- 投稿日:2024/03/01
- 更新日:2025/09/29

注意点
害虫駆除において種類を特定すること("同定"といいます)は必須です。そのため、写真は実写を使いますので、見るのも嫌!という人はブラウザバックしてください。
また、基本的には地球の陸上に住んでいる限り、虫と無縁で生活することは不可能だと思ってください。虫がいなければ、ヒトは今ほど豊かな食生活を送ることは出来ません。見えていないだけです(とはいえ別に無理に見る必要もありません)。
虫との距離感は人それぞれなので、各自でいい距離感を見出すためのヒントが本記事の趣旨となっています(そのため害虫"退散"という言葉を使っています)。
害虫とは?
害をなす虫のことです。詳細はゴキブリ編に記載しているのでご覧ください。毛虫は衛生害虫及び不快害虫です。
毛虫とは?
さて、タイトルとここまでを見て、おやっ?と違和感を覚えた人、生物坂の坂道を登り始めてますね(詳しくはカ編をどうぞ)。
毛虫などいない!
というわけで、違和感の正体ですが、正解は毛虫という虫はいません。ついでに言うとケムシもいません。
真のタイトルは・・・
では一体毛虫とはなんなのでしょうか?
毛虫は毛の生えている芋虫の総称で、正式な区分はありません。また、芋虫自体も明確な区分はなく、その多くがチョウ目(鱗翅目)の幼虫ですが、中にはルリチュウレンジバチのようにハチ目(膜翅目)の幼虫も芋虫扱いされることもあります。
さらに毛虫のなかでも毒性がなく、触っても平気な種類も多々います。
そのため、タイトルに正確性を求めるなら
"チョウ目(鱗翅目)の幼虫(の中でも毒を持つ種類)編"
となります。
チョウ目(鱗翅目)の特徴
完全変態
チョウ目(鱗翅目)は完全変態です(完全変態についてはハエの記事参照)。すべての種類がサナギになります。
ガ(蛾)とチョウ(蝶)の違いは?
生物分類学的にはありません。
日本ではチョウ目(鱗翅目)の中のアゲハチョウ上科とセセリチョウ上科に分類されるものを一般的に蝶と呼び、それ以外は蛾と呼ばれることが多いです(分類の区分については毒キノコの記事を参照)。
羽を広げて止まるのが蛾、夜に行動するのが蛾、幼虫に毛が生えてるのが蛾、などという人がいますが、すべて例外があります。
文化的にも区分している国は少なく、フランスやドイツでは同一の単語で区別していません。
グルメ&大食い
チョウ目(鱗翅目)の幼虫は、食べる葉っぱ(食草と言います)が決まっています。葉っぱなら何でもよいというわけではなく、食べない葉っぱは食べません。
種類によって変わってきますが、いろんな種類の葉っぱを食べる幼虫もいれば、一種類の葉っぱしか食べない幼虫もいます。
例|カイコは桑の葉しか食べない
食性の幅が広い生き物をジェネラリスト、狭い生き物をスペシャリストと言います。
また、チョウ目の幼虫は大食漢で知られており、一匹でも数百枚の葉っぱを食べますが、集団を形成するので、時に木や草を丸裸にします。
そのため、園芸や農業をやっている人から駆除すべき対象としてみられることもしばしばあります(農業害虫)。
イラガの仲間
チョウ目(鱗翅目)の全体的な特徴を押さえたうえで、毒毛虫の紹介に入っていきましょう。
まずは毒が強いイラガの紹介です。各種の詳細はページ下部の図鑑をご覧ください。
別名"電気虫"とも呼ばれます。名前の由来は刺されたときに電気ショックが走ったような痛みがするからです。
イラガは基本的に幼虫のみが毒を持ち、成虫時は無毒になります。
幼虫は全体的に黄緑色をしており、慣れていないと葉っぱと同化して見逃しますのでご注意を。
ドクガの仲間
ドクガは幼虫が赤や黄色などの派手な色をしているものが多いです(もちろん例外もありますが)。
また、イラガと違い、蛹や成虫も毒毛を持つ点に注意。また、直接触れなくても、毒毛が風に舞って刺さると症状が出ます。
刺されたことがあるので体験談もページ下部に記載しています。
ヒトリガの仲間
ヒトリガの仲間は大量発生して、派手な見た目をしています。幼虫の色が派手で毛もあり、成虫もモフモフしてるので、毒がありそうな感じですが無毒の種も多いです。
とはいえ若齢幼虫のみ毒を持つタイプなども存在するため、無造作に触れるのは避けましょう。
毛虫に刺されたら?
