- 投稿日:2024/02/18
- 更新日:2026/03/08
序章
前回のお話
亡き父の遺品には、
ゆうちょ銀行の通帳に、
投資信託の運用報告書。
さらに国債まで買っている。
局員の口車に乗って、
よく理解もせず
購入したのであろう。
息子の僕には、
どんな資産がいくらあるのか、
まるで霧の中だ。
「まぁ、その辺にあるし、
いつもでいっか」
近くの郵便局は徒歩10分。
海外せどりで利用しているため、
ほとんど庭のようなもの。
チャッチャッと行って、
チャッチャッと済ませよう。
相続手続きで、
窓口のお姉さんと向かい合うと、
その考えが
いかに浅はかだったか、
心安らぐ緑色の店内で、
僕は静かにうなだれていた。
終わりの始まり
ゆうちょ銀行で
相続手続きを行う際、
最初に押さえておきたいのは、
出向く前に、
必ず電話で問い合わせること。
どんな田舎であろうと、
郵便局自体はありますが、
相続手続き扱っていない局が、
意外と多くあります。
僕の場合、
徒歩10分の最寄りの郵便局は、
「ウチでは相続手続きは無理」
と、あっさり断られました。
代わりに案内されたのが、
郊外の大きな郵便局。
距離にして徒歩30分。
いきなり出鼻をくじかれる。
どこにでもある
小さな郵便局では、
相続手続きは扱っておらず、
一定規模以上の
大きな郵便局でなければ、
相続手続きは
対応してもらえない。
それはつまり、
相続手続きが郵便局にとって、
いかに煩雑で、
専門性の高い業務であるかを
遺族に対して物語っている。
僕は案内されるまま、
郊外の巨大な郵便局へ
初めて足を踏み入れた。
それは同時に、
これから始まる――
膨大な手続きと、
山積する書類の束が待ち受ける、
地獄への入口である。
ラスボス倒すと黒幕登場する説
今回僕の相続手続きでは、
他の金融機関を優先し、
ゆうちょ銀行は1番最後。
この決断は大間違いでした。
もし、
皆さんが相続手続きを行う際、
ゆうちょ銀行が
含まれているのなら、
真っ先に
電話で問い合わせてください。
その際、
戸籍謄本や印鑑証明などの、
相続に必要な書類は
無くて構いません。
電話して
手続きの予約だけしてください。
なぜ、そんなに急いで
手続きするのかというと、
ゆうちょ銀行の場合、
相続の手続きが終わるのに、
早くても1か月かかります。
その理由は以下の流れ。
ゆうちょ銀行で相続手続き
⬇
貯金事務センターに報告
⬇
貯金事務センターから書類郵送
⬇
書類記入後ゆうちょ銀行へ来校
⬇
再び貯金事務センターに報告
⬇
相続終了
「貯金事務センターって何?」
普通の銀行なら当たり前ですが、
口座管理は店舗が行っています。
ところが、ゆうちょ銀行では、
口座管理を
店舗が行っていません。
別に設けられた
貯金事務センターという部署が、
その管理を担当しています。
そのため、
ゆうちょ銀行での相続手続きは、
その場で解決はできず、
貯金事務センターからの
ご意向がなければ、
何も進みません。
あくまでゆうちょ銀行は、
相続手続きの
受付をする場所であり、
実際に
手続きの処理をしているのは、
遠方にある
貯金事務センターなわけです。
ゆうちょ銀行で手続きして、
貯金事務センターから、
書類が郵送されるのに2週間。
書類を書いて、
ゆうちょ銀行に提出し、
貯金事務センターから
承諾を得るのに再度2週間。
合計4週間、お疲れ様でした。
そもそも、
センターが処理するのなら、
「受付の窓口は、
小さな郵便局でいいじゃん」
とも思うのですが、
お金を返してもらうには、
相続人はお店のルールに、
ただただ従うしかありません。
来行1回目(説明会)
電話で予約した日時に、
ゆうちょ銀行の窓口へ向かう。
窓口のお姉さんから、
書類を渡され必要事項を記入。
ここまでの対応は、
他の金融機関と変わりませんが、
次第に雲行が怪しくなる。
冷淡な窓口のお姉さんは、
「貯金事務センター」
なる存在を明かし、
前項での相続手続きの流れを、
延々と口頭だけで語りだす。
正直、
100%理解できたとは言い難いが、
七面倒くさいことになるのは、
直ぐに理解した。
ちなみに、前にお伝えした通り、
この段階では、
戸籍謄本や印鑑証明などの、
相続に必要な書類は不要です。
気を利かせて持参したところで、
この時点では出番がありません。
初回訪問は行員による説明会で、
本格的な手続きは、
2回目の訪問から本番スタート。
こちらが準備万端で臨んでも、
最低2回は店舗に足を運ぶので、
じっくり構えて、
長期戦に備えましょう。
真のラスボス登場
前回のお話で登場した、
SMBC日興証券
手続き用の分厚い封筒が送られ、
当初は絶望しましたが、
封を開けてみれば、
あらゆる相続に対応する
コンプリート完全版であり、
僕には必要のない書類が
山ほど入っていました。
実際に記入した書類は数枚で、
拍子抜けするほど
あっさり終わりました。
ところが、次に届いた、
貯金事務センターの書類は
次元が違う。
事前に銀行に出向き、
相続内容をしっかり伝えたので、
効率的に必要な書類だけが
送られて来る。
ところが、届いた封筒の厚みは、
SMBC日興証券とほぼ同じ。
もちろん、
送られてきた書類の中には、
手引書や記入例などの
マニュアルもありますが、
それらを差し引いても、
書類の物量が異常。
広大な作業机でもなければ、
整理など到底不可能です。
そして何より厄介なのが、
書類の名前。
何を言っているのか分からない。
投資信託相続手続請求書(移管請求書)(兼 相続上場株式等移管依頼書)[書類記号 投-1]
え!? 呪文詠唱してんの?
