- 投稿日:2024/02/22
- 更新日:2025/09/29

注意点
害虫駆除において種類を特定すること("同定"といいます)は必須です。そのため、写真は実写を使いますので、見るのも嫌!という人はブラウザバックしてください。
また、基本的には地球の陸上に住んでいる限り、虫と無縁で生活することは不可能だと思ってください。虫がいなければ、ヒトは今ほど豊かな食生活を送ることは出来ません。見えていないだけです(とはいえ別に無理に見る必要もありません)。
虫との距離感は人それぞれなので、各自でいい距離感を見出すためのヒントが本記事の趣旨となっています(そのため害虫"退散"という言葉を使っています)。
害虫とは?
害をなす虫のことです。詳細はゴキブリ編に記載しているのでご覧ください。カは衛生害虫です。
カとは?
ハエの仲間
カはハエと同じハエ目(双翅目)です。ハエと同じように、平均棍を持ち、完全変態のライフスタイルをしています(ハエの項を参照)。
ハエとの違いは主には触覚で、触覚の節の数が多いタイプを長角亜目、少ないタイプを短角亜目と言います。ハエは短角亜目で、カは長角亜目です。
分類学では界・門・綱・目・科・属・種という階級で分けていくという話を毒キノコの記事で説明しましたが、「亜目ってなんやねん!」って思った人もいるでしょう。詳細は割愛しますが、目と科の間の階級のことです。またいずれ、詳しく話すかもしれません。
ライフサイクル
卵→幼虫→蛹(サナギ)→成虫→卵 の生活環です。温度や種類によって異なりますが、1サイクル2週間~1か月程度とかなり頻繁に代替わりします。
✅卵時代
基本的に水面に卵を産みます。多くの種で濁った止水域を好みます。流れに弱く、川のような環境では生息できません。人間社会だと、地下水槽、地下鉄構内、植木鉢に溜まった水、竹藪で切った竹に溜まった水などが主な繁殖源です。
✅幼虫時代
ボウフラと呼ばれる幼虫時代を過ごします。種類によって異なりますが、主に水中や水底の有機物の塊を食べる種類が多いです(このような生態を持つ生物をデトリタス食と言います)。
呼吸は肺呼吸なので、頻繁に水面に出て空気を取り込みます。
✅蛹時代
オニボウフラと呼ばれる蛹になり、水面にいることが多いです。完全変態昆虫では蛹の時期は、体の組織を一度溶かして再構築しているので、あまり動かない種類が多いですが、オニボウフラは比較的よく動きます。
✅成虫時代
皆さんもよく知る形態になります。
何故、血を吸うのか?
卵を産むためです。そのため、血を吸うのはメスの成虫のみです。オスのカは花の蜜を吸うなど、割とヒトとは関係ない暮らしをしてます。オスはメスに比べて触覚がフサフサしてます。
何故、痒くなるのか?
アレルギー反応です。カは吸血の際に、痛みで気づかれないように麻酔作用のある唾液を注入します。この唾液が、アレルギー反応を起こして痒みが発生します。アレルギー反応なので個人差があり、カに刺されてもあまり腫れない人と、すごく腫れる人がいます。また、過去に刺されている経験にもよります。
プチコラム:蚊?それともカ?
本記事では蚊ではなくカと表記しています。これは実は理由がありまして、生物(植物や菌も含めて)の標準和名はカタカナで表記するというルールがあるからです。
そのため、俗称のある名詞でも生物として扱うときは基本的にカタカナにしています。
人間→ヒト
人参→ニンジン
みたいな感じですね。
余談なんですけど、生物の世界的な正式名称は学名と呼ばれ、すべてラテン語で記載するルールもあります(標準和名≠学名です)。
たまにテレビなどで、学名は〇〇(日本語名称)と呼ばれみたいな時がありますけど、明らかな間違いですのでご注意ください。
プチコラム:高層階にはいない?
カは飛行が上手ではないので、ビルやマンションの高層階にはいないと言われることがあります。本当でしょうか?
実はこれ、半分正解、半分間違いです。
確かにカの飛翔能力はさほど高くないため、地面から20m~30m程度が限界だと言われています(気象条件によって大きく変わります)。ビルやマンションで15階を超える高さなら、外の窓から入ってくることはまずないでしょう。
ところが、実際にはヒトについてエレベーターに乗ったりするので、直接移動してこなくても、普通に高層階でもいることはいます。屋上やベランダに植木鉢とかがあれば、そこが繁殖源になるので、上層階は絶対にカがいないとはならないんですよね。
とはいえ、やはり野外からの侵入が少ないのは、高層階の魅力かもしれません。
退治方法
発生源を絶つ
無駄に水たまりは作らないようにしましょう。植木鉢の受け皿、空き缶・ペットボトル、タイヤなどに雨水がたまるとボウフラの住処になります。
とはいえ、都市に住んでいる場合は自分が原因ではない場合も多く、難しいところです(チカイエカやアカイエカ)。
また、近くに自分の管理ではない竹藪なんかがある場合も、難しいと思います(ヒトスジシマカ)。
薬剤を使う
チカイエカとアカイエカは深夜、ヒトスジシマカは早朝と夕方に活発に活動します。基本的に日中は物陰に隠れているため、薬剤の効果も薄いです。
蚊取り線香などの部屋全体に充満させるタイプの薬剤は、夕方ごろから使うようにしましょう。
スプレータイプは、カが飛んでいる地点よりやや上側を狙うと殺虫成分が落下するので命中しやすいです。
叩くときは上下で
カは飛行能力はあまり高くないですが、上下運動は結構得意です。発見して素手で叩くときは左右から叩きつけるより、上下で挟むように叩いたほうが仕留めやすいです。
また、直接当たらなくても、音や衝撃で気絶して落下することもあるので、手が痛くなることを承知で力強く叩く方法もあります。
虫よけスプレーとカの探知能力
そもそもカはどうやってヒトを探してるのか?
