- 投稿日:2024/09/30
- 更新日:2025/10/09
こんにちは。
名古屋市守山区で整体院を経営している理学療法士のきむです。
今回のテーマは「スポーツと膝」についてです。
リベシティではスポーツのオフ会が活発で、参加されている方も多いですよね?
スポーツで膝を痛めて悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
加齢よって変形性膝関節症に発展する方もいらっしゃいます。
日々、私のところにも、膝の痛みに苦しむ方や、膝の施術を苦手とするセラピストの方からの相談をよく受けます。
膝は人体の中でも非常に複雑な関節です。
構造的にデリケートな部分が多く、痛みの原因を特定し、適切なケアを行うことが難しいと感じるセラピストも多いでしょう。
特に、膝蓋骨(パテラ)は膝の動きと安定性において重要な役割を果たしますが、膝の痛みや問題の原因として見逃されがちな部分でもあります。
今回は、膝蓋骨の重要性と、膝の痛みを引き起こす「膝蓋骨の外側変位」について解説し、適切なアプローチ法を紹介します。
やや専門的な用語が多いので、専門的な内容を求めている人、膝の構造について深く理解したい人向けになっています。(後日、分かりやすくしたバージョンも作ろうかと思っています)
膝の施術が苦手な方も、この解説を通じて少しでも自信を持って対応できるようになっていただければ幸いです。
はじめに
膝はスポーツや日常生活において、最も負担がかかる部位の一つです。膝の中心にある「膝蓋骨(パテラ)」は、膝の動きや安定性において重要な役割を果たしますが、筋肉の不均衡(マッスルインバランス)や大腿筋膜張筋(TFL)のタイトさが原因で、膝蓋骨が外側に変位することがあります。
この「外側変位」は、膝の痛みや障害につながるため、予防とケアが非常に重要です。
本記事では、膝蓋骨の外側変位が与える影響、その予防法、そしてケガを防ぐための具体的なストレッチとエクササイズ、さらにマリガンのMWM技法について解説します。
膝蓋骨の役割と外側変位のメカニズム
膝蓋骨は膝の前面に位置し、膝の屈伸運動を滑らかにするだけでなく、大腿四頭筋の力を効率的に伝達し、膝関節の安定性を確保する重要な役割を担っています。しかし、膝蓋骨は筋肉や靭帯のバランスに大きく依存しており、特に大腿筋膜張筋がタイトになると膝蓋骨が正常な位置(図A)から外側に引っ張られることがあります(図B)。
A:正常な膝蓋骨の位置
B:膝蓋骨の外側への移動
(出典:McConnell,J.,andJ.RIlkerson:Theknee:Patellofemoralandsofttissueinjuries."Zachazewski,J、E.,D.J.Magee, andWS.Quillen[eds.] :AthleticlnjuriesandRehabilitation・Philadelphia,WB.SaundersCo.,1996,pp.711-712)
大腿筋膜張筋がタイトになると、以下の問題が生じます:
膝蓋骨を外側に引っ張り、膝関節の不安定性を引き起こす膝蓋骨の下にある軟骨に過剰な摩擦がかかり、炎症や痛みを引き起こす関節のバランスが崩れ、膝にさらなる負荷がかかります。
これにより、膝蓋軟骨軟化症(パテラーフェモラール症候群)や膝蓋骨脱臼のリスクが高まります。膝蓋軟骨軟化症は、膝蓋骨の裏側の軟骨が摩耗して炎症を起こす状態であり、特に階段の上り下りや長時間座った後に膝を曲げるときに痛みが生じます。
一方、膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が正常な位置から外れ、強い痛みや腫れを伴う深刻な障害です。
変形性膝関節症と膝蓋骨の外側変位
膝蓋骨の外側変位は、膝の軟骨に負担をかけるだけでなく、変形性膝関節症(膝OA)の初期段階でもよく見られる症状です。
変形性膝関節症は、関節の軟骨が徐々にすり減り、関節が変形する慢性的な疾患です。膝蓋骨が外側にずれることで膝関節の一部に過度の圧力がかかり、軟骨の摩耗が加速します。
膝蓋骨が正常な位置にないと、膝関節全体に負担が偏り、痛みや炎症が増加します。変形性膝関節症は進行性の疾患であり、早期に適切なケアを行わなければ、膝の変形が進行し、日常生活に支障をきたす可能性があります。
特に膝の初期の痛みや異常を感じた際に、膝蓋骨の外側変位をチェックし、早期に対応することが重要です。
運動併用モビライゼーション:MWM(モビライゼーション・ウィズ・ムーブメント)とは?
マリガンテクニックの一つであるモビライゼーション・ウィズ・ムーブメント(MWM)は、膝蓋骨の外側変位を改善しながら、痛みを軽減する効果がある手技療法です。
MWMは、理学療法士のガイドのもと、関節の特定の方向に持続的な圧力を加えながら、患者が自発的に動作を行うという技術です。
膝蓋骨の外側変位に対しては、膝蓋骨を内側に軽く圧迫しながら、患者が膝を曲げ伸ばしする動作を繰り返します。これにより、膝蓋骨の動きが正常化され、痛みが軽減し、膝関節の可動域が向上します。