そんな、
中二病をこじらせような
漢字の羅列が次々と現れる。
横文字なんて一切なし。
純度100%の日本語なのに、
日本人の自分が理解できない。
学歴詐称を疑うレベルである。
フリーダイヤル? なにそれ? おいしいの?
「ご不明な点は、
下記お問合せ先に
ご連絡ください」
凶悪な貯金事務センターにも、
それぐらいはマナーとして
用意されていますよ。
有料ダイヤルで。
理解不能な書類を
山ほど送りつけておきながら、
「ご不明な点は?」
と、問われれば、
「全部」
と、しか答えようがない。
長時間コース前提での
有料電話窓口。
容赦ないにもほどがある。
それでも
頼れるのはここしかないので、
覚悟を決めて電話をかける。
対応してくれた女性は、
とても丁寧かつ慎重に、
こちらの質問には時折、
「すいません…、
少々お待ちください…」
と、シンキングタイム。
資料を必死でめくっているのか、
他の方に助言を求めているのか。
耳元で流れ続ける、
延々とした保留音を聞きながら、
「これ有料なんだけど……」
そんな愚痴が、喉の奥で震える。
SMBC日興証券での電話
(フリーダイヤル)窓口では、
質問すれば即答で
スムーズに対応してもらえた。
対して、ゆうちょの場合――
「それってこの、
“国債等相続手続請求書(名義書換請求書)(兼 相続上場株式等移管依頼書)[書類記号 A-3]”
のことですか?」
「いいえ、
“特定口座開設者死亡届書 兼 非課税口座開設者死亡届書 兼 未成年者口座開設者死亡届書[書類記号 投-3]”
の方です」
え!? 呪文詠唱してんの?
そんな魔法バトルが続く。
とにかく、書類の数が多すぎて、
しかも名前が長くてややこしい。
質問する側も答える側も、
混沌とした状況に疲弊する。
それぐらいは印刷しといてよ
契約なり解約なり、
事前に情報を伝えておけば、
大抵の企業は、
「必要事項は印刷済み。
あとはサインだけでOK!」
なんて、
気の利いた書類が郵送されます。
「大切なお客様に
余計な手間は取らせません」
これぞ民間企業のオモテナシ。
ところが、
親方日の丸のゆうちょ銀行様は、
そんな見返りのない気遣いで、
平民共をいたわるつもりはなし。
えっ!?
民営化したんでしたっけ?
「貯金事務センター」から
どっさり届いた書類一式には、
1文字たりとも印刷はなく、
全て手書き記入必須。
父親の資産には、
複数の投資信託がありましたが、
その正式名称まで、
1つ1つ記入せよとのお達し。
野村世界6資産分散投資(分配コース)(累投)
これ、自筆の意味あります?