こすらない
イラガ、ドクガの大きな特徴として毛そのものに毒があります(毒毛といいます)。こすったり、掻いたりしてしまうと、毒毛が折れて、広がったり、内部に残ります。
粘着テープでそっと取ったり、流水で洗い流しましょう。
流水で流す
掻きむしらずに流水で毒毛を流します。石鹸があるなら、泡立てておくと衛生面でも良いです。
服を洗濯しない
ドクガの場合は衣服にも毒毛が刺さっています。洗濯すると、他の衣服にも毒毛が広がります。そのまま着用すると二次被害にあいますので注意してください。
熱湯で処理する
刺されたときに着ていた衣服は、熱湯で処理してください。毒毛の成分は未知のものが多いですが、タンパク毒であることが分かっています。熱に弱く変性するので、毒毛が付着していると思われる衣服に有効です。
なお、刺してくる系の虫ではなく、食べたら毒系の虫は毒の由来が植物由来のアルカロイドであることが多く、熱で変性しませんので、すべての幼虫を熱したら食べられるわけでありません。
市販の痒み止め
症状が軽ければ放置しておけば治ります。市販の抗ヒスタミン剤なども有効です。
症状がひかない場合は医療機関へ
目に入った場合や呼吸が苦しいなどの症状が重い場合は病院へ行きましょう。後述の体験記でありますが、毒生物がわかっていればその生物を、わからなければ刺されたときの状況を伝えると対処の精度が上がります。
BALの毛虫体験記
出会いはマンゴー畑
仕事でマンゴー畑を回っていると、コシロモンドクガがマンゴーの葉っぱを食べていました。そこで、棒を使って潰していたのですが、どうやら空気中に毒毛が舞ってしまったらしく、事務所に戻ってから腫れ、痒み、痛みのフルコンボに襲われます。
まぁ私はコシロモンドクガを潰して回ったので、毒毛に刺されてもおあいこですよね。
前述のとおり、食草から同定しました。刺された場所、可能であれば植物の名前がわかれば、後から刺してきた毛虫の正体を調べるのが格段に楽になります。
洗濯しちゃった
対処法で洗濯するな!と言っておきながら、自分がやられると冷静さを失いますね。洗濯した後に服を着ちゃって、チクッとしました。
その段階で、「あ、しまった」と思ったんですが、時すでに遅し。急いで脱いで対処しましたが、二次被害に無事に会いました。
病院へ
全身真っ赤になり痒みが強かったので病院へいくことにしました(皮膚科)。痛みは引いていますが、腫れや患部の熱は残ったままです。
医者「めっちゃ痒そうですね」
BAL「そうなんですよ~。痒くて痒くて。コシロモンドクガにやられたんですけど、いい薬ありますか?」
医者「タイワンキドクガじゃなくて?」
BAL「コシロモンドクガです」
毒虫を特定しておくと会話がスムーズでいいですよね。
というわけで無事にステロイド系の痒み止めをゲットして、しばらくしたら治りました。ガンガゼ(毒ウニ)に刺されたこともあるんですが、その時より痒かったです。
まとめ
✅ドクガは本体だけでなく、毒毛にも注意
直接触れなくても、毒毛が風に乗ってくる場合があります。注意しましょう。
✅洗濯はしない
毒毛が刺された場合は高確率で衣服にも毒毛がついています。洗濯すると他の衣服にも毒毛が移るので、熱湯で処理しましょう。
✅熱湯で処理
毒毛はタンパク毒で出来ています。熱処理すれば変性します。
図鑑(実写注意)
イラガの仲間
✅イラガ
終齢幼虫の体長が20mm程度。初夏~8月ごろに発生する前進黄緑の毛虫です。食性は広く、桜や梅、リンゴや柿などの果樹に加えて、椿やサザンカ、ケヤキなどの街路樹や公園にも発生します。
写真は模型(毒展にて撮影)
繭を作り、その中の蛹は無毒で、釣り人の間ではタナゴ釣り用の餌として販売されています(通称:玉虫)。
Pan Z, Zhu C, Wu C - A review of the genus Monema Walker in China (Lepidoptera, Limacodidae) doi:10.3897/zookeys.306.5216, CC 表示 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=26502848による
✅ヒロヘリアオイラガ
個人的にはイラガより目にする機会が多いと思います。
体色は黄緑色で、イラガよりのぺっとしており、背中に青いラインがあります。年2回発生で初夏~秋にかけてみられます。