カは主に「体温」「二酸化炭素」「水分」「匂い」に反応します。要因が複合的であり、複雑なので現在でも特定の真因は掴めていませんが、これらの要素に反応してることは間違いないようです。
虫よけスプレー
いわゆる虫よけスプレー(ディートorイカリジン)は、虫の探知器官を狂わせます。カ以外にも、ヒトを探知して積極的に吸血してくる虫(ダニ、ヒル、ノミ、トコジラミ)などに有効です。
上記のような仕組みなので、虫が嫌がる成分を出しているわけでありません。虫よけスプレーを空間に散布しても意味はありません。かならず、露出部分に塗るように使いましょう。
ディートとイカリジンの違い
ディートには年齢・回数制限がありますが、イカリジンには今のところ年齢・回数制限はありません。実は何故忌避作用があるのかはハッキリとしていないため、どちらがいいかはわかっていません。とはいえ、どちらもカに対して効果があることは判明していますので、野外に行く際には使用していきましょう。
こんな時、ヒトは要注意
お酒を飲んだ後
お酒を飲むと二酸化炭素の発生、体温の上昇、体臭の発生とフルコンボです。野外のBBQなどでお酒を飲むときはカに寄って来られることを覚悟しましょう。
服装
カは暗いところが好きなので、暗い色の服を着ていると寄ってきやすいです。
体質
体臭や血液型によって差はあるようです。血液型はO型が一番刺されやすいそうですが、要因としては大きくないとか。
実は要因が複雑なので、わかっていないことも多いです。
足を洗おう
足の常在菌が多いとカが寄ってきやすいということもわかっていますので、小まめに足を洗いましょう。ただし、足の常在菌や体臭には個人差があり、まだわかっていないことも多いです。石鹸で洗うことによって、むしろカが寄ってくるという研究結果もあるので、ご自身の体質に合わせて使用してください。
蚊に刺されたあとは
冷やす
流水や冷やしたタオルなどで、患部を冷やしましょう。
かかないようにする
掻くと傷がついて細菌感染の原因となることもあるので搔かないようにしましょう。耐えづらい場合は、市販の痒み止めなどをつかいましょう。
日本ではあまり心配ないけど
カは伝染病を媒介することで有名です。後述しますが、現代の地球においてヒトを最も殺害している生物はカです。現代日本ではほとんど事例はありませんが、熱帯地域、亜熱帯地域へ旅行へ行く際には十分注意しましょう。
参考HP|厚生労働省、蚊媒介感染症ガイドライン
まとめ
✅水溜まりを作らないようにしよう
⇒家の周りに雨水が溜まるような植木鉢の皿、空き缶・空ペットボトル、タイヤなどは放置するとカの幼虫の発生源となるので、やめましょう。
✅虫よけスプレーを使おう
⇒ディートやイカリジンは作用機構こそ判明していませんが、効果は証明されています。ただし、ディートは12歳未満のこどもへの年齢制限や回数制限があります。市販品の注意書きをよく読みましょう。
また、空間へ散布してもほとんど効果はありませんので、肌に塗るようにして使いましょう。
図鑑(実写注意)
日本にいる吸血性のカは主にヤブカとイエカの2種類です。とはいえどちらも元々日本にいた種類ではなく、熱帯系の種類でヒトの活動と共に分布を広げたと言われています。北方には報告例が少なかったのですが、都市化と温暖化の影響で生息域を広げています。
ヒトスジシマカ
体長4~5mm程度の白と黒のシマシマのカ。カと言えばこの種類を思い浮かべる人も多いでしょう。いわゆるヤブカです。
イエカに比べやや小型で、早朝、夕方に活発に活動する傾向があります。真昼にはあまり活動しないと言われていますが、日中でも吸血されることは普通にあるので、野外活動で気になる場合は虫よけスプレーを塗っておきましょう。
デング熱を媒介する昆虫として知られており、特に東南アジアへ旅行へ行く際には要注意のカです。
日本ではデング熱の感染例は多くありませんが、2014年には代々木公園周辺で、国内感染事例が発生しました。
参照HP|国立感染症研究所
James Gathany - This media comes from the Centers for Disease Control and Prevention's Public Health Image Library (PHIL), with identification number #1969.Note: Not all PHIL images are public domain; be sure to check copyright status and credit authors and content providers.العربية | Deutsch | English | македонски | slovenščina | +/−transferred to jpg from original tif at http://phil.cdc.gov/PHIL_Images/08152002/00003/A.albopictus_jg_091501_004d.tif, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1860142による
アカイエカ
ヒトスジシマカよりやや大型で5mm強程度の大きさです。深夜に活動することが多く、昼間は物陰に潜んでいます。家の中で深夜に羽音を立てて吸血してくるカは大体本種です。
日本脳炎、フィラリア症、ウェストナイル熱などを媒介します。個人的な感想として、ヒトスジシマカに比べて体が硬いので、物理で仕留めるときは強めに叩いてます。
