- 投稿日:2025/11/07
- 更新日:2025/11/07
「鍼灸師ってどんな仕事?」
そう聞かれたとき、私はこう答えます。
——“身体の痛みを和らげ、心の不安を癒す仕事”です。
鍼灸は、東洋医学に基づく日本の伝統医療です。
薬を使わず、鍼(はり)や灸(きゅう)によって人が本来持つ「治ろうとする力(自然治癒力)」を引き出し、
肩こり・腰痛から不眠、ストレス、美容まで、幅広い悩みに対応します。
私は大学助手として教育現場に立ちつつ、附属鍼灸院で患者さんと向き合う日々を送っています。
この記事では、そんな私が感じる「鍼灸師という仕事のリアル」や「この道を選んでよかったと思う瞬間」をお伝えします。
第1章:鍼灸師とはどんな仕事?
鍼灸師は、国家資格を持って鍼やお灸を使い、身体のバランスを整える専門職です。
扱う症状は、一般的な肩こり・腰痛・神経痛だけではありません。
ストレス、不眠、冷え、便秘、めまい、自律神経の乱れ、そして美容目的など、多岐にわたります。
多くの患者さんは、「病院では異常がない」と言われても、どこか不調を感じています。
そんなときに頼りにされるのが、鍼灸師です。
鍼灸では、身体全体の流れを重視します。
東洋医学では「気・血・水」という概念で身体を捉え、
「どこが滞っているか」「どこにバランスの乱れがあるか」を見極めて施術を行います。
つまり、鍼灸師は“身体の声を聴く専門家”。
痛みのある場所だけでなく、その背景にある生活習慣や心の状態までも含めて、人を「全体」で診るのです。
第2章:鍼灸との出会い——“薬ではなく、人の力で治す医学”
私が鍼灸に出会ったのは高校3年生のときでした。
進路を迷っていた私は、西洋医学のあり方に少し疑問を持っていました。
病気を治すために薬Aを処方し、その副作用を抑えるために薬Bを出す。
たしかに合理的で効果的な側面もありますが、「本当に身体のためになっているのだろうか?」と感じていました。
そんな時、母が美容鍼灸に通っていたのをきっかけに、鍼灸という世界を知りました。
調べてみると、鍼灸は身体そのものの回復力を高める医学。
薬で抑えたり治療するのではなく、“人が本来持つ力を引き出す”という考え方に心を打たれました。
祖父が大量の薬を飲んでいる姿を見て感じていた違和感に、ようやく答えを見つけた気がしました。
「これだ。これが本当の医療だ。」
そう思った瞬間、私は鍼灸師を志すことを決めました。
※この時は0か100でしか考えられていなかったため、鍼灸が一番と思っていましたが、今は西洋医学の素晴らしさを学びました(笑)
第3章:鍼灸師のリアルな働き方
現在、私は大学助手として学生教育に関わりながら、附属鍼灸院で臨床を行う二足のわらじで活動しています。
🔹 大学助手としての仕事
授業では、学生が実技でつまずいたときに、年齢の近い立場だからこそできる距離感でサポートをしています。
「わからない」「できない」と感じている学生に寄り添い、「できた!」と笑顔がこぼれる瞬間が、この仕事の楽しみです。
🔹 臨床現場での仕事
火曜・木曜・土曜は附属鍼灸院に勤務し、患者さんを施術しています。
患者層は幅広く、下は幼児から上は90代まで。
主訴は肩こり・腰痛・自律神経症状・膝痛などの一般診療が中心で、
美容鍼灸では40〜50代の女性からの相談が多くあります。
以下のグラフは私が施術している症状の割合です。👇
🔹 1日の流れ
出勤後、カルテを確認して午前診療の準備。
午前診療 → カルテ作成 → 昼休み → 午後診療 → カルテ作成という流れです。
施術は「問診 → 検査 → 施術内容の説明 → 施術 → セルフケア指導」という順で行います。
患者一人ひとりの体質や生活が異なるため、同じ症状でも治療法が変わります。
毎日が勉強で、毎回が真剣勝負。
それがこの仕事の奥深さであり、魅力でもあります。
第4章:一般診療と美容鍼灸の違い
鍼灸には大きく分けて「一般診療」と「美容鍼灸」の2つの領域があります。どちらも同じ“鍼”を使いますが、目的も患者との向き合い方も少し異なります。
🔹 一般診療
肩こり・腰痛・膝痛といった身体の痛みを中心に、しびれや自律神経の不調、めまい、不眠など多様な症状に対応します。
ただ痛みを取るだけでなく、「なぜそこに負担がかかったのか」を探るのが鍼灸師の役目です。
例えば、肩こり一つをとっても、
・長時間のデスクワークによる姿勢の悪化
・目の疲れやストレスによる筋緊張
・内臓機能の低下による循環不良
など、原因は人それぞれです。
問診では身体のことだけでなく、生活習慣・睡眠・心の状態なども丁寧に聴きます。
痛みの背景には、不安や抑うつといった“心の疲れ”が隠れていることも多いからです。
鍼灸師は、ただ「痛いところに鍼を打つ人」ではありません。
患者の心身全体を整える、いわば“伴走者”なのです。
🔹 美容鍼灸
一方で、美容鍼灸では肌のたるみ・しわ・くすみ・むくみなどの改善を目的とします。
しかし「美容」といっても、外見だけの話ではありません。
肌の状態は、体の内側の健康と密接に関係しています。
食事・睡眠・ホルモンバランス・ストレスなど、体内環境が整うことで肌の調子も上がるのです。
そのため美容鍼灸では、「健康の先にある美しさ」を大切にしています。
鍼を通して顔だけでなく全身の血流を整え、
患者が鏡を見て笑顔になる瞬間を一緒に迎える——そんな仕事です。
