• 投稿日:2025/07/12
  • 更新日:2025/10/01
岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』カザフスタンから見る“豊かさ”の代償

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』カザフスタンから見る“豊かさ”の代償

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シロマサル@本の要約:ほぼ土曜日週1投稿

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要約
カザフスタンの市場経済化に伴い、賄賂が人々の生活に浸透した過程を描く本書。 岡奈津子氏は、賄賂を単なる違法行為としてではなく、制度の不全を補う「合理的な手段」として捉える。 一歩後ろに下がると、「交渉の延長線上」であり、昇給も、ボーナスも、チップも、賄賂も本質は変わらないのかも。

初めまして!シロマサルです。

知ることで、人生はもっと楽しくなる!

今回は岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』2024年発行をつまみ食いします。まさに超、超、要約。おもしろいので興味があれば読んでみましょう。


著者:岡奈津子

1968-2022年。1994年、東京大学大学院総合文化研究科にて修士号を取得後、アジア経済研究所に入所。2008年、リーズ大学政治国際関係学科博士号(PhD)取得。アジア経済研究所主任研究員、新領域地域研究センター・ガバナンス研究グループ長などを歴任。専門は中央アジアの政治と社会。本書で樫山純三郎賞を受賞した。


_000.png※この記事は、あくまで情報提供を目的としたものであり、不正行為や賄賂の助長を意図したものではありません。

違法行為には絶対に関与しないようご注意ください。


00000.png✅ 賄賂は単なる不正ではなく社会の「制度」でもある

✅ 経済成長は社会を必ずしも健全にしない

✅ 豊かさとは何か?を根源から問い直す本である


男が警察に就職した。しかし、いつまでたっても給料を受け取りに行かない。職場から連絡を受けた男はびっくり。
「制服と拳銃だけじゃなくて、給料までもらえるのか?!」

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』

このオチは、「袖の下(賄賂)」で警官の安月給よりもしっかり稼いでいるので給料のことを忘れている(笑)。

賄賂ではなく、副業で給料のことを忘れられるようになりたいものである。


日本国内における政治資金や裏金問題、公文書改ざんや廃棄、民間や個人の補助金不正受給など…。

いずれにせよ、仮にルール上問題ないとしても、立場や職務を利用して、手段や手順を変えて、ごまかし、別の会計責任者を用意して、金品や利益を受け取る行為はなくなることがない。


無関係だが、ある靴下を履かない(ホントは寒い時は履いてた)昔の俳優は言った。

「不倫は文化」だと。

では、「賄賂が文化」という概念も存在するだろう。


本書は、ソ連崩壊後のカザフスタンが経験した劇的な社会・経済変革を、「賄賂」という独自の切り口から深く掘り下げた研究である。

この30年間で、国のあり方や人々の生活がどのように変化したかを「賄賂」というレンズを通して詳細に描いている。


日本というレンズでは文化や価値観として許されざる行為も「非公式な問題解決手段」として機能している国もある。

文化や常識が変わって一歩後ろに下がると、「交渉の延長線上」であり、昇給も、ボーナスも、チップも、賄賂も本質は変わらないのかもしれない。

私個人としては、「賄賂」は許されざる行為であり、該当者は一生治らない口内炎にかかってほしいとは思っているよ。


<賄賂>のある暮らし

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コネとカネの問題は、その広まり具合や背景は異なるものの、日本に住む私たちにとっても決して他人事ではないのである。

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』


そもそもカザフスタンって?

00.pngスクリーンショット 2025-05-27 185630.pngカザフスタン:西と北でロシア連邦、東で中華人民共和国(中国)、南でキルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタンと国境を接する国家。

ちなみに世界最大の湖カスピ海に面している。

ダウンロード.jpg写真はカザフスタンの首都アスタナ。

中央の塔は「バイテレク・タワー」。

アスタナのシンボルタワーであり、意味は「命の木」らしい。

歴史

1991年のソ連崩壊後、カザフスタンは独立国家としての道を歩み始め、経済システムも中央集権的な計画経済から市場経済へと転換した。

広大な国土と石油や天然ガスなどの豊富な天然資源に恵まれており、これらを背景に独立後は目覚ましい経済発展を遂げた。

国際的には新興国の中でも「優等生」と見なされることもある。

しかし、社会主義から市場経済の導入をする際、起こる問題がある。


社会主義の問題と文化

独立以前から彼らの間には、親族や友人といった「コネ」(非公式な人間関係ネットワーク)を重視する文化が存在している。

貧富の差や社会的な不平等をなくし、誰もが平等な機会と権利を持つ社会を目指す社会主義において、「コネ」は必要不可欠になる。

①労働を真剣にやってもやらなくても、もらえるものは同じ。

②労働の生産性が落ちる。

③生産性が低いので、全員に製品がいきわたるまでに時間がかかる。

④そして、みんな平等である以上、もらえるスピードを速くするには、「担当者」に順番を速めてもらわないといけない。

人間の心理が働く以上、起きてしまうともいえる。

「本来は、医者は順番通りに診察しなければならない。でも実際には順番など誰も守らない。誰かの紹介とか、カネを払ったとか、そういう患者を優先します」。

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』


賄賂は“悪”だけではない

「娘を国有企業に就職させたいが、誰にお金を渡せばいいのかわからない」

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』

0.png⇒ 公式制度の機能不全を埋める「現実的解決手段」である。

⇒ 病院や学校でも「渡さなければ進めない」現実がある。


賄賂は単なる違法行為ではなく、社会が機能しない中で生まれた一種のルールだ。

本書では、公立病院が本来無料であるにもかかわらず、入院や治療、証明書の発行など、あらゆるサービスにおいて金銭が要求される状況が示されている。

言い方を変えるなら、「賄賂か謝礼か」という曖昧な境界線が存在しているのだ。

「チップと何が違うんだい?」
「サービスを受ける"前"か"後"かの違いじゃないか?」

つまり、社会主義時代に資源配分やサービス利用の非公式な手段として機能していたコネが、市場経済の導入によってカネという普遍的な交換媒体と結びつき、より広範な賄賂へと変質したのである。

