- 投稿日:2026/02/21
- 更新日:2026/04/04
【第10話】
■ 前回の読者レビューのご紹介
前話も、素敵なレビューをいただきました。
『OGA@🔰FIRE1年生さん、ありがとうございます。
「20年前に読んだ本が、今になって血肉となる感覚、よく分かります。知識は「情報」として入れる時と、「体験」として腑に落ちる時で、全く別物に見えますよね。」
私の不動産投資も、まさにそんな「じわじわ」とした納得の連続です。
■ 金曜日の折り込みチラシと、夕暮れのジョギング
当時の私は、週末になると金曜日の新聞に挟まった不動産の折り込みチラシを広げるのが密かな楽しみでした。気になる物件を見つけると、夕方のジョギングついでに外観をチェックしに行く。
「いつかは、自分でも中古アパートを修繕して運営してみたい」
そんな想いを、妻は隣で静かに見守ってくれていたのでしょう。
■ 「気になるなら、買えば?」という静かな号砲
ある月曜の夜、帰宅した私に妻がさらりと言いました。
「週末に見てきた物件、気になるなら買えばいいじゃない」 不意を突かれました。
元税務職員として、借金の怖さは誰よりも知っています。「公務員を勤め上げれば完済できる」という計算は立っていましたが、いざとなると足がすくむ。
そんな私の背中を、彼女は「だって、いつかあなたは買うんでしょ」という、まるで「私の心をお見通し」ような自然な口調で押してくれたのです。その一言は、私の人生にとって「静かな号砲」となりました。
■ 数字のプロが、妻の「感性」に完敗した日
さっそく不動産屋へ走り、20枚以上のチラシを握りしめて現地調査に明け暮れました。しかし、予算内の物件はどれも日当たりが悪かったり、ペンキが剥げ落ちていたりと、胸が高鳴りません。
意気消沈する私に、妻が放った二言目が、今の私の哲学を決定づけました。 「駅前のあの物件、いいんじゃない?」
「いや、あれは予算の3倍だよ。とても無理だ」
「でも、あなたが住みたいと思わない場所に、入居者さんが住みたいと思うかしら?」
ハッとしました。税務調査官として「数字の正しさ」ばかりを追ってきた私ですが、不動産賃貸業の本質は「人の暮らしを整えること」にある。自分が愛せない物件に、誰が愛着を持って住んでくれるのか。 数字上の利回りよりも大切な「手触り感のある納得」。
この瞬間、私の中に「Hands-on FIRE(自ら手を動かし、生活を整える)」の種が宿ったのだと思います。
■ 「言うは易し、行うは難し」のDIY奮闘記
結局、その駅前の運命的な物件を手に入れました。
私が最初に取り組んだのは、2DKのアパートを「少しでも広く、心地よく感じてもらう」こと、リビングとキッチンの床を、統一した木目調のクッションフロアに張り替える計画を立てました。 「同じ色にすれば、視覚的に広く見えるはずだ」 理屈では完璧でした。
しかし、いざカッターと接着剤を手に床に這いつくばると、現実は甘くありません。部屋の角の複雑なカット、空気が入らないように押し出す指先の痛み。 「言うは易し、行うは難し」 鼻をつく接着剤の匂いと格闘しながら、悪戦苦闘する数日間。でも、不思議と心は晴れやかでした。自分の手で、誰かの「住まい」を整えているという確かな手応えがあったからです。
■ 「じわじわ」と通じ合う、心の家主業
そうして「自分が住みたい」と思えるまで手をかけた物件には、温かな空気が流れ始めました。
ある日、アパートの庭で腰を屈めて草むしりをしていると、入居者さんが近づいてきました。 「大家さん、お疲れ様です。よろしければどうぞ」 差し出されたのは、冷たい缶コーヒーと小さなお菓子。
税務調査官時代、人から受ける視線には常に「警戒」や「緊張」がありました。でも今は、土に汚れた手で受け取るコーヒーの温かさが、何よりの報酬です。
「じわじわ」と。 最初は小さな節約や、一枚のチラシから始まった私の物語。それが妻の言葉で火がつき、DIYの苦労を経て、入居者さんとの交流という豊かな「社会資本」に変わっていきました。
定年を控えた皆さんに問いかけたいのです。 「その選択に、あなたの心はワクワクしていますか?」 数字の裏付けはもちろん大切です。でも、最後にあなたの背中を押すのは、きっと計算機ではなく、大切な人の一言や、自分自身の「手触りのある納得」ではないでしょうか。
■ 結びに
私のFIREは、あの日、妻がくれた「住みたいと思える場所を選びなさい」という言葉から始まりました。 65歳になった今、週3日の税理士仕事を終えた帰り道、夕日に染まるアパートを眺めるたびに思います。あの時、勇気を出してハンドルを握ってよかった、と。
人生、今日が一番若い日。 あなたも、まずは一枚のチラシを眺めることから、自分だけの「じわじわFIRE」を始めてみませんか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
※第11話は、「そして、不動産投資(苦労所得)はその芽は現実の選択の中で試されていく。」お話です。第11話はこちらから読めます
https://library.libecity.com/articles/01KHG9ECCVSB4A0F4DXY5800N1
