- 投稿日:2024/12/13
- 更新日:2025/10/01

はじめに
別記事で、
「本気で戦った経験があると、いざという時に力を発揮できる」
というお話をしました。
今回は自分の経験の中から、本気で戦った事例をあげてみたいと思います。
それによって、皆さんにも真剣勝負を追体験してもらえたら嬉しいです。
前提
「九九をきっかけに落ちこぼれる子が多いので、学校で習う前に珠算(しゅざん=そろばんの事です)教室で教えてもらうと良いらしい」
そんな評判を聞いた母親は、小学一年生の私を珠算塾に放り込みました。
学区外の教室だったこともあり、周りは知らない子ばかりです。
話し相手のいない私にとっては、自然に集中できる環境が整っていました。
それが幸いして、九九はすぐに覚えてしまいました。
そしてそれ以降も、珠算の腕前はメキメキと上達していきました。
そろばんは戦い
珠算に級や段位があることは、ご存じの方も多いと思います。
しかしそれとは別に、珠算には競技としての側面があります。
かけ算・わり算・みとり算・よみあげ算などの種目があり、種目別や総合点で順位を競います。
そろばんを用いずに「頭の中のそろばんで計算する」、暗算という種目もあります。
昇級・昇段試験とのいちばんの違いは、対戦競技であることでしょう。
既定の点数を上回ることが目的の試験と違い、競技大会では参加者の中で最高得点をとることが目標となります。
大小様々な規模の大会が開催され、同年代のライバルたちと戦うのです。
私はどちらかというと、昇級試験よりも競技大会に参加することのほうが好きでした。
「勝負」が好きだったのです。
そろばんエリート少女
そろばん塾の経営者夫婦には、お子さんがいました。
私と同年代の彼女は、私が入塾した頃から圧倒的な実力の持ち主でした。
そろばん塾では、週に3日×各1時間の練習をします。
多くの子どもは、その時間内ですら真面目に取り組むことができません。
それに比べると私はまともに練習していたほうですが、時間外に自主練をするほど真面目ではありません。
彼女の場合は、それらと一線を画した練習量を消化していたのだと思います。
聞いても教えてくれませんでしたが、おそらく毎日数時間は練習していたのでしょう。
そうでなければ説明できないほど、彼女の実力は飛び抜けて高かったのです。
・珠算塾の広告塔としての役割
・他の門下生への見本となる役割
・珠算塾の子なのだから出来て当たり前、という風評
こうしたプレッシャーを、彼女は一心に背負っていたのだと思います。
私は「一度くらいは彼女に勝ってみたいなぁ」という思いを抱きながらも、それは難しいだろうと考えていました。
ある大会にて
彼女に一度も勝てないまま、小学校の高学年になりました。
たぶん6年生(もしかすると5年生)の頃に出場した大会で、ついにチャンスが巡ってきました。
私と彼女が「よみあげ算」の競技において最高得点で並び、二人で対決する決勝戦が行われることになったのです。
大会のルールで、決勝はサドンデス方式の対戦となりました。
問題が一問だけ出題されて、その結果によって勝負がついてしまう「一本勝負」方式です。
二人共が正解・もしくは不正解なら、次の一問へ決着が持ち越されます。
「よみあげ算」は、主催側の担当者が複数の数字を読み上げ、それを競技者が計算(足し引き)していく競技です。
難易度は、
・読み上げられる数字の桁数
・読み上げのスピード
・読み上げられる数字たちの桁の開き(例えば6〜8桁より、4〜8桁の問題のほうが難しい)
・足し算のみか、引き算も加わるか
などによって変わってきます。
この時点でも、彼女と私の間には明確な実力差がありました。
「けっこう強い」私に対して、彼女は「絶対的な強者」です。
今回も、「頑張って喰らいつくけれども、最後は実力の差が出るだろう」と思われました。
大会のレギュレーションが味方に
その時の私は好調で、とりあえず粘れるだけ粘ってやろうと考えていました。
ミスしたら負けの一本勝負を何本も両者正解のドローでしのぎ、次の問題に集中力を継続させるのは容易ではありません。
そんな一本勝負を続ける中で、この大会のレギュレーションが格下の私に有利であることに気付きました。
経験上、一本勝負でドローが続く時は、徐々に問題が難しくなっていくものでした。
しかし今回の大会に限っては、そうはならなかったのです。
二人共が延々と正解し続ける中で、難易度は上がることなく同レベルの読み上げ問題が続いたのでした。
これならば、私にも勝てる可能性が出てきます。
問題が難しくなっていけば、いつかは私の能力では着いていけなくなり、ミスがでることでしょう。
しかし今回だけは、そういうレギュレーションではない。
もちろん、格下の私のほうがミスする確率が高いことに変わりはありません。
ですが「彼女に勝てるチャンスは、今日だけだ!」という思いが、私の集中力を異常なまでに高めてくれました。
決着
彼女ととなり合わせで、そろばんの珠(たま)を無心で弾きます。
・問題を読み上げる声以外は、何も聞こえません。
・そろばん以外は、何も見えません。
先生夫婦は、高いレベルで戦う門下生二人の戦いを、喜んで見ていてくれたでしょうか?
それとも、自慢の愛娘が苦戦する姿に胸を痛めていたのでしょうか?
もはや何本目かも分からない一本勝負の最中、となりで一緒によみあげ算を解いていた彼女が、ため息を漏らすのを感じました。
私は「彼女がミスをしたのだ」と思いながら、慎重にそろばんの珠を弾き続け、解答を出し、正解しました。
私は初めて彼女に勝ち、優勝しました。
(私が優勝したのは「よみあげ算」部門だけで、他の部門は全て彼女が優勝です)
おわりに
嬉しかったです。
子供ながらに彼女や先生の心中をはばかる気持ちもありましたが、やはり嬉しかった。
この勝利をきっかけに自信がついて、真の強者に駆け上がれれば良かったのですが、現実はそう甘くはありません。
私はこの勝利を「一生に一度の、奇跡的な条件がそろったからこその勝利」と受け止め、満足してしまいました。
なので私が彼女に勝ったのは、この時の一度きりになりました…
それでもこの経験は、その後の私の人生に良い影響を与えてくれたと思っています。
一番のポイントは、やはり「最初から諦めずに、喰らいついたこと」だったでしょうか。
関連記事の紹介
以下、本記事の関連記事です。
よろしければご覧ください。
・そろばんの有用性を伝えたい
そろばん! やってみよう!(こども向け)
・真剣勝負をしよう
【本気で戦った経験があると、いざという時に力を発揮できる】という話
・体験談①
【真剣勝負の体験談】vs 大男(剣道)
・体験談②
【真剣勝負の体験談】vs そろばんエリート少女(珠算)
・体験談③
【真剣勝負の体験談】vs 強豪チームのNo.1剣士(剣道その2)