- 投稿日:2025/10/07

静岡の日本酒は、華やかすぎず、かといって地味でもない——。
その絶妙な“中庸の美”こそが最大の魅力です。
富士山・南アルプス・天竜川など、清らかな水源に恵まれた土地では、極めてやわらかな軟水が得られます。
この水が生み出すのは、やさしい口あたりと雑味のない透明感。
そして職人たちはその水に寄り添い、香りと味のバランスを磨き上げてきました。
今回は、そんな静岡の中でも特に完成度の高い3蔵——
花の舞酒造(浜松)・神沢川酒造場(由比)・磯自慢酒造(焼津)——の逸品をご紹介します。
どれも「静岡らしさ」を体現する、香り高く清らかな日本酒です。
1. 花の舞 吟醸(花の舞酒造/浜松市)
花の舞酒造は、静岡県産の米・水・酵母にこだわった“オール静岡”の酒蔵。
地元の契約農家と共に米を育て、浜松のやわらかな地下水で仕込むスタイルを守り続けています。
吟醸酒は、そんな蔵の哲学をそのまま映した一本。
香りは穏やかに立ち上がり、口に含むと優しい甘味がふわっと広がります。
米の旨味と軽やかな酸のバランスが良く、後味はすっと消えるように繊細。
派手さはないけれど、毎晩飲んでも飽きない“日常の美酒”です。
おすすめペアリング
鰻の白焼き:香ばしさと柔らかな甘味が見事に調和。
桜えびのかき揚げ:軽い油を香りの余韻が洗い流す。
出汁巻き卵:優しい旨味が層になり、食中に寄り添う。
「花の舞」は静岡の家庭に寄り添う酒。
一見控えめでありながら、しっかり芯の通った一本です。
2. 正雪 純米吟醸(神沢川酒造場/静岡市清水区由比)
東海道の宿場町・由比で300年以上続く蔵。
「正雪」という名は、徳川家康に仕えた軍師・由比正雪に由来します。
その名の通り、静けさの中に凛とした強さを秘めた酒が特徴。
純米吟醸は、香りとキレのバランスが静岡酒の理想形。
飲みはじめは青リンゴのような爽やかさ、
中盤にはふくよかな米の旨味、
そして最後は潮風のような清涼感を残してすっと消える。
軽やかで上品、それでいて飲み応えもある一本です。
おすすめペアリング
白身魚の昆布締め:淡い旨味と香りが共鳴。
湯葉刺し・冷ややっこ:大豆の甘味と酸味が溶け合う。
カツオのたたき:香ばしさと爽快感が交差する絶妙なバランス。
神沢川酒造場の酒は、“香るけれど食事を邪魔しない”という信念のもとに造られています。
まさに駿河湾の風景をそのまま閉じ込めたような一本です。
3. 磯自慢 大吟醸(磯自慢酒造/焼津市)
焼津港の町に蔵を構える磯自慢酒造は、全国屈指の吟醸蔵として知られています。
使用する水は、南アルプス・安倍川水系の極軟水。
酒米には兵庫県特A地区産の山田錦を採用し、極限まで丁寧に磨き上げます。
磯自慢の大吟醸は、“静岡の芸術品”といっても過言ではありません。
香りは清らかで控えめながらも、深みのある果実香。
口に含むと、舌の上を滑るように広がり、静かに消えていく——。
その余韻は、まるで山の雪解け水のように澄み切っています。
冷酒で飲むと水のような透明感、常温では白桃のような甘い香りが開き、燗にすればふくよかな旨味へと変化。
一度の杯で三つの表情を楽しめる完成度の高さは、まさに職人技。
おすすめペアリング
金目鯛の煮付け:繊細な香りが甘辛いタレを整える。
貝の酒蒸し:海の旨味と吟醸香が溶け合う。
伊勢海老の刺身:繊細な甘味を引き立てる贅沢な組み合わせ。
磯自慢酒造の酒は、静岡の自然と人の技が生んだ結晶。
飲み終えたあと、グラスの中に“静寂”が残るような一本です。
まとめ
静岡の日本酒は、どこまでも清らかで、どこまでも丁寧。
花の舞酒造(浜松):やさしく香る、日常に寄り添う地酒。
神沢川酒造場(由比):香りとキレの調和、静岡酒の理想形。
磯自慢酒造(焼津):透明感と余韻の極致、吟醸の到達点。
静岡の酒には、富士の雪解け水のような“静かな力”が宿っています。
派手な香りでなく、深く澄んだ香り。
濃い旨味ではなく、透明な旨味。
その美しさは、飲み終えたあとにふっと残る余韻でこそ語られるのです。
この秋、ぜひ静岡の一杯で、心まで澄みわたる時間を過ごしてみてください🍶🌿