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  • 投稿日:2026/01/26
【ラクスの企業分析】SaaS成長企業を「事業構造×数字×現場」で読む

【ラクスの企業分析】SaaS成長企業を「事業構造×数字×現場」で読む

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メカバイオ@DXコンサルタント

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要約
ラクス社を事業構造・財務・現場視点で分析しました。 SaaS×人材の収益モデル、広告投資とストック成長の関係、急成長に伴う組織課題と外部協業余地を整理。外部支援事業者が実務で使える論点に絞って解説します。

1. 事業構造:クラウド(SaaS)86% × IT人材サービス14%の二軸

1.png主要セグメント

ラクスは大きく以下の2事業に分かれます。

・クラウド(SaaS)
・事業(売上の約86%)


「楽楽クラウド」「ラクスライトクラウド」を中心に、バックオフィス/フロント業務の効率化SaaSを展開。

代表例:
・楽楽精算、楽楽明細、メールディーラー、楽楽販売、配配メール 等
→ ストック型(サブスク)中心IT人材サービス事業(売上の約14%)

・自社で正社員エンジニアを採用・育成し、企業へ派遣。
→ 稼働に応じるフロー型の色合いが強い

ここがポイントで、同じ会社の中に「ストック型(高粗利)」と「労働集約型(稼働依存)」が共存しています。

経営管理上は、KPI(※1)もマネジメントも“別会社級”に異なる前提で見るのが妥当と考えられます。

※1:KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」と呼ばれ、最終目標(KGI)を達成する過程における中間目標やプロセスの進捗を、定量的(数値)に管理・評価する指標

提供対象と提供方法

・対象:主に中堅・中小企業
・提供:Web経由、月額課金(サブスク)
・販売:直販(インサイドセールス)+オンラインマーケ中心と推測
・運用:導入支援・サポート(電話/メール等)で継続利用を促進
・導入社数:累計9.5万社以上

SaaSは「売って終わり」ではなく、導入〜定着〜継続が事業の本体です。ラクスはここに人的投資を厚く張れる体制が、事業成立条件になっています。

売上・利益構造の概略

クラウド事業:
ストック収益比率92.6%、営業利益率は20%前後
(例:2025年3月期Q3で20.8%)

ただし販促・人件費は大きい


IT人材サービス:
黒字維持だが利益率はクラウドより低い(人件費比率が高い)


全社:
直近で営業利益率14.5%(2024年3月期)を確保 

2. ビジネスモデルの特徴:ストックの強さは「解約が低い構造」で決まる

2.pngストック型モデルの安定性

クラウド事業は、典型的なサブスクです。

・新規獲得 + 低解約 で年間経常収益が積み上がる
・収益予見性が高く、投資計画を組みやすい。
・年間経常収益は434億円規模、継続率が高い例
(メールディーラー継続率99%)

強みが生まれる構造的理由(ここが実務の肝)

ラクスの強みは「良い機能」だけでなく、売れる・続く前提が揃っていることです。

業務特化型プロダクト:
経費精算/請求書/問い合わせ管理など“単機能で刺さる”

日本の商習慣・制度対応:電帳法、インボイス等への対応力が導入動機になりやすい

低初期費用×クラウド:
中小企業が意思決定しやすい

サポート体制:ITに強くない企業にも受け入れられる

広告投資による認知:
「楽楽精算」のブランドが参入障壁になり得る

つまり、プロダクトを起点にしつつも、販売・定着・信頼(運用)まで含めた“仕組みの勝ち”といえる状況を作り上げていると言えます。

継続・解約・切り替え

業務フローがSaaSに寄るのでスイッチングコストが高いものの、競合への乗り換え(例:マネーフォワード系)や、上位システム導入での解約リスクは存在します。

だからこそ、実務では「解約率を下げる仕組み=顧客満足度設計」が最重要KPIになります。

(※2)ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は、サブスクリプション(継続課金)ビジネスにおいて、1年間に繰り返し得られる安定した売上を指す指標 

3. 実務視点の「前提条件」:このモデルが回るために必要なもの

3.png事業成立の前提(市場側)

・日本企業のバックオフィス非効率(紙・ハンコ・手作業)
・働き方改革、電帳法改正等によるクラウド化圧力
・中小企業は内製開発が難しく、SaaSの必然性がある

会社側の前提(組織能力)

・大量のインサイドセールス/サポート要員を抱えられる
・マーケ→営業→導入→定着まで“面”で対応できる
・研修でエンジニアを育て、派遣で稼働率を維持できる(人材事業)

この前提が崩れると、ストックの積み上げが鈍化します。
特に「人」で回している部分が多いほど、採用・育成・離職が経営リスクになります。

外部支援が入りにくい領域

・プロダクトロードマップ/新機能開発(機密性・コア価値)
・サポート(ナレッジ依存・品質リスク)
・直販営業(商材理解が重要で代理店は主流でない想定)

 

