- 投稿日:2026/01/07
- 更新日:2026/01/07
高齢者事故の現状と、見えにくい課題
高齢ドライバーによる事故は、ニュースなどでも繰り返し取り上げられています。そのたびに、「免許は早めに返したほうがいいのではないか」と感じる方も多いかもしれません。
実際、地域包括支援センターにも、高齢者の運転や免許返納に関する相談が年々増えています。
ただ、現場で相談を受けていると、この問題は「事故の多さ」だけでは語れないと感じることが少なくありません。
地方で住まわれている方は、
・公共交通機関が少ない
・買い物や通院に車が欠かせない
・運転が生活の自立や社会参加につながっている
といった事情があり、免許の有無が生活そのものに直結しているケースも多く見られます。
一方で、加齢に伴う判断力や反応速度の低下、物忘れへの不安を感じる家族が増えているのも事実です。
こうした背景が重なることで、免許返納は「安全の問題」であると同時に、生活や家族関係に深く関わるテーマとなっています。
「免許を返してほしい」と言えない家族
「まだ運転して大丈夫なのかな…」
「でも、もし事故を起こしたら…」
地域包括支援センターには、高齢者の免許返納について、家族からの相談が多く寄せられます。
家族は、事故のニュースや日々の変化を目にしながら、「何か起きてからでは遅い」という不安を抱えています。それでも、本人にどう切り出せばいいのか分からず、言葉を飲み込んでしまうことも少なくありません。
一方で、本人からは「返したら生活できない」「病院や買い物に行けなくなる」といった声が聞かれます。
このテーマは、「事故を防ぎたい家族」「これまでの生活を守りたい本人」の思いが、正面からぶつかりやすい問題です。
そのため、免許返納の話題は、安全の話であるはずなのに、いつの間にか家族関係を揺るがすきっかけになってしまうこともあります。
返納したくない本人の思い
― 地域包括支援センター職員の視点 ―
免許返納の相談で、私たち地域包括支援センターが本人と話をすると、最初に出てくる言葉は、意外にも強い拒否ではないことが多くあります。
「返したくない、というより…困るんです」
「どうやって生活したらいいのか分からなくて」
本人が免許を手放したくない背景には、運転そのものへの執着よりも、
その先にある生活への不安が大きく関係しています。
①「免許=移動手段」ではないという現実
高齢者にとって免許は、単なる移動手段ではありません。
・病院に自分のタイミングで行ける
・買い物を人に頼らずに済む
・知人や友人に会いに行ける
・「まだ自分でできる」という実感を持てる
免許を返すことは、こうした日常の選択肢を一気に失うことにつながる場合があります。
そのため本人にとっては、「危ないから返そう」という言葉が、生活そのものを否定されたように感じられることもあるのです。
② 本人が感じている、言葉にしにくい不安
包括職員として話を聞いていると、本人の不安は決して一つではありません。
・周囲に迷惑をかける存在になるのではないか
・家族に頼らなければならなくなるのではないか
・外出の機会が減り、孤立してしまうのではないか
こうした不安は、「まだ大丈夫」という言葉の裏に隠れていることが多く、
本人自身もうまく言葉にできていない場合があります。
③「まだ運転できる」という思いの正体
本人が口にする「まだ運転できる」「今まで事故は起こしていない」
という言葉も、単なる強がりとは限りません。
それは、これまで築いてきた生活や役割を、急に手放したくない
という自然な気持ちの表れでもあります。
包括職員として大切にしているのは、この言葉を頭ごなしに否定しないことです。
地域包括支援センターが見ている視点
地域包括支援センターは、免許を返す・返さないを決める場所ではありません。私たちが見ているのは、「返した後、その人はどう生活していくのか」
という点です。
・移動手段は代替できるか
・生活範囲はどこまで保てるか
・社会とのつながりは続けられるか
こうした点を整理しながら、本人が「自分で選んだ」と感じられる形を探していきます。
