- 投稿日:2025/04/30
- 更新日:2025/09/29

はじめに
皆さん、モテたいと思っていますか?おそらく多くの人間(特に男性)はモテたいと思っているでしょう。男女問わずにモテるために仕事や課題に打ち込んでいる人も少なくありません。また、効果があるかないかは不明ですが、モテアイテムというのはいつの時代も売れており、きっと今後も売れることでしょう。
そんなモテたいという欲求ですが、いったいどこから来ているのでしょうか?この記事を読めば、男性は自分の欲求の根源を理解し、女性は周囲の男性が何故あんなにモテたがっているのかが理解できるかもしれません。モテの本質を理解することで、自身の行動を制御して快適に生活していきましょう。
なお、本記事では主に進化生態学の観点から話を展開していきます。進化生態学上の理論はヒト(※1)においても当てはまる場合は多々あります。しかし、その理論をそのまま実生活で活用すると人間社会における現代日本の社会通念、コンプライアンスにはそぐわない可能性も多分に含むため、十分にご留意ください。
※1 便宜上、生物種としての人間は「ヒト」、人間社会における人格を有
した人間を「人間」と表記します。
オスとメスの違い
そもそもオスとメスって何?
生物の繁殖様式には無性生殖と有性生殖がある。無性生殖は単独で繁殖を行えるが、有性生殖はそうもいかない。有性生殖は同種の他個体と生殖細胞を合体させることで新たな個体を生み出す。このプロセスにおいてオスとメスが発生した。
生殖細胞の内、小さい生殖細胞を持つタイプをオス、大きい生殖細胞を持つタイプをメスと定義している。同種でもオスとメスでは細かな違いは有れど、本質的にはこの生殖細胞の大きさによるタイプの違いに過ぎない。
オスとメスが抱えるコストの違い
前述したように小さい生殖細胞を持つタイプがオスで大きい生殖細胞を持つタイプがメスである。そして生殖細胞を作成するにはコストが必要だ。小さい細胞を作るには小さいコストで大きい細胞を作るには大きなコストが必要である。メスの方が生殖におけるコストが高いのは必然なのだ。そのためメスの数が種全体の個体数のボトルネックとなる。たまにテレビ報道などで、「自然は調和がとれており~」「種全体の繁栄のために~」などといったりするが、あれは明らかな間違いであり、種の繁栄のために効率よく個体数を増やすのであれば、少数のオスに対して多数のメスがいる状態が最も効率が良い。しかし、特殊な条件下(※2)を除き、そのような事例はない。
なぜなら、生物・・・というか遺伝子はおしなべて「自己中心的」だからである。
※2 ハチやアリなどにおいてみられ「局所配偶競争」と呼ばれる
オスとメスは何故1:1なのか?
遺伝子が自己中心的である結果として、自然界では多くの生物がオスとメスの比率は1:1となる。なぜなら、メスが多い環境を作ったほうが、「種としては」より多くの個体を増やすことが出来るが、その環境ではオス側の遺伝子の方が有利になり、母親は選択可能ならオスを産むようになってしまうからだ。種類全体>個体群>個体>細胞>遺伝子と構成要素にはレイヤーがあるが、基本的には下位レイヤーに最適なように行動は支配される(※3)。細かい説明は省くがフィッシャー性比といい、モデル計算をするとそうなる(※4)。
実際、ヒトにおいても国や年代、時代によって差は有れど概ね1:1である。細かく言うと出生時には100:105程度で男性の方がやや多く、公立小学校などをイメージしてもらうと分かりやすいが、40人のクラスでは男の子が21人~23人、女の子が17人~19人程度になるかと思われる。
※3 がん細胞しかり。
※4 実は私もよくわかっていない。詳しい人は教えてください。
メスは基本は「選ぶ側」
さて、オスメス比が1:1の時にどのような問題が発生するのか。前述のようにメスの方が生殖コストが高い。個体数の比率は1:1であっても実質的なコスト負担はメスに偏るのである。言い換えればオスが余る状態となる。それゆえに、メスはオスの選定には慎重になる。多くの生物で、オスがメスにアピールをしてメス側がオスを受け入れるか否かを判断する(例:クジャク、シオマネキ、ハエトリグモetc)。
それゆえにオスは「モテたい」
遺伝子が自己中心的であるがゆえに、個体の戦略としてはコストが発生し、オス側は「モテ」にコストを払わなければならない。オスが非モテである場合は、次世代への遺伝子は残すことが出来ずに、遺伝子が消滅する。オスにとってはモテないことは致命的なのである。そのため、モテへの渇望もひとしおだ。一方でメスは非モテであっても、いずれはお鉢が回る可能性が高く、モテに対するコストは低い。
むしろ、トンボの一種ではメスはモテるとオスからセクハラを受けるために、あえて非モテを装う種類もいる。トコジラミやショウジョウバエでもメスがモテることによるコストが発生するため、オスと違い、メスにはモテが不要な場合が多い(※5)
※5 昆虫の中でもシロオビアゲハでは例外的にメスの非モテがコスト
になる例もみられる。
オスが「選ぶ側」になるには?