本来は外来種だが日本に定着。サクラ、ケヤキ、クスノキ、ミカンなどにの植物を食草としており、公園や街路樹に普通にいます。イラガと異なり、繭形成後でも毒を保持している点に注意。
池田正樹 Masaki Ikeda - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=8298276による
ドクガ
✅チャドクガ
ツバキやサザンカ、チャノキなどのツバキ科植物を食草とします。特に若齢のうちは群れで生活し、大きくなるにつれて分散します。年2回発生。
ちなみに前回紹介した毒虫のスズメバチが天敵です。生態系は繋がっているため、人間本位の環境改変を行うと、あとで困った事態になるのはよくあることです。
毒の成分はイラガと異なり、アレルギー反応による痒みが主な症状。直接触れなくても発症するだけでなく、死骸や脱皮殻の毒毛でも発症するので注意が必要です。
また、前述のとおり、成虫でも毒を持っています。
幼虫の姿
日本語版ウィキペディアのEasymanさん - 原版の投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15625444による
成虫の姿
I, Sui-setz, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4944078による
✅タイワンキドクガ
毒のない毛虫
毒はありませんが、毛が柔らかく、体質によってはアレルギーでかぶれることもあります。
✅アメリカシロヒトリ
北アメリカ原産の外来種です。衛生害虫としての面は薄いですが、農業害虫としての面が強いです。
大量発生して、植物を食い荒らします。
食性が広くカキ、コナラ、リンゴなど100種以上を食草とします。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hyphantria.JPG#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Hyphantria.JPG
毛はないけど毒はあるイモムシ
毛虫と異なり、刺されることはありません。食べると吐き気や幻覚症状が出る恐れがあります。また、この毒は加熱しても消えません。同定できない虫を食べるのはやめましょう。また、ペットにも与えないほうが良いです。
✅オオゴマダラ
南西諸島に生息するチョウの仲間です。サナギが金色(に見えますが、実際には違う色です)で、動物園や植物園でよく飼育されています。
毒は植物由来で、食草として毒のある葉っぱを食べ、体内に貯めこみます。この毒は加熱しても解毒できませんので、ヒトをはじめ、多くの種への防御策となっています。
幼虫
Dragonbane805 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=52446304による
サナギ
※金色に見えるが、光の反射でそう見えているだけ。構造色という
CC 表示-継承 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1801967
成虫
Pro2 - Crop of File:Idea leuconoe Weiße Baumnymphe.jpg (original source: 投稿者自身による著作物), CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9747109による
✅キョウチクトウスズメ
南方系のガで、九州以南でよく見られますが、最近は埼玉県などでの報告事例もあります。
キョウチクトウという樹を食草とします。キョウチクトウは街路樹として日本各地に植えられていますが、葉、幹、根に毒があります。
キョウチクトウ以外にはニチニチソウという植物も食草にしますが、こちらも同様に毒があります。
オオゴマダラと同様に体内にその毒素を貯めこむので、食べることは出来ませんが、攻撃能力はありませんので、触っても問題ありません。
幼虫はメタリックブルーな目玉模様とお尻のオレンジの尾角が特徴的です。
成虫は特徴的な迷彩柄をしていますが、似ている種類にウンモンスズメがいるため、本州で発見した場合は、本種ではなくウンモンスズメの可能性が高いです。
幼虫
Sindhu Ramchandran - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3808169による
成虫