第三者の目にはコネの利用と映る行為を「助け合い」の名のもとに正当化するメンタリティは、現在のカザフスタンにも根強く残っている。

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』


市場経済化で進化する“コネ”文化

直接的にせよ間接的にせよ、カネを渡す相手が信頼に足る人物か否かが、交渉の成否を左右する鍵となる。
袖の下を渡す際にコネが果たすもうひとつの役割は、「価格」への影響だ。強いコネは賄賂の金額を下げる働きをする。

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』

贈賄(ぞうわい)はその性質上、カネの持ち逃げや仲介者による横取りが起きても法的手段に訴えることはできない。

意外かもしれないが、「カネを渡す能力がある」=「コミュニケーション能力がある」ともいえる。

0.png⇒ コネとカネで人間関係は「信頼」から「取引」へと変質する。

市場経済の導入によって、人間関係のネットワークは金銭を伴うコネ=賄賂へと変化した。

個人の「つながり」が新たな価値交換手段になる。


0000000.png332.pngレイチェル・ボッツマン著『TRUST(トラスト)世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか』

信頼の喪失を悲しんだほうがいいだろうか? 答えはイエスでありノーだ。

レイチェル・ボッツマン著『TRUST(トラスト)世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか』

206.png入山章栄著『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』

例えば、組織のパフォーマンスを高めるためにはどうするか? 「組織のメンバーが『ほかのメンバーの誰が何を知っているのかを』知っておくことである」としている。 情報の共有化とは「誰が何をやっているかを知ること」が目的ではなく、 「誰が何を知っているのか」を共有することが組織の効率化を高める。 これをトランザクティブ・メモリーという。

『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』の記事より

『ほかのメンバーの誰が何を知っているのか』というのも「コネ」である。

ほら、フィクションだけど、細田守監督の映画『サマーウォーズ』で陣内栄おばあちゃんが黒電話でいろんな人(国土交通省や警視総監、医療関係者)に電話してるシーンとかも「コネ」である。

「コネ」という単語そのものは、悪いことばかりではない。

結局は、その「コネ」を使って何をするかである。


「買われる正義」が常識化してしまう。

文化はわかったが、どのような弊害が起こるのだろうか?

「異動するから、1万ドルで私のポストを買わないか」

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』

この環境で育った子どもたちは、腐敗を再生産する主体となる。

親が賄賂を使うのを見て育った子どもたちは、大学生になると、自らお金を払って成績や卒業論文を買ったり、医者を買収して病気を理由に授業をサボったりするようになる。

0.png⇒ 司法や教育の現場すら、賄賂で動く社会構造。

つまり、カネを持つ者がより良く行動できてしまう。

結果として社会階層の固定化を助長してしまう。

兵役免除や裁判の結果、大学進学までが賄賂で操作される現実。

公的なルールよりも「誰にいくら払うか」が問われる世界だ。


経済成長が社会を歪める

公式か非公式を問わず、あらゆることに十分なカネを払わなければ人間らしく暮らすことのできない社会は、「腐敗」した社会なのである。

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』

0.png⇒ 物質的成功の裏にある「影の経済」の拡大。

「優等生」とされるカザフスタンだが、その経済発展は賄賂を温存・拡大する結果となった。

急成長の代償は、信頼の喪失と制度の空洞化である。

賄賂が深刻な社会問題を生み出しているという事実は、経済的な豊かさが必ずしも社会の強靭性や公正性を保証しないことを示している。

「ほんとうの『豊かさ』を支える社会経済システムとはどのようなものか」

「拡がる格差のなかで生きる人びと」の「したたかさ」が「生きるための知恵」であることを知れる興味深い本である。


まとめ

リベシティ用サムネ.png✅ 賄賂は単なる不正ではなく社会の「制度」でもある

✅ 経済成長は社会を必ずしも健全にしない

✅ 豊かさとは何か?を根源から問い直す本である


「あの子は親が賄賂を使ったことをもちろん知っていますよ。子どもたちはこの「法律」に従わなければ、生きていけないのだから」。

岡奈津子 著『〈賄賂〉のある暮らし』

⇒ 豊かさとは金だけでは測れない。


まだまだ、日本は健全な方である。

しかし、許すわけにもいかないのだ。


知識や見聞は、いずれ力になってくれると教えてくれます。

是非、皆様のより良い人生の選択肢が増えますように!

見ていただきありがとうございました!😆

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蛇足

実は靴下を履かないメリットがないわけではない。

一般的なメリットと言えば、靴下の締め付けがないため、足の負担が軽減される。でも、靴を履くから別の場所に負担がかかるから微妙…。

では、仕事で足のモデルをしている人はどうか?

靴下跡がつかないということでもある。

どんなものにせよ、見方を変えれば「理由やメリット(デメリットの回避)」はあるものだ。

そして…「屁理屈」も…。

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