4. 財務(直近5年):成長投資で利益が揺れつつ、回復している

4.pngPLの読み方:成長SaaSは「利益が上下して正常」

・売上:2019年度 116億円 → 2023年度 384億円(年30%超成長)
・原価:人件費中心で増加
・販管費:特に広告宣伝費が強烈に増加

広告宣伝費の推移が象徴的です。

2019年度21.2億円 → 2020年度9.5億円(抑制)
→ 2021年度44.6億円 → 2022年度63.9億円 → 2023年度85.4億円

つまりラクスは、「利益を最大化する」よりも、勝ち筋が見えた局面でアクセルを踏む経営をしていると読めます。

結果として営業利益は、投資期に落ち込んでも、2023年度に過去最高(55.6億円)へ回復しています。

販管費の中身:広告×人件費がメインエンジン

・広告費比率:直近で売上の約22%程度
・給料手当:2021年度45.4億円 → 2023年度57.2億円
・研究開発費が小さいのは、開発費が人件費に含まれる構造と推測

この構造の示唆はシンプルで、投資の主戦場は「開発」より「獲得と定着(人と広告)」になりやすい、ということです。

BS:運転資本が軽く、健全性が高い

・棚卸資産ほぼゼロ(SaaSの典型)
・売掛金回収日数:概ね50〜55日
・買掛金ほぼゼロ(仕入がない)
・自己資本比率:60%超(安全余裕)

CF:営業CFで稼ぎ、投資CFで使う(王道)

・営業CFは概ねプラス(2021年度のみ税支払等で微マイナス)
・2023年度は営業CFが当期純利益を上回る
・投資CFは一貫してマイナス、特に2023年度はM&A等で大きく流出
・期末現預金は潤沢(2023年度末70.1億円)

ROE/ROIC:投資期はブレる。だから単年で断定しない

・ROEは大きく変動(投資を増やすと利益率が落ちるため)
・2023年度は利益率回復でROEが急回復
・実務では「今期のROE」より、広告投資→年間経常収益積み上げ→利益率回復の循環が回っているかを見た方が実態を捉えている味方です。

5. 現場で起こりうる課題(推測):急成長SaaSが踏む“あるある”

5.png社員数が2020年約538名 → 2024年1,532名と急拡大している前提では、以下が起こりがちです。

① 情報連携の歪み(営業・開発・サポートの分断)

・顧客要望が開発に届かない/重複対応
・リリース情報がサポートに降りず対応遅延
・事業部間で文化・評価指標がズレる(SaaSと人材派遣は特に別物)

② 成長フェーズのボトルネック

・マネジメント層が足りず、意思決定が遅くなる
・自社バックオフィスがスケールに追いつかない(皮肉だがよくある)
・プロダクトが増え、エンジニアリソースが分散する

③ 属人化・サイロ化・標準化不足

・古参ノウハウが暗黙知のまま
・プロダクト別組織が強くなり、全社最適が崩れる
・人材派遣側では、情報共有が崩れると定着率に直撃

6. 外部パートナーが入りうる余地:コア以外の“詰まり”が狙い目

6.pngラクスが内製で強いほど、外部支援事業者が入りやすいのは「後回しになりやすい領域」と考えられます。

・自社内DX、業務改革(急成長企業ほど手が回らない)
・データ活用基盤(BI、解約予兆、営業生産性分析など)
・AI機能の実装・検証(スタートアップ連携、組み込み)
・大企業向けの業務設計付き導入支援(標準導入を超える案件)
・連携開発・PM支援(API連携、ERP接続、RPA統合など)
・組織開発・育成(管理職育成、オンボーディング整備)

実務上の言い方をすると、外部事業者は「プロダクトの中身」ではなく、
“個別設計が必要で内製負荷が高い領域”に価値を出しやすい、という整理です。

7. 類似企業との比較:似ていても「利益ステージ」が違う

7.png類似モデルとして挙がるのは、マネーフォワードやfreee。

・共通:中小企業向けバックオフィスSaaS、ストック型
・相違:ラクスは利益体質を持ちながら投資できるステージにいる一方、他社は赤字成長期の色が濃い(前提)
・製品思想:freee/mfは会計・税務などコア領域、ラクスは経費精算・問い合わせ等の周辺業務特化が中心
・ラクスは人材派遣が混在するため、景気・人件費の影響も受ける

ここからの示唆は、競合比較をするなら、成長段階(投資/回収)と収益ミックス(純SaaSか混合か)を揃えて見るのが重要、ということです。

8. 注意点

・現場課題・外部事業者の提案余地は推測を含みます。
・会計方針変更等で過年度比較は注意が必要です。
・解約率、サービス別利益率など非開示情報は断定が出来ません。
・本稿は投資判断ではなく、事業構造の実務整理が目的です。

まとめ:ラクスは「SaaSの勝ち方」を組織ごと作っている会社

ラクスの本質は、SaaS単体の良さだけではなく、

・特化型プロダクト
・広告×直販の獲得装置
・定着・継続を支えるサポート体制
・投資で利益が揺れても、回復させる運用

この“仕組み”を長期で回している点にあります。

一方で急成長の副作用(分断・属人化・マネジメント不足)はどのSaaSでも起こり得るため、次の成長は「地固め」の強さが効いてくる、という見立ても成り立ちます。

※本記事の数値は、ラクス社の有価証券報告書および決算説明資料に基づいて整理しています。

※一部指標(回収日数、ROIC等)は公開情報をもとにした筆者試算であり、参考値としてご覧ください。

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