- 投稿日:2024/12/17
- 更新日:2025/10/01
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はじめに
別記事で、
「本気で戦った経験があると、いざという時に力を発揮できる」
というお話をしました。
今回は自分の経験の中から、本気で戦った事例をあげてみたいと思います。
それによって、皆さんにも真剣勝負を追体験してもらえたら嬉しいです。
強豪との合同稽古
私が小学生の頃に所属した剣道場には、ある強豪道場と冬場に合同稽古を行なう慣習がありました。
県内でもトップクラスの強豪で、実績にふさわしい猛稽古(!!)が評判の道場でした。
私たちはそんな遠征には参加したくなかったのですが、子供に拒否権などありません。
嫌々ながら父兄の車に相乗りさせられて、そのまま地獄行きの道を護送されるのでした。強豪道場の館名は伏せますが、ちょっと怖い館名でした。
剣道場の名前というと、「神武館」とか「錬心館」とか、「ああ、厳しい鍛錬をとおして心も身体も強くなるんだな」みたいな名前が一般的です。
しかしその道場の館名は違います。
少年マンガで例えるなら、絶対に主人公が所属する道場の館名ではありません。
むしろ、道場ぐるみで卑怯な事をしてくるライバルチームみたいな館名なのです。
まさに異彩を放っており、その館名だけでも恐怖を感じたものでした。
地獄の稽古
強豪道場での稽古は、ふだん私たちが行なう稽古とは一線を画すほど過酷なものでした。
基本的に稽古相手は歳上の人たちで(大人も多い)、私たちはズタボロに打ち込まれます。
強豪道場に所属する同年代の子たちが当たり前のように稽古する中で、私たちは死に物狂いで喰らいつかねば稽古に付いて行けません。気を抜いていると監視役の先生の竹刀が飛んでくるのですが、その竹刀はわざと手入れを怠ったボロボロな竹刀です。
叩かれるたびにボロ竹刀から竹のささくれ(削りカスみたいなもの)がパラパラと面の中に飛び込んできて、とても不快でした。
私の仲間のうちでも実力が足りない者たちは、先方の指導者たちによって「猫がネズミをもてあそぶ」ように叩きのめされていました。
仕上げの練習試合
3日間の合同稽古の最後には、お互いの小学生選抜を戦わせる練習試合が行われます。
私が6年生だった年には、大将として最終試合を任されました。
大将戦なので、対戦相手も強豪道場の6年生エースです。
「強敵相手に、どう戦ったものか」と考える中、低学年代表から先に1試合ずつ試合が進んでいきます。
多くの場合、力の差を見せつけられて敗北しますが、中には肉薄してギリギリで勝利する子もおり、仲間や父兄が喜びます。
そんな中で試合が進み、私の1つ手前の試合になりました。
味方側の選手は私の同級生で、実力も私と同格の、いわばチーム内のライバル同士でした。
しかし彼があっさり負けます。
相手は1学年下、5年生のエースでした。
こうなると周りの味方は、
「私と同格の子が5年生エースに負けたのに、私が6年生エースに勝てるわけがない」
という雰囲気…、最悪のムードです。残りが1試合ということもあって、選手も父兄も帰り支度を始める始末でした。
試合開始
大将戦が始まり、相手エースと対峙します。
稽古の相手は歳上ばかりだったので、同世代の彼に関しては、クセや特徴どころか実力もわからない状態でのスタートです。
しかし、どう考えても強いはずなので、私は様子見から入りました。
守備重視の負けない戦いをしているつもりですが、やはり相手は強いです。
すぐに私のクセを見抜きました。
彼が打ち込むそぶりを見せると、私は反応して身体が動いてしまいます。
その瞬間に、小手(右腕)に隙ができるのです。
並の選手なら気付くことも無いような、わずかな隙ですが。その一瞬を逃さずに打ち込まれ、まずは相手に「一本(小手あり)」が与えられました。
自分より強い相手に「一本」先取され、リードされる…
絶体絶命の展開でした。
(「一本」を2つ取られた時点で、「勝負あり」です)
ねばる
簡単に負けたくありませんが、基本的に打つ手がありません。
ジリ貧ですが、持てる力を振り絞って戦うしかない状態でした。
打ち合いが続く中で、相手の「ギリギリ一本ではない or 一本と判定されてもおかしくない」打突もありましたが、なんとか耐えしのぎます。
そんな中で、つばぜり合いから私は「引き胴」を打ちました。
相手と密着した状態から、下がりながら相手の胴を払う技です。
正直、有効打突にはほど遠い一撃だったと思います。
負けないために、攻め込まれないために、苦し紛れに繰り出した一撃でした。しかし審判は、その一撃を「一本」と判定してくれました。
これで1対1の同点、次に「一本」を取ったほうが勝ちという状況になりました。
指導者の思惑と、私のプライド
審判は敵方の、強豪道場の先生です。
この瞬間、私は審判(エースの先生)の意図を察しました。
審判から見ても、エースと私の実力差は明らかなのでしょう。
だからこそ、審判はエースが簡単に勝つのが面白くないのでした。
楽な勝利など、成長の糧にならないからです。