基本的にはメスが選ぶ側ゆえに、オスはモテたいというのが今までの論点である。しかし、何事にも例外はつきもので、メスがモテたい事例も存在する。そもそも、オスのモテへの欲求は「実質的にオスが余ってるから」であり、その根本は生殖コストの不均衡から生じる。つまり生殖コストがオスに偏り、かつオスとメスの比率が1:1であればオスがメスを選ぶ現象が発生することが予想される。実際にどんな場合なのか?
よく例として挙げられるのが「マウスブルーダー」と呼ばれるテンジクダイの仲間だ。文字通り、マウス(口)でブリード(養育)する生態を持つ。どういうことかというと、口に卵を入れて、稚魚となって泳げるようになるまで、外敵から守り続ける。その間は卵が口に入っているので食べ物を食べることが出来ない。この役目をオスが担っているのである。この生態においては卵を産むメスではなく、卵を育てるオスのほうが生殖コストは高くなる。そのため、オスがメスを選ぶという行動が発生する。
例えば♀Aと♀Bが同時に♂へ求愛したとしよう。その際に、オスはまずは体のサイズの小さい♀Aから「いったん」卵を受け取る。そして、その卵を食べてしまい、体の大きい♀Bからより多くの卵を受け取り、それを子どもとして育てるのだ。人間社会であれば、♀Aから刃物で刺されるような案件だが、テンジクダイの世界では平然と行われる。
コオイムシに学ぶ、「モテるイクメン」テクニック
タダ乗りされてもモテを優先する
コオイムシという水中に住むカメムシの仲間は、昆虫では珍しく子育てをする。ここまでに記載した理論により、オスがメスを選ぶ側の生物だ(男性諸君は来世ではコオイムシに転生できるように祈っておこう)。
なんと、近年の研究により、コオイムシが背負っている卵は自分の子どもではないものが35%も含まれているのだそうだ。自分の子どもを他人に育てさせるフリーライド(タダ乗り)行動は、他の生物種でも見られる行動である(アリ、トリetc)。しかし、フリーライドされる側もそのままフリーライドを許していると自分自身の大きな適応度(※6)の低下につながり、その遺伝子、もしくは個体群を構成する社会そのものが消滅してしまう。前章で説明した通り、今生き残っている生物とは根本的に「自己中心的」なのだ。
では、コオイムシはこのフリーライドにいかにして対応しているのか?なんと、コオイムシのオスは卵を背負っているという外見で「イクメンである」とみなされ、モテるらしい。35%も他オスの卵を背負うというのは大きなコストである。しかし、そのコストを乗り越えてでも、モテにインセンティブが発生するのだ。
ちなみに一切の子育てをしない非イクメン型のコオイムシも存在する。これは「スニーカー」と呼ばれ、魚類などではよく見られる戦略である。そうなると非モテの非イクメン型コオイムシがどのように機会を得ているかも気になるところだが、研究内容からそこまでは読み取ることは出来なかった。
※6 次世代に自分の遺伝子を残せる度合
この話から得られる教訓
さて、コオイムシの事例を(無理矢理)ヒトにも当てはめて教訓を得よう。私が提唱するのは
「マッチングアプリ、大量の赤ちゃん人形と一緒にプロフ写真を取ればモテる説」だ(※7)。
コオイムシのようにイクメンぶりをアピールしておけば、適応上の不利益を覆してでもモテるという実に合理的なアイデアだ。
また、モテ用アイテムとしてリアル赤ちゃん人形が爆売れする(かもしれない)ということでもある。ハンドメイド作家の人は作るべし!(※8)
※7 あくまでもコオイムシにおける戦略である。
実際にヒトで採用して成功しなかった場合の責任は負いかねる。
※8 あくまでもコオイムシにおける(以下略
まとめ
✅現存生物は自己中心的であるがゆえにオスとメスは1:1になる
✅多くの生物では(実質的に)オスが余るので、モテたいオスであふれる
✅コオイムシ界隈ではイクメンがモテる
✅リアル赤ちゃん人形を製造・販売しよう
参考資料
参考書籍
Jonh Alcock
Animal Behavior ninth edition
Douglas J.Futuyma
Evolution, Second Edition.
千葉 聡
ダーウィンの呪い
長谷川 英祐
働かないアリに意義がある
参考HP
コオイムシ研究プレスリリース
“イクメン昆虫”の意外な素顔?コオイムシの仔育て事情に新発見!
フィッシャー性比の解説
なぜ動物の性比は1:1なのか?-フィッシャーの原理(個人サイト)
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