Alvesgaspar - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2763025による
チカイエカ
アカイエカそっくりのカです。外見で区別することは出来ません。その名の通り、地下に住みます。最近では冬場でも地下鉄内の発見事例があります。
アカイエカと生態的に大きく異なる点で、一度も血を吸うことなく、一度だけ卵を産むことが出来ます。アカイエカは卵を産むには必ず血を吸わなければなりません。
Walkabout12 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=47027176による
カに似てるけど、カじゃない種類
✅ユスリカ
ユスリカ科に属する昆虫の総称です。ユスリ"カ"となっていますが、吸血性はありません。「蚊柱」は実はユスリカで出来ているので、ヒトには無害です。また、ユスリカの幼虫はアカムシと呼ばれ、多くの生き物の餌として販売もされていますが、こちらもボウフラとは別物です。
写真はオオユスリカ
© entomartIn case of publication or commercial use, Entomart wishes then to be warned (http://www.entomart.be/contact.html), but this without obligation. Thank you., Attribution, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=711739による
✅ガガンボ
時には40mm程度にもなる大型種です。吸血性はなく、花の蜜を吸っているおとなしい虫なので安心してください。余談ですが、ガガンボモドキなる全く別の分類群の昆虫がいますが、彼らは肉食です(主に虫を食べます)。
PiccoloNamek - English wikipedia, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=342594による
カとヒトとの関わり
世界ランキング1位のカ
1位|カ 725,000人
2位|ヒト 475,000人
3位|ヘビ 50,000人
※WHO、FAOの統計を基に作成(2014年)
さて、上記の人数は何だと思いますか?
正解はヒトの死因となっている生物ランキングで、1年間に亡くなった人数です。
現代の地球において最もヒトの死因になっている生き物はカです(時点はヒト)。もちろん直接の死因ではなく、間接的な要因なのですが、カはとにかく伝染病を媒介する生物として、世界では問題となっています。
その中でも特に問題視されているカをご紹介しましょう。
✅ハマダラカ属
マラリアを媒介するカです。マラリアは日本ではほとんど発症することはありませんが、熱帯・亜熱帯地域では流行しており、世界で年間62万人程度の方が亡くなっていると推定されています(厚生労働省、2021年)。
日本にもハマダラカ属のカは何種類かいますが、マラリアを媒介する種類は基本的に発見されていません(宮古島以南の南西諸島を除く)。
また、マラリアの原因となるマラリア原虫自体もほとんど発見されておらず、国内であればさほど心配は必要ありません。
しかし、流行地区へ旅行する際には十分に留意しましょう。
流行地区|厚生労働省検疫所HP
写真はAnopheles stephensi
Jim Gathany - This media comes from the Centers for Disease Control and Prevention's Public Health Image Library (PHIL), with identification number #5814.Note: Not all PHIL images are public domain; be sure to check copyright status and credit authors and content providers.العربية | Deutsch | English | македонски | slovenščina | +/−, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=799284による
医療器具とカ
カはヒトに気付かれてしまうと、追い払われたり殺されたりしてしまいます。そのため、なるべくヒトに気付かれないように刺す必要があるんですよね。
カに刺されたときに痛みをほとんど感じませんよね?麻酔の効果もあるんですが、そもそも刺す→麻酔の順番なので、刺すときにも極力痛みを感じないようにしなければなりません。
そのため、カの針は特殊な構造をしており、痛みが感じにくくなっています。
さて、この構造、注射の針にも使われています。なるべく、注射が痛くないような配慮ですね。厄介者のカもヒトの生活の役に立つこともあります。
蚊取り線香はもともと植物由来だった
蚊取り線香の主成分ピレスロイドは防虫菊という植物から発見されました。その成分を抽出して、固めたものが蚊取り線香の始まりです。天然の植物にも殺虫作用があるなんて、ちょっと面白いですよね。(現在は合成ピレスロイドが使われています)
ちなみに、蚊取り線香の会社、商標名は「金鳥」もしくは「KINCHO」ですが、社名は大日本除虫菊株式会社です。ファーストリテイリングとUNIQLOの関係のようなものですね。