住所や氏名なら、
本人確認の意味も
あると思いますが、
そちらの
長ったらしい商品名ぐらいは、
銀行側で
印刷しておいてほしいものです。
来行2回目(ラストバトル)
複雑難解な
書類への書き込みが終われば、
その書類を持って再び銀行へ。
普通なら返信用封筒に入れ、
ポストへ投函して
「任務完了」のはずが、
ゆうちょ銀行はやはり一味違う。
その膨大な書類持って、
「予約して、
もう1度ここへ来い!」
と、客に足を使わせるスタイル。
2回目の訪問でようやく、
戸籍謄本や印鑑証明などの、
身分証明書の提出が求められる。
ちなみに僕は、初回訪問時に、
戸籍謄本などの身分証明書を、
全て提出しましたが、
2回目の訪問でも、
身分証明書の提出を求められ、
同じ書類を提出しました。
応用が効きません。
名目上、2回目の訪問目的は、
貯金事務センターから届いた、
膨大な書類のチェックですが、
ここに来て、
また新たに書類が追加投入され、
書類を書かされます。
資産内容に、
国債などの資産があるため、
別口の手続きが必要らしく、
窓口のお姉さんに代わり、
男性局員が突然登場。
以降は指示されるまま、
目の前に置かれた新たな書類に
僕は無心でペンを走らせる。
もはや何枚書類を出されようと、
疑問も湧かず
手が勝手に動き出す。
既に調教済みかと
疑われるレベルである。
ちょいツラ貸せや
2回目の訪問は、
書類のチェックだけで、
直ぐ帰れると思いきや、
なんだかんだで1時間経過。
今回の訪問目的は、
ゆうちょ銀行が書類を受け取り、
それを貯金事務センターへ
送り直すという、
よく分からん2度手間戦法で、
相続人の忍耐力を
締め上げる仕組みですが、
僕にはようやく、
地獄から開放された恍惚感で、
そんな些細なことは、
気にも留めませんでした――
ゆうちょから電話が来るまでは。
僕は2023年12月26日に
引越したのですが、
その前日の25日に、
国債の処理をした男性局員から、
電話がかかってきました。
「書類に1箇所、
判子の押し忘れがあるので、
押しに来てくれません?」
僕は耳を疑った。
いやいや、
あなた僕の目の前で、
書類のチェックしてましたよね。
それあなたのミスですよね。
加えて、
引越しの日程も局員に報告済み。
「僕、明日引越すんですけど」
当然、
現在は引越しの梱包作業中で、
悠長に電話をしている暇は無い。
「こっちに来る用事とか
ないですかね?」
局員は判子を押させるために、
僕を郵便局へ招こうとする。
「無理です」
「時間はかかりませんので」
「無理です」
「引越し後だと大変なので」
「無理です」
僕は湧き上がる怒りを押し込み、
無感情で同じ言葉を繰り返した。
「そうですか……」
ようやく折れたようで、
局員の方が我が家に訪問し、
判子を貰いに来ることに。
この人の人間性なのか、
ゆうちょの体質なのか、
サービス精神なんて言葉は、
ゆうちょにはありません。
一体いつから────
郵貯を遣っていないと錯覚していた?
今回の相続手続きにおいて、
ゆうちょ銀行の酷さが
浮き彫りになりましたが、
このような結果になった原因は、
たった1つ。
とにかく手間が多すぎ。
貯金事務センターとかいう、
存在もそうですが、
何より、
手続きの書類が多すぎる。
書類が多すぎるから、
カスタマーサポートも、
全ての内容を把握できていない。
同時に、
点検箇所も多くなるので、
チェック漏れも生じる。
まぁ、リベの方々なら、
ここまで説明せずとも、
ゆうちょと契約することなんて、
今どきないでしょうが、
もし、親御さんやご兄弟が、
ゆうちょ銀行に
資産を預けているのなら、
早急に解約すべきです。
その理由は、
依然紹介したことのある、
最凶のローカルルール。
『口座の資産は、
同じ口座にしか移せない』
残念ながら、
ゆうちょ銀行にも、
このルールが存在します。
ゆうちょ銀行にある資産は、
ゆうちょ銀行の口座でしか
相続できない。
僕は、
ゆうちょの口座は持っておらず、
今更ながら渋々、
口座の開設を決意しました。
「口座を
お持ちではないのですか?」
窓口のお姉さんは、
不思議そうに問いかけてくる。
僕にとってゆうちょは、
何もメリットがない金融機関。
はなから眼中にない。
そこいらの情弱と一緒にすんな。
「ええ、作ったことないんで」
鼻で笑うかのように僕は答える。
その言葉を聞くと、
「調べてまいります」
お姉さんは即座に奥へと消えた。
……無駄なことを。
そう思っていた数分後、
お姉さんが戻って来る。
「ありましたよ」
へぇ?
変な声とともに過去の扉が開く。
そう……、
あれは小学生の頃、
毎月1度、
学校1階の理科室で……、
祖母から渡された、
伊藤博文の千円札を
通帳に挟んで、
僕は朝、列に並んでいた。
毎月、毎月、登校後、
小学校生活の6年間、
朝の理科室へ向かい、
学校の職員ではない、
この日のために来たであろう、
外部の誰かに、
千円札と通帳を渡して、
貯金をしていた。
毎月通帳に押される判子と、
積み立てていく千円札。
確かあのお金、
卒業後に全部下ろしたはず…。
何に使ったんだっけ……。
そんな思い出に浸っている中、
僕は気付いてしまった。
もしかしてあの時、
貯金していたのは、
まさか……、
郵 便 貯 金
錯覚だろうか。
一瞬、
窓口のお姉さんの
ドヤ顔を見た気がした。
完
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当然の親の死 かかる費用と手間 全四篇
・重圧葬儀編
・相続準備編
・相続激闘編
・郵貯死闘篇
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