膝蓋骨の外側変位に対するMWMの実践方法
MWMを用いた膝蓋骨の外側変位の改善は、理学療法士による指導のもとで行うのが理想です。
以下のような手順で実施されます。
膝蓋骨の内側へのモビライゼーション
患者が座った状態で、理学療法士が膝蓋骨に内側方向への圧力を加えます。この状態で、患者は痛みのない範囲で立ち上がり運動を行います。
動作の繰り返し
内側への圧力を加えたまま、膝の屈伸を繰り返すことで、膝蓋骨の動きが調整され、痛みが軽減されます。これにより、膝関節の正しい動きが促進されます。
エクササイズとの組み合わせ
MWMの施術後には、膝蓋骨を安定させるための内側広筋の強化エクササイズや大腿筋膜張筋のストレッチを組み合わせると効果が持続しやすくなります。
膝蓋骨の外側変位を防ぐためのストレッチとエクササイズ
膝蓋骨の外側変位を防ぐためには、大腿筋膜張筋のストレッチと大腿四頭筋の内側広筋(内側部分)の強化が有効です。これらのアプローチにより、膝蓋骨を正しい位置に保ちながら、膝関節の安定性を向上させ、ケガを予防できます。
大腿筋膜張筋が硬くなると、膝蓋骨を外側に引っ張る力が増し、膝のバランスが崩れます。そのため、大腿筋膜張筋を柔軟に保つことが膝の健康を守るために重要です。
ストレッチ方法(例)
腹臥位の大腿筋膜張筋ストレッチ:両下肢を真っ直ぐにし、閉じぎみにして腹臥位になって膝を曲げる。

内側広筋は膝蓋骨を内側に引き寄せ、膝蓋骨が外側に変位するのを防ぎます。内側広筋の強化により、膝関節全体の安定性が向上し、膝の痛みや変形性膝関節症の進行を予防できます。
エクササイズ方法(例)
マッスルセッティング(内側広筋にフォーカス):イラストのように座り、膝の裏を床に押し付けるように意識をして大腿四頭筋に力を入れます。
大腿四頭筋(赤枠:内側広筋)

MWMの効果と利点
MWMの最大の利点は、即時的な痛みの軽減と可動域の改善が期待できることです。施術中に患者が自発的に動作を行うことで、日常的な膝の動きに即したリハビリが行え、即座に効果を感じられることが多いです。
また、MWMは安全で、痛みの少ないアプローチであるため、膝蓋骨の外側変位による不快感を早期に改善するのに役立ちます。
膝のケアと予防にMWMを取り入れるメリット
膝蓋骨の外側変位に対して、大腿筋膜張筋のストレッチや内側広筋の強化に加えて、MWMをリハビリの一環として取り入れることは、膝の痛みをより迅速に改善し、正しい膝蓋骨の動きを取り戻すのに効果的です。
特にスポーツ選手にとって、MWMは膝の柔軟性とパフォーマンスを維持するための重要なツールとなります。
結論:膝の健康維持における包括的アプローチ
いかがでしたか?
やや専門的な用語が多く難しく感じた方も多いではと思います。後日、分かりやすくしたバージョンも作ろうかと思っていますが、もし、ご質問などありましたら、コメントください。
今回のテーマである膝蓋骨の外側変位は、膝の痛みや障害の原因となりますが、適切なストレッチ、エクササイズ、そしてマリガンのMWMを取り入れることで、膝の安定性を維持し、スポーツや日常生活でのパフォーマンスを向上させることができます。
膝の違和感を感じた際は、早めに理学療法士に相談し、これらの技法を活用することで、膝の健康を守りましょう。
理学療法士17年間の経験と知識を活かし、痛みに関連した投稿をしています。
痛みで悩んでいる方は、是非、ご覧ください。
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参考文献
"Patellofemoral Pain Syndrome" by John Fulkerson
膝蓋大腿痛症候群に関する包括的なテキスト。膝蓋骨の外側変位や膝蓋骨の不安定性がどのように痛みや機能障害に影響するかを詳細に解説しています。
"The Mulligan Concept of Manual Therapy: Textbook of Techniques" by Wayne Hing, Toby Hall, Bill Vicenzino, Darren Rivett
マリガンテクニック、特にMWM(モビライゼーション・ウィズ・ムーブメント)に焦点を当てた包括的なテキスト。MWMを用いた関節のリハビリ方法と、その効果について詳細に説明されています。
"Clinical Orthopaedic Rehabilitation: A Team Approach" by S. Brent Brotzman, Robert C. Manske
膝のリハビリテーションと機能改善に関する包括的なガイド。内側広筋(VMO)の強化エクササイズや大腿筋膜張筋のストレッチに関する具体的なアプローチが詳述されています。
"The Role of the Vastus Medialis Oblique in Patellofemoral Pain Syndrome" by M. J. Powers
内側広筋(VMO)が膝蓋骨の安定性にどのように影響を与えるか、またVMOの強化が膝蓋骨の外側変位の予防に役立つかを議論した研究です。
"Knee Injuries in Sports Medicine" edited by M. W. Chapman
スポーツにおける膝のケガに特化した書籍。膝蓋骨の外側変位、膝蓋軟骨軟化症、膝蓋骨脱臼などのリスクとリハビリについて解説されています。
"Biomechanics of the Patellofemoral Joint" by D. W. Dye
膝蓋骨と大腿骨の関係についての生体力学的な分析を行った文献。膝蓋骨の安定性を保つためにどのように筋肉が作用するか、動的な膝蓋骨の動きを説明しています。
"Deformities and Disorders of the Knee" by Roger H. Scheinberg
変形性膝関節症の初期段階でよく見られる膝蓋骨の外側変位について説明しており、軟骨摩耗と膝の変形に関する情報が提供されています。