- 投稿日:2025/08/05
- 更新日:2025/09/29

こんにちは。不動産業界歴20年以上、東北で現役の不動産屋として日々活動しているパパッパです。
この物語は、「田舎の実家を売ろうかな」と思ったときに、誰もが直面する“リアルな戸惑い”を描いています。
ネットにはたくさんの情報がありますが、それをどう活かすかは別の話。
一見「正しそう」なやり方でも、前提が違えばうまくいかないこともあります。
そんな現場での“あるある”や気づきを、ドラマ仕立てでお届けしています。
難しい言葉はできるだけ使わず、不動産に詳しくない方にも読みやすい内容を心がけています。
理沙や杉山と一緒に、少し先の未来をのぞく気持ちで読み進めてみてください。
なお、前回の【第1章】では、理沙が実家の売却に向けて一括査定サイトを試してみたものの、地方では対応してくれる不動産会社が少ない現実に直面し、自ら地元の会社を回る決意をした場面を描きました。
▶︎ まだの方はこちらから|現役不動産屋が教える【一括査定に頼れない田舎の空き家の売り方】──同じ悩みを抱えた2人の空き家売却物語
それでは、続きをどうぞ。
第2章「媒介契約の誤解」
「媒介契約って、3種類あるってことは知ってるんですけど……違いはなんとなく分かったような、分かってないような感じで」
理沙がそう言いながら、バッグから折りたたんだメモを取り出す。
実はこの日のために、分からないことや聞いてみたいことを、あらかじめ箇条書きにしてまとめてきていたのだ。
宮下は穏やかにうなずいた。
「はい。《一般媒介》《専任媒介》《専属専任媒介》の3種類ですね。これは宅建業法という法律で定められていて、それぞれに不動産会社が果たすべき役割があります」
「役割、というのは?」
「たとえば、専任媒介や専属専任媒介では、販売活動の経過を定期的に売主に報告する義務があります。また、《レインズ》という不動産業者間の情報ネットワークへの登録も必要です。一般媒介だと、それらが義務ではなくなります」
「はい、そんな内容を見たことがあります」
理沙がメモに目を落としたのを確認して、宮下は穏やかに続ける。
「ただ、実務的な感覚で言うと、3つに分けて考えるよりも──
《複数の会社を販売窓口にできる契約》と《特定の1社だけを販売窓口に指定する契約》という2つのパターンに分けたほうが、ずっと分かりやすいと思います。
《複数の会社を販売窓口にできる契約》が、一般媒介契約。
一方、《特定の1社だけを販売窓口に指定する契約》が、専任媒介契約と専属専任媒介契約です。」
「なるほど……その方が整理しやすいですね」
宮下は、うなずきながら続けた。
「媒介契約の本質的な違いは、まさにここです。
売主が直接やりとりする窓口が複数か、
それとも1社か──
その違いが、いちばん大きなポイントなんです」
理沙は、少し身を乗り出しながら言った。
「分かります。だから、1社にしか任せられない専任媒介よりも、複数に依頼できる一般媒介の方が売りやすいってことですよね」
宮下は、ゆっくりと首を横に振った。
「違います。でも、そう思い込んでいる方は少なくありません」
「思い込んでいる……?」
「はい。実は、それはよくある誤解なんです
『一般媒介の方が売りやすい』のではなくて──
『売りやすい物件には、一般媒介の方が向いている』
というのが正確な表現なんですよ」
「えっ……どういうことですか?」
理沙は思わず聞き返した。
「たとえば、駅チカの新しいマンションや、相場よりも魅力的な価格で出せる物件。つまり、情報を出せばすぐに問い合わせが来るような“売りやすい物件”は、どの会社が扱っても売れる可能性が高い。
だから、一般媒介でいくつかの会社に同時に声をかけるのは理にかなっています」
「なるほど……」
「でも逆に、売れるまでに時間がかかりそうな物件──たとえば、立地や築年数に課題がある場合などは、しっかり販売戦略を立てて取り組む必要があります。
そうなると、販売活動にかかる労力や時間も増えるので、専任で1社に集中してもらった方が、結果的に動いてもらえる可能性が高くなるんです」
「確かに……たくさんの会社に声をかけてると、どこがどのくらい動いてくれてるのか分かりにくいかも……」
「まさにそこです。一般媒介だと、他の会社で決まるかもしれない前提で動かざるを得ません。
専任媒介や専属専任媒介なら、“うちが売る”という覚悟で取り組める。
つまり、どの契約を選ぶかによって、不動産会社がどれだけ積極的に動いてくれるか、その温度感が変わるんです」
理沙は黙ってメモをとったあと、小さくうなずいた。
「なんだか、ちょっと腑に落ちてきました」
宮下はにっこりと笑みを浮かべた。
「どの媒介契約が正解かは、売主さんの考え方や物件の状況によって変わります。それを一緒に考えるのが、私たち不動産会社の役割でもありますから」
理沙は、あらためて手元の資料に目を落とした。
(どこに依頼するか、どう売り出すか──思っていたよりも、ずっと奥が深い)
宮下は、さらに続けた。
「ケースバイケースですが、複数の会社に声をかけるよりも、信頼できる1社に任せた方が、結果的に良いご縁につながることもあるんですよ」
「どういうことですか?」
理沙が首をかしげる。
──次章に続く。
📘 次回予告
「どの媒介契約を選ぶか」で、不動産会社の動き方が変わる──。
宮下の言葉に、理沙はようやく“売却のスタートライン”に立った実感を持ち始めます。
次回・第3章では、そもそも「不動産仲介とは何か?」をテーマに、宮下からその仕組みを教わります。
さらに、一般媒介が“悪徳業者を排除しやすい”と言われる理由にも、理沙が迫っていきます。
信頼できる会社と出会うために、知っておきたい「不動産業界の内側」。
▶︎ 続きはこちら|現役不動産屋が教える【“悪徳業者”を排除する方法】──同じ悩みを抱えた2人の物語
どうぞお楽しみに!