• 投稿日:2024/03/07
  • 更新日:2025/09/29
嘘を嘘と見抜けない人へ

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BAL@虫料理研究家

BAL@虫料理研究家

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要約
情報があふれる現代社会。何が正しいのか? 発信者の誘導に惑わされず、 情報の読み取り方を練習しましょう!

はじめに

現代社会は情報が力を持っています。情報を適切に扱えるか否かで生活に大きな差が出ることは間違いないでしょう。25年ほど前の言葉ですが

うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい

西村博之氏

現在は当時よりさらに情報が溢れ、取捨選択や正しい読み取り方が重要です。

前回の記事で比較、統計処理、相関、因果などを中心に真偽判定をするということを書きました。

本記事では具体的な例題を交えつつ、間違った結論へ誘導するテクニック(ミスディレクション)を紹介します。

情報リテラシーとは?

リテラシーは英語のliteracyで日本語に訳すと"識字"となります。

現在では情報リテラシーは情報を「正しく取捨選択、理解、解釈、活用」できるといった意味合いとなっております。

本記事は情報リテラシーにおける解釈するの部分に注力します。

元の情報の取得方法

まずは探すところからスタートします。とりあえずインターネットで気になる事柄について検索してみましょう。

検索については特に語ることはありませんが、強いて言えばリベ大コンテンツの動画もありますので参考にしてみてください。

気になるワードや事柄について書籍や論文があれば、読んでみるのも良いでしょう。

論文については地域性が高いものであれば、和文もありますが基本的には英文です。世界的には英文で書かれたもの以外は認められないという(不平等な)ルールがあるので、致し方なしです。

たまに勘違いされることがありますが、書籍に書いてある情報、論文になっている情報にも間違いはあります

とはいえ、それなりに「複数のチェックを通っている」「筆者の責任が明確である」などのことから

査読付き英語論文>和文論文≒書籍>ネット記事 くらいの信憑度の差はあります。

書籍にも間違いはある⇒ネットの記事は真実である という理解はしないようにしてください。

※誤った二分法 といい、何故か間違った2択になる現象です。

実例を添えて

ここからはケーススタディを行い、誤った結論に誘導する方法(ミスディレクション)をご紹介します。

虫料理研究家らしく、「コオロギには毒がある」という言説が流布したときのことを例に出しましょう。

HACCPタイプのシステムが実施された場合でも、リスクプロファイルにおいて以下に挙げる相当な懸念が特定された。 (1)総計して、好気性細菌数が高い。 (2)加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される。 (3)昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある。 (4)重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある。 寄生虫、カビ類、ウイルス、プリオン、抗菌剤耐性及び毒物類等の他のリスクは低いと判定された。数種のリスクに関しては、更なるエビデンスが必要であることを強調しておく。

食品安全員会

さて、この文章から一体何が読み取れるでしょうか?

「え?コオロギって危険なの?」って思った人は要注意です

1つずつ見ていきましょう。


✅総計して、好気性細菌数が高い

⇒好気性細菌数は地上のあらゆるところに存在します。ヒトの皮膚にも大量の好気性細菌が付着しています。台所などは好気性細菌の温床でしょう。さらに、好気性細菌を意図的に加えることで、醤油・お酒・漬物などの発酵食品が作られます。

醤油を使ったり、漬物を食べると死んでしまうのでしょうか?


✅加熱処理後も芽胞形成菌の生存が確認される

⇒芽胞形成菌とは、環境が悪くなると休眠状態になり活動を停止する菌のことです。休眠状態で悪い環境をやり過ごし、環境が戻ったら活動を再開します。

害のある芽胞形成菌として有名なのはボツリヌス菌です。ボツリヌス菌自体は土壌のいたるところに存在しており、ありふれた菌です。芽胞を形成する以外に毒素を出すため、増えすぎると人体に害を及ぼすことがあります。

中毒事例としては自家製の瓶詰などの際に偶に発生します。

また、1歳未満の乳幼児がボツリヌス菌芽胞を経口的に摂取した場合、乳児ボツリヌス症という病気にかかることがあります。乳児ボツリヌス症の因果関係が明らかになっている食品はハチミツだけです

※出典|国立感染症研究所

また、有害ではありませんが、納豆菌も芽胞形成菌として有名です。

成人が納豆やハチミツを食べると死んでしまうのでしょうか?


