- 投稿日:2024/12/14
- 更新日:2025/09/30
序章
この物語は、
MMT(現代貨幣理論)の提唱者の1人
ウォーレン・モズラーが、
その奥深い理論を、
より分かりやすく伝えるために考案した、
「例え話」である。
モズラーの名刺
モズラーはとても大きな屋敷に住んでいた。
当然ながら管理は大変。
案の定、
屋敷はどこもかしこも散らかり放題だ。
そこで彼は、
遊んでばかりの子供たちに、
家の管理を任せようとする。
「さぁみんな、
快適に暮らすために、
この屋敷をキレイにしておくれ」
突然のお願いに、
子供たちは反発し対価を求める。
「働かせるなら、
その代償に何かちょうだい」
子供たちの要求にモズラーは、
得意げにポケットから紙切れを出す。
「それなら、
家の手伝いをしてくれたら、
このパパのカッコいい名刺をあげよう」
「はっ!?
ボケてんのかクソジジイ」
モズラーの名刺は見事に却下された。
ただの名刺に価値が加わる
名刺に全く興味を示さない子供たちに、
モズラーは一転、
恐ろしいルールを宣告する。
「いいだろう。ではこうしよう。
月末までにパパの名刺を30枚集めなさい。
名刺を30枚提出できなければ、
この家から出ていってもらう」
唐突で無慈悲な命令に、
顔面蒼白の子供たち。
戸惑う子供たちをよそに、
モズラーは淡々と
新ルールの詳細を述べ始めた。
●モズラーのルール
名刺の枚数は、
仕事の難易度に応じて変動する。
・洗濯物をたたむ:名刺1枚
・食器を洗う:名刺2枚
・廊下を掃除する:名刺3枚
・庭の草刈りをする:名刺5枚
家の仕事をこなすたびに、
モズラーの名刺が報酬として配られる。
月末までに30枚を集めて提出できれば、
来月もこの屋敷での生活を約束しよう。
こうして、
子供たちの労働の日々が幕を開けた。
月末までに名刺30枚を集めなければ、
今の生活が終わってしまう――。
実際、真面目に働けば、
名刺30枚は決して難しい量ではない。
だが、
やはり中にはサボる子も出てくる。
月末付近になって、
兄が突然焦り始めた。
「名刺が3枚足らない!」
その様子を見た弟が、冷静に提案する。
「じゃあ、3枚貸してやろうか?
でも来月には4枚にして返せよ」
追い詰められた兄はこの提案に飛びつく。
なんとか危機を回避するも、
来月から彼には、
名刺返済の日々が待ち受けるのだった……。
自由と強制
ここまでの話で、
ただの紙切れが価値を持つ過程を、
なんとなく、
理解していただけたのではないでしょうか。
しかし、
この物語の本質はそこだけに留まりません。
少し物語を早送りしてみましょう。
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子供たちはこのルール上で生活するうちに、
徐々に知恵を付け始める。
今月はがむしゃらに働いて、
名刺を100枚集めた。
これで3か月間は、
働かずに遊んで暮らせる。
1人ぐらいはこんな努力家もいるだろう。
ただし、
1人だけなら問題はないが、
子供たち全員が、
名刺100枚集めるとどうなるか。
屋敷は3か月間、
誰も手入れをしないまま荒れ果てていく。
この事態を前に、
モズラーは断固たる措置を取ることにした。
「今月から名刺の提出は、
毎月50枚に引き上げる!」
子供たちが驚く間もなく、
更に労働の対価も変更。
・洗濯物をたたむ:名刺0.5枚
・食器を洗う:名刺1枚
・廊下を掃除する:名刺2枚
・庭の草刈りをする:名刺3枚
子供たちは猛反発したものの、
父親の絶対的な権力には敵わない。
こうして再び、
名刺を巡る労働の日々が始まるのだった。
税金の役目とは
有害なタバコを吸うから税金を徴収する。
車は道路を傷めるから税金を徴収する。
金持ちだから税金を徴収する。
独身だから税金を徴収する。
税金はどうにも、
罪滅ぼしのために払っている感があるが、
モズラーの屋敷ではそうではない。
モズラーの屋敷では、
名刺が貨幣であり、
名刺の提出が租税である。
屋敷内で名刺が多く出回れば、
子供たちは労働をサボりだすので、
提出すべき名刺の枚数を増やす。
反対に、
子供たちが風邪を引いて
労働ができず名刺が不足した場合、
提出枚数を減らして来月に期待する。
つまりモズラーにとって、
名刺(貨幣)はいくらでも作成可能で、
名刺の提出(租税)もモズラーのさじ加減。
よくMMTで批判されるのが、
「お金を無限に刷れるなら、
お金の価値は下がって、
ハイパーインフレになる!」
確かにこれは正論ですが、
それを防ぐ手段が租税です。
市場にお金があふれているなら増税を――。
市場にお金が不足しているなら減税を――。
たまにこんなフレーズを、
耳にしたことはありませんか。
「財源の確保が難しいので増税します」
これをモズラーの名刺に置き換えると、
名刺はいくらでも自分で作れるのに、
「名刺が足らないから、お前らよこせ」
と、子供たちから無理やり、
名刺を徴収しているようなものです。
こうなると、
モズラー家で暴動が起きるのも時間の問題。
「名刺が無いなら自分で作れよ!」
子供たちは怒りの声を上げるでしょう。
これは完全に、
モズラーが名刺の管理を怠った結果です。
さて、私たち日本国民は、
いったい何を目的として、
日本政府に税金を納めているのでしょうか。
おわりに
『モズラーの名刺』は、
あくまで例え話に過ぎません。
実際にこの仕組みを導入しようとすると、
現実はそう単純ではないでしょう。
政治家の皆さんも、
勉強会などでMMTを学んでいますが、
その理解にはまだ時間がかかるようです。
なにしろ、このMMTは、
「天動説」から「地動説」へと、
常識が覆るほどの大転換を含んでいます。
それゆえ、反対派も多く、
議論が白熱するのも当然と言えるでしょう。
仮にMMTが広く受け入れられれば、
「日本は借金大国で財政破綻する」
と、煽ってきた経済学者たちは、
その「飯の種」を失うことになります。
ネガティブな話題のほうが
人々の注目を集めやすい――。
保険業界と似たような構図が、
ここにも見え隠れしています。
僕自信、
このMMTが本当に正しいのかは、
まだ結論を出せていません。
しかし、
お金の仕組みを考えるうえで、
MMTは非常に興味深い視点を、
私たちに提供してくれます。
簿記の知識も活用できるので、
1度はMMTに、
向き合ってみてはいかがでしょうか。
ありがとうございました。