福祉」の理念から外れるので、事業所もやりたくないと思っていると思います。ただ制度の仕組み上「起こりやすいこと」であるというのは、知っておくと良いです。ここだけで記事が1本かけてしまいそうな内容なので、今回はここまで。
2.「こども」ならではの機会の減少
放デイは、育ちにくさのあるお子さんが利用する施設です。支援員も多いですし、安全を守るために怪我等のリスクもかなり減らした特殊な空間になると思います。放デイをあまりに利用しすぎると、「こども」として家庭や地域で過ごす時間が減少します。その結果、友達と遊ぶ、買い物に行く、家で役割を持つなど、社会で生きていく上で大切な自然な経験の機会が減ることにつながってしまいます。
【対策】 放デイを利用しない時には、意識的に体を動かす機会を設けたり、のんびりする時間を持ったり、逆に家庭内での手伝いを積極的に促す、留守番の経験を積むなどができると良いかと思います。
3. 金銭的メリットの落とし穴
メリットで伝えたように、放デイの利用料は自己負担が1割で、多くの場合、月額4,600円の負担で済みます(おやつ代などの実費は別途かかります)。これは金銭的なメリットが大きいと言えます。
しかし、「金銭的に得だから」という点が利用の主な目的になってしまうと、本来の目的である「子どもにどんな力をつけてほしいのか」という視点が失われがちになります。この状態が続くと、将来的に障害福祉サービスがないと生活ができないといった困り事につながる可能性があります。
例えば、放デイは送迎をしてくれるところも多いですが、毎回送迎を利用していても、先に伝えた自己負担上限金額を超えて支払う必要がありません。月額上限が4600円だったとすれば、子どもたちの発達を促す支援+送迎付きで学童よりも安い自己負担…これだけみたら金銭的メリットは大きく「使った方が絶対得!」ですよね。
でも毎日送迎が当然となっているお子さんは、就労先を探す時に「自分で移動するスキル」がないために、就労先の選択肢が限りなく少なくなってしまう…という事例は数多くあります。
元々は金銭的に得だったはずなのに、就労先がない、またご家族が送迎する必要があり、ご家族が働く時間を短くする必要が出る…とむしろ金銭的な苦しさを将来引き受けるリスクがあります。
【対策】 放デイサービスを「何のために利用するしているのか」を、振り返ることが大切です。相談支援専門員は半年ごとのモニタリングの際にこの振り返りを共に行います。また「どんな生活を送りたいか(送ってほしいか)」もイメージしておくと良いです。
今と未来のバランスを考えることが大事かと思います。
4. 「自分で時間を使う」を経験する機会が減る
放デイは多くの場合、学校の放課後から17時や18時(一部の事業所では19時)まで利用でき、送迎サービスも充実しています。その結果、子どもが朝8時に家を出て夕方まで施設にいる生活が当たり前になることがあります。事業所では、支援員がお子さんたちのことを気にかけ、つまらなさそうにしている時には声をかけたり、活動を促してくれたりもします。保護者にとっては就労時間・休息時間が確保できます。いいことしかない感じがしませんか?
ただ一方で、子ども自身にとっては、家での時間や自分で過ごす力を持つ機会が少なくなる傾向が見られます。自分で時間を使う力(余暇スキル)が育っていないと、成人後に地域から孤立したり、家族が大きな負担を感じたりするケースにつながることがあります。実際、放デイを卒業して就労支援施設を利用するようになった方が、帰宅後の過ごし方に悩んでいる事例もあります。
【対策】 推し活があるなら、それはとても良いことだと思います。電車やキャラクター、アニメ、アイドルなど、好きなものがあって、その図鑑や写真を眺めているだけで、何時間でも幸福感を感じられる…これは将来その方の力になります(「〜を買うために、お仕事頑張ろう」も伝わりやすいですしね)。
大人からすると「〜ばっかりで、こだわりが強い。興味関心を広げてあげたり、もっと将来に役立ちそうなことをしてくれたら」と思うこともあるかもしれませんが、「何がなんでもやりたいこと」は誰かに決められるものではありません。もちろん、多くの人に迷惑をかけたり(公共のスペースで自分の好きなものを並べて、動かすと一方的に怒る等)、法律を犯したり(推しのグッズが欲しくて、万引きしてしまう等)することを肯定してはいません。
一方で「こだわるほど好きなものがある」ということは、「他人に影響されず、自分で過ごすことができる力が育っている」と言えるのです。「こだわり」をその子の「弱み」ではなく「強み」にしていく視点が求められると思います。
4. まとめ:今と未来、両方のバランスを考える
私が相談支援専門員として大切にしているのは、「今、安心して過ごすこと」と「将来に向けて生活能力を育てること」の、両方のバランスを考えることです。
放課後等デイサービスを上手に活用しながら、家庭や地域で過ごす時間、休養の時間、そして自分で考える時間も大切にしていく、そんな視点を持つことが重要です。
この記事を読んでくださったあなたが、自身のお子さんへのかかわりについて、今も将来も納得ができますように。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
