- 投稿日:2026/04/24
「自転車に乗るとき、ヘルメットをかぶらなかったりサンダルを履いていると、事故のときに保険がきかなくなるって本当?」
こんな話を耳にして、気になって実際に損保会社に電話で確認してみました。
担当者の回答は「保険がきかなくなるわけではないけど、不利になるかどうかは何とも言えない」というもの。
……正直、よくわかりませんよね。
そこで、弁護士の解説や裁判例をもとに、もう少し踏み込んで調べてみました。
◆ ヘルメットをかぶっていなかった場合
◇ 保険はきかなくなるの?
結論から言うと、ヘルメット未着用だからといって、加入している保険がきかなくなるわけではありません。
故意の事故や、飲酒・ながらスマホなどの重大な過失がある場合は補償対象外になることがありますが、ヘルメット未着用だけを理由に保険が無効になるという規定は基本的にありません。
損保担当者の「保険がきかなくなるわけではない」という回答は、この点では正しいと言えます。
◇ では「不利になる」とはどういうこと?
ここがポイントです。保険がきかなくなることはなくても、事故の状況によっては「過失相殺」という形で賠償金が減額される可能性があります。
過失相殺とは、被害者側にも落ち度(過失)があった場合に、賠償金の総額からその分を差し引くことです(民法722条2項)。たとえば本来100万円の損害賠償が認められるケースでも、被害者側に2割の過失があれば、受け取れるのは80万円になります。
◇ ヘルメット未着用は「過失」になるの?
これが「何とも言えない」と担当者が答えた理由です。
判断の基準は、「ヘルメット未着用が、損害の拡大につながったかどうか」 です。
【影響が出やすいケース】頭部に重傷を負った場合
過去の裁判例では、ヘルメット未着用のまま頭部に重傷を負った場合に「ヘルメットを着用していれば傷害の程度が軽かった可能性がある」として、被害者側にも一定の過失を認めた判決があります。この場合、賠償金が減額されることになります。
【影響が出にくいケース】頭部以外の怪我をした場合
一方、ヘルメット未着用でも膝などの頭部以外の怪我をした事故では、「ヘルメット未着用と損害の間に因果関係がない」として、過失相殺が否定された裁判例もあります。
つまり、頭を打って重傷になったケースは過失相殺のリスクが高く、頭部以外の怪我であれば影響しにくい、というのが実情です。
◇ 2023年から「努力義務」になっている
2023年4月の道路交通法改正により、自転車に乗るすべての人にヘルメット着用が「努力義務」とされました。罰則はないため反則金は取られませんが、「法律で努力義務と定められている」という事実は、民事上の過失を判断する材料になり得ます。
弁護士の解説によれば、「努力義務だから過失にならない」とは言い切れないとのことで、今後の裁判例の積み重ねによって判断基準が変わっていく可能性もあります。
◇ データで見るヘルメットの重要性
警察庁の統計によると、ヘルメット非着用者の致死率は着用者の約1.4倍。また、自転車事故で亡くなった方の約5割が頭部への致命傷を負っています。
法律上の義務かどうかという話を抜きにしても、自分の命を守るために着用は強くおすすめします。
◆ サンダル(クロックスなど)で乗っていた場合
◇ 自転車へのサンダル運転、法的にはどうなの?
自動車の場合、「運転操作に支障のある履き物の着用」は道路交通法違反になります。道路交通法の本法では自転車を明確に禁止する規定はありませんが、実は都道府県ごとの「道路交通法施行細則」(公安委員会規則)で禁止している自治体が多くあります。
たとえば兵庫県の施行細則では「げた、サンダルその他運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物を履いて、自動車又は原動機付自転車を運転しないこと」と定められています。この条文は「自動車・原付」が対象で自転車は含まれていませんが、自治体によって条文の内容や解釈は異なります。
自転車での乗車を明示的に禁止しているかどうかはお住まいの自治体ルールを確認する必要がありますが、いずれにせよ「自分の地域は大丈夫」と安易に考えるのはリスクがあります。
◇ それでも「過失あり」と見なされる可能性がある
規定はなくても、事故になったときに「安全な運転をするための注意を怠った」として、過失の一因と判断されるリスクはあります。
特に「サンダルのせいでブレーキ操作が遅れた」「脱げそうになってハンドル操作を誤った」といった状況が事故の原因や拡大に関わっている場合は、示談交渉や裁判で不利になる可能性が指摘されています。
こちらもヘルメット同様、「サンダル履きだから即・保険無効」ではありませんが、過失割合の交渉で不利な材料になり得る点には注意が必要です。
◆ まとめ:結局どうすればいい?
・ヘルメット未着用(頭部の怪我)
保険への影響 原則なし
過失割合への影響 あり得る(過失相殺のリスク)
・ ヘルメット未着用(頭部以外の怪我)
保険への影響 原則なし
過失割合への影響 ほぼなし
・ サンダル(クロックスなど)
保険への影響 原則なし
過失割合への影響 あり得る(過失の一因として)
損保の担当者が「何とも言えない」と答えたのは、嘘でも逃げでもなく、本当にケースバイケースだからです。
ただ、「保険がきかなくなるわけではないが、賠償金が減る可能性はある」という点は知っておいて損はありません。
ヘルメットは法律上の義務ではありませんが、着用するメリットは安全面でも、いざという時の賠償面でも明らかです。近所への買い物でも、ぜひ習慣にしていきたいですね。
◆ おまけ:2026年4月から自転車に「青切符」制度スタート
2026年4月より、自転車の交通違反にも反則金が科される「青切符制度」が導入されました。信号無視やながらスマホ、並走など16歳以上が対象です。
ヘルメット未着用そのものは青切符の対象外です。しかし、この制度の導入によって「自転車は軽車両であり、交通ルールを守るべき存在」という社会的・法的な認識が一段と強まっています。
これはヘルメット問題とも無関係ではありません。青切符制度をきっかけに自転車の安全運転義務への目が厳しくなった今、「ヘルメット未着用は青切符の対象外だから問題ない」と言い切れない空気が醸成されつつあります。事故を起こした際の「安全運転義務違反」の判断において、以前より厳しく見られる可能性は十分あると考えておくべきでしょう。
自転車ルール全体が引き締まっているこのタイミングを機に、乗り方を見直してみませんか。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、法律的なアドバイスではありません。具体的なケースについては、弁護士や保険会社にご相談ください。