✅昆虫及び昆虫由来製品のアレルギー源性の問題がある。

その通りです。昆虫の持つタンパク質はエビやカニと似た組成のキチン質という物質です。

アレルギーというのは人体の免疫が過剰に反応し、人体へ悪影響が発生することです。

ヒト免疫機構は、自己と非自己(異物)を認識し、非自己(異物)を排除することで結果的に人体の正常性を保つのですが、人体の正常性を保つこと自体が目的ではないため、人体に不具合を起こすことがあります。

不具合のもととなるアレルゲン(異物)や量などは個人差があるため、何とも言えませんが、エビやカニにアレルギーがある人は昆虫にもアレルギーがあることが多いです。

エビやカニを食べた、多くの成人が死んでしまうのでしょうか?


✅重金属類(カドミウム等)が生物濃縮される問題がある。

生態濃縮はすべての生物で発生します。特に代謝で排出されにくい重金属であれば濃縮が発生します。生態濃縮の細かい仕組みは省略しますが、基本的に生態系において高次の栄養カスケード(どちらかといえば食う側の生き物)であるほど濃縮率が高まります。

重金属の含有量については元の環境次第ですし、そもそもコオロギは生態系において低次の栄養カスケード(どちらかというと食われる側)です。

ニワトリや魚のほうが生態濃縮の危険は高いと言えるでしょう。

(余談ですが、フグ毒は生態濃縮で発生しています。)

魚やニワトリを食べると死んでしまうのでしょうか?


というわけで4つの懸念事項について深堀しました。

リスクというのは常にあるために完全に否定することは出来ません。

質の悪いことに「コオロギを食べると体に何らかの悪影響が発生する可能性がある」という話であれば間違いではないです。ただし、ここから「コオロギは毒である。食べると体に害である」はあまりにも論理が飛躍しています。

なぜならば、当然のことながらすべての食品にそのリスクはあります。まとめると、ここに書かれている情報は"コオロギは食品である"ということだけです。

これ以上のことは読み取ることは出来ません


ここで結論を出すために必要なことは通常摂取している食物と比較しての危険度です。

ついでにいうと上記は2018年現在の報告書で追跡調査がされており、

NDAパネルは、当該新食品は提案された用途及び用量において、で安全であると結論する。

食品安全委員会

2021年段階では上記の結論となっています。

上記はあくまでもヨーロッパイエコオロギという種に対しての調査です。

ひょっとしたら毒のあるコオロギはいるかもしれませんが、残念なことに私の知る限りでは毒コオロギというものを見たことも聞いたこともありません。もしご存知の方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。

(完全に余談ですが、毒をもったバッタはいます。見た目が滅茶苦茶カッコいいです。)


参考文献|昆虫食のデマとリアル 燃え上がるコオロギ

     著:吉田 誠


感情は視野を狭くする

さて、上記のケーススタディで実際には「コオロギは食品である」以外の情報が全くないのに、「なんだか危なそう」とミスディレクションできました。ほかにもいくつかパターンがあります。

可能性について

可能性を謳って危険を煽る方法です。今回のケーススタディはこれに該当します。

コオロギを食べると体に何らかの悪影響が発生する可能性がある

すべてのことに可能性はあります。多くのことに例外があり、あらゆる事態を想定すれば可能性を否定することはできません。

可能性をゼロにすることは不可能なので、リスクの大小で物事を考えてください。

未来について

将来的にどうなるかわからないというのもミスディレクションの典型です。可能性の話とも近しい部分があります。将来は何が起こるかわからないので、どんな持説であっても否定することは出来ないのが厄介な点です。