①本人の思いを理解することが、対立をほどく第一歩
免許返納の問題は、本人の思いを置き去りにしたままでは、
どれだけ正しい話をしても前に進みません。
・本人が何を失うと感じているのか。
・何が一番不安なのか。
そこに目を向けることが、家族との対立を和らげ、次の支援につながる第一歩になります。
②対立を整理する地域包括支援センターの役割
免許返納の相談が難しくなるのは、家族と本人、どちらかが間違っているからではありません。
・家族は「事故を防ぎたい」
・本人は「これまでの生活を守りたい」
守ろうとしているものが違うだけなのです。
地域包括支援センターがこの場面で担う役割は、どちらかの立場に立って結論を出すことではありません。
③「返す・返さない」を決める場所ではない
「地域包括支援センター職員から本人に免許証の返納をするように言って欲しい」と訴えてくる方がいますが、地域包括支援センターは、免許を返すかどうかを決める機関ではありません。私たちが最初に行うのは、感情と問題を分けて整理することです。
・何が心配で、どこが一番不安なのか
・何を失うと感じているのか
・どこまでなら受け入れられそうか
家族と本人、それぞれの話を丁寧に聞き、「対立」ではなく「課題」として並べ直すことを大切にしています。
④見ているのは「返納後の生活」
包括支援センターが一貫して見ているのは、免許を返したかどうかではなく、返した後に、その人の生活がどうなるかです。
・移動手段は代替できるか
・買い物や通院はどう確保するか
・外出や人とのつながりは続けられるか
これらを具体的に整理していくことで、本人にとっても家族にとっても、
「現実的に考えられる選択肢」が見えてきます。
第三者が入ることで、変わること
家族同士だけで話し合っていると、どうしても感情が先に立ってしまいます。第三者である包括職員が入ることで、言いにくかった本音が出てくる「責める」「守る」以外の視点が生まれる話し合いのゴールが「生活」に戻るといった変化が起こることも少なくありません。
①本人が「自分で選んだ」と感じられる形へ
免許返納に限らず、高齢期の選択で大切なのは、「納得して選べた」と感じられるかどうかです。
包括支援センターでは、本人が置かれている状況を整理し、選択肢を示しながら、最終的には本人の意思を尊重する関わりを心がけています。
それが結果的に、家族との関係を保ち、その後の支援を続けやすくすることにもつながります。
②迷ったときは、早めに相談を
免許返納の問題は、事故が起きてからでは遅く、
関係がこじれてからでは修復に時間がかかります。
・話し合いが進まない
・どう切り出していいか分からない
・家族だけでは抱えきれない
そう感じたときこそ、地域包括支援センターに相談してほしいタイミングです。各地域が免許書を返納した方に対しての支援制度等を紹介しています。
まとめ
高齢者の免許返納は、「危ないから返す」「まだ大丈夫だから続ける」
という単純な二択では語れない問題です。
事故への不安を抱える家族の思いと、これまでの生活や自立を守りたい本人の思い。どちらも大切で、どちらも間違いではありません。
だからこそ、この問題は家族だけで抱え込むほど、感情がすれ違い、対立が深まってしまうことがあります。
地域包括支援センターは、免許を返す・返さないを決める場所ではなく、
本人と家族、それぞれの思いを整理し、「返納後の生活」まで含めて一緒に考える相談先です。
話し合いが進まないとき、どう切り出せばいいか分からないとき、
関係がこじれてしまう前に、早めに第三者を交えて考えることが、
結果的に本人の納得と家族の安心につながることも少なくありません。
免許返納の問題で迷ったときは、一人で悩まず、地域包括支援センターに相談してほしいテーマの一つです。
地域包括支援センターの相談方法も記事に掲載していますので、ぜひこちらも読んでいただけると嬉しいです。
免許返納の話題で、今まさに悩んでいることや、誰かに聞いてみたいことがあれば、コメントで残していただければと思います。
最後まで記事を読んで頂き、ありがとうございました。