審判は、エースに苦戦して欲しかったのです。
そして試合後に、「お前はまだまだ弱い。もっと稽古にはげみなさい」とでも言いたかったのでしょう。
私は、エースが成長するための「当て馬」を演じさせられているのです。
一本クラスの一撃を喰らっても無効にしてもらい、一本に及ばない攻撃を「一本」にカウントしてもらってまで…
結果として今の私は、エースと1対1の最終局面にいるのです。
そしておそらく審判は、この状況からでも間違いなくエースが勝つと思っているのでしょう。
私にとっては「屈辱」以外の何物でもありません。怒りよりも「一矢報いてやる」という気持ちで、私は思考を深めていきました。
わずかな勝機
私は審判(エースの先生)の意図を理解しましたが、エースは理解していないようでした。
試合内容では完勝なのに、微妙な判定のせいで勝ちきれない。
そんな事態に戸惑い、焦っている様子がうかがえました。
私はエースの思考もトレースしました。
・彼は強豪道場のエースなので、勝って当たり前という立場にいる
・相手(私)は格下の相手なのに勝ちきれず、焦る気持ちがある
・周囲は帰り支度モードで「早く終わらせろ」という雰囲気を感じる
・審判(エースの先生)に対して、不信感が芽生えている
ここまで悪条件(私にとっては好条件)がそろっていると、焦りから視野が狭まり、思考力は低下するはずです。
私はエースの眼前にエサをぶら下げることにしました。
罠
私とエースが対峙し、試合が再開されます。
お互いが剣先で牽制する中、彼のフェイントにあわせて私は自分の構えに隙を作りました。
エースが一本目を取った時と同じ、「小手」に打ち込むことが出来るような、わずかな隙です。
彼が平常心だったなら、その隙がわざとらしい事に気付いたかもしれませんが。
しかし彼は平常心ではありません。
私が仕掛けたエサに、ここぞとばかりに食いついてきました。
エースが踏み込み、ムダのないフォームから、私の小手をめがけて凄まじい速度で竹刀を繰り出します。
罠を張り、その打ち込みを予測していた私でさえ、かわし損ねるような一撃です。
私は竹刀とともに両腕を振り上げます。
エースの打ち込みが、私の小手のすぐ下で空振りします。
ギリギリのタイミングで会心の一撃を外されたエースは体勢を崩し、一瞬だけ面がガラ空きになります。
一方の私は、竹刀を振り上げた流れのままに、その場で上段面打ちへと移行しました。
一撃
竹刀を振り上げることで相手の小手打ちをかわし、そのまま面打ちに移行する技、「小手抜き面」です。
まさに作戦どおりの一撃が決まり、これが「一本(面あり)」となりました。
これで3本勝負のうち2本を取ったので、試合は私の勝ちです。
審判(エースの先生)はおどろいた様子ですし、エースは起こった出来事が信じられないようで呆然としていました。
仲間たちは更衣室で着替え始めており、私の奇跡の逆転劇を見守ってくれた味方は、こちら側の先生と一部の父兄だけでした。
先生たちは驚きながらも、私の勝利を喜んでくれていました。
勝利は嬉しかったですが、純然たる勝利ではないことは自分が一番わかっています。
本番の試合で対戦したら、10戦して10敗するような相手でした。
彼のその後は不明ですが、剣道で進学したり、もしかすると警察官にでもなっているかもしれません。
いま振り返ると
何度思い返しても、「よく勝てたなぁ…」と思ってしまいます。
先に「一本」取られた時点で「あきらめモード」になっても、なんら不思議ではない試合でした。
正当な勝ちでは無いにしろ、あきらめずに状況を把握し、相手の心理を推測・分析したからこそ、紙一重でつかめた勝利だと思います。そして大人になって思うのは、どんな勝ちかたでも「勝ちは勝ち」だということです。(もちろん、卑怯なマネは良くないですが)
プロスポーツの世界でも、政治の世界でも、実力だけではない・あらゆる要因を引っくるめての勝負というものを見てきました。
どんな勝ちかたであれ、勝利は自分の評価を上げ、応援してくれた人たちを幸せにするのです。
あとは自分が慢心しないように気をつければ良いだけです。
当時の私はあの勝利を誇れませんでしたが、「勝ちは勝ち」と割り切って、その自信を糧に急成長できたら良かったのに、と今となっては思います。
おわりに
やはり、あきらめない事が勝利への最低条件かと思います。
それにプラスして、思考を止めずに状況を分析することも大事でした。
先に書いた【体験談】でも、似たような展開だった気がします。
これらの体験を糧にするならば、「5つの力」、特に「稼ぐ力」を高めるためには、「あきらめず、考え続ける事」が重要だとわかります。
まずはチャレンジあるのみ。
「やる! or メッチャやる!!」の精神でがんばります。
関連記事の紹介
以下、本記事の関連記事です。
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・真剣勝負をしよう
【本気で戦った経験があると、いざという時に力を発揮できる】という話
・体験談①
【真剣勝負の体験談】vs 大男(剣道)