もちろん未来のことを考えるのは大事ですが、考えてもわからないことを過剰に心配する必要はありません。

現代科学では解明されていない

現代科学では解明されていないことを理由にミスディレクションする人もいます。

科学は反証によってのみ証明されます。また、現在におけるもっとも妥当な結論を暫定的に採用しているにすぎません。

Aである可能性は低い、Bである可能性も低い、~中略~Xである可能性も低い⇒Yである可能性が妥当である。

このように非常に地道な作業の繰返しによって成立しているのが現代科学なのです。

そのため、検証はほとんどおわっていないので

現代科学では解明されていないことのほうが普通です。

極端な話"そもそも答えなどありはしない"のです。

現代科学で解明されてないからと言って、その発信者が語っている持説のほうがより解明されてないわけですから、支持する理由にはなりません。

※進化生態学の分野ではこの好例として「空飛ぶスパゲティモンスター」という言葉があります。興味がある人は調べてみてください。


気持ち悪さを解決したい

これらのミスディレクションの共通点は"感情に訴えている"点です。ヒトは「わからない状態」が気持ち悪いため、なるべく早く結論を出そうとする生き物です。

わからない状態が気持ち悪いからと言って、回答を急ぎ安易で単純化された情報に飛びつくのはやめましょう

ちなみにこの方法はマーケティング用語で

恐怖に訴える論証

と言われ、有効な手段とされています。

ミスディレクションを生かした商売

先に断っておきますが、合法の範囲であればミスディレクションをしても正当な経済活動です。程度によっては違法になる場合もありますが、特に大手の企業であれば、そのあたりはしっかりしているでしょう。

正当な経済活動である以上は、ミスディレクションして商売していても他者から攻撃されるいわれはありませんし、必要としている人もいます。ただ、私は基本的に購入しないというだけの話です。

保険

保険は将来の可能性に対する不安を煽ります。リベ大動画にいっぱい解説があるので、未視聴の人は見ましょう。

保険はちゃんと合法ですし、経済的不合理を背負ってでも、入ったほうがいい場合や人もいますので、一概に不要とは言えません。

無農薬野菜

農薬がなんか体に悪そうというイメージから不安を煽ることが出来ます。無農薬という言葉自体、一部の例外を除いて基本的にガイドライン違反であるため、保険ほどちゃんと合法とは言えないでしょう。

詳細は別記事で書いてますので、そちらをご覧ください。

ちなみに無農薬野菜と有機野菜は別物なので、違いが判らないのであれば、特に有機野菜も買う理由はないと思います。


無添加食品

添加物がなんか体に悪そうというイメージから不安を煽ることが出来ます。食品掲示基準に抵触する恐れのあるものが多く、保険ほどちゃんと合法とは言えないでしょう。

こちらも別記事に詳細ありますので、よろしければご覧ください。

ミスディレクションに引っ掛からないために

注意してチェックすること

情報を精査するときに重要な視点として

1.仮説設定は適切か?(対照実験になっているか?)

2.得られた結果(グラフや表)の読み方が間違っていないか?

3.相関から妥当な因果を推察できているか?(疑似相関ではないか?)

4.論理の飛躍がないか?

などがあげられます。

今回は特に4について記事にしました。

1~3についてはコチラの記事をご覧ください(特に3に着目してください)。

2についてはちょっと弱いので、いずれ「嘘グラフ・嘘表の作り方」あたりを作成したいです!

まとめ

✅現代は情報社会である

⇒情報リテラシーを高めなければ、不利になる


✅不安を煽り視野を狭くする

⇒結論をミスディレクションする


✅商売に巻き込まれないように

⇒「恐怖に訴える論証」は強力

 不要なものを買わされないように

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