- 投稿日:2026/02/28
- 更新日:2026/04/05
【第12話】
リベシティの皆さん、こんにちは!
前回の第11話「苦労所得」のエピソードには、たくさんの温かいリアクションをありがとうございました。特に、まいち@農業AIさんからの「不動産は“育てる存在”」という言葉、胸に深く響きました。
即断即決の裏にある「日頃の備え」の大切さを汲み取っていただけて、一人の実践者として、これほど嬉しいことはありません。
さて、今回は少し趣向を変えて、私の「手痛い、けれど愛おしい失敗談」をお届けします。数字のプロであるはずの税理士が、計算機の外側で見つけた「本当の時給」のお話です。
■ 退職希望と、静かに始まった「次の働き方」探し
一昨年の年末、私は1年半勤めた税理士事務所に退職の意向を伝えました。 「後任が育つまで」という言葉を意気に感じ、昨年9月までの延長を快諾。急ぐ理由もなかったので、人生のハンドルを少しずつ切り替えるような「じわじわ」とした移行期間を楽しみ始めました。
そんな折、ふと頭をよぎったのがドライブコースで見かけた「トマトのハウス栽培」です。 元々、MY腐葉土を自作するほど土いじりには自信がありました。定年後は、パソコンのキーボードではなく、日光を浴びながら、土の香りに触れて生きていくのも悪くない。そう思い立ったら、元税務調査官の行動力は早いものです。近所の農家さんへ、文字通り「飛び込み」でアルバイトを志願しました。
「えっ、税理士さんが……?」 農家さんの戸惑った顔は今でも忘れられません。そりゃそうですよね。でも、「せっかくだから」と受け入れてくださったその懐の深さに甘え、私の「第三の人生(仮)」が幕を開けました。
■ 初日に知った「時給1100円」という現実
勤務条件も聞かずに初日を迎えた私に、農家さんがぽつりと言いました。 「うちは、最低賃金ギリギリの時給1100円だよ」
正直、一瞬だけ絶句しました。 長年、数字の世界で「専門性の価値」を扱ってきた身です。ですが、ここで「それは安すぎる」と計算機を叩くのは野暮というもの。「まあいいか、経験だ(いちおう、FIREしているし)」と、私は空調機付作業着に袖を通しました。
しかし、現実は想像を絶する過酷さでした。 時は7月、8月の盛夏。ビニールハウスの中は、息をするのも苦しい40度超えの世界です。 空調服を唸らせ、保冷剤を詰め込んでも、汗は文字通り滝のように流れ落ちます。 作業は、古い苗の撤去と掃除。腰を深くかがめ、土に深く根を張った苗を抜き、運び、また抜く。そうなんです。ビニールハウス栽培では、10月から5月までが、収穫時期(路地栽培とズラスから利益がある)なのです(;^_^A
午前中の3時間。たったそれだけで、私の体力は完全に底をつきました。 立ち上がろうとすると視界がゆらぎ、手足が鉛のように重い。 結局、私は午前中だけのわずか3日で「ギブアップ」を宣言することになったのです。
■ トマトハウスが教えてくれた「自分の価値」
3日間、計9時間の労働でいただいた給料は、9,900円。 「家庭菜園が得意です」というプライドは、プロの現場では1円の加点にもならない。そんな当たり前の現実を、私は自身の筋肉痛と焦げ付くような熱気の中で、身体ごと理解しました。
ですが、この3日間は、金額以上のリターンを私にくれました。 「資格と経験には、裏打ちされた価値がある」 その事実に、これほど感謝したことはありません。私が今、週3日という「じわじわFIRE」な働き方を選べているのは、決して偶然ではありません。40年以上にわたり、税務という泥臭い現場で積み上げてきた「信頼」という名の資産があったからこそ、選ぶ権利を手にしていたのです。
40度のハウスで泥にまみれたからこそ、エアコンの効いた事務所で税務相談に乗る今の時間が、どれほど恵まれているかを静かに噛み締めることができました。
その後、事務所からは「市内事務所への異動も含め、週3勤務で残ってほしい」と異例の提案をいただきました。時給に換算すれば、トマトハウスの何倍にもなります。 でも、本当に嬉しかったのは「数字」ではありません。「この働き方なら、自分らしく続けられる」と、人生のハンドルを自分で握っている確信——それこそが、何物にも代えがたい「心のリターン」でした。
■ 心のFIは、こういう瞬間に育つ
今週の私は、祝日を挟んで2日働いただけで、なんと5連休です。 「ちょっと休みすぎじゃないかい?」と自分にツッコミを入れながら、庭先で七輪に炭を熾し、ビール片手にじわじわと赤くなる火を眺めています。パチパチと爆ぜる音を聞きながら、自分で選んだ「余白」を味わう贅沢。
この軽やかさこそが、私の提唱する「心のFI」です。 もし、あの過酷なトマトハウスの3日間がなければ、私は今の週3勤務を「もっと働かなければいけないのでは」という不安とともに過ごしていたかもしれません。
「自分で稼ぐ術を持っている。そして、働き方を選べる自由がある」 この確信があれば、通帳の数字が少し動くくらいでは、心は揺らぎません。
■ 結び
働き方の価値は、決して時給だけでは測れません。 あなたの心がどう動くか。その働き方が、あなたを自由にしているか。 仕事を通じて社会と繋がり、かつ自分を楽しませることができているか。 その答えは、いつも「数字の外側」にあります。
トマトハウスでの3日間(正確には1.5日くらいで限界でしたが(笑)は、私に「選べることの幸福」を教えてくれました。 皆さんも、今持っている「資格」や「経験」を、もう一度温かな目で見つめてみませんか。それはきっと、あなたを自由へ導く最強の切符になるはずですから。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 あなたのFIREにも、心地よい手触りと、静かな余白が訪れますように。
※第13話は第1章のまとめ「こうした小さな点がつながり、静かに線になっていく。」です。第13話はこちらから読めます。
https://library.libecity.com/articles/01KHZXB1GVBNZHA69SCMDSNG1M