美容鍼灸の現場では、効果とホスピタリティの両立が求められます。
リラクゼーションサロンとは違い、「国家資格を持つ医療者」として信頼に応える責任があります。
第5章:やりがいと難しさ
鍼灸師として働いていて、何より嬉しいのは「ありがとう」と言われる瞬間です。
それは単に症状が軽くなったという感謝ではなく、
「自分のことを分かってくれた」「心が軽くなった」という気持ちが込められていると感じます。
整体やマッサージのように相性がある世界ですが、
不思議と波長の合う患者さんが増えると、治療院全体が心地よい空間に変わっていきます。
学長の言葉を借りれば、「気の合う仲間とワイワイしたい」という感覚に近いです。
一方で、難しさもあります。
鍼灸院に来る方の多くは「もう何をしても良くならなかった」という思いで訪れます。
だからこそ、施術には高い集中力と責任感が必要です。
毎回の問診・施術の積み重ねが、その人の人生の一部になる。
それを意識するほど、「自分の勉強不足で患者に不利益を与えたくない」という想いが強くなります。
この仕事に“完成”はありません。
常に学び続け、経験を積み、技術も心も磨き続ける。
それが鍼灸師という生き方です。
第6章:広がる活躍の場
近年、鍼灸師の活躍の場は大きく広がっています。
かつては「治療院で施術をする人」というイメージが強かったかもしれませんが、今はそれだけではありません。
🔹 医療・介護現場
病院や老健施設で、リハビリ・疼痛緩和・認知症ケアなどに携わる鍼灸師が増えています。
医師や看護師、理学療法士などと連携し、チーム医療の一員として活動するケースもあります。
🔹 スポーツ・アスリート分野
プロ選手のコンディショニングやケガの早期回復を支援するトレーナーとしての需要も高まっています。実際、トレーナーの持っている資格第一位は鍼灸の結果があります。
身体の微細な変化を見抜く鍼灸師の感性は、トップアスリートにも重宝されています。
🔹 美容・健康産業
美容鍼灸のほか、体質改善・ダイエット・女性特有の悩みなど、
美容と健康を融合したメニューを展開するサロンや企業も増えています。
🔹 教育・研究
大学・専門学校などで後進を育てる教育者、
あるいは東洋医学のエビデンスを探求する研究者としての道もあります。
🔹 独立・開業
鍼灸師は開業権を持つ国家資格。
自分の治療院を開き、理想のスタイルで働けるのも魅力のひとつです。
副業や業務委託など柔軟な働き方も可能で、
ライフステージに合わせたキャリア形成ができます。
第7章:鍼灸師の未来と「心救師」という想い
現代の日本は高齢化が進み、医療費が年々増え続けています。
そんな中で注目されているのが、「病気になる前に整える」予防医療です。
鍼灸はまさにこの予防医療の中心にあります。
西洋医学のように“病気を治す”だけでなく、
「体調を整える」「未病を防ぐ」ことを目的に、
人が本来持っている自然治癒力を最大限に引き出すのです。
この“未病”という考え方は、まさに東洋医学の真髄。
少し疲れやすい、眠りが浅い、気持ちが落ち込みやすい——
そんな「まだ病気ではないけれど不調な状態」を改善できるのが鍼灸の強みです。
私はこの仕事を通して、
身体だけでなく心も救う「心救師」になりたいと考えています。
鍼を打つことで血流が変わるように、
人の言葉や関わり方ひとつで“心の巡り”も変わります。
痛みや不安を抱える人が、少しずつ笑顔を取り戻していく。
その瞬間に立ち会えることが、鍼灸師としての一番の喜びです。
第8章:これから鍼灸を学ぼうとしているあなたへ
「鍼灸に興味があるけど、今からでも遅くないかな?」
そんな不安を感じている社会人の方に、私ははっきり伝えたいです。
——鍼灸師は、何歳からでも目指せる仕事です。
鍼灸師は国家資格であり、年齢・経歴・職歴に関係なく挑戦できます。
実際に学校では、20代の学生と一緒に学ぶ30代・40代・50代の社会人も珍しくありません。
むしろ人生経験を積んだ社会人の方ほど、患者の気持ちを理解しやすく、
臨床の現場で頼りにされる存在になっています。
学校では、東洋医学・解剖学・生理学・臨床実技などを3年以上かけて学びます。
初めは難しく感じることもありますが、
「人の身体の仕組みを理解し、自分の手で改善できるようになる」喜びは格別です。
鍼灸師の魅力は、働き方の自由度が高いこと。
病院勤務、スポーツ現場、美容サロン、介護施設、教育機関、独立開業——
自分の生き方に合わせてキャリアを築くことができます。
🙍「人のためになる仕事がしたい」
🙍♀️「感謝される仕事に就きたい」
🙎♂️「一生使える技術を身につけたい」
そのどれもが、鍼灸師という職業で実現できます。
結び
鍼灸師は、ただ身体の痛みを取るだけの仕事ではありません。
痛みの裏にある「不安」や「孤独」に寄り添い、
その人の人生を少しでも前向きにできる、“心を救う仕事”です。
私自身、鍼灸師としての毎日は決して楽ではありません。
一人ひとりの患者と真剣に向き合い、悩み、考え、学び続ける日々です。
それでも——
「あなたに出会えてよかった」と言ってもらえる瞬間があるから、
この仕事を誇りに思います。
鍼灸師とは、心と身体をつなぐ架け橋となる仕事。
高校生でも社会人でも、
「人を支えたい」という想いがあるなら、きっとこの道があなたを待っています。